4-91 入場ゲート
おれ達は天国の階段をのぼることにしたんだけど。何の策も思いつかなかった。
「よし、行くぜ」
と言って、リーヌは、入場ゲートにむかって、堂々と歩いていった。
おれ達は、その後ろをついていった。
「よお」
と、リーヌは、入場ゲートのケロット団員に、片手をあげて、フレンドリーにあいさつして、なにげなく通行しようとした。
(な、なるほど。「堂々と行けば、バレない作戦」か……)
いくらなんでも、むちゃだろうけど。でも、リーヌはカエル人間の姿だから、意外といけるかも。
「通行許可証、見せてケロ」
と、ケロット団員は、言った。
「忘れちまったぜ。今日だけ、通してくれよ。ほら、アタイの顔、おぼえてるだろ?」
と、リーヌが言うと、ケロット団員は言った。
「どっかでみたような気はするケロ、ここでは見てないケロ。許可証がないと、通行できないケロ。1億Y払って入場券を買うか、通行許可証を持ってくるんだケロ」
「あんだよ。いいじゃねーかー」
と、リーヌが、ごねだしたところで。
後ろからシャバーが割って入った。
「通行許可証ってのは、これか?」
シャバーは手に、青いカードをもっている。
「そうだケロ」
と、ケロット団員は、うなずいた。
おれは、おどろいてシャバーにたずねた
「それって、今朝の封筒に入ってたやつっすか?」
シャバーが手にしている通行許可証は、シャバーの枕元に置いてあった、いかにもサギっぽい手紙に同封されていたカードだ。たぶん。
「でも、たしか、ごみ箱に捨ててたっすよね?」
おれは、ごみ箱をあさって確認したんだから、まちがいない。
「いつのまにか、また、ポケットに入ってたんだよ」
と言って、シャバーは、水色の封筒をとりだしてみせた。
受付のケロット団員は、シャバーの通行許可証を入場ゲートにかざし、
「はい、1名様ご入場」
と、言った。
「え? 1名? 入れるのシャバーだけ?」
と、おれがききかえすと、ケロット団員は、きっぱりと言った。
「許可証もってる人だけだケロ」
「アタイも通るぞ」
と、リーヌは、当然のように言った。
けど、ケロット団員は、きっぱり言って、リーヌの前に立った。
「だめだケロ」
「あんだよ。さっきから。通せんぼしやがって」
と、理不尽に怒りだしそうなリーヌを制止して、シャバーは言った。
「おまえらは、ここで待ってろ。『オトメノキッスイ』とかいうのは、俺がとってくる」
リーヌが何かを言う間もなく。シャバーは1人、入場ゲートを通過し、奥のエレベーターホールに進み、すぐにエレベーターに乗り込んで消えてしまった。
おれは、リーヌに言った。
「しかたないっすね。そこのお土産屋さんで、天国のソフトクリームでも食べて待ってるっす。ひとつ、3000Yもするっすけど。ふわふわでとろける味らしいっすよ?」
でも、リーヌは、ぶすっとした顔のまま、動かない。
と思ったら。
「待ってられねぇー!」
リーヌは叫んだ。シャバーがエレベーターに乗っていなくなってから、たぶん5秒後くらいだ。
「早っ。どうせプリケロさんが、黙って待ってるなんて、できないとは思ったっすけど。せめて1分くらい、待ったらどうっすか?」
と、おれは言ったんだけど、ホブミは明るく言った。
「1分も1秒も、違いはないのですー」
「そうだけどさ。いくらなんでも、秒単位じゃ、『待ってたんだけど、待ちきれなくて』とかいう言い訳もできないぞ?」
そう、おれが言っている間に、リーヌは、キック一発、入場ゲートを破壊していた。
かわいそうに、入場係のケロット団員は、その衝撃で、空中をふっとんでいった。
近くにいた警備員のケロット団員たちが、ふっとんで倒れた入場係を抱えて、逃げていった。
警報音があたりに響き渡る。
「行くぜ!」
と言って、リーヌは入場ゲート……があった場所、を跳び越えていった。
「やっぱこうなるんすかー」
おれが、ぼやくと、ホブミは、ちょっと楽しそうに言った。
「他の方法は、ありませんですー」
なんやかんや言って、ホブミは、いつも、リーヌの暴走を楽しんでるんだよなー。
ところで、警報音は鳴り響いているけど、敵は出てこない。ケロット団員達もいなくなったから、おれたちを邪魔する敵は、いない。
だから、おれは、その場で立ちどまって、つぶやいた。
「なんか、意外と平和に入れるんだなー。でもやっぱり、この先は危なそうだし、おれとプップはおとなしく、そこの展覧会かお土産屋さんで待ってるってのも、いいかもなー。どうしようかなー」
「ププッ プププー」
プップはやる気満々に鳴いた。
「えー? プップは行くの?」
おれたちが、そんな会話をしていると。
なぜか、後ろから、騒がしい音がした。
おれが振り返ると。
赤いハートマークがついた白マントの騎士団と、白黒フードの暗殺者たちの集団が、なぜか、こっちにむかって、ものすごい形相で走ってくる。
騎士団員は叫んだ。
「いたぞ! あの怪しい疫病神モンスターめ! よくも、はかってくれたな!」
アサシンは叫んだ。
「いたぞ! あれが、電波ジャックし、阿鼻叫喚を引き起こしたモンスターだ!」
騎士団員もアサシンも、みんなが叫んだ。
「あいつを、殺せ!」
「ププーーッ!」
「ギャーーー! おれは、なにもしてないどころか、みんなを応援してたのにぃーー! プリケロさーん! 助けてー! プリケテー!」
おれは、あわてて、リーヌ達の後を追って走り出した。
「なに? プリケテだと? よし、プリケルぞ」
ふりかえったリーヌは、はじけた感じで、プリプリにおどりだした。
「プリケルって、おどるの!? おれは、助けてほしいんすー!」
リーヌは、おどってるし、後ろからは、攻撃が飛んできそうだし。
(これはもう、ダメかもしれないー!)
