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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
139/170

4-78 フロル酒場

 フロル酒場の店員さん達は、ロックンフラワーによく似たクックフラワーというモンスターだった。

 クックフラワーが、ロックンフラワーと違うところは、ギターをもっていないとこくらいで、そっくりだ。というか、ロックンフラワーがギターをはずして、調理器具をもったらクックフラワーなんじゃないかと、おれは、思うんだけど。

 ホブミいわく。

「ロックンフラワーがクックフラワーに進化することも、クックフラワーがロックンフラワーに進化することもあるらしいですー」

「それって、やっぱ、同じモンスターなんじゃ?」

と、おれが言うと、ホブミは言った。

「でもクックフラワーはシェフラワーやバーテンフラワーに進化するほうが多いのですー。ほら、あすこでカクテルを作っているのは、バーテンフラワーですー」

 進化というか、職業を変えているだけに見えるんだけど……。


 フロル酒場の店内では、ロックンフラワーのバンドが演奏している。

 ちなみに、リーヌがハナコとなづけたロックンフラワーは、店内に入ると、すっかり、他のフラワーモンスター達になじんでしまって、おれには、もう、どれがハナコだったのか、わからない。

 ロックンフラワーもクックフラワーも、色んな色の花があって、種族(職業)と色は無関係なんだけど。ハナコって何色だったっけなぁ……。


 ところで、ここはフロル酒場という名前のお店だから、いちおう酒場らしい。

 おれはアルコールに弱すぎる体質なので、お酒は飲まない。でも、この酒場では、ぜんぜん問題なかった。

 だって、なぜか、この酒場の一番の売りは、タピオカドリンクと健康茶らしいのだ。

 酒場なのに。

 ちなみに、タピオカは、お酒をふくむ、あらゆるドリンクに、追加可能らしい。

 リーヌが言ってた、「酒場でタピる」って、こういうことだったんだなー。


 酒場に入ると、あっという間に、シャバーは、色っぽいお姉さん達に囲まれてしまい、今もシャバーの周りには3、4人の派手め女子が、はべっている。

 あいている席があまりなかったので、リーヌとおれ達は、シャバーからお金だけもらって、ちょっと離れた場所にすわることになった。

 

 さて、カウンターに注文しに行こうと酒場の中を歩いていた時。おれは、つまづいて、かるく転んだ。

「いてっ」

「プッ」

「キモッ!」

 誰かの荷物にでも、つまずいたのかと思ったら。

 酒場の床では、タピオカ入り日本酒を横においたまま、クリ人間と酔っぱらったサメが、ひっくりかえって寝ていた。

 おれが誘拐される前に会った、ヒックリとジンペエとか言う、ふたりだ。あの時からかなり酔っぱらっていたけど、もう完全に酔いつぶれたらしい。

 ヒックリとジンペエは、「こりゃ、ヒックリ」とか、「シャシャッシャーッ。シャーッけのオーシャーッン!」とか、寝言を言っている。

 そんなヒックリとノンベエザメを、床におりたキモノキが、「キモッ キモッ」と言いながら、つついていた。

 そして、いつのまにか、おれのカバンから外に出ていたアナイリードッグが、

「キャンッ はずかしっ。こんなところで、ねてるなんて、はずかしっ。キャンッ」

と、言っていた。


 おれは、酔っぱらいモンスター達と、キモノキ、アナイリードッグのことは放置して、ドリンクと料理を注文しにいった。

 さすが、タピオカドリンクは種類豊富だった。

 タピオカドリンクって、おれが人間だったあっちの世界でだいぶ前から流行っていたけど、もっぱら引きこもっていたおれは、一度も飲んだことなかったんだよな。

 おれが本屋でバイトをしていたショッピングセンターにも、タピオカドリンクを売っている店が、あったんだけど。なんか、いつもキャピキャピした女子が並んでて、近づきがたかったからな。

