4-63 占い
おれたちは、あちこちにある「サファリパークはこっち」の看板を頼りに歩き続けた。そして、しばらくして、町はずれにあるサファリパークへ、たどりついた。
だけど、サファリパークの門が閉まっている。
そして、門には、「閉館」と書かれた板がぶらさがっている。
「閉館っすね……」
「ヘーカン? このサファリパークは、ヘーカンと言うのか」
と、リーヌが能天気に言ってるので、おれは説明した。
「おやすみってことっす。今日は閉まってるんす。じゃ、しかたがないから、シャバーのいる酒場に行きましょー。ジュースでもおごってもらうっす」
でも、リーヌは、だだをこねた。
「アタイはサファリパークに行くんだーい。モフモフをモフるんだぁー」
「あんたがモフったら殺しちゃうからダメっす! べつに、サファリパークには、明日、またくればいいじゃないっすか」
と、おれが言ってると。
「むだじゃ。サファリパークはつぶれちまったよ」
サファリパーク前の広場にあったテントから、なんかあやしげな婆さんが出てきて、そう言った。
「ぬわにぃ! つぶれちまっただとー!? ……ほんとうは、もっと背が高かったのか?」
リーヌは首をかしげた。
「あの2建ての建物は、4階建てだったんすかねー。って、ちがうっす! そういう、つぶれかたじゃないっす」
と、おれが言ってると、婆さんは言った。
「資金が底をついたらしい。もう営業することはないだろうね」
「せちがらい世の中っす」
だけど、
「エイギョーはしねーのか? んなもん、気にしねーぞ。モフモフがいればいいんだ。さぁ、サファリパークに行くぞ」
と言いながら、リーヌはサファリパークにむかって歩き出そうとした。
「営業してないってことは、入れないんす! プリケロさんって、理解したくないことは、ぜったい、理解しないっすよね。とにかく、サファリパークは、たぶん、もう永遠に開園しないんす。だから、あきらめてくれっす」
リーヌはじたばたした。
「あきらめられるかー! アタイはモフモフと一緒におどるんだーい!」
と、言いながら、リーヌは、元気におどりだした。
「いやいや、サファリパークで、動物といっしょに踊る? そんなイベント、サファリパークにないでしょ? ……ないよね? でも、モンスターは、踊れるか……。おれは、踊れるもんなー」
おれは、自信がなくなってしまった。この世界のサファリパークには、モンスターと一緒にダンスするイベントがあるのかも……。
「とにかく、サファリパークは閉まってるんすから。わがまま言わないでくれっす」
おれは、リーヌにつられて、おどりながら、そう言った。
そこで、婆さんは、踊っているおれ達に言った。
「おぬしら、アホみたいにおどっとらんで、占いはどうだ? 格安にしておくぞ」
どうやら、この黒いとんがり帽子をかぶった婆さんは、占い師らしい。言われてみれば、たしかに、どこかのゲームやマンガで見たような、いかにもな見た目の占い婆だ。
「占い?」
リーヌはすこし興味をもったようだ。
でも、おれは、過去のゲーム経験から言っといた。
「いやいや。占い師なんて、どうせ、ろくなこと言わないっすよ。おれ、全然、イベントが起こらなくて行きづまっている時に、わらにもすがる思いで、こんな見た目の占い師に聞いたことが、何十回もあるっすけど。何回聞いても、わかりきった行き先しか教えてくれないんす。『いや、そこに行くためにどうするのかが、わからないんだけど! そこに行きたくても、いけないから困ってるんだけど!』って感じになるだけっす」
