4-109(おまけ) クリア後
リーヌと義彦の後日談(現実世界)の短編が別にあります。 https://ncode.syosetu.com/n4845gw/
こうして、おれとリーヌは付き合うことになって、現実世界で暮らしていたんだけど。
ある朝めざめたら。
「あれ? この狭くてぼろい部屋、ていうか、物置は……」
おれは、ぼろくて汚い物置の中にいた。
おれは起き上がって、物置の外に出た。
「このぼろい廊下……」
おれは、ぼろくて床が崩れ落ちそうな2階の廊下に立っていた。
おれは、あえて2階の部屋のドアをスルーして、階段をおりて庭にでた。
物干しと、かたむいた木のテーブルがある、見慣れた庭だ。
おれが庭に立っていると、ノライヌとノラネコがふらふらと近づいてきて、「食べ物よこせ」と言うように鳴いた。
「この庭……。いつもの動物たち……」
プッ プッ
「そして、プップの鳴き声……え!? プップの鳴き声?」
おれがびっくりして見あげると。
空にはプップがうかんでいた。かと思うと、プップは、すぐに「ププー、ププー」と、おれの頭におりてきた。
「あれ? なんで、サイゴノ町のリーヌのぼろ家にプップがいるんだろ? えーっと。たしかプップは、ハコブネで凍結されちゃって。でも、ハコブネから解放されて、元いた場所に帰される予定だったはずだよな……」
おれがつぶやいていると、聞きなれた声がきこえた。
「プップさんはオホシミ山に帰るより、こっちを選んだんだよ。オホシミ山に帰ってもひとりだからって」
「あ、そうなの? あれ? じゃ、プップの婚活デートは失敗したのかー」
「ププッ」
「やっぱり、いくら出会いが少ないからって、だれでもいいわけじゃないもんなー。選ぶ権利くらいあるよなー」
「プッ」
「たとえ絶滅にひんしていても……。じゃなくて! プップのことより、おれのことだよ。これ、夢だよな? おれ、今回は別にあっちの世界で死にかけたりしてないんだけど? ふつうに家で夜ベッドにはいって、起きたらここにいるんだけど?」
おれがそう言っていると。もういちど、聞きなれた声がきこえた。
「ゆめじゃないよ。ゴブヒコさん」
おれが声のした方を見ると。そこには予想通り、羊くんがいた。おれは木のかげにひっそりと立つ羊くんにたずねた。
「夢じゃないの? これ。おれ、このあいだゲームクリアしたみたいな感じで、むこうの世界に帰ったのに。めざめたらまた異世界にいるんだけど? しかも、おれの装備。初期装備の腰布だけになってるんだけど?」
シャハルンの盾がないのはもちろん、おれは<にじょうのうでわ>すら装備していない。てか、革の防具すら消えている。
羊くんは、当然のことだというように、説明した。
「ゴブヒコさんの装備は、イレイザが全部消しちゃったから、もうないよ。手足は回復しておいたけど」
そこでいったん黙り、羊くんは、おれをにらんだ。
「そんなことより。リーヌちゃんはショックなことが起こると、こっちの世界にきちゃうんだけど。ゴブヒコさん、今度は、なにをしたの?」
羊くんの声は、かなりこわかった。なんだかレーザービームが大量に飛んできて全身を穴だらけにされそうな感じだ。
おれは、あわてて叫んだ。
「なにもしてないって! なにもしてないよな……? うーん……。こころあたりはないけど……」
わからない……。
「まぁ、いいや。どうせリーヌちゃんが納得できるまで帰れないだろうから。じゃあね。がんばって」
羊くんは、手を振ると、消えてしまった。
おれはあわてて叫んだ。
「羊くん! 待って! せめて、シャハルンの盾をかえしてほしいんだけど! 神様なら、できるよね? あれさえあれば他は何もいらないから、シャハルンの盾を……」
返事はない。羊くんは、もういない。
「あーあ。せっかくシャハルンの盾を手に入れたと思ったら。それに、<にじょうのうでわ>すらないんじゃ、おれのステータス、きっと、またぜんぶ一桁だぞ? バリバリ、ただの最弱ゴブリンじゃん」
「プッ」
と、プップが同意するように鳴いた。
おれは、なげいた。
「なんだよ、これ。ラスボス戦後のクリア後って、ふつう、強くてコンティニュー的な状態になるのが定番だろー? なんで、初期状態の最弱ゴブリンに戻ってるんだよー」
「あーら。レベルは上限の99よ?」
どこからか、そんな声がきこえた。
「あ、青い妖精!?」
でも、青い光は見えない。それに、青い妖精の声といっしょに、ハワイアンな音楽が聞こえる。
「青い妖精、どこに?」
青い妖精の声だけが聞こえた。
「ワイハでバカンスよ~。せっかくいい気分だったのに。あんた、もう帰ってきちゃったの? まぁ、いいわ。わたしは、しばらくは遠隔ナビゲート。ワーケーションにしてもらうから」
「世界の管理者も働き方改革なんだな。って、それはいいけど。青い妖精、ワンテンポおくれでも、ここは、つっこませてもらうぞ」
おれは、息をすいこんで、全力で叫んだ。
「レベル99って言ったって、おれのステータス、超低いままじゃん! 確認できないけど。……それとも、おれ、今度こそ成長してるの?」
ハワイアンな音楽を背景に、青い妖精は冷たく言った。
「そんな期待を裏切るようなことしないわよ。あんたの成長曲線は、レベルがあがるほど、平坦になっていくんだからー」
「そこは裏切ってくれよ! てか、そもそも期待の方向を誤解してるぞ! 順調に最強への道を上がることを、みんな期待してるんだから!」
でも、もちろん、青い妖精は、おれの言うことなんて聞いていない。
「じゃあね~。アロハ~」
ハワイアンな音楽は消えた。
そこで、ぼろ家の2階で、なにかが爆発する音がした。リーヌが寝ぐせで何かを爆破したようだ。
玄関の方からは、「おじゃましますー」と言って、かってに入ってくるホブミの声がきこえた。
さらに、おれが庭から家に入ると、ちょうどキッチンから、ホットケーキをタワーみたいにつみあげた皿を持ってシャバーがでてきた。シャバーは、以前ホブミがリーヌにねだられて購入した、かわいいエプロンをつけている。
シャバーはおれを見ると、何事もなかったかのような、いつもの調子で言った。
「できたぞ。プップリン。リーヌを起こしてこい」
「……。オーケーっす」
なんだかよくわからないけど、もうこういう日常になっているらしい。
おれはリーヌを起こしに、2階へあがっていった。
「リーヌさーん。起きてくれっすー。あと、おれに、どういうことか説明してくれっすー」
おわり。