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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-67 プリンセスはさらわれる

 しばらくして。バーやナイトクラブが並ぶ、にぎやかな歓楽街の入り口が見えてきた。さらに奥の方には、あやしげな看板もたくさん見える。まだ真昼間だから、営業時間に、なってなさそうだけど。

 おれが「ムフッ」と笑うと、リーヌが、ギロリと、おれをにらんできた。

 なにはともあれ、そんな先まで行く前の、すぐそばの路上に、すごい人だかりができていた。

 アーチの前に大きな橋があって、その周辺に人だかりができている。

 わいわいがやがや、みんな、なにかを見物してるっぽい。

「この感じ。なんか、すでに、戦いがはじまってる雰囲気っす」


 人混みをかきわけて進むと、おれが予想した通り、大きな橋の上で、シロとシャバーが対峙していた。

 シャバーは、シロに言った。

「やれやれ。俺が勝ったら、約束通り、義流亀酒ぎるかめしゅをくれるんだろうな」

「無論だ。ここにある」

と言って、シロが酒の入ったひょうたんを手に取った。


 ひとごみの中にいるおれには、まわりから野次馬たちの話し声が、聞こえる。

 真昼間なのに、どっかからか、ぐでんぐでんな酔っぱらいの声が聞こえた。


  「こりゃ、ヒックリ! 幻の酒、義流亀酒ぎるかめしゅだってぇ!? おれっちが飲んでやるー! ヒック。もってこい、もっともってこーい!」

  「シャーッ! ヒックリ、おまえ、すっかり、よっぱらってやがるっしゃーねーか!」

  「くりが飲まずにいられるか! ヒック」

  「シャーッ! 飲め、飲め、いやなことは全部、飲んで忘れっちまえーっ! シャーッ!」


(だいじょうぶなのか? こんな時間から、酔っぱらってて。夜になる頃には、どうなっちゃってんの?) 

 さて、酔っ払いの声がするのと反対側には、屈強な3人組の男たちがいて、その会話も聞こえた。


  「おい、あれ、賞金稼ぎのシロだろ?」

  「相手は、ジョーか。見物だな。どっちに賭ける?」

  「ジョーに決まってるだろ」

  「俺もジョーだ」

  「俺も。賭けにならないな」

  「ジョーが勝てないのは、あのクソガキくらいだからな」

  「そういや、あのガキ、どうしたんだ? 最近は見かけないな」

  「何年前の話だよ。もうガキじゃないだろ」

  「時間がたつのは、早ぇなぁ。あのガキ、とんでもない美女になってたりな」

  「顔だけは、よかったもんな。だけど、どんな美女になってようが、俺は、アイツはかんべんだぜ? 命がいくつあっても足りねぇよ」

  「つーか、あのクソガキ、女だったのか!?」

  「俺も信じられなかったが、そうらしい」


(なんの話かわからないけど、とんでもない子どもがいたみたいだなー)

と、おれが思っていると、どこかから、若い女たちの声も聞こえた。


  「ちょっとぉ。ジョーは、なにをやってるのぉー?」

  「ケンカよ、ケンカ」

  「まーたぁ~?」

  「あとで義流亀酒をおごってくれるかもよー?」

  「ジョー、早く終わらせちゃってよ~!」


(ムフフフー。お姉さん達、どこにいるのかわからないけど、なんだか、とても露出の多いかっこうをしてそうな声だぞー)

と、おれが心の中で思っていると、なにも言ってないのに、リーヌが、ギロリとおれをにらんできた。

「な、なんすか? おれは、何もムフフとか思ってないっすよ?」

「じゃ、なんで鼻息あらいんだ? エロヒコよ」

と、リーヌは、おれを信じていない目で言った。

「ゴ、ゴブリンの鼻息は、こんなもんす。決して、断じて、シャバーと一緒に、ムフフなお姉さん達にはさまれてジュースを飲んでいたら、不可抗力なハプニングでムフフフフーな状況になったり~な妄想をしてたりしないっす!」

