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2-9 さらばコンビニ

 ふと気がつくと、おれの目の前には、変態パンダの正体、つまりコンビニ店長がいた。

 でも、この店長はパンティーをかぶってない。ただの帽子をかぶっている。

 

「……と言おうと思ったんだが。山田、おまえのお母さんから、『せっかく引きこもりから社会復帰にむけてがんばりだしたところだから、温かく見守ってください』と頼まれているんで、おまえは許してやる」


 そう店長は言った。


(うわっ、なにこのなまあたたかい発言!)と心の中で叫んだおれは気がついた。


 あれ? これ、前に聞いたことがあるぞ? 

 この光景も。 

 デジャブ? 

 いや、ひょっとして、また時間が巻き戻っているのか? 


「あたしは……」


 そう真城さんが言いかけたところで、たしか店長は、「おまえはクビだ」

と言った。


「おまえはクビだ」


 店長は言った。

 間違いない。

 おれは一度この場面を経験した。

 おれは今コンビニの店内で、店長に叱られているところだ。


 こうやって真城さんだけがクビになって、それで、店を去ろうとした真城さんを呼びとめたせいで、おれはあの悲劇にあったんだった。

 うぅ、思い出しただけでも激痛が……。

 なんとしてでも回避しないと。


「なんでだよ」

 

 そう真城さんが言ったとき、おれはとっさに元気よく叫んだ。


「真城さんがクビになるなら、おれも辞めます!」


 真城さんが、おどろいたようにおれを見た。


「行こう、真城さん。こんな変態のところにいちゃだめだ」


 次のシフトの近所のおばちゃん、加藤さんが、変態という言葉に反応して驚いたような顔でこっちを見た。


「ちょっ、山田、きみ、なにを言ってるんだ?」


 店長はあわてている。

 考えるよりも前に、おれの口が動いていた。

 ゴブリンの時のようにりゅうちょうではない。

 とぎれとぎれで、ぼそぼそしてて、震えている、おれのいつもの情けないしゃべり方だ。

 だけど、ともかく、おれはしゃべり続けていた。


「こんなとこで働いてたら、なにされるかわからないから。店長の正体は、パンティー頭にかぶってる変態だから。下着どろぼうだから。おれの母ちゃんだって狙われてるんだから」


「ななななな、なにを言ってるんだ、山田!」


 店長が何を言おうと、おれはしゃべり続けた。自分の意志でそうしたわけではなくて、おれは緊張すると自分の口がコントロール不能になるのだ。


「あ、でももう真城さんクビになるんだっけ? そういえば、たしか、この後は……。だめだ。これ以上ここにいたら、心に深い傷をおっちゃうよ」


 おれは、この後店長が言うはずの「真城さんみたいな不良を店に置いておけない」とか「誰も真城さんみたいな人を雇わない」という感じの、心にぐさっとくるセリフで真城さんが心に傷を負う、というつもりで言った。


 だけど、向こうで立ち聞きしている加藤さんには別の意味で伝わったようだ。

 加藤さんの表情がすごいことになっている。

 まるで、「店長がアルバイトの女の子にわいせつ行為を働いて、心に傷を負わせているなんて!」というように。


 真城さんはこの間ずっと、びっくりしたように、突然しゃべりはじめたおれを見ていたけど、ここでニヤリと笑った。


「そうだな。こんなとこ、こっちから辞めてやる。あばよ、セクハラ変態おやじ」


 捨て台詞を言い、真城さんはさっそうと店外に向かった。


 加藤さんが「まーーーーーっ あの店長! やっぱりセクハラを! しかも山田さんまでねらっていたなんて! あたしもこわいっ!」という顔で店長の方を見ている。


「ちょっ、加藤さん、違いますから! 誤解ですから! 私はセクハラなんて。あの、お願いですから、近所に変なうわさ流さないでくださいよ? ほんと、ちがうんですから」


 あわてて弁明しまくっている店長を置いて、おれと真城さんはコンビニを出た。


 コンビニの外で、真城さんは少し照れたようすで、おれに言った。


「ありがとよ」


「別に、おれは……」


 おれは急速にいつものおれに戻りはじめていた。

 がんばれ、おれ。もう一度、いいところを見せろ。


 だけど、真城さんは背中を見せ、このまま去りそうだった。


 だめだ。

 ここで別れたら、おれはもう2度と真城さんに会えない。

 おれは真城さんの連絡先も何も知らないんだから。


「ま、真城さん……」


 おれの声から小さな声が出た。


「あん?」


 真城さんが振り返った。


(がんばれ、おれ! 何か言え! おれ!)


「あの、その、一緒に……」


 一緒に? 一緒にどうするんだ? 

 お茶か? お茶にさそうのか? 「ねぇ、彼女、お茶しない?」ていうあれか? ナンパか? それっていいのか? このナンパ野郎とか思われないか? ていうかおれみたいなキモイのとお茶なんて、嫌じゃないか? それにだいたいおれ、女の子と二人で、なんて状況に対応できるスキルもってないぞ? 気まずい沈黙が永遠に続くぞ……。

 無理だ、やっぱおれには無理だ。

 ああ、もう、時間がない。

 真城さんが、なんだかイライラした様子でこっちを見てる。


「一緒にバイトさがしませんか?」


 おれは結局、そう言った。


「いいぜ」


 真城さんはあっさりOKし、スマホをとりだした。


「ほら」


「え?」


「連絡先交換すんだろ。じゃなきゃ、連絡とれねーじゃねぇか。あ。あたしはラインとかいうやつ使わねーから。いいバイト見つけたら、電話よこせよ。メールとかラインとか文字読むのめんどいからな」


 おれはあわてて電話をとりだし、数回スマホを落っことしたりしながら、連絡先を交換した。

 


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