表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
156/170

4-95 乙女の泉

 扉の先の庭園も、美しい場所だった。最初に見た迷路の庭園より、こっちの方が美しいかもしれない。

 この庭園には、白い小石がしきつめられた道が続いていて、両側には色んな花が、咲きほこっている。

「さまざまな季節の花が、同時にさいているのですー。ふしぎなのですー」

と、ホブミが言った。

 道の先には、白、ピンク、赤、オレンジ、黄色、紫、そして青の、バラのアーチが続いている。

 花々のあいだを、青い小鳥がとびかっていた。青い空を見上げれば、紺色の尖塔の横を、二匹のプップが、ぷかぷか飛んでいる。

 あたり一帯、のんびりほのぼのした光景がひろがっている。


 おれは、白いハトがとまっている八角形の屋根の、中にベンチが置かれた白い建物を見ながら、つぶやいた。

「なんか、のんびりぼーっと、お花でも見ていたい感じの場所っすね。あすこで休憩するのもいいかもしれないっす」

「おう。ピクニックするか? ゴブヒコ、サンドイッチとおやつを出せ」

と、リーヌはおれに命令した。

「いや、出せったって、サンドイッチなんて、最初から、もってないっす。おやつは、リーヌさん、バスの中で、ぜんぶ食べちゃってるっす」

「なにぃ!?」

「おやつなら、ホブミが予備おやつを用意してますですー。でも、まずは、オトメノキッスイを手にいれるのですー」

と、ホブミが言った。


 乙女の泉がどこにあるかは、わからないけど、この庭園は、一本道だ。

 おれたちは、道なりに、バラのアーチをくぐりながら、進んだ。

 しばらくすると、庭園の真ん中に、白い岩で囲まれた泉が見えてきた。

 可憐な乙女の白い像が、泉の真ん中に立っていて、泉の淵の白岩には「乙女の泉」と彫り込まれている。


 おれたちは、泉のそばへ行った。泉の水面には、近くのバラのしげみから落ちた小さなバラの花が、たくさんうかんでいる。

「この泉の水が、オトメノキッスイっすか? ちょっといい匂いがする以外は、ただの水っぽいっすけど」

 でも、泉のそばの木には、貼り紙がはってあって、「オトメノキッスイとりすぎ注意!」と書いてある。

「てことは、やっぱこれが、オトメノキッスイなんすね」


「で、どうすりゃいいんだ?」

 リーヌは、泉の水に手をつっこんだ。

 でも、なにも起こらない。

「この泉の水は、見たことのない物質なのですー」

 メガネに解析魔法の魔法陣をうかびあがらせながら、ホブミも、泉に手をいれた。


 そのとたん。

 ホブミの姿が変わった!

