表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
150/170

4-89 朝のニュース

 さて、翌朝、おれが安ホテルの部屋で目を覚ますと。となりのベッドでは、シャバーが水色の封筒を手にすわっていた。

 ちなみに、このホテルでは、ツインルーム2部屋にとまってるんだけど、当然のように、リーヌとホブミ、おれとシャバー、という部屋わりになっていた。


「おはよっす。なんすか、それ?」

と、おれがたずねると、シャバーは水色の封筒をにらみつけながら答えた。

「起きたら、枕元においてあったんだよ」

「へー。サンタさんみたいっすね」

 ちなみに、おれは、サンタさんの正体はちゃんと知っているからな。

 母ちゃんが、おれにバラしたのだ。あの時は、ショックだった。おれは、まだサンタさんを信じていたから。

 母ちゃんは、無情にも、サンタさんの正体が母ちゃんだったってことを、おれに告げたのだ。

「このままだと、あんた、一生信じてそうだから、サンタさんのこと、ちゃんと言っとこうと思うんだけど」って言って。

 おれが、20歳になった時に。

 いやぁ、おれ、ショックを1年くらい、引きずったぞ。


 シャバーは、水色の封筒をふりながら言った。

「これは、あやしそうだ。あけてみるぞ。爆発するかもしれない。離れていろ」

「わかったっす!」

 おれは、一目散に部屋の外に走り出て、ドアをちょっとだけ開けといて、中をのぞいた。

 シャバーは、水色の封筒を開けた。

 中からは、手紙とカードが出てきたようだ。

 爆発とか、呪いとかっぽいことは、何も起こらない。

 シャバーは手紙を読んだかと思うと、手紙も封筒も、いっしょにくしゃくしゃにして、ごみ箱に投げ捨てた。


 おれは、ドアをあけて、部屋の中にもどった。

「なんだったんすか?」

「ただの嫌がらせだ。朝飯を食いに行くぞ」

 そう言って、シャバーは朝食を食べに食堂に行ってしまった。

 でも、おれは、気になったので、ちょっとごみ箱の中の手紙をとりだしてみた。

 そこには、こう書かれていた。


-----

 おめでとうございます! あなたは世界を救う救世主、≪碧の騎士≫として選ばれました。至急、天空の城へとお越しください。つきましては、「天国への階段」通行許可証を同封いたします。

-----


「うわぁ。やたらとだまされやすいおれの目にも、サギっぽいな。こりゃ、捨てて正解だな」

「プッ」

 おれは、手紙をゴミ箱にもどし、食堂にむかった。


 このホテルは朝食付きだ。朝食は、食堂で、自分で好きなものを取っていくスタイルだった。

 ホテルの部屋には、テレビがないんだけど、食堂には、テレビがある。

 おれが、ちらっと見ると、テレビには、今日のニュースの見出しが出ていた。


~~~

≪コボルトの村で奇病が流行!≫

≪スキバレー地域であいつぐ噴火!≫

≪「大いなる厄災」の噂を検証!≫

≪食人アイドルグループ「ネペンチュス」、突然の解散宣言!≫

~~~


 おれは、テレビの画面を見ながら、つぶやいた。

「やっぱ、テレビがあるっていいよな。おれが前にいた世界では、テレビって、『ネットがあるからもういらないんじゃないの?』的なものになりつつあったけど。インターネットがない世界では大事だな~」

