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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-75 ダメージ転換装置

 変態勇者あらため学園長は、えらそうに言った。

「下は4歳から上は96歳まで。おれ様が集めた勇者候補生たちだ!」

「でも、幼児やよぼよぼの老人なんて、何人いても、戦力外だろ? おれとは、いい勝負かもしれないけど~」

と、おれが言うと、学園長は笑った。

「フッフッフ。96歳の候補生は、よぼよぼの老人ではない。認知症で人間が無意識にかけているリミッターを外した、人間の限界を超えた戦士だぞ!」

「よくバトル物少年漫画とかで出てくる、リミッター外しの奥義的なものを、認知症で実現しちゃったの!?」

「その通り。それに、ほら見ろ、そこの4歳の勇者見習いたんと、6歳の勇者見習いきゅんを。かわいいだろ~。とっても、かわいいだろ~。殺せるものなら、殺してみろ!」

 学園長は、にやにやと笑っている。


 暗い声で、ホブミが、またつぶやいた。

「そういう魂胆ですか」

「どういう魂胆?」

と、おれがききかえすと、ホブミが説明した。

「あの男は、はなから生徒を犠牲にするつもりなのです。生徒達は、姫様が攻撃すれば、確実に死んでしまいます。生徒達をねらわなくても、姫様があの男を攻撃しようとすれば、高確率で周囲の子どもまで巻きこんでしまいます。勇者候補生とか言っていますが、要は、人間の盾なのです」

「そ、そうか……。たしかに、プリケロさんが攻撃をしたら、すごい数の犠牲者が出ちゃうぞ。あんな小さな子もふくめて」

 

 そこで、おれ達の会話を聞いていた学園長が、また、えらそうに言った。

「人間の盾? フッフッフ。そんな、単純なものではない! ここにいる勇者候補生たちは、魔王を倒すために、自ら志願し、おれ様が受けたダメージを身代わりに受ける特殊効果をかけているのだ! つ・ま・り、全員が死ぬまで、おまえらは、おれ様にダメージ1も与えられないのだよ!」

「なんだって!? おまえ、自分のダメージを子どもや老人に身代わりに受けさせるのかよ! いくらなんでも、ひどすぎるだろ!」

と、おれが叫ぶと、元・変態勇者は、へらへらと笑いながら、おちょくるように、言った。

「そらそら~、攻撃できるものなら、攻撃してみろ~」

 「キモッ」

 「ププゥッ」

 キモノキとプップが、不快そうに、怒ったように鳴いた。

「麗しのプリンセスを誘拐したうえ、小さな子どもや老人までを人質にとるとは。あの極悪人。許せん」

と、シロも言った。

 ホブミは、冷静な声で言った。

「ここにいる人達が全員死亡すれば、私には、蘇生しきれません」

 冷静な声だけど、あきらかに、怒っている。……すっかり、メイドゴブリンのキャラを忘れるくらいに。

 ここにいるのは、フーじぃの孫をふくむ、ヒガシャの子ども達だ。絶対に、犠牲者は出しちゃいけない。

 ということは、このままじゃ、おれ達は、手も足もだせない。


 おれは、ステージの上の学園長にむかってどなった。

「変態勇者! おまえ、学園長なのに、生徒が死んじゃっていいのか!?」

 学園長は笑い、かっこをつけて言った。

「フッ。正義のために戦い、散った、犠牲者たち……。かなしいな。だが、大魔『ナイトボディ!』の悪名が高ければ高いほど、犠牲者が増えれば増えるほど、正義に燃える勇者学園への入学希望者が増えていくのだ。そして、親兄弟が死ねば、その敵討ちに、魔王への復讐に燃える新入生が入ってくる。だから、我が学園は、未来永劫安泰なのだよ。たとえ、ここにいる生徒達全員が、犠牲になったとしても! 痛くもかゆくもない!」

「キモッ!」

「ププゥッ!」

「どこまで極悪なんだ!」

と、おれ達が言ったすぐ後で、

「ゆるせねぇな」

と、リーヌも怒りに燃える声で言った……だけじゃない。


 そこで、おれは、気がついた。

 リーヌの周囲に怒りの炎みたいなのが燃えていて、体育館の床が、焦げている。さっきから、なんか、妙に暑いなと思ってたら。

 これは、怒りでなにか魔法が発動しそうだ……。 

 怒りを鎮めないと! 

