4-77 リベンジ
さて、戦闘終了後、おれ達は勇者候補生たちが目を覚ます前にすみやかに勇者学園を去ることにしたんだけど。
その前に。
「姫様。この極悪人の処分を、ホブミにまかせてほしいのですー」
気絶させた極悪学園長を戦闘機の下から引きずりだしながら、ホブミは言った。
「おう。好きにしろ」
と、リーヌは、停止したヤッダーワーンの、巨大とうもろこしをもぎ取りながら、言った。
「ではではー。ホブミはちょっと、行くところがあるので、失礼するですー。後でヒガシャ町でお会いしましょーなのですー」
ホブミは、気絶状態の学園長を連れ去り、転移魔法で、どこかへ去っていった。
それから、リーヌは、ヤッダーワーンの巨大トウモロコシをかじってみて、
「なんじゃこりゃ! 食えねぇ~ぞ」
と叫んだ。
シャバーが、解説してくれた。
「これは、トウモロコシ型の武器だ。ヤッダーワーンは、こいつを使って、こん棒のようにたたいたり、槍のようにつきさすんだ。おまけに、先端からは、レーザービームが撃ちだされる。これも、オイコット製の兵器なんだろう」
「むちゃくちゃ、ぶっそうな、トウモロコシっすね。傘より、こっちの方が、断然、危ないっす」
と、おれが感想を言った後。
リーヌは、
「あんだ。くえねーのか」
と言って、トウモロコシを放り投げたんだけど。
その巨大トウモロコシがミサイルのように飛んでいって、体育館の壁をつきやぶり、その隣にあった建物につきささったところで、爆発して、建物が一棟、崩壊した。
なんか、ベッドとか、机の残骸が、くずれ落ちていった……。あの建物、たぶん、勇者学園の寮だったんだろうな。
「あーあ。この期におよんで、まだ壊すんすか。さ、プリケロさん。これ以上破壊して、おれたちが生き埋めになる前に、とっとと、帰るっす」
「おう。酒場でタピるぞ」
と、リーヌは元気よく言って、ロックンフラワーがノリノリな音楽をかなでた。
「酒場でタピる???」
とか、言いながら、おれ達は、すみやかに、体育館を出て、ヒガシャに歩いて戻った。
ちなみに、今回の帰り道は、1回も、モンスターと遭遇しなかった。
やっぱり、リーヌのモンスター避け効果はすごいな。どんだけ、モンスターに嫌われてんだろ。
ヒガシャの町に入ってすぐ。
シロは、おれ達に告げた。
「プップリン殿。美しきプリンセス。ここで、さらばだ。俺は、修行の旅に出なければいけない。倒さねばならぬ宿敵がいるゆえ」
「ぬわにぃ!?」
と、実は、シロが倒さねばならぬ宿敵な、リーヌが叫んだ。
「シロさんも、酒場に行かないっすか? てか、シャバーと修行をするんじゃなかったんすか?」
「いや、俺は、思い知った。マスターに手合わせを願うのは、俺には、まだ早い。今回は、良い勉強をさせてもらった。俺は、まだまだ未熟だ」
と、シロは神妙な面持ちで言った。
おれは言った。
「いやいや。シロさん、むちゃくちゃ、強かったじゃないっすか」
シロが答える前に、モフモフ至上主義者のリーヌが、言った。
「おう。モフモフは最強だからな。なんてったって、モフモフはモッフモフだからな。ちょっと、モフモフをさわらせ……」
「絶対に、だめっす」
おれは、シロとリーヌの間に、わってはいった。
リーヌが「モフる」を発動させた瞬間、正体がバレるからな。せっかく、これだけがんばって、正体がバレないようにしたんだから、最後まで隠し通さないと。
「マスター。これを」
シロは、シャバーに酒の入ったひょうたんを渡した。
「いいのか? 義流亀酒を、ただでもらっちまって?」
と、シャバーは、シロから幻の酒を受け取りながら、言った。
「もとより、これは、手土産にもってきたもの。マスター。いずれまた、俺に修行をつけてほしい。だが、今は、まだ、その時ではない。俺は、美しきプリンセスの戦いを見て、悟った。俺は、小手先の技術ではなく、基礎から鍛えなおさないといけないと」
それを聞いて、おれは悟った。
(シロさん。これは、迷走していく……)
「シロさん。この方とくらべちゃ、だめっす。いくら鍛えても、この方みたいにはなれないっす。そもそも、この方、修行とかしてないし。ふだんは、一日中ぐうたらしてるだけだし」
そこまで、言ってから、おれは、ふと、今までずっと感じていた違和感の正体に、気がついた。
「……てか、美しいんすか? このプリンセス?」
シロは、ずっと、カエルなリーヌのことを、麗し、とか、美し、とかいう言葉をつけてよんでいるんだけど。
シロは礼儀正しいから、お世辞でつけているんだと思ってたんだけど。ひょっとして……。
シロは、真剣な表情でうなずいた。
「無論だ。こんなに美しく強いプリンセスがいるとは。カエル王国とはすばらしい国だな。では、俺は、これで失礼……」
どうやら、真剣に美しいと思っているらしい。
「ちょっっと、待ってくれっす! シロさん。最後にひとつだけ、聞いておきたいことが。ちょっと、コボルトの美醜感覚をたしかめたいんす。シロさんから見て、この世で一番醜いのって誰っすか?」
シロは答えた。
「俺がこれまでに見た中で、最も醜いのは、サイゴノ町で見た……」
そこで、シロがいったん、言葉をくぎったので、おれは、
「サイゴノ町で見た?」
と、息をのみながら、たずね、
「そりゃ、ゴブヒコだろ」
と、リーヌが言った。
たしかに、おれも、この世界で見た一番醜い者はだれかって、聞かれたら、「サイゴノ町のゴブヒコっす」と答えるかもしれないけど。
といっても、この世界には、おれよりもっと気色悪いモンスターはいる。
でも、人型の中では、おれ、だんとつにブサイクだからな。この世界で一番醜い者と言われて、パッと思いつくのは、おれの顔だ。
だけど、シロの答えは、こうだった。
「……大魔王リーヌと呼ばれる女だ。あれほど醜く恐ろしい者は、見たことがない」
(やっぱり!)
