4-72 勇者学園
おれ達は、学校っぽい建物の前についた。
ちなみに、おれ達の方へ進んでいたヤッダーワーンは、途中で進路をかえた。シャバーがうまく引き付けてくれたようだ。
おれ達の目の前の、学校っぽい建物の入り口には、「勇者学園」と書かれた板がはりついている。
「やっぱり、ここが、勇者学園っすか。フーじぃの孫や、ヒガシャの子ども達がみんな入学したっていう人気の学校……」
立派な校舎だ。
だけど、勇者学園の建物の中からは、爆発音が聞こえてくる。
おれが、見上げると、窓からガラスが飛び散っている。
「立派な校舎だけど、なんだか、じきに、壊れてなくなりそうっすね……」
「プッ」
「キモッ」
そう言っている矢先にも、建物の2階の一角で大爆発が起こり、大穴があいた。
そして、大穴のあいた校舎から、
「プリプリ☆プリヒコはどこどぅわー!」
という声が聞こえる。ガラガラとなにかが壊れて落ちる音といっしょに。
リーヌの場合、怒鳴り声だけで攻撃になるから。どうやら、リーヌは、おれにつけたあだ名を勝手に呼びながら、その声で、色々と破壊しているようだ。
(なんだか、おれは何もしてないのに、おれのせいで学校が破壊されているみたいなことに……)
ものすごく、いやなんだけど。
しかも、おれの、かばんの中から、声がした。
「キャンッ はずかしっ! プリプリ☆プリヒコって名前、はずかしっ! はずかしっ! キャンッ キャンキャンッ」
「おれも恥ずかしいと思うけど! そんなこと言われると、ますます恥ずかしくなるから、やめてくれ! あー、もう、はずかしっ」
おれが叫んでいると、おれの頭上からも、声がした。
「ププッ。ププププ☆ププププ」
「キモキモ☆キモキモ。キモッ キモッ」
何言ってるんだか、わからないけど。
なんだか、モンスターが増えて、にぎやかだ。こいつらが何匹いても、戦力的には、まったく上昇してないんだけど。
ホブミは、校舎にむかって、あまり大きくない声で叫んだ。ホブミは、もともと声が小さいから、全力で叫んでも、声は小さい。
「姫様ー! 姫様ー!」
校舎の方からは、特に反応はない。
リーヌには、聞こえなかったようだ。
さて、そこで、なにかを誤解しているっぽいシロが、校舎を見あげながら、言った。
「プリンセスは、ここに囚われているのか……。爆発が起こっている。早くお助けせねば」
「え? いや、シロさん。たしかにふつうのプリンセスだったら、そんな感じになるとこなんすけど。この場合は、あのプリンセスが……」
おれが続きを言う前に、ホブミがすかさず言った。
「囚われの姫様、かわいそうなのですー。早くたすけださなきゃなのですー」
「急ごう。露払いは、俺にまかせてくれ」
と、力強く言うと、なにかを誤解しているっぽいシロは、そのまま勇者学園に突入していった。
(あの自称・プリンセスは、囚われているんじゃなくて、勝手に突入して暴れてるんすー!)
と、おれは、心の中で叫んでたんだけど。
おれ達が、勇者学園の玄関口に入るとすぐ、冒険者らしき男達がでてきた。
「モンスターが攻めてきたぞ!」
「カエル魔王の手下か!」
そう、がなりたてる冒険者たちを前に、平和主義者のおれは、なんとか、平和的に解決しようと、言ってみた。
「いやいや、おれ達は、カエル探しをしている旅の途中のフレンドリーなモンスターたちっす。なんと、奇遇にも、カエルの捕獲が、おれ達のお仕事っす。狂暴カエルでお困りだったら、おれ達が特別に無料で、平和的に、駆除してあげるっすよ? さぁ、おれ達を中にいれてくれっす」
でも、冒険者風の男達は、おれの言うことを無視して、襲いかかってきた。
「このあやしいアホ面モンスターめ!」
「モンスターどもを倒せ!」
「ギャー!」
と、おれが叫んでいると。
「ここは、俺にまかせてくれ」
と、言い、シロが、2本の刀を口にくわえた。
≪二刀流秘技・邪素躰守顎炎!≫
2本の刀を口にくわえたシロは、刀に炎をまとい、学園から出てきた8人くらいの冒険者達の間を駆け抜けていった。
シロが駆け抜けると、その後ろに、炎が2本の川のように流れていく。
「かっこいいっす! おれが、この世界で見た技の中で、一、二を争うかっこよさっす!」
ちなみに、この技と、かっこよさ1位を争っているのも、シロの技だ。
シロの技って、どれも、見た目がかっこいいんだよなー。なんか、技名は、どこかで聞いたことがあるような名前だけど。
斬られた冒険者風の男たちは、炎に身を包まれ、勇者学園の玄関を、のたうちまわった。
廊下の奥からかけつけた男が、その様子を見て、廊下にあった消火器で仲間たちの火をけした。