 さっそく犠牲者がでまくっちゃう! 

 おれ達、激弱モンスターズもふくめて、みんな焼失しちゃうぞ!


 おれは、あわてて、言った。

「許せないけど! だけど、プリケロさん、まちがって爆炎魔法とかだしちゃだめっす! さぁさぁ、深呼吸でリラックスっす。スーハー、スーハー。満天の星空、南国の海辺を想像して、リラーックス」

 ロックンフラワーが、癒しのミュージックをかなでてくれた。

 リーヌは、ふてくされた顔をしたけど、めずらしく素直に、おれのことばに従った。

「わぁーったよ。じゃ、アタイは、ここで踊ってっから。あいつは、まかせたぜ」

 リーヌは、ロックンフラワーの奏でる、癒しのハワイアンなミュージックにあわせて、フラダンスを踊りだした。

 リーヌの周囲の怒りの炎は、無事、鎮火された。


「まかされたっす。といっても、おれは何もできないっすけど。ホブミとシロさんにがんばってもらわないといけないっすけど……」

 さっそく、ホブミが指示をだした。

「まずは、ホブミがあの極悪学園長にかかっている特殊効果を解除するですー。シロさんは、それまで、時間かせぎをしてくださいですー」

「承知した」

と言って、シロは、2本の刀を手に取った。


 極悪学園長が笑った。

「ふっふっふ。無駄だ。暗黒賢者ホナミよ。いくらおまえが、筋力と体力は町娘以下、攻撃魔法は入門レベル、だけどサポート魔法にかけては大陸一、といわれる、超サポート特化型賢者であり、さらに闇堕ちにより魔力を増大させているとしてもな」

 学園長は、つづけて、えらそうに言った。

「ダメージ転換の特殊効果は、機械によって、この体育館全体にかけてあるのだ。機械におまえの解除魔法はきかない! 暗黒賢者よ。おまえに、この特殊効果は解除できないのだ!」

 学園長は、勝ち誇って、ふんぞりかえって笑った。

「フッフッフ。天才的な頭脳をもつおれ様は、城塞都市オイコットの科学技術省と協力し、戦闘の機械化を進めてきたのだよ。見ただろう。あのすばらしいヤッダーワーンとワンダーバードを!」


「悪趣味なロボだと思ったら。あのロボ、変態勇者が造ってたのか……」

というおれの声は、しっかり、学園長に聞こえていた。

「悪趣味とはなんだ! 見る目のないアホ面モンスターめ。ヤッダーワーンは、オイコットのCAWAII文化を代表しそうな、すんばらしい、キャワイさだろう! キャワイイだろ~」

「いやいや。ヤッダーワーンなんて、あれ、ただのリボンをつけたおばちゃん犬だし。ちっとも、かわいくないし。たしかに、ファッションはカワイイ文化な雰囲気だけど、それをスーパーに買い物に行く途中のおばちゃんとブレンドするとか、意味不明だろ! あの、リボンをつけたカワイイ猫の女の子だって、小学3年生っていう設定だから、かわいいんであって、おばちゃんにしちゃったら、かわいくないし! しかも、それを、巨大ロボにするとか。悪趣味の塊だろ!」


「フン、アホ面モンスターめ。どうみても、ヤッダーワーンこそ、最高にきゃわいくて高貴なお犬様だろ。おまえらの連れている、その貧相な雑種の白犬なんかとはちがってな!」

 おれは、一瞬、意味がわからなかった。

「おれ達が連れてる雑種の白犬? ……それって、シロさんのこと!?」

「俺は、犬ではない。コボルトだ」

 むっとした様子でシロは言った。

「モフモフ騎士は最高にかわいいぞ。なんてったって、モフモフだからな」

と、愛をこめたフラダンスを踊りながら、リーヌは言った。

「プリンセス、もったいない、お言葉……」

と、シロは照れた。


 おれは、悪趣味学園長に言った。

「そうっす。どうみても、ヤッダーワーンなんかより、シロさんの方が、かっこいいっす。ほら、シロさんの三角形のモフモフな耳のほうが、ヤッダーワーンのたれ耳より、だんっぜん、犬らしくてかっこいいっす。てか、たれ耳とか、耳の穴ふさいじゃってて、意味がわからないし」