だけど、おれが、必死に入場ゲートを通過中。おれの頭上から、非常用シャッターがおりてきた。
おれが、ゲートを抜けたところで、ちょうど、おれの背後に分厚いシャッターがおりた。
閉まりかけたシャッターの向こう側で、騎士たちと、暗殺者たちが、騒いでいる。
というか、騎士とアサシンの攻撃が、ビシバシ、シャッターにぶつかっている音がする。
でも、シャッターは、壊れない。シャッターは完全に閉まり、騎士と暗殺者の攻撃の音は小さくなり、警報音にかきけされて、ほとんど聞こえなくなった。
「あんだ? あいつら、おまえのダチか?」
リーヌは、おどりながら、おれにたずねた。
「ぜんぜんダチじゃないっす。おれを殺しに来た人達っす。プリケロさんが踊っている間に、おれは、あやうく殺されるところだったんすよ? あーあ。おれは、何も悪いこと、してないのにぃー。むしろ、みんなに協力してあげてただけなのにぃー。なんで、おれが命をねらわれるんだよー」
おれが、なげいていると、ホブミが、言った。
「ホブミは、先輩が昨日、なにをしていたかは知らないのですー。でも、先輩の自業自得なのだけは、わかるのですー。それにしても、悪運の強いゴブリンですー。シャッターが後2秒、早く降りてくれれば、先輩は、シャッターの向こう側。とても、とても、助けられなかったのに、なのですー」
ホブミは、残念そうに言いながら、メガネに魔法陣をうかびあがらせて、シャッターを見ている。
「なんとなんと。このシャッターは勇者学園の体育館の壁なみの強度があるのですー」
「え? あの、1億のダメージでも、うんぬんかんぬん、ってやつ?」
おれが聞き返すと、ホブミはうなずいた。
「この天国への階段という建物は、外壁も、そのシャッターも、他では見たことのない物質でできているのですー。防御力が上限突破素材なのですー」
「オイコットの城壁技術ってやつ?」
おれがたずねると、ホブミは、首を横にふった。
「こちらが先なのですー。ホブミが聞いた話によると、オイコットの工学者たちは、『天国への階段』の壁を研究して、城塞都市の城壁建築技術を編み出した、といわれているのですー。『天国への階段』は、ずっと昔からここにあるのですー。古代遺跡のひとつなのですー」
「へぇ。じゃ、古代文明のすごい技術、的なやつなのかー」
と、おれが感想を言うと、ホブミは言った。
「ホブミは信じていなかったのですがー。天空の魔女が、神々の使いだというウワサは、ウソではないかもなのですー」
「神々の使い? 魔女なのに?」
でも、そういえば、天国入場料とか、書いてあったもんな。天国に行けるってことは、きっと、神様とコネがあるんだもんな。……サギじゃなければ。
さて。おれたちは、シャバーの後を追って、エレベーターに乗ろうとした。
でも。当然のように、エレベーターは作動しなかった。
「あんだ? エレベーターは、こわれてんのか。じゃ、階段で行くぞ」
と、リーヌは言った。
「えー。階段っすかぁー? お空の上まで? そんなの、おれ、登れないっすよ? もう、あきらめて、帰らないっすか?」
すると、ホブミが言った。
「姫様を元にもどすまで、ホブミは帰らないのですー。でも、帰りたいなら、先輩ひとりで、かってにどうぞなのですー。暗殺僧兵団と教会騎士団に、たっぷり遊んでもらえばいいのですー」
そうだった。シャッターの向こう側には、おれを討伐しにきた、騎士団員と暗殺者たちがいるんだった……。
おれ一人じゃ、ぜったい、外に出られない。
そもそも、おれには、あのシャッターをあけることもできないんだけど。
というわけで、おれも延々と続く、らせん階段をのぼっていくことにしたんだけど……。