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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
162/170

4-101 蒼の騎士2

 ホブミとリーヌが助けてくれなければ、激弱のおれは、シャバーに殺されるに決まっている。

 でも、ホブミは、むしろ、おれを殺しそうな雰囲気だ。

 そして、リーヌは、弱々しい声で言った。

「シャバーは命の恩人だ。家族なんだ。シャバーと戦うことなんて、できねぇよ」


「おれにとっても、シャバーは命の恩人っすけど……。しかも、わりと何度も命を助けられてるっすけど。でも……」

 このままじゃ、おれはシャバーに殺される。おれは死にたくない。

 かといって、たしかに、リーヌに、シャバーを攻撃しろなんて……と思ったところで、おれは、ふと、思い出した。

「てか、リーヌさんは、いつも、シャバーをぶんなぐってるじゃないっすか! なにをいまさらっす!」

 リーヌは、主張した。

「あれは、じゃれてるだけだ! マジで戦ってるわけじゃねぇ!」

「じゃれてるだけで、空までふっとばしそうなボディアッパーをはなってたっすよ? あんた、シャバーを、遊びで殺しそうだったっす。てか、リーヌさんは、どんな猛獣よりも狂暴なんだから、じゃれちゃだめっす! ライオンが、育ての親の人間に会って、よろこんで『わーい』って、じゃれついたら、『まちがって、殺しちゃった。ガーン! 人間、弱すぎ!』みたいな悲劇的な惨劇になるっす!」


 蒼の騎士シャバーは、落ちついた声で言った。

「俺は、構わない。リーヌ。『大いなる厄災』を選ぶのなら、俺を倒せ。おまえに殺されるなら、本望。おまえのためなら、俺はいくらでも命をかけられる。知っているだろう。とっくの昔に、俺の覚悟はできている」

 リーヌは、なにも言わなかった。

 蒼の騎士シャバーは話し続けた。

「だが、中途半端な攻撃はするなよ。この天空の魔女がくれた鎧は、受けた攻撃を、敵全体に返すらしい。鎧を破壊するほどのダメージを受けない限り」


 カエル艦長たちが、補足説明を歌った。

「ロゲロゲロゲロゲ♪ オート倍返し機能付きなんだロゲ~♪ 蒼の鎧はとってもすごいんだロゲ~♪」

「ワグワグワグワグ♪ ダメージは受けちゃうワグ~♪ でも蒼の鎧は、オート回復機能付きだから平気なんだワグ~♪」


 体力回復はともかく。受けた攻撃を相手に返す……。 

 つまり、リーヌがシャバーを攻撃して、その攻撃で鎧を破壊できなかったら、おれが瞬殺されるってことだ。

 おれは、叫んだ。

「リーヌさん、やっぱ攻撃しちゃだめっす! やっぱり、ここは、平和的に、話しあいで解決するっす! 暴力反対!」


 おれの言ったことを理解したのかどうかは、わからないけど。リーヌは、いつになく、真剣な声で、蒼の騎士シャバーに言った。

「シャバー。ホブミとゴブヒコには手をだすな」

 蒼の騎士シャバーは言った。

「そうはいかない。俺の敵は、『大いなる厄災』だ。だが、リーヌ。おまえが俺と共にこのハコブネに乗りこみ、新世界に行くというのなら、そいつは助かる」

 蒼の騎士シャバーは、続けて言った。

「天空の魔女は、俺に約束をした。おまえが俺とともにハコブネに乗ることを選ぶのなら、この世界は消滅させず、『大いなる厄災』ともども、このままの状態で残すと。『大いなる厄災』はリーヌがいない世界では、力をもたず、無害なのだから、と」


