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3-6 ホブミ登場

 さて、おれが目覚めた場所は、リーヌの家があるサイゴノ町と、その北にあるサンサ村の中間あたりだった。ちょうど、すぐそこに、道しるべがあったから、わかったんだけど。

 どうやら、リーヌはサンサ村という場所へ向かっているようだった。


「おれたち、北のサンサ村にむかってるんすよね? あっちって、何かいいものあるんすか?」 

 

 ところが、リーヌは言った。


「ああ? アタイは南にむかってるんだぜ? 南の島でつるつるキュートな海のいきものとすごす旅に出たんだ」


「つるつるキュートって、イルカとかっすか? まぁ、いいや。そんなことより、リーヌさん。おれたちは北にむかっているっすよ?」


「なに言ってんだ。アタイは南の島にむかってんだよ」


 おれは道標を指さした。


「だってそこに、『←北・サンサ村  南・サイゴノ町→』って看板があるっす」


「ああ。だから、南だろ?」


 ダメだ。ガチに方向音痴なリーヌは、看板も読めないっぽい。


「もう、いいや。北でも南でも」


 別に目的地があるわけじゃない。

 おれとリーヌはのんびり山道を歩いて行った。山の中だから特におもしろいものはないけど、たまに変な動物がいる。


「あ、草むらに、へんなのがいるっす。サルっすかねぇ。緑色だけど」


 両手をパッとひらいて、パーッとした顔で、変な踊りを踊っている緑色のサルみたいな生き物がいた。


「なに? どこだ?」


「草むらの中っす。すごい踊ってたっす。パッパッパって感じに。でも、リーヌさんがふりかえった瞬間、逃げていったっす。いつものごとく」


 動物もモンスターもリーヌをみると速攻逃げいく。そのせいか、山道を歩いていてもモンスターは一切襲ってこない。


「あんだよ。アタイにも踊ってるサルみせろ。みーたーいー。サル踊りがみーたーいー」


「おれに言われても……」


 おれはそこでふと前方に数人の人影が見えるのに気がついた。

 フード付きのマントを来たあやしいやつらがなにかを囲んで、剣やら杖やらを振り下ろそうとしている。


「たすけてくださーい」


 声が聞こえた。


「たすけてくださいですー。悪い人たちにおそわれてるですー」


 マントの人間たちに襲われている生物が、そう言っているみたいだ。

 でも、おそわれているのは人ではなさそうだ。


「あ、ゴブリンっす。ゴブリンがあやしい冒険者たちに狩られてるっす」


 ゴブリンはうるさく叫んでいた。


「たすけてー! たすけてってばー! たすけて、たすけて、たすけてー!」


「あんだ? どうした?」


 リーヌがマント男たちの方を見た。とたんに、まるでリーヌが振り返るのを待っていたかのようなタイミングで、マント男たちはこちらに背を向け、逃げ出した。


(なんなんだ、あいつら?) 


 おそわれていたゴブリンが、おれたちのほうへ駆け寄ってきた。


「ありがとうございますですー。わたしは、ホブゴブリンのホブミですー」


「へー。じゃ、おれたちは先をいそいでるから」


 おれが出発しようとすると、ホブミは「待ってくださーい」と言って、おれたちの進路をふさいだ。


「ホブミを仲間にしてくださいですー。たすけてくれたお礼をしたいのですー」


「いや、お礼とかいらないって。もうゴブリンはおれがいるし」


 おれはリーヌ唯一の仲間モンスターというポジションを失いたくない。

 といっても、ぶっちゃけ、ホブミがかわいい美少女モンスターだったら、おれの反応は真逆になっただろうけど。

 ホブミはおれほどブサイクじゃないにしても、ただのゴブリンだ。


 リーヌはたずねた。


「おまえ、戦えるのか?」


(げっ)


 それを聞いておれはあせった。

 リーヌは仲間モンスターを増やすために、モンスターにほどよいダメージを与える戦闘要員が必要だ。

 ホブミがふつうのゴブリン並みの戦闘能力もってたら、あいつが重宝されて、かわいいモンスターがたくさん仲間になって、もうおれの存在意義がなくなっちゃう。

 つまり、おれがリーヌに捨てられてちゃうってことだ。


 ホブミはお上品にスカートのはしを手でもちながら挨拶をするように首をかしげた。


「ホブミは戦闘には加わりません。でも、家事はおまかせくださいなのですー」


 それを聞いておれは、内心ほっとしながら言った。


「うわー。おれともろにかぶるじゃないっすか。家事担当はおれがいるから、もうゴブリンはいらないっす」


 ところが、そこでホブミがものすごい勢いで、しゃべりだした。


「だめですー! リーヌ様! そんなスケベそうなオスゴブリンに家事をまかせちゃだめなのですー! そんなオスゴブリン、きっと、きっと、家事の合間に、あんなこともこんなこともやっているのですー! 食器を洗いながらリーヌ様のスプーンをなめて『間接キスー』と言ってたり、お洗濯をしながらブラジャーをゴーグルみたいにつけてたり、パンティーをかぶって変身ごっこしたりしているに決まってるのですー!」


「えぇ!? おれは、そんなことしないぞ!? どういう発想? おまえ大丈夫か? でも、そういわれると、やってみたくなってきた……なんてこともありません! おれは、まじめな家事担当ゴブリンっす!」


 リーヌは疑わしそうな目で、おれを見ている。


「一理あるな。よし、ホブミを家事担当ゴブリンとして仲間にいれてやろう」


 そうリーヌが言ったところで、おれは、すかさず割り込んだ。


「まったぁー! リーヌさん、相手を瀕死状態にしてからじゃないと、仲間にできないはずっすよ? リーヌさんの一撃を受けたら、こいつはまちがいなく死ぬっす。だから無理っす」


 でも、ホブミは言った。


「ご安心くださいなのですー。ホブミはパーティーに入るわけではないので仲間モンスター契約をする必要はないのですー。それに、テイマースキルの仲間モンスター契約は、モンスターがぜったいに裏切れないよう強制的に隷属させるための契約ですー。そんな契約がなくてもモンスターが一緒にいたければ一緒にいるのはありなのですー」


「へー。なるほどー。『仲間にする』って、裏切れなくするスキルだったんすね。リーヌさん、知ってたっすか?」


「知らん」


「だと思った」


 なにはともあれ、こうして、ホブミが強引におれたちの仲間になった。


[モンスター図鑑]


88 パッパ:幻の3大レアモンスターの1種! いつもパッパッと踊っている。でも、人見知りだから人前には出てこない。パッパの踊りを見れたら、かなり幸運だ。

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