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1-13 にじょうのうでわ

 床の上で這いながら、魔王が苦しそうに言った。


「リーヌという名……。その名を聞いた時に、まさかとは思ったが……。この理不尽な強さ、間違いない。あなた様は、あの、伝説の大魔王リーヌ様では?」


「伝説の大魔王? リーヌさんって、そんなに有名な魔王だったんすか?」


「アタイはただのテイマーだ」


 リーヌは否定したけど、魔王は土下座をはじめた。


「も、もうしわけありませんでした! 大魔王リーヌ様。気分しだいで大災害さえ引き起こし、一国を滅ぼすなど朝飯前、という魔王史の中でも別格の伝説の大魔王である、あなた様に逆らおうなんて気、わがはいには毛頭ございません!」


「アタイは、ただのテイマーだよ」


とリーヌは言っているけど。

 というか、リーヌってテイマーとしては最底辺なんだけど。

 タコみたいな魔王は、土下座をしながら言った。


「わがはいの領地も宝もすべて献上いたしますので、どうぞ命だけは。命だけはぁー。まだ年端もいかない娘もいるんですぅ。どうぞご勘弁をー。わたくしにとって、なにより大事な、この〈にじょうのうでわ〉を差し上げますから」


 魔王は腕輪をはずし、おれたちの方にさしだした。

 おれは魔王の腕輪をよく見た。ごてごてと大層な装飾はついているけど、宝石の類はなにもついていない。

 おれは疑いの目で腕輪を見た。


「その腕輪、価値あるんすか? 質屋にもってってもお金にならなさそうっす」


「そうだぜ。それ、二重じゃないじゃねぇか」


 おれとリーヌが文句を言うと、魔王は必死に叫んだ。


「質屋なんかにもってっちゃだめー! これすんごい装備なんだから! それに、『にじゅう』じゃなくて、『にじょう』なんです」


(にじょうってなんだっけ?)


 どっかで聞いたことあるような。でもゲームじゃないな。 


魔王は、腕輪の説明をはじめた。


「この腕輪は本当にすばらしい秘宝なんです! これはなんと、ステータスが2乗になるという世にも恐ろしいチート装備でございます。例えば、魔力が100なら100倍の10000に。HPが1万なら、なんと1万倍のHP1億になるという、すばらしい装備です。これのおかげで、わがはい、一夜にして魔王になれました」


「す、すごいっす」


 おれは、感動した。

 にじょうって、2乗だったのか。そりゃ、すごいチートだ。

 そんなものがあったら、だれでも、ものすごく強くなれる。


「そうなんです。これは装備した人のステータスを2乗! 2倍じゃないありませんよ。2乗にするんです! リーヌ様がこれを装備すれば、ステータスが天文学的数字に! もう宇宙に敵は、ございません」