「プッ」

 プップも、すっかりテレビを気に入ったようだ。昨日は、プップは、テレビの音楽番組で、アイドルの踊りにあわせて、おれの頭の上で跳びはねていた。

 それにしても、リーヌのボロ屋は、インターネットはもちろん、テレビもラジオもなんにもないからな。世界で何が起こってるかなんて、さっぱりわからなかった。

「司令塔ゴブリンとしては、情報収集しないといけないからな」

と、つぶやいて、おれは、朝食のトーストをトースターで焼きながら、ニュースを聞いていた。


~~~

 アナウンサーが、ニュースを読み上げている。

「コボルトの村では、若い女性のあいだで、耳がたれ耳になってしまうという原因不明の奇病が流行しています。耳がたれてしまう他には健康被害はない、ということです。治療法は見つかっておらず、とつぜんの奇病の流行にコボルトの女性達は困り果てている、かと思いきや、近年はたれ耳が流行しているため、むしろ、喜んでいる女性が多いとのことです。なお、高齢女性や男性の発症例は見られないそうです。コボルト村の長老は、こうおっしゃっていました」

 画面に、コボルトのおばあさんが映った。

「わしも、ナウいたれ耳になってみたかったんじゃが。ちょっとざんねんじゃの」

~~~


「おれは、たち耳派だけどなー。コボルトが、みんな、洋犬みたいなたれ耳になっちゃうのかー。シロさんは大丈夫かなー。あ、でも、若い女性だけって言ってたか」

 おれは、トーストと目玉焼きをもって、リーヌ、ホブミ、シャバーがすわっているテーブルにむかった。


~~~

 アナウンサーはニュースを読み上げている。

「昨日、突然、スキバレー地域の火山が、あいつぎ噴火しました。しかし、今朝には、まるで昨日の噴火が、かん違いであったかのように、沈静化しているとのことです。しかし、専門家によると、まだしばらくは、注意深く観察する必要があるとのことです。また、ディエス教会は、この噴火にも『大いなる厄災』の影響が考えられると、発表しました。」

~~~


「なんか、近頃、噴火が多いと思ったら。これも『大いなる厄災』のせいなのかー」

 おれは、リーヌの前の席に座った。

 リーヌは、今朝も不機嫌そうだ。チラッチラッと、こっちを探るように見ながら、一言も、おれに話しかけてこない。

 ふだんは、おれが席に着いたら、さっそく、なにか、アホなことか、ムチャクチャなことを言ってくるんだけど。

 おれは、テレビを見ながら、トーストにかじりついた。


~~

 テレビの画面には、スタジオが映っている。

「それでは、次は、『特集・「大いなる厄災」の噂を検証!』です。ここで、今日のコメンテーターを紹介します。今日のコメンテーターは、モンスター研究家のオークド博士と賞金首マニアのバウンティバニーさんです」

 スタジオには、濃ゆい顔のオークのおっさんと、派手な服装のうさ耳お姉さんが映っている。

「よろしくおねがいするのじゃ」

「よろしくだピヨン」

 コメンテーターがあいさつを終えると、ニュースキャスターはしゃべりだした。

「預言者ダガロパ様が『大いなる厄災』の預言を公表してから、1週間がたちました。今、どこの町も、『大いなる厄災』のうわさで、もちきりです。なかでも、『大いなる厄災』が襲来するとのうわさが流れているツェッペの町で、我々は取材を行いました」

~~


 おれは、トーストにかじりつきながら、昨日、広場でテレビのインタビューを受けたことを思い出した。

「そういえば、今日の朝、放送するって言ってたな。ひょっとして、これかな」

「プッ」

「じゃ、チェックしなきゃ」

と、思って、おれがテレビの方を見ようと思った、その時。

 突然、食堂中に悲鳴が響きだした。

「いやぁーーーーー!」

「ぐぅうわぁああああーーーー!」

「ぐぅはぁあああーーー!」

 他の宿泊客たちが、阿鼻叫喚、のたうちまわっている。

 まるで、この世の終わりのように。


「ま、まさか、ここに『大いなる厄災』が襲来!?」

と、おれは、思ったんだけど。

 テレビを見ながら、リーヌが言った。

「あ? ゴブヒコが映ってるぞ? ドアップで」

 おれが、テレビを見ると。

 そこには、ものすごくスケベそうな、いやらしい表情の、むちゃくちゃブサイクなゴブリンが映っていた。


「いやいや、いくらおれだって、あすこまでひどい顔じゃないっすよ? おれだって、自分の顔くらい、鏡で見たことあるっすけどー。おれの顔は、あんなに、この世の終わりみたいに醜いだけじゃなくて、内面のスケベさ全開の、いやらしーい顔じゃないっす」