でも、婆さんは言った。
「そんなプログラムされたセリフしか言いそうにない、どこぞの三流占い師といっしょにするでない。わしの専門は恋占いじゃ」
「なに? 恋占い?」
意外なことに、リーヌは興味をもったようだ。
「おもしろそうですー」
もちろん、ホブミは大好きそうだ。
「えー? 恋占い?」
と、おれは言ったんだけど。
「占いは乙女のたしなみだぜ」
と、リーヌは言った。
「いや、おれは、乙女じゃないし」
と、おれが言うと、リーヌはニヤニヤしながら言った。
「なに言ってんだ。アタイよりプリプリ純情乙女なくせに」
「全然プリプリでも乙女でもないっす! ゴブゴブな漢っす! ……たしかに、漢っぷりでは、プリケロさんに負けるかもだけど~」
なにはともあれ、おれたちは、占い婆のテントの中に入った。
「では、まずは、先輩からですー」
「おう。プリプリ☆プップリンは、一番の乙女だからな」
と、ホブミとリーヌが言うので、おれは、うながされるまま、水晶の前の椅子に座った。
占い婆は、水晶の中をのぞきこんだ。
「うむ。見えるぞ。見えるぞ。おぬしは、旅にでたのだな。恋を求め、運命の相手を求めて、新しい世界へと」
おれは、ちょっとドキドキしてしまった。
占い婆は、水晶を見ながら、興奮した様子でしゃべりつづけた。
「うむ。おぬしの恋愛運は、最高MAXじゃ!」
おれは、それを聞いて、びっくりした。
「え? まったく、恋愛と無縁な感じのおれの恋愛運が、実は、最高MAXなの!?」
占い婆はうなずいた。
「うむ。正しい道を進んでおるぞ。このまま進めば、おぬしの悲願は成就するだろう」
「え? そうだったの!? おれに、ついに、彼女が!?」
占い婆は、力強くうなずいた。
「うむ。このまま、そのゴブリンに乗って進めば、まちがいなく……」
「え? 『ゴブリンに乗って』? 『ゴブリンになって』のまちがいっすよね?」
と、おれは、聞き返した。
でも、占い婆は言った。
「うんにゃ。ゴブリンは乗り物じゃ。このまま、そのゴブリンに乗っていけば、目的の地にたどりつき、無事、つがうことができるだろう」
おれは、そこで、理解した。
「プップかーい! 占ってもらってるの、プップかーい!」
「なにかおかしいか?」
と、婆さんは真顔で問い返してきた。
「ププッ」
と、プップも当然だというように鳴いた。
「なにもおかしくないのですー。プップリンは頭部こそが本体なのですー」
と、おれの後ろから、ホブミが言った。
「えー? たしかに、ふつうは、胴体よりは、頭が重視されるけど。それに、プップリンっていったら、リンの部分より、プップの部分の方が、大事っぽいもんなー。じゃ、占いはこれでいいのか? でもー、てことは、おれ、ただのプップの乗り物かよ~」
「プッ」
それにしても、プップは、婚活のために、おれの頭にのってたのかー。
まぁ、あの山に一匹でいたら、恋人、いや、恋プップ? は見つからないもんなぁ。なにしろ、世界に数匹しかいないらしいもんな。レアモンスターは、出会いがなくて、たいへんだ。
「さてと。次はだれじゃ?」
結局、おれは、占ってもらわずに終わった。……まぁ、恋占いなんて、おれは、興味ないけど?
