4-94 宮殿入り口
おれ達の進む先には、大きなお城が見えている。
この、空の上のお城は、全体が青系の色で統一された美しい建築物だ。
宮殿の屋根は紺色で、壁は青い壁石と、水色、藍色、青緑など、青系や緑系の様々な色の輝くタイルでできている。
歩いていくにつれ、巨大な宮殿が、だんだんと大きくなってきた。
そして、豪華な金色の門が、おれたちの行く手にあらわれた。
開かれている門をそのまま通過し、おれ達は、金とエメラルド、ターコイズ等でかざられた扉の前に立った。
「これが、ガイドの言ってた宮殿入り口っすか?」
「そのようですー」
と、ホブミが言った。
「よし、行くぞ。たのもー」
リーヌは、宮殿入り口の扉をあけた。
おれたちは、堂々と中に入った。
中にはいると、そこは、円形の大きなホールになっていた。
床には、深海のような深い青のタイルがしきつめれている。大きなシャンデリアがつるされている天井には、青空と様々な生き物が描かれていた。
真ん中に、高級そうな装飾の施された大理石の白い円テーブルがある。
そして、そこに青いドレス姿の女が座っていた。
おれ達が入ってきたのを見て、青いドレスの女は言った。
「ようこそー。はた迷惑なオバカップルと世話好き賢者さん」
その声に、おれは、おどろいた。
「この声、青い妖精? ……に、似ているけど、気のせいかな?」
だって、見た目は、青い妖精ではない。
というか、その顔をよく見て、おれは、さらにおどろいた。
ホブミがつぶやいた。
「なんと美しい女性なのですー……。リーヌ様ほどではないですがー」
たしかに、この青いドレスを着た女は、とても、きれいだ。
偏見なく見れば、リーヌの人間版に劣らないくらいの美女だ。
リーヌの方が、スタイルはいいかもしれないけど。でも、青いドレスの女は、リーヌと違って怖い感じがしない、万人受けする、ふつうの美女だ。
もしも、道ですれちがったら、誰もがときめいちゃうレベルの美女だ。
だけど。
おれは、ときめかないな。
だって。
驚きのあまり、数秒間凍りついていたおれは、ついに叫んだ。
「母ちゃん!?」
この美女は、20代前半くらいの時の、母ちゃんの姿そのものなのだ。
もちろん、おれは、その頃の母ちゃんの姿は知らない、というか覚えていない。だけど、写真で見たことがある。
それに、どことなーく、今の母ちゃんにも、面影は残っているから。
今の母ちゃんは、ほぼ、別人レベルに、おばちゃん化しているけど。
「なにぃ!? あれが、ゴブヒコの母ちゃんなのか!? すげぇ若いぞ!?」
と、リーヌが、おどろいて叫んだ。
「おどろくの、そこっすか?」
と、おれがたずねると、リーヌは言った。
「あ? ほかにもあるのか?」
「ほら、世界一醜いゴブリンの母ちゃんが人間の美女なとことか。でも、たしかに、おれが21だとすると、あの人が母ちゃんなら、推定4歳以下くらいの時に出産してるだろうから、そっちの方が、びっくりかー。じゃ、やっぱ、リーヌさんので、あってるっすね」
それはそうと。「20代前半の母ちゃん?」は、叫んだ。
「あんたの母ちゃんじゃないわよ! わたしは、あんたがこの世界に来た時に、むりやり、あんた担当に任命されちゃった上、あんたがスパパラマザコンなせいで、あんたの母ちゃんの姿に変えられちゃった、この世界で1番かわいそうな、あんたの犠牲者よ!」
それを聞いて、おれは、この美女の正体を確信した。
「じゃ、おまえ、やっぱり、青い妖精なんだな? てか、おれが、『母ちゃんの姿になって』って頼んだわけじゃないし。むしろ、見た目が母ちゃんな妖精なんて、ぜったい見たくないものランキングの上位だし。それに、なんで、いきなり若返ってるんだよ。青い妖精」
