2-6 プレイボーイ・ハンダ
「あんたは、店長!?」
そこに現れたパンティーを頭にかぶったおっさんは、おれがバイトをしているコンビニの店長そっくりだった。
「なんてこった! 店長が、こんな変態だったとは!」
パンティーを頭にかぶった店長(?)は真顔でとい返してきた。
「テンチョーとは、なんのことだい? きみ。おれ様の名は、天才的変身魔法の使い手、魔法使いハンダだぞ」
本気のようだった。
だけど、よく考えると、おれは今ゴブリンだから、もしもこのおっさんが店長でも、おれに気づくわけはない。
「あんた、コンビニの店長でしょ? この世界のじゃなくて、別の世界で、だけど」
この世界ではコンビニは見たことがない。なんちゃって中世ヨーロッパ風の街にコンビニがあっても困るけど。
「コンビニ? 別の世界? なにを言ってるんだ? おまえは、あれか? 中二病ゴブリンなのか? 異世界とか信じちゃってる、そういうゴブリンなのか?」
異世界で異世界を信じてて中二病認定されるとは……。
なにはともあれ、このおっさんのこの顔はどう見てもコンビニの店長だ。
それに、コンビニ店長なら「ら〇ま二分の一」も「変●仮面」も知っているはず。あのマンガをネタにした寒いギャグをよく言っているから。
こいつはコンビニ店長に決まっている……はずだけど。
「山田とか真城とか、聞きおぼえないっすか?」
「知らんがな。おれさまは天才魔法使いハンダ」
そもそも、コンビニ店長は半田って名前だ。自分がコンビニ店長だと認めているようなものだけど……。なのに、なんで知らないふりをするんだ?
「まぁ、いいや。店長だろうと下着泥棒は倒すのみ!」
おれはパンティーをかぶった店長? にむかって突進した。
だけど、間合いがつまったと思った瞬間。
店長? のパンチ一発、おれは部屋の反対側までとばされた。
ごっそりと、おれのHPが減るのを感じた。
おれは、がく然とした。
「店長、強い!」
「ゴブヒコさんが弱いだけだよ」
羊のめざまし時計が冷静にコメントした。
「おれが弱いのは、わかってるけど! そういう問題じゃないじゃん? 魔法解いたら勝てるんじゃないの?」
店長? は変な笑い声をあげた。
「フィッフィッフィーッ。おれ様に勝とうだの、30年早いわ!」
「30年たったら、おれ、今より老化してさらに弱くなってるって! ちなみに100年たったら死んでるから100年早いとか言うセリフは意味不明だから!」
どうにかこいつに勝つ方法を考えないと。だけど、とりあえず、格闘は、むりそうだ。
おれは、ため息をついた。
「やっぱり、格闘家に殴りかかっても無理か」
パンティーをかぶったおっさんは、おどけた感じで手をふりながら、言った。
「格闘家? ちゃうちゃう。それはパンダの時の設定。おれ様の職業は魔法使い、または、モテモテ・プレイボーイだぴょーん」
「プレイボーイって職業じゃないだろ。それに、こんなおっさんがモテるわけないじゃん。あんなのかぶってる変態だし。イケメンのイの字もない顔だし」
プレイボーイと名乗るコンビニ店長? は、真顔で言った
「そんなんだから、貴様は、もてないゴブ男くん、なのだ。男は顔ではない」
おれは笑いながら手をふった。
「いやいや、だまされないし。顔じゃないなら、おれに彼女がいるはずだし」
ひつじくんが即座に言った。
「ゴブヒコさん、顔以外にはみょうに自信があるんだね」
「ひつじくん、なにげにきっついつっこみを」
おれとひつじくんの会話は無視して、パンティーをかぶったおっさんは、へんな笑い声をあげて、自信満々に言った。
「このプレイボーイ・ハンダ様は抜群のナンパトークで、モテまくりのヤリまくりなのだ。20代から40代まで、入れ食い状態よ」
「20代も? おっさんなのに……」
コンビニ店長? は、たぶん40代くらいだ。
コンビニ店長? はしゃべり続けた。
「もっとも、若いだけの女よりも、よくうれた色気たっぷりの熟女の方が好みだがな。未亡人とかバツイチ子持ち女とか、欲求不満な女が釣れる釣れる」
「うわ、なんか、妙にリアリティがあって、気持ち悪いな。子どもがいるシングル女性って、母ちゃんもその分類に入るし……」
そこで、おれは、はっと気がついた。
(ま、まさか変態店長は、か、母ちゃんを狙っていたのか!? だから、おれをクビにしなかったのか!?)
店長が母ちゃんを……。
許さん、許さん……。
おれは怒りに燃えて叫んだ。
「許さんぞ! 店長! 母ちゃんをねらっていたとは! いいか、おれの義父になっていいのは、世界でも有数の大金持ちで、かつては世界最強の格闘家だった男、そして母ちゃんとの結婚の暁には、それまではべらせていた美女ハーレムと最強の秘奥義を、おれに授けてくれる超ダンディーな男だけだ!」




