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1-14 勇者登場

 魔王はお空のかなたにとんで行ってしまったし、他にやることもないので、おれは魔王の部屋を、くまなく探索してみた。

 玉座の裏には宝箱があったけど、入っていたのは借金の督促状だけだった。

 がっかりにもほどがある。


 おれは督促状を宝箱にもどしながら、リーヌに言った。


「色々と残念な魔王だったっすけど。これでリーヌさんも、おれのレベルあげはあきらめがつくんじゃないっすか?」


「あ? あにいってんだ。あきらめるものか!」


 リーヌは状況を理解していないみたいなので、おれはリーヌにくわしく説明した。


「だって、こんな誰でも超強くなれそうなチート装備をつけても、おれの攻撃力はあがらないんすよ? それに、おれは攻撃力が低いから、リーヌさんに一撃で倒されないようなタフな敵には、おれはダメージを与えられないんす。つまり、リーヌさんが敵を瀕死にとどめても、おれはとどめを刺せないっす。だから、どう考えても、もう、おれを強くする手はないっすよ。今度こそ、つんだっす」


「うむ。やっぱゴブリン語は、わからねーな」


 おれたちがそんな会話をしていたら、突然魔王の間の扉が開いた。

 そして、おれが戦闘に巻き込まれると聞こえる天の声っぽいナレーションが響いた。


    ― なんと、勇者パーティーがあらわれた。 ―


 とつぜん響いた謎のアナウンスが説明してくれた通り、勇者パーティーっぽいのが入ってきた。

 雰囲気イケメンな勇者1人と、3人の美少女だ。

 いわゆる、チーレム勇者……おれと真逆のポジションにいる奴だ。


 勇者は勇者っぽいセリフを吐いた。


「ここにいたか大魔王! お前を倒し、おれ様がこの世界に平和をとりもどす!」


 リーヌは天井の隅を見ながら、ぶっきらぼうに言った。


「魔王なんていねぇぞ」


「魔王さんなら、そこの天井の穴から飛んでいったっすよ」


 おれは親切にも、いけすかない勇者に教えてあげた。

 なのに、勇者は不敵に笑った。


「ふふふふふ。とぼけても無駄だ! おれ様には、すべてわかっているのだ。伝説の大魔王リーヌよ!」


 どうやら、勇者の狙いはリーヌだったようだ。


「……アタイはテイマーだ」


 リーヌは白々しく言った。

 勇者は、びしっとリーヌをゆびさした。


「とぼけても無駄だ! 貴様の悪行はさんざん聞いたぞ。残虐非道の大魔王リーヌめ。貴様はかわいいものを売っていると難癖をつけては店を破壊し、道行く冒険者を脅しては、見ぐるみはがし、なんと、パンツすら奪い取る非道さ! そして、可憐な受付嬢にはひひひひ卑猥なセクハラ行為を行い、ぬるぬるのべたべたにしたと! 悪行の限りをつくす残虐非道な魔王め!」