青い妖精は、髪の毛をかきあげながら、言った。
「なんとかがんばって、姿を変えたのよ。あんたの呪いは強力で、大変だったんだけど。なんとか、山田葵全盛期の姿を再現してみたの。ディスコのお立ち台でブイブイ言わせてるOLだった頃の姿よー。子育てで疲弊してみるかげもなく劣化しちゃう前の。ばっちりでしょ?」
山田葵は、おれの母ちゃんの名前だ。
「勝手に変なサービスすんなよー。ディスコって、古……てか、えぇ!? 母ちゃんって、パリピだったの!? と、とにかく。若くなっても、母ちゃんじゃ、おれ的には、全然うれしくないんだから。てか、なんで、空の上のお城で、青い妖精が出てくるんだよ~。ここは、『天空の魔女』とかいう、すんごい美女が出てくるところだろ~?」
おれが文句を言ってると。
「なに言ってるのよ。ここは、わたしの居城よ」
と、青い妖精は言った。
「え? そうなの? 天空の城って、『天空の魔女』が住んでるとこじゃないの?」
と、おれが言うと、青い妖精は、イライラした様子で言った。
「だーかーらー。わたしの別名が、『天空の魔女』なのよ。かってに魔女扱いしてくれちゃって、失礼な話なんだけど。わたしは、空と海とあの世への入り口をつかさどる、れっきとした神様の使いなのに。でもまー、『天空の魔女は、この世のものとは思えないほどの美女』って、みんな言ってるから、許してあげてもいいかなー、みたいなー?」
「じゃ、青い妖精が、天空の魔女!?」
おどろいているおれに、青い妖精は言った。
「というか、あんたが、勝手にわたしのことを青い妖精ってよんでるだけでしょ? わたしの呼び名は色々あるけど、わたしを青い妖精って、呼んでるのは、あんただけなんだけど?」
いわれてみれば。
「おれが、青い妖精って名前をつけたんだっけ……」
おれ、そもそも、青い妖精に、名前を聞いたことが、なかったかも。
そこで。リーヌが難しい顔をして、おれにたずねた。
「どういうことだ? ゴブヒコ。天空の魔女が、おまえの母ちゃんなのか? 天空の魔女は美魔女なのか?」
おれは、否定しておいた。
「いやー。母ちゃんではないっす。母ちゃんそっくりの見た目の、天空の魔女らしいっす」
「わたし、魔女じゃないんですけどー」
青いドレスを着た20代前半の母ちゃん、みたいな見た目の天空の魔女は、そう言って、おれたちに背を向けて去ろうとした。だけど、そこで、天空の魔女は一度立ちどまって、ふりかえった。
「あ、そうそう。オトメノキッスイがほしいなら。乙女の泉は、その扉の先よ」
天空の魔女は、おれ達から見て、右奥の扉をゆびさしていた。その扉には、「第二庭園(乙女の庭園)」とかかれている。
ちなみに、おれ達が今いるホールには、全部で6つ扉があって、それぞれに、行き先が書いてある。
例えば、むかって左手前の扉には、「この先、審判待合室(お花畑)」と書かれていて、左の扉は「この先、審判の間」、正面奥は「蒼の宮殿」だ。
「じゃあ、まーたねー」
と言って、青いドレスをひるがえし、天空の魔女は去って行った。
「結局、青い妖精、なにしに出てきたんだろ? 案内してくれるため?」
おれが、そうつぶやいている間、ホブミはホブミで、ぶつぶつ、つぶやいていた。
「天空の魔女は、神の使い……、そして、この世界に来た存在……。やはり……」
一方、リーヌは。
「おい。はやく行こーぜー」
リーヌは、大理石の円テーブルの上にのぼって、パラパラ風ダンスをおどりながら、おれ達をせかした。
おれ達は、乙女の泉に行くことにして、右奥の扉を開けた。