4-98 大いなる厄災1
「カエル人間がふたり……ケロット団?」
でも、この赤と黄の派手色なカエル人間たちは、ケロット団の制服はきていない。
なんだか、もっとかっこいい群青色の軍服っぽいコートをきていて、大きな透明のシールドをもっている。それから、頭には艦長っぽい帽子をかぶっていて、片耳にマイク付きのイヤホンをつけている。
カエル人間ふたりは、同時に、重々しい口調で、名のった。
「吾はハコブネ艦長だロゲ」
「我がハコブネ艦長だワグ」
「艦長? どっちが?」
と、おれがたずねると、カエル人間ふたりは、元気な声で、同時に言った。
「吾だロゲ」
「我だワグ」
二匹のカエルは、ケンカをはじめた。
「吾が艦長だロゲ!」
「我が艦長だワグ!」
「うーん。艦長がふたりで争ってるのかー。これ、まともに航海できないパターンだなー」
おれがそう言うと、カエル艦長たちは、ケンカをやめて叫んだ。
「おまえには言われたくないロゲ!」
「蒼の騎士様! あいつを倒してくれだワグ!」
カエル艦長たちの背後には、たぶん、ブリッジだとおもわれる建物がある。
その建物の出入り口から、ゆっくりと、荘厳な蒼い鎧を着た男がでてきた。
リーヌとおれが、同時におどろきの声をあげた。
「シャバー?」
「シャバーっすよ?」
でも、なんか、いつものシャバーとはちがう。シャバーはあんな青い鎧はもってなかったし、背中に背負っている青い大剣も、見たことがない武器だ。
それに、なにより、雰囲気がちがう。
蒼の騎士と呼ばれたシャバーは、険しい表情で、おれ達をにらんでいる。
おれたちへの敵意みたいなものを感じる。
人の気持ちとか空気を読むのが超苦手なおれにも、はっきり、わかるくらいに。
「え? どういうこと?」
おれが困惑していると。
カエル艦長たちが、うれしそうに言った。
「蒼の騎士様は、世界を救ってくれる、英雄なんだロゲ!」
「蒼の騎士様は、この世界を浄化してくれる、救世主なんだワグ!」
おれは、それを聞いて安心して納得した。
「シャバーが英雄とか救世主になる? なんだー。じゃ、いいことじゃん」
でも、ホブミは、険しい表情で、なぜか、カエル艦長達に、たずねた。
「そうではないかと、思っていましたが……。確かめさせてください。『大いなる厄災』とは何者なのですか?」
カエル艦長たちは、親切に、ホブミの質問に答えてくれた。
「『大いなる厄災』は悪いやつだロゲ。『大いなる厄災』のせいで、大変なことになっているんだロゲ」
「『大いなる厄災』はひどいやつだワグ。『大いなる厄災』のせいで、世界は危機に瀕しているんだワグ」
おれは、うなずきながら、言った。
「それは、おれも聞いたことがあるっす。『大いなる厄災』のせいで、天変地異が起こっていて、世界が滅亡しそうだって」
カエル艦長たちは、まくしたてるようにしゃべりだした。
「その通りだロゲ。女神様の力が暴走して、毎日毎日、あちこち大変なんだロゲ!」
「それに『大いなる厄災』の影響で、世界に歪みが起こっているんだワグ!」
「創世の頃にはなかった珍妙な現象がおこっているんだロゲ!」
「天空の魔女様まで、呪いにかかって変な姿になっちゃったんだワグ!」
「それもこれも、『大いなる厄災』のせいだロゲ!」
「ぜんぶ、『大いなる厄災』がいけないんだワグ!」
なんだかよくわからないけど、「大いなる厄災」のせいで、大変なことになってるらしいことは、わかった。
カエル艦長たちの話は続いた。
「天空の魔女様は、この世界のために、がんばってきたけど、もう限界なんだロゲ!」
「だから、世界を正常な姿に戻すため、天空の魔女様は、ハコブネ計画を考えたんだワグ!」
ハコブネ計画は、天空の魔女、つまり、青い妖精がたてた計画だったらしい。
「え? じゃ、青い妖精が、モンスター達を誘拐してたってこと?」
だから、天空の魔女のお城に、ハコブネが停泊しているんだろうけど。たしかに、ケロット団員は、はじめから、天空の魔女がどうのこうのって、言ってたけど。
おれは、この時になって、はじめて、疑問におもった。
(青い妖精って誘拐犯だったの? 悪いやつだったの?)