と、おれが言うと、即座にホブミが言った。

「鏡にうつった顔は、他の人が見た顔よりきれいに見えるのですー。自分で脳内で美化しているからなのですー」

「えぇ!? あの顔でも、美化されてたの!?」

「実際の先輩は、今、テレビに映っている、あの顔なのですー」

「プッ」

と、プップも同意したから、ほんとうに、おれの顔は、あんなにひどいらしい。

 そして、テレビからは、スケベそうでいやらしい声が流れていた。


~~~

「ムフッ 『大いなる厄災』っすか? ムヒッ 聞いたことはあるっす」

~~~


 ホテルの客は、テレビに映った、おれの顔をみて、叫んでいた。

「いやぁーーーーー! なんて下品な顔ーーーー!」

「ぐはぁーーー! 気色悪すぎるぅーーー!」

「キャァーーーー! いやらしいぃ! いやらしぃーーー!」

 

 おれも、おもわず、みんなといっしょに「いやぁーーー!」と、叫びそうになった。

 あのゴブリン、ブサイクなだけじゃなくて、鼻の下をのばして、目をギラギラさせてるし。……そういえば、インタビューのお姉さんが、むっちりムフムフだったんだっけ。そんでもって、プップがいるからいいと思って、遠慮なーく、はちきれそうなシャツのボタンのあたりを、見ていたんだっけ。


 ちなみに、おれの頭の上にいるはずのプップは、テレビに映っていない。

 つまり、テレビの人は、おれの頭の上のプップを、おれの顔だと思って、そこを映さないようにしてくれたらしい。

 だけど、もちろん、プップの下にある、おれの顔は、バッチリ映っちゃっていて。プップがいないから、テレビを見ている人たちにとっては、おれの顔が、顔として認識されちゃったらしい。


 おれは、テレビを見ながら、トーストを皿において言った。

「いやぁ、あの顔、朝から見るのつらいっすねー。食欲なくなるっす」

「姫様とホブミは、毎日、その状態だったのですー。プップさんが、先輩の頭にのって、カモフラージュしてくれるようになるまではー」

と、ホブミは言っていた。

「プップ様様だなー」

と、おれはオレンジジュースを飲みながら、のんびり感想を言った。

「プッ」


~~~

「あ、でも、大いなる野菜や大いなる白菜じゃないっすよね? ムフゥッ おれ、どれも聞いたことあるんすけど ムフフッ」

 テレビの中のおれが、そこまで言ったところで。とつぜん、テレビの画面が真っ暗になった。

 画面には、「しばらくお待ちください」という文字だけが表示されている。

 数秒後、スタジオの映像に戻った。

 そして、神妙な顔で、アナウンサーが、深々と頭を下げ、ふるえる声で謝罪をした。

「先ほど、不適切な映像が流れてしまいましたことを、深く謝罪いたします。朝食の時間に、あのような見苦しい映像をお見せしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

~~~


「すげぇな。ゴブヒコ。ちょっと映っただけで、すげぇ放送事故になってるぜ?」

と、リーヌはむしろ感心したように言い、

「全国のみなさんに朝から大ダメージですー。ありえないのですー」

と、ホブミが毒づいた。

「おれのせいじゃないって。おれは、ちゃんと、顔はうつさないように、お願いしといたんだから」

 だけど、おれがそう言うとすぐ、

「ププ、プププー」

 プップが、「いや、おまえのせいだ」というように鳴いた。

「ええ? ……まー、たしかにー、おれが、お願いしなかったら、ふつうにプップも映ってるから、まぬけ顔のいやし系モンスター・プップリンが映ってただけだもんな」

「プッ」

「じゃ、やっぱ、おれのせいかー」


 さて、おれが納得してうなずいていた、その頃。テレビでは。

~~~

 オークド博士という、濃い顔のオークが、鼻息荒くコメントをしていた。

「今映った、おそろしく醜いモンスターは、ゴブリンのようじゃが、あんな顔のゴブリンは見たことがない! 新種のゴブリン亜種かもしれんぞ!」

 うさ耳のコメンテーターが、泣き顔でコメントした。

「だったとしても、もう二度と見たくない顔だピエン。いますぐ、絶滅してほしいピエン」

