4-66 シロのたずねびと
フーじぃを管理棟に残し、おれ達はサファリパークを出ることにした。
おれ達は、すみやかに、門のところに戻った。これ以上、リーヌがうろうろして、さらにサファリパークを破壊したら、申し訳なさすぎるから。
壊れた門から外に出たところで、リーヌが叫んだ。
「モフモフどぅわ!」
なぜか、サファリパーク前の広場を、着物を着た白いモフモフの犬侍が歩いている。
「あ、シロっす。そういえば、シロはウェスタで子どもたちに、ヒガシャへの行き方をきいてたっす。無事に、ヒガシャについてたんすね」
それにしても、シロは、いつ見ても、かわいい子犬にしか見えない。
おれ達が見てると、その視線に気づいたのか、シロは、おれ達の方へ近づいてきた。
「そこの方」
シロは、おれ達に話しかけてきた。今のところ、おれ達の正体に気づいてはなさそうだけど……。
「人探しをしているのだが、ひとつお尋ねしてよいか?」
と、シロは言った。
「ほうほう。なんでも聞け。そのかわり、もふらせてくれ」
と、リーヌは、言った。
「それはダメっす! プリケロさん、ぜったいに、ダメっす!」
もふった瞬間に、宿敵・大魔王リーヌだって、バレるからな。もふって大ダメージを与えるやつなんて、他にいないから。
あせりまくりのおれのことは無視して、シロは、一枚の紙をさしだした。
それは、シャバーの手配書だった。
「この男。『狂戦士ジョー』という男を探している。この町によく出没すると聞いたのだが。見かけていないか?」
おれは、リーヌがよけいなことを言って正体がバレる前に、シロに大急ぎで教えてあげた。
「この人なら、酒場に行ったっすよ。たしか、フロル酒場とか言ってたっす」
「かたじけない」
と言って、シロは去って行った。
「ふぅー。今回は、うまくやりすごせたっす」
と、おれが汗をぬぐいながら、小さな声でつぶやいていると。
ホブミが、おれの首をつかんでゆすりながら、きつい口調で、おれを責めた。
「賞金稼ぎのシロに賞金首のシャバーさんの居所を教えるなんてー。このドアホゴブリン、なにを考えてるですかーっ」
おれの頭には、プップがのっているから、ホブミが前後におれをゆすると、プップが前に後ろに、がくんがくんゆれる。おれの首にかかる力と、プップがしがみついてる髪の毛への衝撃は、かなりのものだ。
「ギャーー! 首がぁーー! おれのシャーペンのように折れやすい首がぁーっ! 折れるぅー! あと、はげるぅーー!」
「ポキポキに折ってやるですぅー! ドアホゴブリンは、はげちらかして命散らしてしまえばいいのですぅーー!」
と、ののしりながらも、ホブミは、手をはなした。
「ふぅー。まったく。シャーペンのしんと違って、おれは、替え芯とかない、一点もののモンスターなんだから、もっとていねいにあつかってくれよ~。だけど、そういえば、シロはあんな見た目だけど賞金稼ぎで、シャバーは良い奴だけど賞金首だったんだっけ」
と、おれがつぶやいていると、リーヌは、両手を空中でニギニギうごかしながら、言った。
「おい、いくらモフモフがかわいすぎて、モフモフの魅力に勝てねぇ時でも、仲間を売るのは、いけねーぞ。でも、あんなにモフモフなモフモフだからな。しかたねーかもしれねーけどな。モフモフだからな。でも、仲間を売るのは許されねーぞ。でも、モフモフだからな。モフリてぇ~~~!!」
リーヌの叫びの余韻の中、おれは言った。
「すっかり忘れてたっす。でも、どうせ、シャバーなら、シロくらい返り討ちにできるんじゃないっすか?」
すると、ホブミは言った。
「シロは、見た目はかわいくても、凄腕なのですー。姫様とくらべると、弱弱しい子犬のように見えてしまいますが、あれでも、かなり強いのですー。いくらシャバーさんでも、簡単には勝てないのですー」
うーん。おれ、天文学的に桁外れに強いリーヌに慣れすぎて、感覚がおかしくなってたのかも。
しかも、リーヌは、あっさり断言した。
「おう。シャバーは、きっと、あのモフモフに勝てねぇぞ」
「えぇ? でも、シャバーって、かなりタフで強いっすよね? プリケロさんに殴られても生きてるから、魔王第二形態以上のタフさっすよ? いくらシロがS級レベルの賞金稼ぎだったとしても、勝てるっすよね?」
リーヌは言った。
「シャバーは、強いぞ。けど、シャバーは女と子どもは傷つけねぇ。子犬相手に本気はださねーだろ」
「シロは子犬じゃないらしいけど、たしかに、子犬に見えるっす。じゃあ、もともと接戦な上に、シャバーは手加減しようとするから、油断して負けちゃう可能性があるってことっすか?」
「おう。アタイはモフモフの勝ちに、明日のおやつ代を賭けるぜ。おまえは、どっちにすんだ?」
と、リーヌは気軽に言った。
「おやつ代を賭けてる場合じゃないっす! シャバーがシロに倒されちゃったら、おやつ代なんてもらえないっす! てか、今晩の宿代すらないっす! とにかく、早く、シャバーを助けにいかないと!」
「ぜんぶ、先輩のせいですがー?」
と、ホブミが白い目でおれを見てきたけど。
おれは、ホブミは無視して、リーヌに言った。
「プリケロさん、シャバーんとこに急いで行くっす!」
「おう。今度こそモフるぜ!」
というわけで、おれ達は、シャバーのいる酒場に向かうことにした。シロの姿は、もうとっくに、見えなくなっていたから。
そして、おれ達は、フロル酒場をめざして、大急ぎで進んでいったんだけど。
しばらくして、おれ達に見えてきたのは……。
「お、モフモフだぞ?」
リーヌは、そう言った。
でも、リーヌが見つけた生き物は、白くなくて茶色い。
「こいつら、モフモフなブタか?」
と、首をかしげるリーヌに、おれは教えてあげた。
「あれは、カピバラっす。カピバラかわいいっすねー。でも、カピバラって、実は、毛は固くてゴワゴワしてるらしいっす。……って、プリケロさん、ここ、サファリパークっすよ!? おれ達、なぜか、サファリパークの裏手に来ちゃったっすよ!?」
おれ達3人の中で、フロル酒場の場所を知っているのは、リーヌだけだから、リーヌに案内させたら、こんなことに。
「おっかしーなー。こっちだと思ったんだけどなー。よし、あっちだな」
と、言いながら、リーヌは町の外の荒野に向かって進もうとしている。
「プリケロさん、絶対、そっちじゃないっす! そっちに進んで行ったら、酒場にたどりつくまでに、数年はかかりそうっす! ……こうなったら、ホブミ、どうにかしてくれ」
と、おれは、だめもとでホブミに頼んだ。
いくらホブミでも、知らない酒場の場所は、わからないだろうけど。でも、リーヌに案内させるよりは、ましな気がする。
ホブミは、地図を取り出して、呪文を唱えると、リーヌにたずねた。
「姫様。その酒場は、歓楽街のアーチの近くですかー?」
「おう。アーチのすぐ外だぞ」
「わかりましたですー。こちらですー」
と言って、ホブミは、あっさり案内をはじめた。
うーん。はじめから、この万能メイドに頼んどけばよかったな。
てか、いくらリーヌが自信満々に「フロル酒場になら何度も行ったぜ。アタイにまかせろ」とか言っても、まかせるんじゃなかった。
リーヌなんだから、何度行ったって、ぜったい、場所をおぼえているはずがない。