表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
169/170

4-108 最終話

 気がつくと、おれは、海岸のそばにいた。おれのまったく知らない場所だ。

 堤防の上のベンチに、おれは横たわっていた。

 あたりは、すっかり夜になっている。

 夜風がここちよく通り過ぎていく。

 空には、たくさんの星がかがやき、暗い海の向こうに対岸の夜景が見えた。

 おれの頭の下には、真城さんの革ジャンがひかれていた。


 頭のむこうに、真城さんの気配を感じる。

 おれが起きようと頭を動かすと、後頭部と肩と背中と、もうあらゆるところが痛んだ。おれは、ラリアットをくらって倒れた時に、全身を打ったようだ。

(うー。またこっちのパターンかよ……。過去にもどってくれよぉ。未来にとんでるとか、ほんとやめてほしい。数日はすごい痛むぞ、これ)

 おれは、時間が巻き戻らなかったことを恨んだ。


「起きたか?」

 真城さんが、おれの方を見ないで、そうたずねた。

 真城さんには見えてないだろうけど、おれはうなずいた。

「ここは……?」

 なんで、おれは、こんな夜風がちょっと肌寒い堤防に、真城さんとふたりきりでいるのだろう。

 おれの記憶がたしかなら、こっちの世界では、倉庫みたいな場所で、初代総長が真城さんに告白していたところだったのだ。


「初代総長は……?」

 おれが、ひとりごとのようにたずねると。

 真城さんは、ぼそっと言った。

「言ってやったよ。暴力的な男は嫌いだってな」

「え?」

(ええええーーーーーー! あんたが、それ言う!?)

 おれは思わず、心の中でつっこんでしまった。


 それにしても。ふられたのか、初代総長。

 真城さんは言った。

「シャバーニは、まじめすぎんだよ。あたしは、いっしょにいて、おもしろいやつの方がいいんだ。どんな悲劇も惨劇も、バカバカしい笑い話に変えちまいそうな、すんげぇバカでおもしろいやつとかさ」

(不良軍団のボスを「まじめすぎる」とは……。さすが真城さん。だけど、悲劇まで笑い話にしちゃうようなやつなんて、いないだろうなぁ)

 おれが、のんびり、心の中で、そうつぶやいていると。

 真城さんは、おれを横目で見て、なんだか、一瞬、あきれているような、バカにしているような表情になった。

 それから、真城さんは、無言で、対岸の夜景と夜空の方を見た。

 あたりは静かだ。波の音以外に聞こえるものはない。

 この周辺には、おれと真城さん以外の人は、いないようだ。


「夢を見るんだ」

 真城さんは、ぽつりと言った。

「ずっと前から。まっ昼間に見る夢。ここじゃない、遠くの世界の。そこにいるあたしは、あたしじゃない。夢だからな。でも、やっぱり、あたしなんだ。子どもの時は、楽しい夢だった。幼なじみと一緒に楽しく遊んでいられる世界だったんだ。だけど、いつの間にか、夢の中でまで、あたしはひとりぼっちになって。つらいだけの夢が続いていた」

 おれは、なんの話かわからずに、真城さんの話を聞いていた。

「だけど、ある日、へんなゴブリンを拾ってさ。すんげぇブサイクで弱くて、なにやっても失敗する、ドジでバカなゴブリンなんだけどさ。それから、だんだん、また楽しくなっていったんだ」

(ゴブリン? ブサイクで弱い?)

 なんだか、まるで、おれみたいなゴブリンだけど。

「夢がさめなきゃいい、って思えるくらいに」

 真城さんは、そこで沈黙した。


 おれは思った。

(まさか、その「夢」って、あの異世界のこと……?)

 おれの知っているあの異世界は、夢なんかじゃない。ものすごくリアルだし、帰ってくる時に、時間のずれが生じているし。

 でも、ひょっとしたら、真城さんは、あの異世界のことを「夢」と呼んでいるのかもしれない。

 でも、この世界の記憶なんてないって、リーヌは言っていたぞ? 

 だから、おれはずっと、二人は、ただ似ているだけの別人だと思っていたんだけど。

 真城さんには、あの異世界の、リーヌの記憶があるってこと……!?


 おれは、とまどいながら、もごもごと、口にだしていた。

「おれも……、その、ゲームの中みたいで、だけど、もっとへんな世界に、おれも……」

 真城さんは、おれの方に振り返って、おれを見て言った。

「なに? おまえ、まさか……」

 おれは息をのんだ。おれの心臓のこどうが早まっていった。

 真城さんは、真顔で、おれにたずねた。

「変態勇者か?」

「えーーー!」

 おれは、おもわず、叫んだ。


 あのヤヴァい勇者かよ! おれ、真城さんにどう思われてるわけ!? 

 ヤヴァすぎるよ! あの勇者、趣味も性格も最悪じゃん! 

 しかも、むちゃくちゃ、リーヌに嫌われてるじゃん! 

 好感度「嫌い」のMAX越えで、今にも殺されそうじゃん! 

 もう絶望なんてもんじゃないよ……。


 おれの脳内がパニックになっていた、その時。

 真城さんはニヤッと笑い、おれのおでこを指でつついた。

「冗談だよ。おまえ、デコにへんなアザがあるからな。こっちで会った時に、すぐわかったよ。『ゲッ、ゴブヒコだ!』って」

「え?」

 おれのおでこには、たしかに、変な形のアザがある。

 その昔、おれがまだ学校に行っていた頃、散々からかわれてトラウマ化しているアザだ。

 おれがゴブリンに転生しても、いやがらせのように、あのアザはそのままだった。

 まぁ、ゴブリンの時は顔がブサイクすぎて、そんなアザなんてどうでもよくて、忘れてたんだけど。


(だけど、すぐわかったって……? すぐわかったって、いつのこと……?)