~~~

 

 シャバーは、おれにたずねた。

「おまえは、いつのまに、テレビに出ていたんだ?」

「昨日っす。広場を歩いていたら、頼まれたんす」

「人選をまちがえすぎなのですー。一番映しちゃいけないものをわざわざ映すなんてー」

と、ホブミが、もっともなことを言った。


「つーか、ゴブヒコ、なんで、テレビでムフムフ言ってたんだよ? スケベ顔で」

 リーヌが、フォークでウィンナーをつつきながら、口をとがらせて、おれにたずねた。

 ちなみに、リーヌがつついた皿は、フォークでつつくたびに、バリバリ割れていった。そして、となりに座っているホブミが、表情もかえずに、皿が割れるたびに即座に修復魔法をかけて、リーヌの食器を、きれいに修理していた。


 おれは、正直に答えかけた。

「あ、それは、もう、むっちりパツパツ……」

 とつぜん、プップが、おれの頭の上で叫んだ。

「ププゥ!」

 プップのしかりつけるような鳴き声で、おれは、反射的に、まるでプップに操られたかのように、言いなおした。

「それは、むっちりがっちりガチムチマッスルに、おれもなろうかな、と思って気合をいれてただけっす!」


「そうか? なーんか、女の胸をガン見してそうだったけどな。鼻の下のばして、むっちゃガン見しながら、ムフムフ言ってたみてーだけどな」

 リーヌは、イライラしたようすで、フォークでつきさしたウィンナーを、バリッと、かみちぎった。

 ちなみに、リーヌがもっているフォークは、まるで灼熱の炎で溶かされたみたいに、ぐにゃぐにゃ曲がっていて、ソーセージはこんがりおいしそうに焼けていた。

 今度も、ホブミは、フォークを見ることすらなく、まるで、そうなるのをはじめから知っていたように、修復魔法をかけていた。

「き、気のせいっす。おれは、べつに、第3ボタンと第4ボタンが、はち切れんばかりの……」

「ププゥ!」

と、プップに叱られたので、おれは、かっこよく言いなおした。

「……シャツのボタンとか、マッスルポーズでふっとばしちゃうくらいのマッスル・ゴブリンになろうと思っただけっす」

「筋肉をつけるなら、たんぱく質とカルシウムだ」

と言って、シャバーが、おれの方に、牛乳のボトルをさしだした。

「あんがとっす。おれは、マッチョになるっす」

 ちなみに、おれは、これまで何度も、マッチョになる決心をして、筋トレをはじめようとしたことがあるんだけど、たいてい、3秒であきらめる。腕立て伏せ? 1回もできないし。


 ちなみに、テレビからは、なにごともなかったように、次のニュースが流れていた。

~~~

「熱狂的なファンがいることで知られるアイドルグループ「ネペンチュス」が、昨夜、とつぜん、解散とメンバーのアイドル引退を発表しました。「ネペンチュス」は「食べられちゃうアイドル」として知られており、ライブでファンを捕食するパフォーマンスで知られていました」

 アイドルオタクっぽいファンがテレビに映った。

「捕食されて、粘液に溶かされながら、ネペンチュスの歌を聞く瞬間が最高でした。あの経験がもうできないなんて、悲しすぎます。心に穴があいたような気持ちです。ネペロスで、夜も眠れません」

 ファンのコメントの後、ニュースキャスターは説明した。

「ファンの多くは、オート蘇生アイテムを集めながら、「ネペンチュス」の再活動を待っているとのことです。一方、所属事務所によると、「ネペンチュス」メンバーは、今後、出家して禁欲生活を送る予定だということです」

~~~


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