 カエル艦長たちは、歌いながら、しゃべった。

「それが、ハコブネ計画B案だロゲ~。ロゲロゲロゲロゲ~♪」

「ふたりで新世界を創るんだワグ~。ロマンチックだワ~グワグワグ~♪」

 どうやら、そのB案が採用されれば、おれは助かるらしい。

 でも、リーヌがシャバーといっしょに、ハコブネに乗りこむってことは……。


 ハコブネ艦長たちは、ウキウキな調子で歌い続けた。

「ハコブネは楽しいとこだロゲ~♪ 出発前に、世界中から一流アーティストとシェフを集めるんだロゲ~♪」

「ハコブネは最高なんだワグ~♪ 出発前に、好きなペットと好物をたくさんつめこめるんだワグ~♪」

「だから、毎日、ライブミュージックと豪華な食事なんだロゲ~♪」

「だから、毎日、かわいいペットに囲まれて好きなお菓子を食べ放題なんだワグ~♪」

 おれは、深刻な状況にも関わらず、おもわず叫んでしまった。

「なに、その極楽生活! おれがハコブネに乗りたい!」

「誰でも乗せられるロゲ~♪。ただし『大いなる厄災』以外に限るんだロゲー♪」

「なんでも載せられるワグ~♪。ただし『大いなる厄災』だけはダメだワグー♪」

「ひどすぎる! なんで、おれだけ、例外なんだよ! せめて、ただしイケメンに限るにしてくれれば、なんか納得しちゃうのに。なんでおれだけ!」


 ハコブネ艦長たちがお気楽な歌を歌っている間も、おれがうらやましがっている間も、リーヌは、真剣な表情のままだった。

 リーヌは、つぶやいた。

「あたしがいなければ……、ゴブヒコは、無事に……」

 蒼の騎士シャバーは言った。

「平和に、生きていくだろう。この世界であれ、別の世界であれ。そいつの好きな場所で。本来、生きるはずだった人生を」


 蒼の騎士シャバーは話し続けた。

「リーヌ。おまえにとって、この世界は、ただの夢のような遊び場にすぎないんだろう。俺は、おまえにとって、ただの兄貴分……」

 蒼の騎士は、そこで、一度、沈黙し、目を伏せた。

「……いや、おまえにとっては、大好きな兄貴分の、まがいものでしかないのだろう。俺達は、おまえにとっては、夢の中の幻のようなもの。だが、この世界に生きている者にとっては、この世界がすべてだ。そして、俺にとっては、おまえがすべてだ。絶望的な冥廻牢の中で、俺に見えていた唯一の光は、おまえだった。地上におまえがいるということが、生き延びるための希望だった。だから、俺はおまえと一緒に未来を生きたい。たとえ、どんなに卑怯な方法を取ったとしても」


 蒼の騎士シャバーは言った。

「選べ。俺とともに生きて行くか。俺を殺し、そのゴブリン、いや、義彦という男と生きていくのか」

 シャバーはなぜか、おれの本名を知っていた。

 リーヌは、シャバーを見つめたまま、沈黙していた。

 今のリーヌは黒いドレスを着たカエルの姿だ。だけど、なぜか、金髪カエルのリーヌに重なって、長い金髪の、人形みたいに整った顔だけど、少年だか少女だかわからない、かなりヤンチャそうな13才くらいの子どもの姿が見えていた。

 おれは、目をこすってみたけど、やっぱり、同じように見える。

 やがて、リーヌは、うなずき、言った。

「……わかった。シャバーと一緒にハコブネに乗って新しい世界に行く。だから、ゴブヒコは助けてくれ。こいつは、なにも悪くねぇ。あたしがかってに見つけて、つかまえて、連れ歩いていただけだ。こいつは、なにもわかってねーし……」

 リーヌは、そこで一度、息を吸ってから、悲しそうに言った。

「それに、こいつは、あたしのことなんて、なんとも思っちゃいねーんだ」


 いつのまにか、甲板の向こうの空に、巨大な大樹のような雲があらわれていた。無数の雷鳴が巨大な雲の中で轟いていた。

 ハコブネ艦長たちが、イヤホンをおさえながら、ささやきあっていた。

「積乱雲が大量発生ロゲ?」

「台風とハリケーンが暴れまくるワグ~」

「海底が割れそうロゲ?」

「大津波になるワグー」


 リーヌは、まるで、心が割れそうな声で、つづけた。

「どうせ、あいつは、はじめから、住んでる世界がちがうんだ。どうせ、同じ世界じゃ、生きていけねぇ奴なんだ。だから、シャバー。行こう。昔みたいに、ふたりで……」


 リーヌがこの世界から、いなくなる。

 おれは、その時、ようやく、はじめて、真剣に、そのことを考えた。

 別の世界に行っても、シャバーとふたり、リーヌは幸せに生きていくかもしれない。

 おれも、平和に、この世界で生きていくかもしれない。

 だけど、おれとリーヌが生きるのは、別の世界で、おれ達は、もう二度と、ふたりでのんびり暮らすことも、いっしょに旅することも、いっしょに時を過ごすこともない。

 おれ達は、もう二度と、会うことすらない。


 おれは、気がついたら叫んでいた。

「そんなの、そんなの、おれはイヤだ! リーヌがいない世界で生きていくなんて、おれは、絶対にイヤだ! 死んだ方がマシだ!」

 おれは、考えもなしに、ホブミの後ろから、蒼の騎士の方に向かって、めくらめっぽう、走りだそうとした。

 その時、ホブミが、片手を横に出し、おれを制止した。


 ホブミは、うつむき、もう一方の腕でかかえた盾にむかって小声で、たぶん、リーヌ達には、聞こえないくらいの小声で、ささやいた。

「リーヌ様、愛しています」

 シャハルンの盾は一瞬、小さな光をはなった。

 ホブミが、シャハルンの盾を、おれに押しつけるように、つきだした。

 おれは、思わず盾を受け取ってしまった。

 だけど、即死魔法は発動しなかった。

 さっきのホブミのセリフが、即死トラップ解除のパスワードだったらしい。……なんて難易度高いパスワードだったんだ!


 おれは、ホブミから受け取ったシャハルンの盾を手に、蒼の騎士へ向かって、突進していった。

「勝負だ。義彦」

 蒼の騎士が上段に構えるウルテマウェポンが、蒼白の光と稲光を放っていた。

 おれは、両手で盾をつかみ、顔の前にかかげたまま、突進していった。

 蒼の騎士は、突進していくおれに向かって、ウルテマウェポンをふりおろした。


義餓無頼苦ギガブライク


 青い稲妻をはなちながら巨大な大剣が、おれの頭上にふってきた。

 おれは、必死で盾をつかんでいた。

 シャハルンの盾が、強烈な青い光を拡散し、あたりが光でいっぱいになり、おれには、何も見えなくなった。


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