 悪趣味学園長は、ステージの上から、ほえた。

「ヴァカめ! ゴールデンレトリーバー、ミニチュアダックスフンド、トイプードル、人気犬種は、いつもたれ耳だろ!」

「犬の耳は、ツンと立ってる三角形が一番っす! 柴犬だって、シベリアンハスキーだってお父さん犬だって、人気犬種っす!」

 ちなみに、その時、

「キャンッ はずかしっ。ドッグと呼ばれているのに耳なんて、ほとんどなくて、はずかしっ。キャンッ」

と、こっそり、おれのカバンの中で、アナイリードッグは言っていた。たしかに、アナイリードッグは、プレーリードッグと同じで、耳が超小さい。


 学園長は叫んだ。

「なにを言ってるんだ。このアホ面モンスターめ。走っている時に、パタパタするたれ耳こそが正義にきまってるだろ! 身ぶるいした時なんて、すごいぞ! たち耳なんて、ぜったいにパタパタできないだろ~?」

「バカ言っちゃいけないっす。たち耳は、しっぽ並みに動くんすよ。ふだんはピンとたってるのに、喜ん出る時は耳がねちゃうし、音がする方向に向かって、耳を動かすさまなんて、あれぞ、機能美っす!」

「キャンッ はずかしっ。小さすぎて、動いてるのが絶対にわからないような耳で、はずかしっ。キャンッ」

と、アナイリードッグは言っていた。たしかに、アナイリードッグの耳って、どこにあるのか、よくわからないからな。動いていても、わからない。


 学園長は絶叫した。

「ふわふわのたれ耳をぎゅっとつかんだ時の触り心地! あれに勝るものなどない!」

 おれは、全力でどなった。

「たち耳の、耳の中に見えてる、ちょっとしっとりしたふわふわの毛! あれこそ最強っす!」

 アナイリードッグが、おれのカバンの中で叫んだ。

「キャンッ はずかしっ! この耳フェチたち、はずかしっ。変態! キャンッ キャンッキャンッ」

「キモッ」

「プッ」

と、プップまで、同意するように鳴いた。たしかに、我ながら、ちょっと力説しすぎてしまったかもしれない。


 学園長は、力強く宣言した。

「きゃわいいのは、たれ耳だ!」

 おれは、全力で否定した。

「いんや、たち耳こそ最高っす!」

「モフモフしてりゃ、耳の形なんて、なんでもいいだろ」

と、リーヌは、のんびり踊りながら言った。


 さて、話を少し前にもどそう。

 実は、学園長が、えらそうに、ダメージを転換する機械の話をした後。

 つまり、「ダメージ転換の特殊効果は、機械によって、この体育館全体にかけてあるのだ」というセリフの後で。

 ホブミは、小さな声で、おれ達に、こう、ささやいていた。

「なるほどなるほどー。ペラペラとバカみたいに大事なことを教えてくれたのですー。では、その特殊効果をかけてる機械を破壊するのですー。ホブミが場所を解析するから時間稼ぎをしといてくださいですー」

 そして、おれが、みごとに、犬の耳論争で時間かせぎをしていた間。実は、メイドゴブリンのメガネには、解析魔法の魔法陣らしきものが、うかびあがっていた。

 そう。おれは、別に、犬耳大好き犬耳フェチなわけでも、ついつい、犬耳への愛から、夢中になって反論してしまったわけでもないのだ。すべて、作戦だったのだ。


 不毛な犬耳論争が終わったちょうどその時、ホブミは解析を終了した。

「機械があるのは、舞台横、むかって右側の、2階部分ですー。姫様、あの部分を破壊してくださいですー!」

 片手を上にあげたフラダンスのポーズのまま、リーヌが振り返った。

「よし。あすこだな」

と言ってリーヌがゆびさしたのは、むかって左側だったので、おれが訂正しておいた。

「プリケロさん、そっちじゃなくて、あっちっす」


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