 おれはあきれながらリーヌに言った。


「うわー、ばれてるっす。リーヌさんの日頃の行いが。残念ながら全部、実際にやってるっすよ? こうやってきくと、リーヌさんは普通に悪役っす」


 リーヌは口をとがらせた。


「うるせー。悪気はなかったんだよ!」


 勇者は剣をさやから抜き、叫んだ。


「おまえは今日で終わりだ。観念しろ! 大魔王リーヌ!」


 戦闘開始のアナウンスが響いた。


   ― 勇者パーティーは、大魔王リーヌに襲いかかった。―


「アタイはテイマーだ!」


 リーヌはそう叫び返した。すると、その叫び声が竜巻になって、勇者パーティーを襲った。


   ― 大魔王リーヌの叫び声! ― 

   ― 戦士いいいいい、魔導士ううううう、踊り子えええええ、は吹き飛んだ。― 


 3人の美少女は吹き飛ばされ、さっき魔王が消えていった天井の穴から空に消えていった。

 ただの叫び声が吹き飛ばし攻撃になるとは、さすがリーヌだ。


 それはそうと。魔王の間の大きな柱のかげから戦闘を見守っていたおれは、このどこからか響くナレーションに対し、つっこんだ。


「勇者パーティの名前ひどすぎ!」


 すると、どこからか響くナレーションと同じ声が、おれの耳元でささやいた。


「仕方ないじゃない。あの人たち、名乗ってくれなかったんだから」


 その声でおれは気がついた。


「あ、青い妖精!? おまえだったのか! 伝統ある和製RPG風のナレーションをいれていたのは!」


 おれの近くで青い小さな光がふらふらと飛んでいた。青い妖精は、不機嫌な声で言った。


「他に誰がいるのよ」


 おれは青い妖精の不機嫌さに、ちょっととまどった。


「いや、よくわからないけど。天の声とか? そういうのって、なんかお約束なんじゃ……?」


 青い妖精はぶつぶつと低い声で言った。


「そんなお約束ないわ。何から何までやらせてくれちゃって。残業手当も出ないし、就業規則もないんだから。ほんとブラックなんだけど。やってらんないわ」



「おれに文句を言われても。じゃあ、とにかく青い妖精、あいつらの名前がわからないからって、適当に『勇者あああああ』とか名前をつけてアナウンスしてたわけ?」


「そうよ。当然じゃない」


 なにが当然なんだかわからないけど。青い妖精は過労のせいか、こわいほど不機嫌なので、おれはリーヌと勇者一行の戦闘の方へ注意をもどした。

 勇者一行は、もう勇者しかいない。


「勇者だけは吹き飛ばなかったな。あのチャラい勇者、吹き飛ばしは無効なのか」


 勇者は一人になっても動じず不敵に笑った。


「フッフッフ。大魔王め。これで勝ったと思うなよ。しょせんあいつらはハーレム要員。戦力としてカウントしていない。おまえにはこれから勇者のおそろしさを思い知らせてやろう。……これを見ろ」


 勇者は大きな袋をとりだした。袋の中で何かが動いていて、袋の口からは、ロープが2本出ていた。

 勇者が袋の口を開き、ロープを引っ張るようにして、袋の中にいたものを取り出した。

 でてきたのは、ロープを首につながれた薄汚れたみすぼらしい犬と猫だった。

 おれは叫んだ。


「あれは……たぶんノライヌ1号とノラネコ1世っす!?」


 おれがノライヌ1号とかノラネコ1世と勝手に呼んでいる、うちの庭によく来ている野良の犬と猫だった。

 おれが庭で洗濯している時によくすすぎ用の水を飲んでる犬と、おれが洗濯物を取り入れている時に、よくカゴの中にいれた洗ったばかりの服の上で寝ている猫だ。


 ノライヌ1号のしっぽはすっかり後ろ脚の間にはさまってしまっている。

 ノラネコ1世は勇者に切りつけられたのか、毛に赤い血がついている。ケガをしているようだ。

 勇者は笑いながら言った。


「大魔王リーヌよ。おまえの狂暴なペットの魔狼と虎はこの通りだ」


 おれは叫んだ。


「ひどいっす。狼でも虎でもなく、ただの犬と猫で、しかもうちのペットじゃなくて、ただ庭に入りこんでるだけの野良なのに! しかもノライヌ1号はいつもぼーっとしている超おとなしい犬で、ノラネコ1世はすぐすり寄ってくる撫でられたがりだから、誰にでも簡単に捕まえられちゃう野良たちなのに!」


