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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-76 大乱闘

 極悪学園長は不敵に笑った。

「フフフ。むだだ。あの部分の壁は、城塞都市の城壁建造技術によって1億のダメージにも耐えられるように作られているのだからな。知っているか? この世界のダメージ上限は九千九百九十九万九千九百九十九。もちろん、そんなダメージを出すことは、通常不可能だがな。だが、念には念をいれて、あの機械室の壁は、1億のダメージに耐え、かつ瞬時に損傷部分を回復するという、非常に貴重で高価ですばらしい素材を使っているのだ!」

「キモッ!」

 キモノキに続き、おれも、あきれかえって、つぶやいた。

「体育館の壁に、そんな高価な素材をつかってんの? ふだんは、バスケットボールとかしか、ぶつからない場所だろ? すんごい無駄づかいをしてるような……」

「こんなゲスのために、オイコットの税金を注ぎこんでいるとはー。オイコットの政治家のおバカさかげんにもあきれるのですー」

と、ホブミも毒づいた。


 さて、リーヌは、当然のように、勇者のセリフもおれ達の感想も聞いていなかった。

 攻撃目標を理解したリーヌは、すぐさま、攻撃する気でいた。

「よっしゃー! 行くぜ。ケロケロケロケロ……」

 ロックンフラワーが、リーヌの声にあわせて、エキサイティングなBGMを奏でた。

 リーヌは、一度、深くしゃがみこんだ。

 そして、ものすごい勢いでジャンプした。


「ケロケットパーンチ!!!」


 リーヌは、舞台横の体育館のかべにむかって、一直線に飛んでいった。

 片手を突き上げたまま、ロケットみたいに。

「自分がロケットになるロケットパンチっすか? ロケットパンチってふつう、手の部分がとれて飛んでいく技っすけど?」

と、おれは、つっこんだけど。リーヌはすでに飛んでいった後だったし、誰もそんな細かいこと、気にしていなかった。


 絶対に破壊できないはずの壁に向かって、リーヌはカエルロケットのように飛んでいった。

 そして、猛烈な音がして、体育館の一角がふきとび、穴が開き、空が見えた。

 リーヌは、あっさり、この世界のダメージ上限を突破して、壁を破壊してしまったらしい。

「な、なにぃ!? いったい、どうやって!?」

と、学園長は叫んでいた。

 おれもふしぎに思ったけど、スルーすることにした。だって、リーヌだし。

 

 そんなことより、ロケットのように飛んでいったリーヌは、お空のかなた、どっか遠くに飛んでいってしまったらしく、姿が見えない。

 ロックンフラワーが、破れた天井から見える空に、バイバイと草の手をふっている。

 おれは、なにもない青空を見上げて、十秒数えて、あきらめて、つぶやいた。

「あーあ。プリケロさん。やっと見つけたと思ったら、また、いなくなっちゃったっす」

 今度は、どうやって、探せばいいんだろ……。

 さすがに、雲の上の王国とか、宇宙とかまでは、行ってない……といいんだけど。なにせ、リーヌだからな。どこまで飛んでいっちゃったか、わかったもんじゃない。


 さて、リーヌはいなくなっちゃったけど、体育館の中の戦闘は続いている。

「くっ、勇者候補生たちよ、おれ様のまわりに集まれ!」

と、極悪学園長が、体育館中に散らばっている生徒達に指示を出した。

 ダメージ転換装置が壊れたから、今度は、ただの人間の盾をつくろうとしているらしい。

 勇者候補生たちは、素直に、その指示に従おうとした。

 だけど。

 ひとり、またひとりと、勇者学園の生徒たちは体育館の床に倒れていく。

 ロックンフラワーが、子守歌みたいな、もう、いっこくも早く家に帰って布団にもぐって寝たくなるような音楽を奏でている。

 でも、勇者候補生たちが倒れているのは、ロックンフラワーの効果じゃなさそうだ。

 ホブミが、なにか、呪文のようなものをつぶやいている。

 そして、ホブミの杖から、もやもやしたものが体育館中に拡散している。どうやら、ホブミが、広範囲に効果のある睡眠魔法で攻撃中らしい。

 ロックンフラワーは、そのアシストをしているっぽい。

 小さな子ども達はもちろん、老若男女の勇者候補生たち全員が、どんどんと、眠りに落ちていく。


 学園長は叫んだ。

「暗黒賢者お得意の状態異常魔法、どんな不眠症の人間ですら瞬時にぐっすり眠れてしまう効果絶大睡眠魔法か! だが、こういうこともあろうかと、暗黒賢者対策に、状態異常魔法無効メンバーによる回復班をそろえてあるのだ! さぁ、回復しろ!」

 回復班らしき勇者候補生たちが、アイテムをとりだしたり、回復魔法を唱えはじめた。

 だけど、その時。

 体育館が、大きく揺れた。


 リーヌの攻撃でヒビが入っていた体育館の壁から、突然、トウモロコシが突きでた!

