4-96 ハコブネ1
「プップを助けるぞ!」
リーヌは、おれのベルトをつかんでもちあげると、おれをかついで走りだした。
「あ、これ、楽でいいっすねー。いままでも、走る時は、こうしてもらっとけばよかったっす」
と、運ばれながら、おれが言ってると。
「アタイも考えたことあっけど、まちがって、ぶっこわすこと、あっからな」
と、リーヌは、走りながら、答えた。
「そういえば、この方、2分の1くらいで、コントロールきかない人だった! やばっ! 殺される! リーヌさん、おれを、おろしてくれっす!」
おれ、さっきの階段でも運ばれていたし。確率50%なら、今度は、ダメかもしれない。
ホブミは、リーヌの後ろを、息をきらして走りながら言った。
「ゴブヒコさんは、プップさんがいない今、スタミナ切れで、ろくに走れません」
「おれは、後から、のんびりついていくから! どうせ、おれ、戦闘には不要だし!」
でも、リーヌは言った。
「おまえがいねーと、プップをのせるとこがねーだろ!」
プップは防御力や体力が超低いから、リーヌが直接さわったら、破裂しそうだ。というか、たぶん、する。
「あ、なるほど。たしかに、おれみたいに超弱くて、ふわふわソフトな座布団みたいなやつしか、せんさいなプップ様様にふれることは許されないっす。にしても、おれ、今、赤鼻のトナカイばりに、『おまえが必要なんだよ』って言われてるのに、ぜんぜんうれしくないっす。きっと、『おまえの赤い鼻が、必要なんだよ』って言われた、赤鼻のトナカイさんも、ほんとうは、『え? クリスマスとか、こんな寒い日に、おれが先頭に立ってそりをひくの? マジでやってらんないよ。そういうの、やめてくれない? 家で寝てたいんだから。ほんと、赤い鼻で損した~』って、おもってたんだろーなー」
なにはともあれ、おれは、リーヌに運ばれていった。
さらわれたプップを追いかけて進んでいくと、庭園のはずれに、巨大な箱のような船が見えてきた。
城と同じくらい巨大な船が、雲海に停泊している。
ここは、空の上の島のような場所だから、庭園の向こうは、地面のない、雲だけがひろがる空だ。
「あの艦船、なんか、いかにも、ハコブネっぽいっす!」
「運ぶね? なにを運ぶんだ? アタイはゴブヒコを運んでいるが?」
と、リーヌはあいかわらず、よくわかっていない感じで言った。
「ハコブネって、あの空飛ぶ船のことっすよ。ハコブネ計画は、ケロット団がやってた、モンスター誘拐計画っす。ケロット団は、たぶん、プップをさらって、ハコブネにつれこむつもりなんす。それに、フーじぃのサファリパークから誘拐されたモンスターも、あすこにいるかもしれないっす」
ハコブネの側面に、開口部があり、そこから、長いタラップが出ている。ケロット団員たちは、その長い階段を走っていく。
ハコブネの開口部に、ケロット団員たち、そして、網にいれられたプップ達の姿が消えていった。
おれたちは、プップを追いかけて、タラップを駆け抜け、ハコブネの中へと、突入していった。
おれ達が中にはいるとすぐ、背後で、自動ドアのように出入り口が閉まっていった。
「ギリギリ間に合ったっす」
と、おれが言うと、ホブミが、不安そうな表情で言った。
「だといいのですが。むしろ、私たちが入るのを待って、閉まったように感じます」
「これ、トラップだってこと?」
でも、罠だったとしても、プップを見捨てるわけにはいかないからな。
おれたちが今いるのは、倉庫みたいな、ガランとした部屋だ。ここには、すでにケロット団員もプップもいない。
この先に続くドアは、ひとつしかない。
「リーヌさん。あのドア、破壊してくれっす」
「おう。行くぜ。ケロケロキーック」
リーヌは、跳び蹴り一発、ドアをふきとばした。
ドアの先には、広い廊下が続いていた。廊下には、いくつもドアが並んでいる。
「これ、全部あけて確認するのは、たいへんっすね」
「私が透視します」
と言って、ホブミが呪文を唱えだした。ホブミのメガネに、魔法陣がうかびあがった。
「透視を終えました。この辺りの部屋にプップさんは、いません。奥の扉の先に進みましょう」
「よし、行くぜ」
リーヌが、廊下の奥の扉をけやぶって、おれ達は、その先にむかった。
そこには、巨大な倉庫みたいな空間がひろがっていた。
おれ達がいるのは、その巨大な空間の上の方にある通路だ。
巨大な空間いっぱいに、強化ガラスのガラスケースみたいな、透明な四角い箱が大量に並んでいる。何段にも重なって。
そして、その透明な箱の中には、モンスターや動物が数体ずつ入っている。
パラパライトみたいな小さなモンスターから、ジャイアントスピードワームやドラゴンみたいな巨大なモンスターまで。
よく見ると、キモノキや、メタルヒツジが入っているケースもあった。
だけど、みんな、ぴくりとも動かない。
モンスターや動物は、寝ているわけではなく、立ったまま、跳びはねたまま、といった形で、ぴくりとも動かず、止まっているのだ。
この空間には、そんな、ぶきみな透明なおりが、何百、何千、と並んでいる。
「な、なんすか、これ……?」
おれ達は、通路を急いで進み、階段を降りた。
階段を降りた先には、人型モンスターのおりがならんでいた。ゴブリン、コボルト、オーク、ワータイガー、クリント、それから、おれが種族名を知らない、ネコ耳やウサ耳の人たち、ウロコが生えた人や、翼が生えた人、ケロット団員まで、透明なおりに入っていた。
どれも2人ずつ入っているというわけではなく、3人だったり、4人だったり。数は、わりといい加減だ。
たとえば、向こうの方にある、メタルピッグがいれられた箱の中には、5、6匹のメタルピッグが入っている。
まんなかにいるメタルピッグは、サングラスをかけていて、その周囲にいるメタルピッグは、スカートをはいたり、リボンをつけたり、ハイヒールをはいたりしているから女性、というか、雌のようだ。
そして、雌のメタルピッグたちは、ブタというより鬼のような形相で、まんなかにいるグラサンのメタルピッグを、なぐったり、けったり、ボコボコにしようとしている。そんな危険な状態で、みんな、静止している。
(あれ? あの襲われかけてるメタルピッグ……アニキっぽいけど。気のせいかな)
それに、透明なおりには、なんか、他のものまで入っていることもある。
遠くに見える大きなドラゴンの巨大なケースには、2匹のドラゴンの間に、ドラゴン以外のものが落ちている。
片方のドラゴンに、今にも食べられそうになっているから、エサかな、と思ったんだけど。よくみたら、人間っぽかった。
(あれ? あのドラゴンのおりに混入しているの、ドラゴンライダーっぽいけど。まぁ、いいや、なんでも)
おれ達が、透明なおりの前で、あぜんとしていると。
上の方から、ガーガー音が聞こえた。おれが頭上を見上げると、クレーンが、動いていくのが見えた。ゲームセンターのクレーンゲームみたいなクレーンだ。
そのクレーンは、透明のガラスケースみたいなおりを運んでいた。今にも落っこちそうな、不安定な感じで。
そして。
その運ばれていくおりの中には、プップがいた。
「プップ!」
おれが呼びかけても、透明なおりの中のプップは、「プッ」も言わない。
プップは、いつものまぬけな顔で、変な方向を向いたまま、ぴくりとも動かなかった。