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3-? ホブミ2

 あまり遅くなると、大魔王リーヌに怪しまれるかもしれない。

 急がねば。そう思いながら、ホナミはゴブヒコを探すため、3階の廊下を歩き、2階の廊下を歩き、それでも見つからなかったので1階へと降りて行った。


(おそらく、この1階のどこかにあのゴブリンはいるはずです)


 2階と3階には客室が並ぶだけで、隠れる場所はなかった。

 しかも、近くからモンスターの気配がする。


(あの部屋ですか……)


 ホナミが歩き出したところで、いきなり、怒鳴り声が響いた。


「おい、ゴブリン!」


 宿屋の主人がそこに立っていた。


(ゴブリン!? どこに!?)


 女賢者は一瞬、ゴブリンの姿を探した。

 だが、他でもないホナミに宿屋の主人は怒鳴りつけていた。


「おい! ゴブリン! ゴブリンが廊下でカップルをすげぇ面で睨みつけてて怖いって客から苦情がきてるぞ! モテないからって、他の客に迷惑をかけるな!」


 ホナミは自分がゴブリンに変身していたことを思い出し、あわてて言った。


「ホブミじゃないのですー」


 どうやら、あのオスゴブリンがカップルを睨みつけたせいで、とばっちりを受けたようだ。


(なんで、私が……)


「モンスターはうろうろしねぇで、早く部屋に帰りやがれ! 宿代とらねぇかわりにおとなしくしろって言っただろ! これだから、テイマーの客は迷惑なんだ。モンスターを野放しにしやがって……」


 ぶつぶつ言う宿屋の主人に、ホナミはか細い声で言った。


「お湯をとりにきたんですー」


「お湯? お湯ならそこの部屋で沸かしてある」


 宿屋の主人が指さす部屋は、モンスターの気配がする部屋だった。

 ホナミがその部屋に入る前に、宿屋の主人は文句を言いながら部屋に入っていった。


「そこで待ってろ」


 ホナミは部屋の入り口から中の様子をうかがった。ストーブの上でヤカンや鍋でお湯が沸かされていた。

 そして、やはり、モンスターの気配がした。


(この部屋のどこかに隠れている……)


 奥の方に、何やら怪しげな毛布の塊があった。

 しかし、ホナミは気が付いた。


「しゅしゅしゅー。しゅしゅしゅー」


 お湯のわく音に交じって、何かの声が聞こえる。姿は見えないが、何かがいる。ホナミはこっそりとメガネに解析魔法をかけた。

 空中に漂う、透明な人型のモンスターの姿が見えた。


(あれは、ゴーシュト。しかも、かなり高レベルの……)


 ゴーシュトは見境なく人を襲う狂暴なモンスターとして知られる。

 獲物となる人間をおびき寄せるパッシブスキルを持っており、しかも姿を隠すのが上手なため、人知れず体力を吸い取ったり呪いをかけることに長けている。

 ゴーシュトの呪いは、混乱、パーティー離脱、自傷、と悪質だ。


 賢者のホナミならゴーシュトを倒せないことはない。だが、ホブゴブリンには絶対に倒せないはずのモンスターだ。

 ここでゴーシュトと戦闘をして正体がバレてしまってはまずい。


 宿屋の主人はすぐ後ろにいるゴーシュトに気が付くこともなく、ゴーシュトに襲われることもなかった。……ゴーシュトには、長期間独り身でいる寂しい人間は襲わないという特性がある。

 どうやら、あの男にとっては、ゴーシュトは無害なモンスターのようだ。

 ホナミはゴーシュトから距離を取るため廊下を後ずさった。


 宿屋の主人はすぐに部屋から出てきて、ホナミにお湯の入った洗面器とタオルを手渡した。


「早くこれを持ち帰って、部屋でおとなしくしてやがれ。もううろつくんじゃねぇぞ!」


 お湯の入った洗面器を渡されてしまっては、部屋に戻るしかない。

 ホナミは今はゴブヒコ暗殺をあきらめて、お湯が冷めないように、すぐに部屋に戻ることにした。



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