おれは、おどろきながら、納得した。
一方、リーヌは、びっくりしたように言った。
「な、なに? サイゴノ町にゴブヒコよりブサイクなやつがいるのか!? ダイマオリーヌっつーのか。すげぇな」
リーヌは、何度聞いても、大魔王リーヌが自分のことだとは、気がつかないらしい。
それはそうと、シロがリーヌと戦った時、おれも、ちゃんと、シロに会っている。
つまり、シロの美的感覚では、リーヌの言う通り、超絶ブサイクなおれの顔より、美女なはずのリーヌ(人間)の方が醜いってことだ。
そして、ふつうの人間の感覚では、ブサカワイイとかキモカワイイって感じになるはずの、カエルなリーヌの方が断然、美しい……てことは、シロの美的感覚は、みごとに、美醜逆転だ!
それにしても、なんだか、おれの見た目がほめられた気がするぞ。
「ありがとうっす。シロさん。おれも、いい勉強になったというか、自信がついた気がするっす」
おれ、ひょっとしたら、シロから見たら、かなりのイケメンなのかも。
実は、サイゴノ町で会ったとき、シロは、「世界一醜い大魔王が超絶イケメンなゴブリンを連れている」って思ってたのかも。
コボルトの町に行ったら、おれ、モテモテかもー。犬耳美少女たちにモテモテ……ムフフフ。
リーヌが、ギロリと、おれをにらんだので、おれは、シロに手を振った。
「じゃ、シロさん。今日は、なんども助けてくれて、ありがとうっす。バイバイっす」
「ああ。さらばだ。プップリン殿。美しきプリンセス。マスター。俺は、これで失礼する」
こうして、モフモフ犬侍は、去って行った。
ちなみに、リーヌは、犬侍の後ろ姿を見ながら、
「モフモフゥ~~。モフモフゥ~~」
と、かなり本気で悲しんで、変な鳴き声みたいな声を出していた。ある意味、シロって、すでに、だんぜん、リーヌに勝っているような……。
リーヌの鳴き声を聞いたプップが、
「ププッ」
と、笑ったみたいに鳴き、
「キモッ キモッ」
と、キモノキがゆれ、
「キャンッ 後ろ姿も、なんて犬らしい方。キャンッ はずかしっ」
という声が、おれのカバンの中から聞こえた。
そして、ロックンフラワーが、夕陽の似合う音楽を奏でながら、シロにむかって、草の手を振っていた。
シロと別れたおれ達は、フロル酒場にむかって、歩き出した。
町の中をちょっと進んだところで、ホブミがおれ達に合流した。
「ただいまなのですー」
「ホブミ、意外と早かったなー。でも、ホブミは魔法で一瞬で移動できるんだから、当たり前か。どこ行ってたんだ?」
と、おれがたずねると、ホブミは答えた。
「シャドウ・プリズンというとこなのですー。色んなトラップと拷問器具がある館なのですー。二度と出てこられないと有名な館なのですー。ホブミは、元・学園長のために、豪華な『木馬の無限コンボコース』を注文してあげたのですー。死ぬこともできずに、永遠に拷問の無限コンボが続くのですー」
おれは思わず、
「ギャーーー! 痛い! 痛い! 想像するだけで、気絶しそう!」
と、叫んでしまった。
この賢者、ダークサイドすぎる!
(あれ、でも……)
おれは、そこで、ふと気がついた。
(あの変態勇者って、たしか、Mに目覚めし勇者だったよなぁー)
もう、だいぶ前のことで、忘れかけてたけど。
たしか、あの勇者は、ヤヴァーい呪いの装備のせいで、心身の苦痛がたまらなーいとか言っていた気がする。
てことは、拷問無限コンボコースとか、あいつにとっては、ごほうびでしかないんじゃ……。
ま、いっか。ホブミは満足しているみたいだし。
二度と出てこられないなら、あいつも、もう悪いことはできないしな。
めでたし。めでたし。