 そして、壁の向こう側から、大音量で響く声。


≪不審者がいたから、傘でつつこうと思ったら、傘じゃなくてトウモロコシだったわ。ヤッダーワーン!≫


「げっ、こんな時に、ヤッダーワーン!? てか、いくら不審者でも、傘でつついちゃだめだろ! 傘はけっこう、危ないんだぞ!」

と、おれが注意をしていると、今度は、体育館の壁がふきとんで、買い物袋をぶんまわしているヤッダーワーンがあらわれた。

 と同時に、シャバーが、体育館の中にふっとんできた。

 シャバーは、体育館の向こう側の壁までふきとばされて、床に落っこちた。

 ヤッダーワーンは、シャバーを追いかけるように、体育館に侵入しようとしながら、大音量で変なセリフを流し続けている。


≪ヤッダー。ヤッダー。もうヤッダーワーン。ほら、アレね、アレなのよ、アレ。ほら、アレ。会話がアレばっかりで、アレが何かでてこないのよ。もうヤッダーワーン!≫


≪ヤッダー。ヤッダー。もうヤッダーワーン。忘れないように買い物メモを書いたのに、メモを忘れてきちゃった。ってことも忘れて、家に帰ってからメモに気づいたのよ。もうヤッダーワーン!≫


「あいかわらず、けっこう、ハイレベルな忘れっぷりだよな~。ちょっと、認知症のテスト受けてきた方が、いいんじゃないの?」

と、おれが感想を言っていると。

 勇者候補生たちが、叫んだ。

「学園長先生! 回復魔法が使えません!」

「学園長先生! 回復アイテムが使えません!」


「あ、そっか。ヤッダーワーンの『忘却の叫び』って、敵味方関係なくかかるんだった」

 ホブミの魔法も封じられたけど、すでにかかっている状態異常はそのままだ。

 だから、今、回復ができなくて困っているのは、勇者学園の方というわけだ。

 しかも、ヤッダーワーンは、シャバーを追いかけて、バッグとトウモロコシを振りまわしながら、そのまま体育館の中に直進してくる。

 このままだと、ぐっすり睡眠中の勇者候補生たちが、ヤッダーワーンの買い物バッグとキャタピラで、蹂躙されそうだ。


 学園長は舌打ちし、携帯電話かトランシーバーみたいなものに向かって、大声で指示を出した。

「クソッ! 放送室。ヤッダーワーンの機能を停止しろ。放送室。ただちにヤッダーワーンを停止しろ!」

 それから数秒後。ヤッダーワーンは、かろうじて、犠牲者を出す直前に、停止した。


 次の瞬間。


≪二刀流秘技・数魔主舞羅挫頭すまっしゅぶらざぁず


 シロが、体育館の中をかけぬけた。

 実は、ヤッダーワーンが突入した直前から、シロは、ため攻撃のため状態っぽい感じにポーズをとっていた。その技が、今、発動したようだ。

 眠っていない勇者候補生たちは、シロの、みねうち攻撃で吹き飛ばされると、そのまま、頭のまわりに星が回っている、見るからに気絶な状態になった。……あのエフェクト、どうやって、だしてるんだろう。気になるけど、たぶん、そういう魔法剣技なんだろう。

 

 ほぼ同じ瞬間に。

「どういう状況だ? プリンセスは?」

と、体育館の向こう側の壁までふきとばされていたシャバーが、おれ達の近くまでよってきて、たずねた。

「プリケロさんは、ロケットパンチになって、お空に飛んでいっちゃったっす。とりあえず、おれ達は、あの元・勇者な学園長と戦闘中っす。もう、あんなのほっといて、プリケロさんを追いかけて、こっから逃げるのもありっすけど」

と、おれが説明すると。

「なにを言ってるのか、よくわからないが。プリンセスは、ここにいないのか?」

と、シャバーが、眉間にしわを寄せた。

「えーっと、だから、プリケロさんは、ロケットパンチになって、飛んでいっちゃったんす」

「そこが、わからないんだが」


「とにかく、プリケロさんは、ここにはいないっす。というわけで、とっとと追いかけるっす。どこにいるか、わかんないっすけど。……ひょっとしたら、宇宙までいっちゃったかもしれないっすけど。ロケットなだけに」 