おれは席をどいた。
「では、次はホブミがお願いするですー」
と言って、ホブミが椅子に座った。
占い師は水晶をのぞき込み、両手を動かした。
「うむ。うむ。見えるぞ、見えるぞ。……うむ。愛が見える。まるで信仰のような大きな愛が」
占い婆はそこで、一呼吸おいた。
「だが、おぬしの恋愛運は……これまで通り、最悪じゃ。せめてもの救いとして、最悪MAXは通り越したぞ。以前よりは、若干マシじゃろう。それでも、しばらくは、どんな恋も、成就せぬな。その代わり、勉強運は、最高MAXじゃ。おぬしは、この世界の真理にすら、近づけるかもしれぬ」
「なるほどなるほどー。残念だけど、しかたがないのですー。では、次は姫様ー。どうぞですー」
と言って、ホブミは立ち上がった。
「よし、たのもー」
リーヌが座った。
占い婆は水晶を見ながら、険しい表情になった。
「うむ。うーむ。これは、不吉な……。底知れぬ混沌が見えるぞ」
占い婆は、いっしょうけんめいに、水晶をのぞきこんでいる。
「おぬしは、迷っている。迷いに迷っておる。そして、その迷いは、破滅をもたらすかもしれぬ」
そこで、占い婆は、さらに呪文を唱え、全身全霊をこめた様子で、水晶をのぞいた。
「うーむ。ひとりは、おぬしとは対極にあるもの。対極であるがゆえに、強く惹かれる。もうひとりは、おぬしと並び立ち、支えてくれるもの。深い絆と……罪悪感のような鎖が見えるのう。そのせいか、おぬしは、どちらも選べずにおる。そして、この先に見えるのは不吉な未来じゃ……。迷いに迷ったおぬしが、望んでいるものは、結局、そのどちらでもない。それは、おぬしが、ずっと願い、探し続けてきたもの。しかし、けっして手に入らないもの。手に入れようとすれば、永遠の暗闇と、世界の崩壊が、待って、おる……」
そこまで、言うと、占い婆は、力尽きたように、テーブルに、たおれこんだ。
「死、死んじゃったんすか?」
と、おれがおそるおそる、占い婆のようすをのぞきこむと、ホブミが言った。
「占い師さんは、生きてるのですー。精神力がつきちゃっただけですー」
「なーんだ。プリケロさんは、占わせただけでも、大ダメージを与えるのかと思っちゃったっす。でも、恋占いのはずが、世界の破滅の預言っすか? たしかに、プリケロさんが本気出したら、国のひとつやふたつ破壊できそうっすけど」
リーヌは、ずっと沈黙していた。
しばらくして、占い婆は、起き上った。
「うむ。久しぶりに、本気を出してしまったわい。おぬしら、これで終わりでいいかの?」
「いや、まだ一人いるぞ」
と、リーヌは言った。
たしかに、まだ、おれは、占ってもらっていない。
「あ、でも、おれは、別に。占ってもらわなくていいっすよ。もう、占い師さんも、つかれてるだろうし……」
と、おれが言ってると。
リーヌは続きを言った。
「シャバーを占ってもらわないとな」
「シャバー? おれはスルーっすか? いや、いーんすけど。おれは、別に、占ってなんてほしくないっすけど。みんな占ってもらってるから、ちょっと気になっちゃったけどー。恋占いなんて、硬派な漢ゴブリンには、似合わないっすからー」
と言っているおれのことは無視して、リーヌは占い婆に言った。
「シャバーは、ここにいねぇ仲間だ。占ってくれ」
「ここにいない者は占えん。だが、パーティー全体の運勢についてなら、占えるぞ」
「じゃ、しかたねぇ。それで頼む」
占い婆は、今度は、カードを取り出し、占いをはじめた。
なんか、タロットカードじゃなくて、デュエルとかするカードっぽく見えるんだけど。気のせいだろう。
「うむ、うむ、結果がでたぞ。おぬしのパーティーの、今週の恋愛運は……」
婆さんはもったいぶり、目をカッと見開きながら断言した。
「全員片想い!」
おれは、思わず、感想を言った。
「うわぁ、むちゃくちゃ恋愛運のないパーティーっすね」
とたんに、なぜかホブミが、すごい怖い顔で、舌打ちした。
「このゴブリン、それ以上一言でもしゃべったら、即死魔法ぶちこむのですぅー」
「ギャーーー! なんでだよ! おれは、なにも悪いことしてないぞ?」
「ホブミのカンによると、先輩は漆黒の闇より真っ黒黒に悪いのですー。推定・諸悪の根源なのですー」
「だから、ただのカンで、おれを有罪にするなって!」
「うひゃひゃひゃひゃ」
と、笑いながら、婆さんは言った。
「お代は半額にまけてやろう。ぜんぶで3000Yじゃ」
「では、ホブミが払っておくのですー」
と言って、占いの代金はホブミが全部、払ってくれた。