4-70 メイド発見
しばらく林の中を進んで行ったところで、シロがモフモフな耳を動かした。
「戦闘の音がする。誰かが、襲われているようだ」
おれ達は、さっそく、その場へ急行した。
そこには、なんと、ぬるぬる触手系モンスターに襲われているメイドさんがいた!
「うわぁー。まるで、エロゲやエロ漫画にでてきそうな、ぬるぬる触手が大量にはえたモンスターがいるっす!」
「キモッ」
「そして、気色悪いぬるぬる触手にメイドさんが襲われてるぅー! ……んだけどなぁー」
メイドはメイドでも、襲われているのは、メイドゴブリンのホブミだ。
そして、触手系モンスターは、ちっともやる気がでないらしく、一糸乱れぬメイド服をかっちり着こんだゴブリンの胴体を、一本の触手で、やる気なーくつかんで空中にもちあげているだけだ。
これっぽっちも、エロい要素はない。
おれは、おもわず、ぼやいてしまった。
「あーあ。ホブミが人間バージョンだったら、すごい光景だったのになぁ」
その時、突然、触手に捕まったメイドゴブリンがふりかざした杖から、大きな火の玉が、おれをめがけて、飛んできた。
「ギャーー!」
「ププゥーッ!」
「キモキモーッ!」
シャバーが、おれをつかんで横に跳躍してくれたおかげで、おれ達は、間一髪、助かった。
巨大な火の玉は、おれがさっきまで立っていた場所、林の中の、数メートル四方の空間を、一瞬で燃やし尽くした。
草や藪はもちろん、木まで焼失した。
「なにすんだ、ホブミ! あんなのくらったら、おれは、一瞬で、灰になって飛んでいくぞ! おれだけじゃなくて、プップとキモノキも、いっしょに消し炭になっちゃうぞ!」
と、おれが文句をいうと、ホブミは言った。
「誤射なのですー。プップさん、ごめんなさいなのですー。邪悪なモンスターを倒すために呪文を唱えていたら、もっと邪悪なモンスターが出てきたので、火の玉が、そっちめがけて飛んでいってしまったのですー」
「それ、おもいっきり、おれを、ねらってるだろ!」
とか言ってる間に。
≪溢闘霊弾・蛇鎚義理≫
シャバーが、大剣をふりおろし、触手系モンスターをまっぷたつに縦に断ち切った。
触手系モンスターから解放されたホブミは、お辞儀をしながら、シャバーに礼を言った。
「ありがとうございますですー」
「いや。俺の助けなんて、いらなかったかもしれないが」
と、シャバーは、ホブミの炎魔法で燃え尽きた林の一画を見ながら、そう言った。
たしかに、あんな攻撃魔法があるなら、自力で触手系モンスターを倒してただろうな。ホブミって、なにげに、けっこう強いのか……。これからは、あんまり怒らせないほうがいいかもー。
「そんなことないのですー。ホブミは非力なメイドですからー」
と、ホブミは、かわいらしく言うけど。
「ホブミ、非力って言うのは、おれやプップのようなやつのことを言うんだぞ」
と、おれは言っといた。
「プリンセスのメイドとは、これほどの魔力をもつものなのか……」
と、シロは感心しているし。
おれは、ホブミにたずねた。
「プリケロさんは?」
ホブミは、林の出口を指さした。
「姫様は、林を出て、この先に向かっているのですー。ホブミは、姫様を追いかけてたのですが、さっきのモンスターに足止めされちゃったのですー」
ホブミがゆびさす先には、木々の生えない大地がひろがっている。おれが、格納庫っぽい場所で解放されてから林に入るまで、歩いていた場所だ。
しばらく歩けば、おれが捕まっていた戦闘機の格納庫や校舎っぽい建物があるところにでるはずだ。
さすがにリーヌでも、戦闘機を追いかけていたから、とりあえず、正しい方向には進んでいたみたいだ。
(でも、正しい方向に進んでいたということは、勇者学園の方にむかってるってことだよな)
と、おれが考えた、その時。
爆発音が響いた。
林の外から、激しい戦闘の音が聞こえる。
どうやら、リーヌはすでに、戦闘を開始しているようだ。