「ハコブネ計画とは、どういう計画なのですか?」
ホブミがたずねると、カエル達はまた親切に説明してくれた。
「ハコブネ計画には2つの案があるんだロゲ」
「A案とB案の2つの案があるんだワグ」
「どっちの計画でも、まずは、創世の頃に存在した、すべての生き物をハコブネに集めるんだロゲ」
「『大いなる厄災』が来る前に存在した、すべての生き物を、ハコブネに保管するんだワグ」
だから、この船には、ありとあらゆるモンスターや動物が凍結されていたのか。
カエル艦長たちは、その後、こう言った。
「A案では、それから、ハコブネは、宇宙に出発するんだワグ」
「それから、この星に隕石を落とすんだロゲ」
「歪んで混とんとした世界を、一度消滅させるんだワグ~」
「後は、神様に新しく世界を創りなおしてもらうんだロゲ~」
おれは、つぶやいた。
「へー。隕石を落として世界を消滅させる。壮大な話だなー……って、大変じゃん! 世界が消滅しちゃうじゃん!」
なんやかんやいって、おれは、この世界が好きだ。
おれは、この世界で、ずっと、のんびり生きていくつもりなんだから。
ここで世界を滅ぼされてしまうわけには、いかない。世界を守らないと。
「では、天空の魔女は、この世界を滅ぼそうとしているのですか?」
と、ホブミはカエル人間たちに確認した。
カエル艦長たちは首を横にふりまくった。
「天空の魔女様は、この世界を救おうとしているんだワグ」
「世界を滅ぼそうとしているのは、『大いなる厄災』なんだロゲ」
「だから、『大いなる厄災』がいなくなれば、ハコブネ計画は中止して、モンスター達は、元居た場所に戻すんだワグ」
「つまり、蒼の騎士様が『大いなる厄災』を倒せば、すべては、まるくおさまるんだロゲ」
「だから、蒼の騎士様に『大いなる厄災』を倒して、世界を救ってもらうんだワグ」
それを聞いて、おれは、安心した。
「なるほどー。じゃ、世界を救うために、とっとと、シャバーに『大いなる厄災』を倒してもらえば、いいんだな。でも、『大いなる厄災』を倒すには、地上に行って、『大いなる厄災』を探さないといけないんじゃないの?」
カエル艦長たちは言った。
「そんなことないのだロゲ。みんな知ってる通り、『大いなる厄災』は、ここにいるのだロゲ」
シャバーと、ホブミが、けわしい表情で、うなずいた。
「さぁ、蒼の騎士様。おねがいするワグ。とっとと『大いなる厄災』を倒してくださいなのだワグ」
「『大いなる厄災』がここにいる!?」
おれは、驚いた。
だけど、よく考えたら、たしかに、納得がいく。今まで、おれが見聞きしてきたことを考えれば、他の可能性は、存在しないくらいだ。
だけど、おれは、たぶん、認めたくなかったのだ。
「ひょ、ひょっとして……。そうかもって、実は、おれも、前から、ちょっと、おもってたんすけど……。『大いなる厄災』って、やっぱり……」
だけど、やっぱり、他には、考えられない。
「リーヌさんのことだったんすか!?」
カエル艦長たちは、ビシッと、おれを指さし、同時に叫んだ。
「おまえだワグ!」
「おまえだロゲ!」
「……え? おれ?」