 そこで、プップが鳴いた。

「プッププププゥ~」

「ほう、ほう。エロヒコはエロいことを妄想しすぎてスタミナが減りまくってるとな」

「えぇ!? なんで、プリケロさん、プップの言葉がわかるようになってるんすか!?」

「プップの言うことはわかんねーけど、おまえの考えることは、わかるんだよ! つーか、おまえが自分でなに考えてたか、バラしてるだろ! なんで、女の声を聞いただけで、そこまで妄想できるんだよ!」


 さて、シャバーは、準備運動のように首を動かすと、大剣を手に取った。

「義流亀酒がかかってるっていうなら、本気でいくしかないな」

「望むところ」

 シロが、2本の刀の柄に手をやった。……リーヌのせいで、四刀流のシロは刀が2本足りないままのようだ。


 橋の上で、二人の剣士の決闘がはじまりそうだ。

 なんだか、ふたりとも、この世界にそぐわない感じに、かっこいい。

 そこで、おれは、おれ達がここになんで来たのか、思い出した。

 おれ達は、シャバーに、「油断しちゃだめだ。シロは、見た目は子犬だけど、強いぞ」と、教えようと思ってきたんだった。

 だけど、シャバーは本気っぽいから、なんだか、必要なさそうだ。

 おれは、いちおう、リーヌにたずねた。

「プリケロさん。シャバーは本気で戦うつもりみたいっすけど。どうするっすか?」

 リーヌは、きっぱりと言った。

「タイマンに手出しは無用だな」

「じゃ、なにもしないで見物するってことで、いいっすか?」

 リーヌは、うなずいた。

「おう。でも、死にかけたら、助けに行くぞ」

「そうっすね。だいじょうぶだとは思うっすけど。捕まったり殺されそうになったら……」

と、おれが言っていると、リーヌが続きを言った。

「見てられねぇからな。モフモフがピンチになったら」

 おれは、思わず、叫んだ。

「シロ!? シャバーじゃなくて!? なんで、シロを助けるんすか? おれたち、シャバーを助けにきたはずじゃ? てか、プリケロさん、仲間を裏切っちゃダメとか、さっき、おれに散々言ってたっすよね? たしかに、そういえば、やたらと、モフモフ、モフモフ、いっぱい言ってたっすけど」

 リーヌは頭をかいた。

「い、いけね。つい、モフモフの魔力にやられちまったぜ。あんなにモフモフだからな。でも、仲間をたすけねーといけねーからな。シャバーを助けるぞ。いくら、相手がモフモフでもな。仲間は一番大事だからな。いくらモフモフが、あんなにモフモフでもな」

 ……なんか、リーヌのやつ、なんやかんやいって、とっさに、モフモフの魔力に負けて、シロの方を助けそうなんだけど。

 結局、なにしにきたんだろ、おれ達。



 さて、いざ、シャバーとシロの戦闘が始まりかけた、その時。

 なぜか、空から、妙に勇ましい音楽が聞こえてきた。


  ワンダーバード~~♪ 魔王を狩るヒーロー♪ ワンダーバード~~♪ この世の秩序を乱すのは誰だー♪ 魔王だー!!! ワンダーバード~~♪ 悪い魔王を倒すぞー♪ 倒すぞー!!! ワンダーバード~~♪


 おれは、音のする方を探しながら、つぶやいた。

「なんすか? この音楽? せっかく、シャバーとシロのかっこいい戦闘が見られるかと思ったのに。珍妙な音楽で、すっかり、ふんいきが台無しっす」

 変な音楽は、空から聞こえてくる。

 おれは、音源を発見した。

 空を、犬の顔がついた戦闘機らしきものが、大音量で妙にキャッチ―な音楽を流しながら、飛んでくる。

 どう見ても、戦闘機の先についている、たれ耳の巨大な犬の顔は、飛行機としての空気抵抗とかそういうものの邪魔になりそうなんだけど。


 おれの横では、

「ワンダーバードー♪」

と、つられて、リーヌが、歌っている。

「プリケロさん、この歌は、魔王を倒すって歌っすよ? あきらかに、プリケロさんの、敵なんすけど。にしても、なんか、あの犬の顔、みおぼえが……」

と、つぶやきながら、おれが戦闘機っぽいのを見ていたら。


 犬型戦闘機っぽいのは、どんどん高度を下げ、低空飛行で、こっちに、むかって、つっこんでくる!

