4-64 フージィサファリパーク1
おれ達は、占い婆のテントから出て、サファリパークの入り口に戻った。
リーヌは、あきらめきれずにサファリパークを見ている。
「ちょっと、入ってみようぜ?」
と、案の定、リーヌは、言った。
「それ、不法侵入っす」
と、おれが指摘すると、リーヌは言った。
「フホー。そんなに新鮮な牛乳なのか? とにかくアタイは入るぞ」
「牛乳じゃないっす。てか、新乳って、聞いたことないっすよ。新米じゃないんだから。とにかく、いけないことなんだから、どうしても入るっていうなら、せめて、見つからないように、こっそり……」
「おう。こっそり入るぞ」
と、言いながら、リーヌは、ドカンと一発、門をたたいて、吹き飛ばしてしまった。
「なにやってるんすか! こっそりどころか、大音量で、おもいっきり、爆破しちゃってるじゃないっすか!」
「力かげんをまちがえちまったぜ。てへっ」
と言って、リーヌは舌を出した。
「テヘペロじゃないっす! なんか、カエルだとテヘペロが似合うっすけど。こうなったら、もう、見つかるまえに、逃げるしかないっす」
と、おれが言ってると、リーヌは、壊した門のところから、堂々と、サファリパークの中に入っていってしまった。
「あーあ。門の破壊に、不法侵入……また、罪が増えていく……」
と、おれがなげいていると。
「姫様のなさることに、罪などないのですー。きっと、神々が、この門を壊せとおっしゃってたのですー」
と、言いながら、ホブミはリーヌの後に続いた。
(こいつら、ひどすぎる)
と、思ったけど。
「おい。ゴブヒコ、早くこいよ!」
と、リーヌが大声で呼ぶので、これ以上リーヌに大声を出させないために、おれは、いそいで、サファリパークに入った。
あーあ。シャバーといっしょに、酒場でのんびり平和に、大人な時間をすごしたかったなぁ……。
そういうわけで、おれ達は、サファリパークの中に入って、どんどん、歩いて行ったんだけど。
なぜか、動物が見つからなかった。
「なんでいねーんだ? ふわもこアニマル」
リーヌは、金網を破壊して進みながら、首をかしげた。
「ふしぎっすね。閉館中は、奥にひっこんでるんすかね。てか、サファリパークはつぶれちゃったから、動物はどこかに売り払われちゃったのかも……」
「ぬわにぃ!?」
おれは、そこで、もうひとつ大事なことを思い出した。
「だけど、そういえば、サファリパークって、かわいいモフモフアニマルだけじゃなくて、危険でワイルドな猛獣がいるイメージっすよね。しかも、人間が、がんじょうな車にのって、猛獣が自由に歩いているようなイメージっす。ほら、こういう道の周辺を、ライオンの群れとかが自由に歩いている感じっす」
おれ達は、金網で囲まれた区画の、道路の上にいるのだ。
てか、さっきからリーヌは、金網をむんずとつかんでは引き裂いたり、蹴り破いたりしながら進んでるんだけど。これ、もし猛獣がいたら、かなり、まずいんじゃ……。
その時。プップがおれの頭から、プップーっと、浮かんで飛んでいった。
「あれ? プップ?」
おれが、飛んでいくプップをながめてから、地面に視線をおろすと。
地面に、三本の長い爪をもつ影が見えた。
そして、なんか殺気と、「グゥァーーーー!」という、唸り声がする。
「ギャーーー! やっぱり猛獣が出たぁーーー! ライオン!? クマ!? それとも、もっと獰猛なモンスター!?」
叫びながら、振り返ったおれの目に映ったのは……。
うなり声をあげながら、巨大な三本爪の……くわを振りかざす、人間のじぃさんだった!
おれは、ほっとしかけたけど、じぃさんの目は、どう猛なモンスターのように血走っている。
「貴様ら! よくも! またぬけぬけと戻ってきたな!」
じぃさんはものすごい剣幕で、こっちにむかって、くわをふりまわしながら、どなっている。
あんな一撃をくらったら、おれは、殺される! たとえ、相手が、腰の曲がった高齢者でも!
