4-68 さまよえるプップリン
おれは、今、戦闘機の格納庫みたいな場所にいる。
網の中のおれの前には、戦闘機から降りてきたパイロット、つまりおれを誘拐した誘拐犯、二人が立っている。
だけど、この誘拐犯たちは、けっこう若い。
どうみても、十代だ。たぶん、中学生くらいだ。それも、不良っぽくなくて、むしろ優等生っぽいタイプの少年達だった。
少年達は、おれを見下ろしながら言った。
「なんだ、こいつ? カエル魔王じゃないぞ? カエルじゃなくて……なに?」
「こいつ、カエル魔王の横にいた……やたらと丸い顔の……なんだ?」
せっかく誘拐されたのに、おれは、この誘拐犯たちに、ぜんぜん、歓迎されていない。
なに、この待遇。
少年達は、残念そうに言った。
「いけねぇ! 緑だから、カエル魔王つかまえたと思ったら。まちがいかよ。なんだよ、この、アホっぽいの~」
「がっかりだぁ! クエスト失敗かよー。なんで、こんなのが入ってるんだよ~」
完全にハズレ扱いされている。
わざわざ誘拐しといて、この扱い。あんまりなので、おれは文句を言っといた。……この少年達は、真城さんのお知り合いと違って、怖くないし。
「なんだ、じゃないぞ。さっきから。丸い顔とかアホっぽいのとか、プップ様様に失礼だぞ。誘拐しといて、それはないだろー。ちゃんと、『ヤッター! 新しいモンスター、ゲットだぜ!』って、よろこんでくれなきゃ。てか、カエル魔王をねらってたんなら、あの方、誘拐されたがって、いっしょうけんめいに追いかけてきてたじゃん。あんなにアピールしてたんだから、ちゃんと、カエル魔王を誘拐してやれよー」
パイロットだった少年は言った。
「え? カエル魔王、追いかけてきてた? ぜんぜん、気がつかなかったな」
おれは、言っといた。
「カエル魔王、むっちゃ、叫んでたじゃん! 『アタイを誘拐しやがれー!』って。あれだけアピールしても無視されて、置いてかれちゃって、なんか、かわいそうだったぞ? ちゃんと相手してやれよ」
「コックピットにいると、外の音、聞こえないんだよ」
「前は見てたけど、後ろは見てなかったな」
と、少年達は言った。
「ま、いいや。ところで、なんでカエル魔王なんて誘拐しようとしてんの? あんなの誘拐したら、たいへんなことになるけど? てか、君ら、何者?」
と、おれがたずねると、少年達は、あっさり自己紹介をしてくれた。
「おれたちは、勇者学園の生徒、勇者候補生だ」
「学園長先生が出したクエスト『カエル魔王を捕まえろ!』をやってたんだよ」
勇者学園といえば、たしか、フーじぃの孫が通っているとこだよな。
「へー。勇者学園の生徒なのかー」
勇者学園の生徒達は、おれにたずねた。
「おまえこそ、何者だよ? カエル魔王の手下か?」
「おれは、平和を愛する未来の喜劇王・プップリンだ!」
「プッ!」
と、おれ+プップは、名乗っといた。
少年たちは首をかしげた。
「プップリン?」
「どっかで聞いたことあるような」
おれ、いつのまにか、新聞にまで出ている有名モンスターだからな。まぁ、少年達は、新聞とか読みそうにないけど。
でも、実は、おれはレアモンスターだ、ってことに気がつかれると、めんどくさそうだな。
だから、おれは、少年達が、ここにいるプップリン様こそ「噂の超レアモンスター」であることに気がつく前に、立ち去ることにした。
「おれに用がないなら、帰らせてもらうぞ。ちなみに、おれは、超弱いから、倒しても、経験値とか、全然もらえないから。あと、死に際に、状態異常の毒とか噴射しながら爆発する超いやらしいモンスターだから。だから、おれに攻撃とかはしないで、そっと野生に返すのが一番だぞ」
「うわ。最悪なモンスターじゃん。早くいなくなれよ。バイバイ」
「こんなのの相手してないで、早く、ワンダーバードの整備をしないと。怒られるぞ」
というわけで、おれは、建物の外にひっぱられていって、そこで、そっけなく、リリースされた。
さて、自由の身になったのはいいんだけど。
「ここ、どこ?」
「プ?」
おれは、戦闘機の格納庫みたいなところのすぐ外にいる。近くには、なんだか、ちょっと学校っぽい大きな建物が一つある。その他には、何もない。
ひたすら大地が広がっていて、その先に林が見える。
その林のさらに向こうの方に、ヒガシャ町の背の高い建物のさきっぽ、みたいなのが見えるような見えないような。
「ここ、かなり、町から離れてるぞ?」
短時間だったけど、戦闘機でビューンと、飛んできちゃったんだもんな。
これは、困った事態かもしれない。
距離的には、なんとか、歩いて帰れるかもしれないけど。
ここから、ヒガシャ町までの間には、きっと、モンスターが、うろついてるだろう。
激弱のおれ(+プップ)が、ひとり(2匹)で、町まで帰ることができるのか……?