「プリケロさんが暴れている音がしてるっす。早くとめないと、きっと、学校とかに乱入して、いろんなものをぶっ壊しちゃうっす。へたしたら、子ども達が危ないっす!」
「もとはといえば、まぬけな先輩が誘拐されたのが、いけないのですがー?」
と、ホブミはブツブツ、おれに文句をいったけど、おれは抗議しておいた。
「誘拐は、誘拐したやつが悪いんだ! 被害者は、悪くないぞ! ……あれ? でも、おれを誘拐したのは、勇者学園の生徒だったから、誘拐した奴が悪いんなら、勇者学園の生徒が悪いんだな。てことは、プリケロさんが、学校を破壊しても、生徒をぶっとばしても、いいのかな?」
「いいわけないのですー。ヒガシャの町のこどもたちなのですー」
なにはともあれ、おれ達は、リーヌを追いかけて、林の外に出た。
林をぬけると、大地には、さっき、おれが同じ場所を歩いていた時とは、まったく違う光景が広がっていた。
「あれは、ヤッダーワーン?」
「キモッ」
ウェスタでおれ達が戦った犬型戦闘ロボットが、「ヤッダーワーン」と言いながら、広大な大地をパトロールするように動いている。
そして、空には、おれをさらったワンダーバードという戦闘機が。
「やっかいだな」
と、ヤッダーワーンを見て、シャバーが言った。
なにしろ、ヤッダーワーンは、ホブミの魔法を封じちゃうし、シャバーの大剣は大根にしちゃうんだもんな。
「まともに戦えば、やっかいな敵ですが。けれど、私たちの目的は、姫様を連れ帰ること。戦う必要はありません」
ホブミは、つい真剣になったらしく、人間バージョンの口調で、そう言った。
だけど、困ったことに、リーヌがいるのは、すでに、ヤッダーワーンのさらに向こう側だ。校舎っぽい建物の方から、爆発音がして煙があがっているから。
シャバーは言った。
「俺がおとりになって、あの巨大ロボットをひきつける。おまえ達は、そのすきに、先にすすんで、プリンセスを連れ帰れ」
「シャバーひとりで、おとり役をするんすか?」
「俺が一番、体力がある。あのロボットの攻撃を数発くらったところで、俺なら問題ない。おまえ達がいると、むしろ足手まといだ」
と、シャバーは、きっぱり言った。
「たしかにー。おれは、邪魔にしかならないっす。てか、おれが死なないように守りながら戦うとか、難易度最上級の裏クエストみたいなもんっす」
「キモッ」
「プッ」
「なんか、キモノキとプップが、今、おれをバカにしているみたいなタイミングで、バカにしたみたいな声で鳴いた気がするんだけど。気のせいだよな。おれ、自意識過剰ぎみ?」
「キモッ」
「プッ」
シャバーはシロに言った。
「シロ。悪いが、メイドとプップリンを頼む」
シロは、うなずいた。
「まかせてくれ、マスター。プリンセスには、2度も道を教えてもらっている。必ずやご恩を返そう」
それを聞いたおれは、心の中で叫んだ。
(そのプリンセス、実は大魔王リーヌなんだけど! 恩どころか、シロさん的には、大いに恨みがある相手なんだけど!)
だから、おれは、言った。
「あいやー。この先は、おれとホブミだけで大丈夫っすから、シロさんはもう帰ってくれていいっす。ていうか、たかが、道を教えてあげたくらいで、そんなに恩とかないっすから。おれの命を助けてくれただけで、もう十倍返しどころか百倍返しくらいにしてもらってるっす」
「そうはいかぬ。プップリン殿。プリンセスのところまで、俺が道を切りひらこう」
シロはキラキラと輝くおめめで、おれを見て言った。
おれは、心の中で叫んだ。
(だから、そんなことしてくれなくていいんだって! そのプリンセス、プリンセスじゃないんだから! シロさんの貴重で高価な刀を二本もダメにして、『もふる』という拷問を加えちゃった、極悪非道な大魔王リーヌなんだから! そんな純粋な目で、見ないでぇー!)
こんなキラキラおめめで見つめられると、むちゃくちゃ良心が痛む。