 まさか、異世界で初タピることになるとは。


 リーヌは、「黄色は元気の源・フルーツミックスタピオカジュース」と「キモいけど素敵なキモステーキ」を選らんだ。

 おれは、さんざん迷ったあげく、「とっても健康に良いよ・薬草ミルクタピオカティー」にした。店員さんのクックフラワーが、草の手で、それをすすめてくれたから。

 あ、ちなみに、クックフラワーは、言葉はいっさいしゃべらない。身振り手振りだけだ。

 つまり、ここの店員さんは、一切しゃべらないんだけど。

 メニュー表を指さしたり金額を書いてくれたりしてくれるから、困ることはないし、店は繁盛している。

 おれは、ドリンクの他に、「これが肝心・キモ炒め」も注文した。

 ちなみに、ホブミは、カクテルを注文していた。

 バーカウンターでカクテルを作るバーテンフラワーの動きが、とても、かっこよかった。

 

 さて、おれが席について、緑色のタピオカティーを飲もうとすると。

「あいつ、首から飲むのか!?」

と、隣の席の人達が、ざわついていた。

(いや、おれの顔は首じゃないから!)

と、おれは心の中でつっこんだんだけど。

 おれが、飲もうとした瞬間。

 ふだんは、おれの食べ物に興味を示さないプップが突然、

「プッププー!」

と、おれのタピオカティーにくちばしをつっこんできた。

 なので、隣の席の人達は、「なんだ、やっぱり口から飲むのか」って、納得してしまった。


「なんで、プップ、おれのタピオカティーを! おれの初タピを!」

と、おれが文句を言っても、プップは、

「ププップ ププップ」

と、忙しそうに、タピオカティーをつついている。おれが、ドリンクに口をつけるすきがない。

「なんで? プップ、いつもは、なにも食べないのにぃ~」

と、おれが嘆いていると、ホブミが明るく説明してくれた。

「プップさんは薬草や薬効のある実が主食なのですー。先輩が注文したドリンクには色んな薬草や体にいいものが入ってるから、プップさん用ドリンクみたいなものなのですー。あきらめてプップさんに献上しろですー」

「しかたないなー。これはプップにあげるかー。……というわけで、プリケロさん、おれにマンゴータピオカジュースをわけてくれっす。おれ、タピオカドリンクを飲んでみたいんす」

 おれは、リーヌにねだった。リーヌは、ズズッとジュースを飲むと、

「おう。いいぞ。もうねーけどな」

と言って、空の容器を、おれの前にさしだした。

「『いいぞ』じゃないっす。空じゃないっすか。おれの、初タピ~」


 おれが嘆いていると、ホブミが言った。

「リーヌ様。新しいドリンクを注文してきますですー。次は、何にしますですかー?」

「じゃ、今度はアサイージュース、タピオカ増量でたのむぜ」

とリーヌは注文し、おれも頼んだ。

「じゃ、おれは、ココアタピオカドリンクで」

「先輩の分は、お金をもらうですー」

「えー? でも、おれ、一文無しだから、プリケロさんから、もらわないといけないっすけど。でも、プリケロさんも一文無しだから……」

 ちなみに、シャバーがくれた今日のおやつ代+食事代は、すでに全部使ってしまった。

「じゃあ、明日の食事代から払えなのですー」

 ホブミは無情にそう言って、ドリンクを注文しに、バーのカウンターに向かった。

 