「げぇっ、あれ、こっちにむかって、つっこんでくるっす! 逃げなきゃっす!」

 おれ達の周囲の野次馬たちが、クモの子を散らすように、逃げ去って行った。 

 おれも、逃げようとした。

 だけど、おれは、なにかにつまづいて、ずっこけた。

 地面に、だれかが、ねっころがっていたのだ。

「なんでこんなとこに、寝っ転がってるんだよ!」

と、おれが叫びながら、そこにいる奴を見ると。


 そいつは、ねっころがったまま酒瓶をもちあげ、おれにむかって、どなった。

「シャーッ。そっちからぶつかってきて、なんだ、おめぇ。おわびに酒を、もってこい!」

 おれに、文句を言ってるのは、サメだ。

 よっぱらって、ぐだをまいているサメだ。

「陸地にサメ!? てか、よっぱらい?」

「シャーッ! なにいってやがんだ。おれさめは、ただのサメじゃねぇ。ノンベエザメのジンペエさめだ! おれ様が泳ぐのは、酒の海だけだっ。シャーッ!」

と、酒瓶を手に、よっぱらいサメは言った。

「ジンベエザメのジンベエじゃなくて、ノンベエザメのジンベエ?」

(また、しょうもないモンスターがいるもんだなぁ。こいつ、おれ以上のダメ・モンスターっぽいぞ?)と、おれが心の中でつぶやいていると、ノンベエザメは、おれにむかってどなった。

「シャーッ! おれは、ジンペエだ! 名前をまちがえやがって。おわびに、酒をもってこーい!」

「ジンペエ? あ、そうだよな。ジンベエって言ったら、やっぱ、かっこいい魚人空手の達人だもんな」

 おれが、そう言ってると、ジンペエの横から、声が聞こえた。

「ヒック。おまえ、ヒックリなアホ面だな! こりゃ、ヒックリ!」

 そこにいたのは、栗をさかさまにしたみたいな頭で、胴体にはイガイガがたくさん生えた変なモンスターだ。

「栗? 栗人間? てか、くさっ! 酒くさっ!」

 こいつら、どっちも、超酒臭くて、超よっぱらってる。


 さて、おれが、この珍妙なよっぱらいモンスター2匹に気をとられていた、その時。

 犬型戦闘機から、なにかが射出された。

「うわぁーーー!」

「プ?」

「シャーッ!」

「こりゃ、ヒックリ!」


 気がついた時には、おれは網の中にいて、すごい風圧を受けながら、飛行中だった。

 おれの腕の中には、おれの頭からずり落ちたプップがいる。でも、ヒックリとノンベエザメはいない。

 おれが、網のなかで、もがいていると、地上でこっちにむかって酒瓶をふって、

「こりゃ、ヒックリ! アホ面がつかまっちゃったぞ。こりゃ、飲むしかねぇ。ヒック」

「あばよ~。アホ面~!」

と言っているヒックリとジンペエが見えた。

 どうやら、おれとプップは、戦闘機から射出された網で捕獲されてしまって、現在、飛行中のようだ。

 大きな橋の上で、真顔で、こっちを見上げているシャバー、シロも、見えた。

 そして、こっちにむかって、こぶしをふりあげ、走っているリーヌの姿も。


 リーヌのどなり声が聞こえた。

「ぬわんで、いつも、いつも、おまえが、さらわれるんだぁーーー! さらわれるのは、プリンセスの仕事だろーー! アタイがプリンセスどぅわー! 負けてたまるかぁ~~~! アタイを誘拐しやがれぇーー!」

 自称お姫様が、犬型戦闘機を追いかけて、爆走している。

 でも、リーヌは、戦闘機のスピードにはついてこれなかった。じきに、誘拐されたい自称プリンセスの姿はみえなくなった。

 こうして、おれとプップは、拉致された。


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