 リーヌは怒りに燃え、こぶしをにぎり前後へステップをふんだ。


「モフモフをいじめるやつは、許さねぇ。行くぜ!」


 勇者は不敵な笑みをうかべ、大きな盾をかかげた。


 リーヌはおれの目ではとらえきれない、高速のジャブを勇者にみまった。

 青い妖精のアナウンスが聞こえた。


『大魔王リーヌのジャブ。勇者あああああは、大魔王リーヌの攻撃を盾ではね返した。大魔王リーヌに99999999のダメージ』


 妖精のアナウンスに、おれは耳を疑った。

 おれはてっきり、リーヌのジャブ一発で勇者が倒され、戦闘終了、おいおいまたかよ、な展開になるものだと思っていた。


 だけど、床に片膝をついたのはリーヌの方だった。

 おれにはリーヌのステータスを見ることはできないけど、苦し気に肩で息をしているリーヌは、まちがいなく、大きなダメージを受けている。


「ふふふふふふ! はーっははははは!」


 勇者はあざ笑った。

 おれは近くを飛んでいる青い妖精にたずねた。


「青い妖精。さっきの言い間違いじゃないの?」


「んーん。ダメージは、まちがいなく、九千九百九十九万九千九百九十九だったわよ」


「じゃあ、ほんとうにリーヌは九千九百九十九万九千九百九十九のダメージを受けたの?」


 おそろしい数字のダメージだ。でも、リーヌは、まだ生きている。いったいリーヌの体力はどれだけあるのだろう。

 いや、そんなことより、あの勇者はどうやってそれだけのダメージを出したんだ? 

 どこにでもいそうなチャラい勇者にしか見えないけど。

 あいつは、そんな、伝説の大魔王をしのぐ神話級の強さをもつ勇者なのか?


 おれの疑問は、悦に入った勇者自らが説明してくれた。


「見たか、大魔王リーヌよ。おれ様のこの盾は、すべての攻撃をはね返すのだ。しかも、おれが受けたであろうダメージを、おれの体力上限無視で!」


 おれは柱のかげでつぶやいた。


「えーっと、つまり、リーヌは勇者に、九千九百九十九万九千九百九十九……これ、ほんと言いづらっ! もう1億でいいじゃん! なんだよ、この足りない1。 ともかく、約1億のダメージを与えるはずだったから、その分のダメージをリーヌが受けたってことか」


「その通りだ。柱のかげのゴブリン」


 勇者は耳ざとく、おれのつぶやきを聞いていた。

 そして勇者は、自慢げに語りだした。


「おれ様はこの盾を使いこなすために、極限まで自分の防御力を下げているのだ。どんな魔物も、おれに攻撃をすれば、たちどころに大ダメージを受けるようにな!」


「たしかにゲームでは、おれもそういうことをやるかもしれないけど。リアルに存在すると、なんか勇者として、むちゃくちゃかっこ悪いな、それ」


 おれが正直な感想を言うと、勇者は怒りだした。


「うるさい! ゴブリンのくせに!」


 そこで、おれはある重大なことに気が付いた。

 おれがあの盾をもったら最強だ。おれの防御力は、はじめから限りなく低いはずだから。


 勇者は解説を続けた。


「ここまでくるのは非常に大変だった。この盾の装備レベルは65。わかるか? そこまでレベルを上げ、維持しながら、おれは、自らの防御力を0にする呪いの防具を装備している。日々、常に少しずつHPを削られる苦痛を味わいながら」


 おれが勇者と会話をしている間に、リーヌは少し回復したようだった。

 リーヌはゆっくりと立ち上がった。

 リーヌはそのままふたたび勇者を攻撃しようとしている。

 おれはリーヌをとめようと、叫んだ。


「だめっす! リーヌさん。攻撃しちゃだめっす! またダメージをはね返されるっす」


 おれの声はリーヌの耳には届かなかった。リーヌは叫びながら、勇者を攻撃した。

 青い妖精の無慈悲なアナウンスが響いた。


『勇者あああああは、大魔王リーヌの攻撃をはね返した。大魔王リーヌに99999999のダメージ』


「リーヌさん!」


 おれの叫びは魔王の間にむなしく響き、約1億のダメージを受けたリーヌは、くずれ落ちるように倒れた。


[モンスター図鑑]


11 ワンワン:見た目は犬。基本は犬。でも、犬よりのんびりぼーっとしていて、ちょっとおばか。人懐っこいので犬と間違われてその辺で飼われていることが多い。


34 ミャオ:???

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