 そこで、ホブミは、もういちど、断言した。

「姫様と合流するのも大切ですが。ホブミは、あの男を許せないのです。私利私欲のために学校を建てて、教育を語って子ども達を身勝手な目的に利用し、畏れ多くも姫様に害をなさそうとする、あの極悪学園長に罰を与えなければなのですぅーー」

 ホブミは、暗黒の炎みたいなのを立ち上らせながら言っているので、ちょっと、悪役っぽい。


 一方、元・勇者の学園長の方も、悪役っぽいセリフを吐いていた。

「クソッ。なんてことだ。我が勇者学園が。おれ様の完ぺきな計画が……。しかたがない。今日のところは、いったん、退却……」

(見た目とセリフからいくと、もう、全員悪役っぽいな。唯一、正義の側っぽいの、シロさんだけだな)

と、おれが思った、その時。


 妙に荘厳な音楽がなりひびいた。

 この音楽は、ロックンフラワーじゃない。

 なんてったって、この音楽、はっきり、名乗ってくれちゃってる。


 ≪ワンダーバードー♪ 正義のヒーロー♪ ワンダーバードー♪≫

 

 体育館の屋根を、つきやぶり、戦闘機ワンダーバードが、体育館の舞台めがけて、落ちてきた。

 その機体の真ん中には、なんと! 

 リーヌらしきカエルがささっている! 腹から下しか見えないんだけど。

「なるほどー。プリケロさんは、空にむかってとんでって、そのまま、戦闘機につきささってたんすね」

 そして、リーヌが突き刺さったせいで壊れた戦闘機は、今、運よく、ここに墜落してきたようだ。


 ガシャガシャと、戦闘機のパーツをぶち壊しながら、リーヌが、墜落したワンダーバードの残骸から出てきた。

 当然のように、リーヌは無傷だ。

「いやー。もう、プリケロさんは見つけらんないかと思ったっすけど。あっさり戻ってきてくれて、よかったっす」

と、おれは言った。

「あに言ってんだ? おう、シャバー」

と、リーヌは、シャバーを見つけて、手をあげた。

 ロックンフラワーも、リーヌに草の手をふった。

 シャバーは、言った。

「無事に会えてよかった。だが、だれかが、その飛行機の下にいたような気がするんだが。いいのか?」

 実は、戦闘機は、さっきまで、元勇者な学園長がいた体育館のステージ上に墜落したのだ。


 戦闘機の墜落と同時に、ステージに駆け寄り、なにやら呪文を唱えていたホブミが、暗黒の笑みをうかべながら言った。

「極悪学園長は、この戦闘機の下敷きになっているのですー」

 たしかに、ワンダーバードの残骸の下から、学園長の足が見えている。

 シロが、感動したようすで、言った。

「プリンセスは、ここまで計算して、あの攻撃を……。美しさ、強さ、そして賢さまで兼ね備えているとは。なんと、すばらしいプリンセスなんだ」

「シロさん。それ、ものすごーい、勘違いっす。プリケロさんが、なんにも計算してなかったのだけは、たしかっすから。この方、1+1=3とかいいそうな人っすよ?」

 すると、 リーヌは、手を、縦と横に動かしながら言った。

「なに言ってやがんだ。1たすいちじゅうだろ?」

「なんと。とっさにとんちを利かせるとは。天才的な……」

と、シロは、ふたたび感嘆の声をあげた。

「いやー、たしかに、プリケロさんのボケはちょっと天才的かもしれないっすけど、たぶん、まともな計算はできないっすよ?」

と、おれは言ったんだけど。

「2進法なら、1+1=10なのですー。さすが、姫様なのですー」

と、墜落した戦闘機のそばから、ホブミが言ってきた。


 そのホブミの前の、戦闘機の周囲に、なにか、光の壁みたいなのが見える。

「ホブミ、なにやってんの?」

と、おれがたずねると。

「ホブミは、今、空間凍結魔法をかけたのですー。あのゲス勇者がいつもかけている、戦闘不能時のオート蘇生・オート転移を防ぐためなのですー。気絶状態にして、確保するのですー。今度こそ、逃がさないのですー」

と言って、ホブミは、ニタニタと、暗黒の笑みを浮かべたまま、新たな呪文を唱えていった。


 なにはともあれ、これにて、戦闘終了だ。

 ロックンフラワーが、ギターで勝利の音楽を奏でた。

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