 さて、タピオカティーを飲んだ後、プップは、おれの頭を離れて、ぷかぷかと浮き出した。

 ホブミは、注文に行ったまま、なかなか帰ってこないので、リーヌとおれは、二人きりになった。

 おれは、ちょっと酒場の空気にふくまれるアルコールで酔っていたんだろう。なにげなく、たずねてしまった。

「そういえば、占い師の婆さんが言ってた、リーヌさんが好きな人って、ひとりはシャバーっすよね? でも、他のふたりって誰なんすか?」

 リーヌは険しい目つきで、おれの顔をじろじろと見た。

「な、なんすか?」

 リーヌは、口をとがらせながら、しかめっ面で言った。

「いつ見ても、ひでぇ顔だな。ブサイクすぎて、何考えてんだか、表情がまったく読みとれねぇ」

「えー? でも、じゃ、表情がよみとれないなら、おれ、ポーカーとかやったら強いかも?」

と、おれが言ってると、リーヌはうなづきながら言った。

「なるほど。ポーカーフェイスでポカすんだな」


 それから、リーヌは、椅子にもたれて、おぎょうぎ悪く、ギッタンバッタンやりながら、言った。

「つーか、占いなんて、本気にすんなよ。べつに、好きなやつなんてひとりもいねーよ」

「そうなんすか? ま、占いっすもんね。当たるも八卦ってやつっすもんね」

と、おれが、ちょっと、ほっとしながら言うと、リーヌは、天井を見上げたまま、言った。

「ああ。あんな占い、ちっとも、あたってねぇ。ぜんっぜん、はずれだ」

「やっぱ、そんなもんっすよね」


 そこで、リーヌは、椅子を斜めにしたまま停止して、おれを斜めに見下ろすように見ながら、言った。

「だけど、もし、アタイがシャバーを好きだったら、おまえは、どうすんだ?」

「え?」

 リーヌは、もういちど、妙に真剣に、おれにたずねた。

「おまえは、どう思うんだ?」


「リーヌさんが、シャバーを好きだったら?」

 その時、とつぜん、おれに、ひつじくんの声が聞こえた。

『正直に言って。ゴブヒコさん。きっと、正直に言えば、ぜんぶうまくいくから』

「……それは、おれは、その、」

『がんばって。どんなに思っていても、ちゃんと言わなきゃ、伝わらないんだよ』

 おれにだけ聞こえるひつじくんの声が、響いた。

 店内の騒音やロックンフラワーのミュージックは、おれの耳には、まるで聞こえなくなっていた。

「おれは、その、おれは、リーヌさんと、ずっといっしょにいたいから……」

 リーヌのカエルな丸い目は、おれをじっと見ていた。

「だから、その…………シャバーと結婚しても、おれのことは、家においといてほしいなぁって」


「ププゥッ!?」

 なぜか上空で、プップの、びっくりしたような鳴き声が響いた。……プップ、どうしたんだろ?

 そして、リーヌの目が、なぜか怒ったみたいに三角になっている。

 リーヌはぷいっと横をむくと、

「知るか! 勝手にしやがれ」

と、言い捨て、不機嫌そうに、ホブミがいる、カウンターの方へ歩いて行ってしまった。


 ひとり残されたおれは、当惑し、ひつじくんに話しかけた。

「ひつじくん、これは、どう受け取ったらいいんだい?」

『ゴブヒコさん、やっちゃったね』

「おれ、やっちゃったの?」

『そうだよ。これじゃ、だめだよ』

「えー、そう? おれの全力だったんだけど?」

 

 ひつじくんは、ちょっとおれを責めるような調子で言った。

『なんで、「シャバーと結婚しても」なんて言っちゃったの?』 

 おれは説明しておいた。

「だって、リーヌがシャバーを好きだったらって話だからだよ。リーヌのことだから、好きだったら、きっと、むりやりにでも、結婚しようとするだろ?」

『そうかもしれないけど、そういう問題じゃなかったんだよ……』

「え? 問題まちがい? おれ、テストでもよくやるんだよなぁ。問題の意味まちがえるの」


 ひつじくんは、小さな子に言いきかせるように、おれに言った。

『さっきのじゃ、ゴブヒコさんは、リーヌちゃんがけっこんしても気にしないから、どうぞけっこんしてください、みたいに聞こえるよ?』

「でも、リーヌがシャバーと結婚するんだったら、おれは、なんか、さびしいけど、なんかちょっと、いやだけど、でも、しあわせを願うことしかできないだろ? だったら、結婚しても、友達でいたいじゃん?」

『リーヌちゃんは、ゴブヒコさんが、どう思うのか、知りたかったんだよ。いやだって、言えばよかったのに。せめて、さびしいって、言ってれば……』

 ひつじくんの声が、なんだか悲愴に聞こえる。気のせいだろうけど。だって、そんな、悲しいことは起こってないもんな。

『もう時間がないのに。じゃあね。おやすみ』

 なんだか、すっかり元気をなくしたようすで、ひつじくんは、おれに、力なく別れをつげた。

「あれ? ひつじくん?」

 ひつじくんは、いなくなってしまった。

 おれは、酒場でひとり、放置された。

 いつのまにか、さっきまで、ちょっとロマンチックなミュージックを演奏していたロックンフラワーたちが、悲しい失恋のバラードっぽい音楽を、かなでていた。


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