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2章 番外編 うわさ話

 今日は、燃えるごみの収集の日だ。ゴミステーションの前で、ふたりの女性が立ち話をしている。一人は初老の女性、もう一人は、そろそろ中年にさしかかったくらいの年齢の女性だ。そこに、中年女性がもうひとり、ごみ袋をもってやってきた。

「あらー、山田さん、伊藤さん、こんにちは」

 立ち話をしていた女性たちがふりかえって、「こんにちはー」と、挨拶を返した。比較的若い方の女性が、新たにやってきた小太りの50代くらいの中年女性に話しかけた。

「加藤さん。すみません。うちの義彦が、またご迷惑をおかけしちゃって」

「いいのよ。義彦君はがんばってたわよ。むしろ、こないだは、わたし、感心しちゃったんだから。そんなことより、山田さん、義彦君から聞いた? うちの店長、実は若い子にセクハラしていたかもしれないって」

「そうなんですか?」

「あの店長、山田さんのこともねらっているらしいから、気をつけて」

「なーにを言ってるんですか。加藤さんったら。こんなおばさんつかまえて」

「わたしなんかだったら、そりゃ、そうだけど。でもね、近頃は、わたしも、ちょっと気をつけてるんだけど♡ 山田さんは、まだ若くてきれいじゃない? あの店長とそう歳もかわらないんだから。きっとねらわれるわよ」

「まーた、加藤さん、おじょうずなんだから」

 3人の女性はそれからしばし歓談し、数十分後、ゴミ捨て場からそれぞれ帰宅していった。


 翌日。近所のスーパーマーケットの店内。

「あら、こんにちは」

 初老の女性が、30代くらいの女性に声をかけた。

「あ、伊藤さん、お久しぶりです。おかわりないですか?」

「ええ、おかげさまで。私はこのとおり、元気ですよ」

 初老の女性、伊藤さんは声を少し小さくして、話した。

「そういえば、あなた聞いた? あのコンビニを経営してらっしゃる半田さんのご主人、アルバイトの女の子にセクハラをしていたらしいのよ」

「ええ? そうなんですか?」

 30代くらいの女性はおおげさに驚きながら、わざとらしい小声で聞き返した。伊藤さんは眉をひそめて言った。

「若くてきれいな奥さんもいるのにねぇ」

「セクハラって、そういうのと関係ないですから。ひどい話ですね」

「ほんとにねぇ。なんだか、見境なく女性を狙っているような話だったわ。あすこで働いている方に聞いたんだけど」

「ええーっ。なんだか、こわいですね」

 30代くらいの女性は、声を小さくするのも忘れて大声だった。

「私なんかだと、もう関係ない話だけど。斎藤さん、あなたはまだ若いから。あまり行かないほうがいいかもしれないわね」

「そうですね」

 斎藤さんは怯えたような表情でうなづいた。


 その数日後。小学校の保護者会終了後。母親たちが会話をしている。

「ねぇ、聞いた? コンビニのうわさ」

「え? 斎藤さん、なんのこと?」

「あの、大通りの近くのコンビニの店長がね、見境なく女性を襲っているんだって」

「ええ? こわい。なんでつかまらないの?」

「立場を利用した陰湿な痴漢行為をしてるらしいの」

「ひどい」

「もうわたし、こわくなっちゃって、近頃、あすこ行ってないんだよね」

「そうだね。みんなにも教えてあげなきゃ。……拡散希望っと」


 さらに数日後、幼稚園のお迎えの女性たちが集まって話をしている。

「ねぇねぇ、聞いた? あのコンビニのうわさ」

「聞いた、聞いた」

「若い女性が何人も被害にあっているんだって」

「こわいよねー」

「あのコンビニって、半田さんのとこのコンビニじゃないの?」

「半田さんって、うちのクラスの?」

「だからかー。うちの子が、ともだちに、半田さん家の子どもたちとは遊んじゃいけないんだって言われたとか、言ってたの」

「子どもは耳ざといねー。どこから聞きつけてくるのかな」

「奥さんと子どもたちはかわいそうだよね」

「もうすぐ、つかまるんじゃないの? 近くで覆面パトカー見たって人がいたよ」

「えー、ほんと?」

「あ、ちょっと。しーっ」

「え? なに? あっ。半田さん、こんにちはー」

 半田さんと呼ばれた女性は、憮然として、通り過ぎて行った。

「いつからいたのかな、半田さん」

「ぜんぶ聞かれちゃったんじゃない?」

「関係ないわよ。もうたくさん拡散されてるもん」

「そうだね。どうせ知ってたよね」


 その翌日、町内の女性たちの間では、半田家から、女性の叫び声と男性の悲鳴、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえてきたという噂が、さかんに話されていた。


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