 おれの心臓は、さらに早く鳴り出した。

 ひょっとして、いや、ひょっとしないでも、あの沈黙の魔法にかけられたコンビニバイトの時からずっと、真城さんは、おれ=ゴブヒコって知ってたの!? 


 おれは、とまどい、

「じゃあ、なんで……」

と、つぶやきながら。

(なんで言ってくれなかったんだよ! 気づいた時に言ってくれよ!)

と、心の中で、叫んでいた。リーヌ相手になら、叫んでいるんだけど。真城さんは、ちょっと怖いから……。


 真城さんは、バカにしたような表情をうかべて、おれに言った。

「乙女は素直じゃねーんだよ。言うわけねーだろ。オーバカヒコ!」

 おれは反射的に、ゴブヒコ・モードに戻って叫んだ。

「かんぺきにリーヌさんじゃないっすか! おんなじ人じゃないっすか! なんで、言ってくれなかったんすか! てか、リーヌさん、こんな世界は知らないって言ってたじゃないっすか! ウソだったんすか!?」


 真城さんは、口をとがらせて言った。

「うっせぇな。乙女は恥ずかしがり屋なんだよ」

 おれは、頭を抱えた。

 この人、完全に、リーヌだ!


「つーかさ、おまえ、いっつもシカトしてくるから、こっちでは、記憶ねーのかと思ってたんだよ。記憶あったのかよ! なんで知らんぷりすんだよ! あたしの顔くらい、おぼえてるだろ!」

 そう文句を言う真城さんは、もうリーヌにしか見えない。


「だって、おれ、真城さんとリーヌさんは、そっくりな別人だと思ってたから……」

「あたしの名前は、真城リーヌだ!」

 リーヌは、そう、衝撃の事実を告げた。

「そう、だったんすか……」

 コンビニでも、名札とかシフト表、名字しかのってなかったんだよな……。


 真城リーヌは、がくぜんとした表情で言った。

「ほんとに、気づいてなかったのかよ。こいつ、知らんぷりしてるだけなんじゃねぇかって、うたがってたんだけどな。だって、あっちの世界で、さんざん、あたしは、こっちの世界の話をしてただろ?」

「え? 異世界にいる時、こっちの世界の話なんて、してたっすか? おれ、1回も聞いてないっすよ?」

「……やっぱ、おまえは、すげーよ」


 おれは、ここで、ふと気がついた。

 真城さん=リーヌということは。真城さんは、当然、異世界で、おれがしてきたことを、ぜんぶ知っている。

 おれ、異世界は異世界だと思って、なんか散々しでかしてたような気が……。

 なんか、恥ずかしくなってきたぁ!

 おれ、こっちの世界でやったら、ドン引きだったり通報されそうなこと、言ったりやったりしまくっていたようなぁ……。

 でも、それを言ったら、リーヌもすごいよな……。真城さんって、ああいう人だったのか……。

 いや、むしろ、リーヌが真城さんのふりをしていたと考えると、こっちでは、意外と、まともに生活していたともいえるけど……。


 そこまで考えたところで、おれは、ふと思った。

 そういえば、この世界に戻る直前。おれが、最後に、愛を叫んだ時のことは? 

 あの時、リーヌは意識がなかったはずだ。

 ということは、真城さん=リーヌは、何が起こったのか、おれが何を言ったのか、何も知らないはず……。

 おれが何も言わなければ、このまま、おれがどう思っているかは、わからないまま……。


 でも、おれは、伝えないといけない。

 おれは、悟ったのだ。


 おれの鼓動が、さらに高まっていった。

 リーヌは、何も言わずに夜景を見ていた。

 この場所は、とても夜景がきれいで、星空も月も、今夜は、やたらときれいだ。

(あれ? いま、気づいたけど。なんか、ここ、とってもロマンティックな場所だぞ?)


 おれの鼓動が、さらに、どうしようもないほど高まった。おれは、対岸を見つめたまま、ひたすらあせっていた。

 頭の中が、真っ白だ。

 言わなきゃいけないことが言えない。

 異世界で、ついさっき、あんなに、おれは叫んでいたのに。


 どれだけの時間がたっただろうか。数秒のようにも数十分のようにも感じられる。

 リーヌは、対岸の夜景を見ながら、ぽつり、ぽつりと言った。

「昔さ、ダチが言ってたんだよ。ひとりじゃできなくても、ふたりでできればいいんだって。ふたりでできなくても、みんなでできればいいんだって。おまえもあたしも、1人じゃ何もできねぇやつだけど。ひょっとしたら、ふたりだったら、すげぇことが、できるかもしれないだろ? 1たす1が10になるかもしれないだろ? そういうタイプのやつなんだよ、きっと」


 その時。おれは、石像のように固まって正面を見ながら、ようやく声をふりしぼった。

「あの、真城さん、いや、リーヌさん、おれ、その、じつは、その……」

 リーヌは、おれの首の後ろに腕をまわすと、おれの言葉をさえぎった。

「しゃらくせぇ。ゴブヒコのくせに。二度も聞いてられっか。だまってろ」

「え?」

 おれが、反射的にふりかえると、そこにはリーヌの顔があって、気づいた時には、おれの口にリーヌの唇が、おしあてられていた。

 ショートケーキのような甘い味がした。

 唇をはなすと、おれの首に腕をかけたまま、真城リーヌは、おれの目を見て言った。

「あたしとつきあえ。いいな?」

 満点の星空の下、おれは何も言えずに、うなずいた。

 こうして、真城リーヌは、おれの初キスと、おれの心を、永遠に奪っていった。


おわり。

でも、1つだけ、短い話を追加します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