「すんません! すんません! 勝手に侵入してすんません! でも、おれたちが入ってきたのは、今日がはじめてっす!」
おれは反射的に謝りまくった。
じぃさんは、顔を真っ赤にして、どなっている。
「このカエルどもめ!」
「すんません! カエルですんません! おれとホブミはゴブリンだけど。みんな緑ですんません! カエルっぽくてすみません!」
おれは謝り続け、じぃさんはどなり続けた。
「残った動物には、指一本触れさせんぞ!」
「すんません! 動物になんて、ぜったいに、指一本……触れちゃだめっすよ、プリケロさん?」
と、おれがリーヌに言うと、リーヌは不満そうな声をあげた。
「えー」
「『えー』、じゃないっす!」
そんなことを言っている間に。
「ゆるさんぞ! カエル人間!」
怒り狂うじぃさんは、くわをふりまわして、リーヌに襲いかかった。
おれは、思わず悲鳴をあげた。
「ギャーーー! じぃさんが、危なーいっ!」
「おい。アタイの心配をしろよ」
と、リーヌは言った。その頭には、バッチリ、ザックリ、ガッチリ、じぃさんが振るったくわが、刺さっている。
「だって、プリケロさんは最強だから……、って、ギャァーーーー!!! 頭にくわが刺さってるぅーーーー!!!」
すっかり、ホラーな見た目のカエル人間リーヌに、おれは、ふるえあがった。
「あんだよ。そんなに、びびんなよ」
と、言いながら、リーヌは、頭にくわが刺さったまま、こっちに振り向いた。
そのひょうしに、くわの柄が、ぶんっとふりまわされ、空気を切り裂き、なんかスラッシュ系っぽい攻撃が放たれ、おれの髪の毛の先端と、遠くの金網を切り裂いていった。
おれは、叫んだ。
「ギャーー! なに放っちゃってるんすか! もしも、おれが、ゴブリン村の平均身長だったら、おれの顔が半分になってるとこっす! 人間男の平均身長だったら、顔なんて、欠片も残ってないっすよ! ……あー、おれ、チビでよかったぁー」
「よかったな」
と、リーヌは悪びれずに言った。
「よくないっす! たしかに、チビの方が、攻撃の的は小さいっすけどー、おれは、高身長になりたいんすから。せめて、プリケロさんの元の身長くらいに~」
「そうか? ちっちぇえ方が、かわいいぞ?」
と、リーヌは言った。
「女の子はそうっすけど。だって、女子は自分より背が低い男はイヤだとか、言うじゃないっすか。まぁ、おれみたいに、顔がブサイクだと、もうモテに身長とか関係ないかもしれないっすけど」
リーヌは、あっさり断言した。
「おう。そのブッサイクな顔がでかくなっても、ぜってー、モテねぇな」
「え? 顔がでかく? いや、おれは、8頭身の高身長の話をしてたんすけど。でも、たしかに、この世界で、『神様。おれの身長を高くして♡』とか、お願いしたら、顔だけ大きくされそうっす! このブサイクな顔が、1メートルくらいとかあったら、もうバケモノの中のバケモノっす。おれ、やっぱ、小さくてよかったー。……てか、プリケロさん、頭にくわが、むちゃくちゃ刺さってるっすけど、痛くないんすか?」
「痛くはねーな」
リーヌは、頭にささっていたくわを、手で、ひょいっと引っこ抜いて、放り投げた。飛んでいったくわが、盛大な音を立てて、そこにあった小屋を粉砕した。
リーヌの頭からは、血も出ていない。傷一つない、ツルツル緑なカエルお肌だ。
「さすがプリケロさん。くわが刺さっても無傷なんすね」
そこで、ホブミが、じぃさんに言った。
「おじいさん、なにか、誤解されてるのですー。私たちがここに来たのは、今日はじめてなのですがー?」
「な、なに……? では、カエルちがいか……」
じぃさんは、へなへなと、地面にへたりこんだ。
おれは、心配になって、じぃさんに、たずねた。
「だ、だいじょうぶっすか? まさか、いつの間にか、プリケロさんに反撃されて、大ダメージくらっちゃってたりしたんすか?」
「ゴブヒコ、アタイをなんだと思ってんだよ。アタイはなにもしてーねだろ?」
と、リーヌが言うので、おれは正直に答えた。
「プリケロさんをなんだと思ってるか、って……。歩く核爆弾か、人間の形をしたメテオ? とにかく、プリケロさんは、なにげなーく、周囲にダメージをあたえまくるんすから。さっきから、何気なく、あちこちぶっ壊してるし。それに、ほら、なにもしなくても、シロの刀だって、グニャグニャにしちゃったじゃないっすか。だから、プリケロさんに襲いかかった、じぃさんも、グニャグニャにされちゃったのかもって、思ったんす」
と、おれが言ってると、じぃさんは言った。
「わしは、だいじょうぶだ。すこし無茶をしすぎただけだ。わるかった。カエル違いで、くわを突き刺してしまって」
おれは、言っといた。
「それ、ふつうだったら、ひどく悪いことなんすけど。てか、殺人っすけど。今回は、相手がプリケロさんだから、ぜんぜんOKっす」
ホブミが言った。
「とりあえず、おじいさんに、どこかで休んでもらうのですー」
「すまん、そこの、管理棟まで、つれて行ってもらえないか?」
と言って、じぃさんは、けっこう遠くに見える建物をゆびさした。
じぃさんは、すっかり、へたれこんでしまって、自力で立てそうにない。
「先輩のお仕事ですー。おじいさんを運んでくださいですー」
と、ホブミが言った。
「え? おれ? ホブミが……やるわけないか。しかたがないな。プリケロさんなら、簡単だけど、なんか、まちがって、殺しちゃいそうだし」
おれは、じぃさんを背負って、管理棟に向かった。
途中、何回か、スタミナ切れで倒れそうになりながら。
そのたびに、リーヌが、「アタイが運ぶか? じぃさんの1匹くらい指1本でもてるぜ?」って言ってくれたけど、じぃさんの死亡フラグのような気がしたので、おれは、がんばった。