「クソッ。一度撤退して、たてなおせ!」
冒険者風の男たちは、校舎の奥へと逃げていった。
その後も、出くわす冒険者風の男達は、シロが全部倒してくれ、おれ達は、どんどんと勇者学園の内部、破壊されまくった校舎内を進んで行った。
「さらわれたプリヒコはどこどぅわー! プリプリ☆プップリンはどこどぅわーー!」
という声と爆発音を追いかけて。
「プリケロさーん! とりあえず、だまってくれーっす!」
「姫様―! ここですー!」
おれとホブミは、大声でリーヌに呼びかけ続けた。
しばらくして。
とつぜん、廊下の角から、動く人体模型がとびだしてきた。
理科室とかに置いてある、プラスチックとかで、できている人体模型だ。
「な、なんだ、これ!? キモッ!」
「キモッ!」
おれとキモノキが叫ぶと。
「プリヒコ!」
人体模型の後ろから、リーヌがあらわれた。
「ちっちぇー巨人。よく、とらわれのプリヒコを見つけてくれたな」
と、リーヌは人体模型に感謝していた。
どうやら、「ちっちぇー巨人」とは、この人体模型にリーヌがつけた名前のようだ。
おれは、リーヌに言っといた。
「プリケロさん。ちっちぇー巨人って、それはないっす。いや、言いたいことはわかるっすよ? たしかに、おれも、こういう巨人が出るアニメを見てたっす。一時期、宴会芸とかハロウィンとかのコスプレでも、巨人だか人体模型だかわからない全身タイツが流行ってたっす。でも、人体模型は、進撃しちゃう巨人より前からいたんすから。だから、これは、ただの、ふつうサイズの、人体模型っす。筋肉だけじゃなくて、内臓的なパーツが、見えてるし」
「キモッ」
と、キモノキがうれしそうに鳴いた。
「なに言ってやがんだ。ちっちぇー巨人が見つけてくれたんだから、感謝しろよ。囚われのプリヒコ」
と、リーヌは言った。
「プリヒコはやめてくれっす。てか、おれは、囚われていないし。こんなに自由の身っす」
おれは、両手両足を元気に動かし、その場でかけ足をして見せた。
「だいたい、プリケロさん。こんなとこを、いくら探しても、おれは見つからないっすよ? おれは、ここに、いなかったんすから」
と、おれが言うと、リーヌは、まじめな顔で、おれにたずねた。
「あ? なにいってんだ? おまえ、ここにいるだろ? それとも、いねーのか? おまえは、アタイがゴブヒコから進化させたプップリンじゃなくて、知らねぇ野生のプップリンなのか?」
「プップリンは世界に一匹しかいないっす! プップリンて、おれ達が勝手に、冗談でつくっちゃった、なんちゃって新モンスターなんすから。そうじゃなくて、おれは、プリケロさんを探して、今、はじめて、ここに来たんす。おれは、別の場所で無事にリリースされて、町に帰ろうとしてたんすよ?」
リーヌは、首をかしげた。
「なに言ってんだか、わかんねーな。おまえは、アタイが知ってるゴブヒコなのか? ゴブヒコじゃねーのか?」
「ゴブヒコっす! いつもおなじみの、激よわブサイクな、あんたの唯一の仲間モンスターっす! てか、散々いっしょにいるんだから、さすがに、見ればおれだって、わかるでしょ?」
と、おれが言うと、
「そりゃ、アタイのセリフだぜ」
と、なぜかリーヌは、あきれたように、言った。
「おれは、プリケロさんの見分けはついてるっすよ? たしかに、金髪じゃないただのカエルになったら、見分けがつくか、ちょっと自信がないっすけど……」
とか、おれが言っていると。
リーヌは、そこで、はじめて、おれの後ろにいるモフモフな犬侍の存在に気がついた。
「モ、モモモモモフモフ!? モフモフモフモフ!?」
おどろきすぎて、リーヌは、モフモフしか言えないらしい。
シロは、リーヌの前に歩み出ると、片膝をついた。
「俺は、シロという者。微力ながら、プリンセスをお助けするため、はせ参じた」
「モッフモフー! モフモフ騎士どぅわーーー!」
リーヌは、興奮しすぎて、意味不明に叫んだ。その叫び声で、窓ガラスが、近い方から順番にバリンバリンと猛スピードで割れていった。
ちなみに、おれは、そうなるんじゃないかと思ったから、リーヌが叫びだす前に、リーヌの後方に移動していて、無事だった。
そうじゃなかったら、おれもプップもキモノキもアナイリードッグも、みんなリーヌの叫び声で、うっかり殺されちゃうところだったから。……もう、今は、おれだけの命じゃないからな。おれ、ゴブリン・バス化しちゃってるから。
それにしても、こんな光景を見ても、シロはまったく、リーヌの正体に気づいていない。本物のプリンセスだと、信じているらしい。思いこみって、すごいな。