 ホブミは、人間のすがたに戻った……だけじゃない。

 ホブミは、なぜか、プリンセスみたいな、ウェストがしぼられて、スカートがふくらんだ、純白のドレス姿になっている。

 つまり。さっきまで、ブサカワ系メイドゴブリンがいた場所に、細いウェストにあふれんばかりのバストの、純白ドレスの美少女が出現したのだ。


「ムフッ」

 おもわず、おれがドレスの胸もとを見ていると。

 両側から、おれに、レーザービーム攻撃みたいな視線が、つきささってきた。

 ホブミが、杖の先端をおれにむけて、冷たい声で言った。

「いやらしい視線をむけないでください。その目をつぶしますよ?」

「体を動かすのが嫌いなホブミが、まさかの物理攻撃!?」

 そして、リーヌの、静かなんだけど、底知れぬ怖さのある声が響いた。

「おい、ムフヒコ。いいかげんにしねぇと、アタイにも、がまんの限界ってもんがあるんだぜ?」

 リーヌの声が怖すぎて、おれは、反射的に、とびあがって、ホブミから視線をはずした。


「おれは、ドレスのししゅうを見ていただけっす! ほら、胸もとのレースのかざりと、ししゅうが、すっごい、きれいだなーって」

 もちろん、その下のふくらみによって、美しさが倍増するわけだけど。

 おれが、そういう余計なことを言う前に、リーヌが言った。

「まー。たしかに、きれいだけどよ。ドレスもホブミも」

 ホブミは、はにかんだようにお礼を言った。

「ありがとうございます。リーヌ様」


 おれは、そこで、気がついた。

 ホブミのあしもとに、なにかが輝いている。

 シャハルンの盾だ。受けるはずのダメージを全反射するというチートな盾だ。

 おれが持ったら一気に最強になれるのに、リーヌは、おれじゃなくてホブミにあげちゃった、あの盾だ。

「あ、ホブミがドレス姿になったから、盾をおなかに隠せなくて、地面に落ちたのか。……じゃ、この盾は、おれがもっていくっす」

 おれが手をのばすと、ホブミは、冷たい声で言った。

「どうぞ。即死トラップを解除できるなら」

 言われて、おれは思い出した。

 ホブミは、この盾に、即死トラップをかけていた。おれがふれたら、即死してしまう。

 たしか、パスワードを言えば、解除できるとか、前にホブミが言っていた気がするけど。

「えーっと、パスワードはなんだっけ?」

 おれが、知らんぷりして、たずねると。

「教えていません。パスワードは、誰にも教えません」

と、言いながら、ホブミは、シャハルンの盾を拾い、腕に装着した。


 ホブミは、乙女の泉を見ながら、言った。

「泉の水にふれたとたん、私の変身魔法が解除され、さらに、服装までかわってしまいましたが。これがオトメノキッスイの効果なのでしょうか? ふしぎな効果です」

「でも、リーヌさんが泉の水にさわっても、なにも起こらなかったっすよね?」

と、おれは、ちっとも変わらず金髪カエルなリーヌを見ながら言った。

「さっきのじゃ、たりなかったんだろ。よし。もっと水をかぶって、アタイもドレスになるぜ」

と、言いながら、リーヌは泉の水で、バシャバシャ顔を洗った。


 リーヌは、こっちにふりかえって、たずねた。

「どうだ?」

 おれは、その顔を見て、感動してしまった。

「すごいっす! 輝いてるっす! これぞ、美しい、つるつるぬるぬるの、……見事なカエルお肌っす!」

 リーヌの肌は、ほんとうに輝いている。

「たしかに、ツルツルだな」

と、リーヌも自分の顔をさわって言った。

「この泉の水って、高級な化粧水みたいな感じなんすかね」


 だけど、もちろん、リーヌは、カエルのままだ。

「顔を洗ったくらいじゃ、たりないんじゃないっすか? 泉に入らないといけないとか?」

と、おれは、希望を捨てずに、言ってみた。

「よし。入ってみるぜ。今度こそ、アタイも、ドレス姿になってやる!」

と、リーヌは力強く言った。

「さっきも思ったんすけど、ドレスなんすか? 人間にもどるんじゃなくて?」

 リーヌは、断言した。

「だんぜん、ドレスだろ。乙女だからな」

「カエルの姿かドレス姿かの二択で、ドレスを選ぶのが、乙女なんすか? まぁ、いいっすけど。でも、そのまま入ったら、服がぬれるっすよ?」

と、おれが言っている間にも、

「よし! 入るぜ!」

と言って、リーヌは、服をきたまま、泉にジャボンと、とびこんだ。

(あ、でも、リーヌが人間にもどったら、ぬれたドレスがはりつく姿とか、超いいかもー。ムフフフー)

 おれは、期待しながら、泉の方を見ていた。


「どうだ!?」

 リーヌは、泉の中で泳ぎながらたずねた。

 おれは、リーヌが泳ぐ姿を見て、感動した。

「バッチリ似合ってるっす! もうバッチリ、……泉で泳いでいるカエルっす!」


「ぬぅわんでだー!」

 リーヌは立ち上がった。

「なんで、アタイには、効果がねぇんだぁー!」

 リーヌは、叫んだ後、ぬれた手で、そこにあった乙女の石像にふれた。

 そのとたん、あたりに、まばゆい光が放たれた。

「ま、まさか……」


 そして、光が消えた時。

 そこには、ハリウッドセレブみたいな、黒いシックなドレス姿の金髪の……カエル様がいた。

「変わったの、服だけっすか……」

 ちなみに、ぬれたドレスは、肌にはりついていたけど。凹凸のないカエル体形だから、色っぽさはゼロだ。


 ホブミは、泉からあがったリーヌに、ドライヤー魔法とかいう呪文を唱えた。

 ホブミの杖からリーヌにむかって温風が吹いていく。

 ぬれた金髪も、服も、あっというまに乾いていく。

「うわー。これ、便利だけど、むちゃくちゃ意味不明な魔法っすね。攻撃力はゼロだし。こんな便利グッズ的な魔法、よくおぼえてるなー」

と、おれが言うと、ホブミは、あっさり言った。

「私はサポート魔法のスペシャリストですから」

 サポートはサポートでも、日常生活のサポートなんだけど。


 温風にあたりながら、リーヌは、ニコニコしている。

「よっしゃ。目標達成だな」

と、言っている。

 まだ、カエルのままなんだけど、ドレスになれたので、満足したらしい。

 服が乾いたリーヌは、上機嫌で、おれにたずねた。

「おい、このドレスはどうだ?」

「ドレスは、かっこいいし、きれいっす。カエルのままなのに、スタイルを、きれいにみせるドレスって、かなりのもんっすね」

と、おれは論評しておいた。

(このドレスで、リーヌが人間バージョンだったら、かんぺきな美しさになるのに。なんで、カエルのままなんだよ……)

と、思いながら。

「そうか、そうか。さすがは、オトメノキッスイだな」

 リーヌは、感心している。

「オトメノキッスイは人間に戻るためのアイテム、のはずだったんすけど。これでも、だめなら、やっぱり、もう、カエルのまま生きていくしかないんすかね……」

 おれは、そう言いながら、なにげなく、お空を飛んでいく2匹のプップを眺めていた。

 その時。


 突然、上空をミサイルのようなものが飛んでいった。

 そして、プップの近くで、ミサイルみたいなものが破裂して、網が二匹のプップの上にふりかかった。

「ププーーッ!」

 聞きなれたプップの悲鳴が、空から降ってきた。

「プップ!」

 プップ達は、網に閉じ込められたまま、どんどんと、引っ張られていく。

 網にはロープがつながれていて、そのロープの先、プップたちが引っ張られていく先には、ミサイルの発射装置をもったケロット団員がいた。

「ケロット団員っす! まだプップをねらってたのか!」

 あまりに平和なふんいきの庭園で、敵とか全くでてこないから、すっかり油断していたけど。

 おれ達って、ケロット団員の巣窟っぽいところに、侵入中だったんだよな。

 実は、敵陣まっただ中にいたんだった!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