 リーヌは満足げにうなづいた。


「よくわかんねーけど、それをつけたら、強くなるんだな。よし、ゴブヒコ、それを装備してみろ」


「でもおれ、レベル1だけど、装備できるかな」


 レベル制限のせいで、リーヌが持ってきた装備も、ほとんど使えなかったからな。


「ご心配いりません。この腕輪は、なんと、なんと! レベル制限、種族制限、一切なし! どなた様にもご装備いただけます!」


「じゃ、おれ、装備してみるっす」


 おれは魔王から見るからにすごそうな、もしも元の世界でつけていたら「中二病乙!」とかいわれそうな腕輪を受け取り、装備してみた。


「お、なんだかおれも少し強くなった気がするっす」


「よし、こいつをたたいてみろよ」


 リーヌは魔王をゆびさしておれに言った。


「え? 腕輪でかんべんしてあげるんじゃないんすか?」


「効果を試してみんだよ。それ、なんか悪趣味で偽物っぽいじゃねーか」


 魔王はか細い声で言った。


「ほんものですー。悪趣味って……。えぇ、娘にも、言われるんですよ。パパ、服がダサい。趣味悪い。いっしょに歩きたくないって……」


 おれは、しょんぼりしている魔王を無視して、リーヌに言った。


「でも、ここで魔王さんを攻撃するの、残虐非道っぽくないっすか? もう瀕死なんだから、おれがダメージを与えたら、死んじゃうっす」


 もちろん、レベルを上げるには、敵を倒さないといけない。

 でも、いざ殴るとなると。

 人をこんぼうで殴り殺すのは、なんか、すごく悪いことみたいに感じるんだけど。

 だけど、当の魔王があっさり言った。


「だいじょうぶです。魔王は2回までは自動的に蘇生するようになっております。さぁ、どうぞどうぞ、お試しください。その腕輪の効果を、実感してみてください」


「じゃ、行くっす!」


 おれは、大きく、木のこんぼうをふりかぶって、全力で、魔王の頭にふりおろした。

 いつものRPG風アナウンスが久しぶりに流れた。


    ― ゴブヒコの攻撃。魔王はダメージ0を受けた。 ―


「あれ? ダメージ0っす」


「あれ? もう叩いていたんですか?」


 魔王は何も感じなかったらしく、きょとんとした顔でそう言った。


「おい、どういうことだ? 詐欺なのか?」


 リーヌが怖い顔で魔王を睨みつけている。

 魔王はあわてて言った。


「そんなはずはありません。この腕輪は本物です。たしかに、はじめは質屋で娘への誕生日プレゼントとして買ったものの、『こんな悪趣味な腕輪、いるわけないでしょ! パパのバカ!』と言われて、しかたがないから、わがはいが付けてみた、という腕輪でした。でも、効果は本物だったんです。しがない魔王城中堅管理職だったわがはい、この腕輪のおかげで一夜にして魔王にまでのぼりつめたんですから。ぜったいに、ステータスは2乗になっているはずです。ちょっと待ってください。今、ゴブリンさんのステータスをチェックしてみます」


 おれをじっと見た魔王は、驚愕の表情をうかべた。


「ゴブリンさん、あなた、信じられないことに、もとの攻撃力が1ですよ?」


「かもしれないっすねー。おれ、弱いっすからねー」


 魔王はとても残念そうに言った。


「元が1だったら、この腕輪をつけても攻撃力はかわりません。2乗しても、1ですから」


「え?」と、おれが聞き返していた、その瞬間。


「ぬわにぃ!? 効き目ねぇのかよ! サギ師かぁーーーー!」


 短気なリーヌはそう叫ぶと、怒りにまかせて、魔王を蹴り上げた。


「腕輪は本物ですぅーーーーー!」


 そんなセリフをのこし、けられた魔王は天井をつきやぶって、お空の彼方にきえていった。 

 

 魔王が消えた天井の穴から、のんびり青空を眺め、おれは昔習った数学を思い出した。


「そっか。2乗ってことは、もとが1なら、1×1で1になるんすね」


「あん? つまり?」


 おれは、リーヌにもわかるように説明した。


「つまり、魔王さんが言ってたように、おれがこの腕輪を装備しても、攻撃力は、変わらないっす。見た目が、『どっから見てもしょぼいゴブリン』から、『すごそうな腕輪をつけてる一点豪華主義ゴブリン』になっただけっす」


 おれが強くなった気がしたのは、気のせいだったようだ。

 でも、HPくらいはあがったのかも。

 たしか、おれのHPはもとが4だったからな。今は16か。上がっても低いな。


 リーヌは不満そうに言った。


「やっぱ、つかえねーじゃねぇか。だましやがって」


「いや、でも、リーヌさんが装備すれば、ものすごく強くなるっす」


 それこそ、天文学的数字になるんだろう。おれはリーヌのステータスを知らないけど。

 だけど、リーヌは言った。


「アタイがこれ以上強くなってどうすんだよ! ますます夢から遠のくじゃねぇか!」


「あ、そうっすね。リーヌさんは、むしろ攻撃力をさげないといけないんだった」


 うまくいかないもんだ。せっかくのチート装備なのに。


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