「どうしよう……」
「プッ」
おれもプップも、戦闘力は、ほぼゼロだからな。
「でも、ここにいても、しかたないもんな。とりあえず、進むか」
「ププッ」
このままここにいて、誘拐犯たちの気がかわったりしたら、危ないからな。
とりあえず、おれは、町の方へむかって歩き出した。
そして、30分くらい後。おれは、この決断を、おおいに後悔していた。
「ギャーー!」
「ププーッ」
林の中で、おれ+プップは叫び、逃げ惑っていた。
おれと、プップが、大地を歩き出してすぐ、おれ達は、まず、頭がふたつあるライオンみたいなモンスターに襲われた。
必死に逃げ出した、おれだったけど。
追いかけられているところで、さらに、頭が3つあるハイエナっぽいモンスターに出くわして。
2頭ライオンと3頭ハイエナから必死に逃げたんだけど。
逃げに逃げても、次から次へと、プップリンに襲いかかる、おそろしいモンスター達!
おれかプップか、どっちがおいしそうに見えるのかわからないけど、肉食獣っぽいモンスターから、気色悪い肉食系植物モンスターまで、もう、とにかく、どんどん襲いかかってくる!
林に入ってからなんて、数歩あるくごとに、新たなモンスターが襲いかかってくる!
どいつもこいつも、凶悪そうな顔をしていて、でかくて鋭い牙や長い爪がひかっている。しかも、顔がいくつもあったり、腕が何本もあったりするし。
あんな牙とか爪とか、ちょっと、一本が、かすっただけで、おれもプップも、絶対、一撃で殺される。
いつもリーヌといっしょの時は、いっさいモンスターに襲われないから、
(この世界って、モンスター、あんまり、いないのかな)
と思っていたおれは、甘かったーーー!
モンスター多すぎ!
こんなにエンカウント率高いゲーム見たことない、ってくらいに、エンカウントしまくりだ。
幸い、まるでプップリンには「逃走」のスキルがあるかのように、なんとか、逃げられるんだけど。
逃げても逃げても、モンスターは、そのまま追いかけてくるので、どんどん、おれの後ろのモンスターの数が増えていく。
(なに、この、無理ゲー!)
逃げまどうおれの後ろに、総勢50匹くらいのモンスターの群れが続いている。
敵が1匹でも50匹でも、おれの敗北は、まちがいないけど、どんどん絶望的な状況にぃーーー!
「ギャーーー! 食われたくないー! こんなんなるんだったら、勇者学園の生徒達にとりいって、学園のマスコットキャラ的ペットにしてもらうんだったー!」
「ププー」
と、プップは不満そうに鳴いた。
「いやだって言ったって。おれに、野生は無理だぁー! おれなんて、弱肉強食世界の最弱肉だもんー!」
とにかく、おれは、必死で逃げ続けた。