4-61 新聞2
新聞とキャンディーを買って、リーヌ達のところにもどると、おれは、さっそく、歩きながら新聞をひらいて読んでみた。
「やっぱりっす」
「あん? なにがやっぱりなんだ?」
と、リーヌはクルクルキャンディーを口にくわえながら、たずねた。なんか、カエルの姿だと、クルクルキャンディーが、みょうに似合う。
「やっぱり、指名手配になってるっす。ほら」
おれは、リーヌに、新聞の一面にのっていた、金髪カエルの手配書イラストを見せた。そう、さっき、おれの目を引いたのは、このイラストだ。
「あんだ? このカエル? 見たことねーカエルだな」
と、リーヌは、クルクルキャンディーをくわえたまま言った。
「プリケロさんっす。鏡見たら、会えるっす。このイラスト、よく似てるっすよ? それに、ほら、ここに書いてあるっす。『指名手配:ウェスタ町で暴れたカエル魔王。長い金髪が特徴。この顔にピンときたら、即通報!』って」
おれは、通報されてないか、あたりをキョロキョロ確認しながら、リーヌに言った。アウトローの町なだけあって、とりあえず、大丈夫そうだけど。
「アタイは、テイマーだが?」
と、リーヌはいつものように言った。
「はいはい。なんかもう、それ聞きすぎて、魔王にテイマーって、フリガナふりたくなってくるっす。とにかく、金髪ロングヘアでウェスタで暴れたカエルは、プリケロさんしかいないっす。せっかく、変身して正体をかくせたと思ったら、さっそく、また、指名手配の魔王っす」
そこで、おれは、もう一つ気になる手配書を見つけてしまった。
「あれ? こっちの賞金首『狂戦士ジョー』って、なんかシャバーに似てるな」
おれは、シャバーっぽいイラストの下の記事を読んだ。
「『しばらく姿を見せなかった狂戦士ジョーが、ウェスタでカエル魔王と一緒に目撃された。当局は、狂戦士ジョーの行方を追っている』。カエル魔王といっしょに……。シャバー以外にそれっぽい人はいないけど……」
そこで、シャバーは言った。
「俺の名前は、ジョーっつーんだよ」
「ああ。シャバーの名前は、ジョーっつーんだ」
と、リーヌも言った。
「え? シャバーじゃないんすか?」
言われてみれば、ミンナノハウスの子ども達も、わりと、シャバーのことをジョーって呼んでたような気がする。パスコルとか、一部の子ども達だけが、シャバーって呼んでたような。
リーヌは、あっけらかんと言った。
「シャバーだぜ。アタイが、シャバーって名付けたんだ。ジョウよりシャバーニの方がかっこいいからな。でも、わかんなくなんねぇように、シャバーにしたんだ」
さっぱり、わけのわからない説明だけど。
「つまり、プリケロさんが、勝手にシャバーっていうあだ名をつけたんすか? そして、それをミンナノハウスふくめ、あちこちで、ひろめちゃったと?」
「あだ名じゃねぇ。本名だ」
と、リーヌは、きっぱり言った。
「いや、本名は、ジョーっすよね? シャバーは、仲間モンスターじゃないんすから。プリケロさんに名前をつける権利なんて、これっぽっちもないっすよ?」
「いいじゃねーか。な、シャバー?」
と、リーヌがシャバーに同意を求めたから、
「よくないっすよね?」
と、おれもシャバーに同意を求めた。
すると、シャバーは、あきらめた口調で言った。
「まぁ、リーヌだからな」
それを言ったら、終わりなんだけど。言いたくなる気持ちは、わかるけど。
そこで、ホブミが言った。
「そういえば、ホブミは聞いたことがあるのですー。昔、2年連続イケメン賞金首ランキング1位に輝いた狂戦士ジョーという戦士がいたとー。あれは、シャバーさんのことだったのですねー」
「イケメン賞金首ランキング? そんなものあんの?」
と、おれが聞き返すと、ホブミは当然だという風に言った。
「女性冒険者、女性賞金稼ぎの間では、有名なランキングなのですー」
「賞金首がイケメンでも、しょうがないじゃん。倒しちゃうんだから」
と、おれが言うと、ホブミは言った。
「あえて負ける人もいますですー。勝って屈服させるか、あえて負けて誘うか、その判断が勝負を決めるらしいのですー。女性冒険者雑誌『アーンアン』最新号の特集は、『「くっころ」で男を落とす方法』だったのですー。どのタイミングで、どの角度で、どういう表情で「くっ、殺してくれっ」と言うのが、一番男を欲情させるか、男のタイプごとに、くわしく書かれていたのですー」
おれは、思わず叫んだ。
「『くっころ』って、狙ってやってたのか!」
「あたりまえですー」
と、ホブミは言った。
「なんか、女ってこわいな……。てか、狙ってるのは賞金じゃなくて、イケメンの方かよ! 勝負って、そっちの勝負かよ!」
「あたりまえなのですー。そのためのイケメンランキングなのですー」
なんか、これ以上ホブミとしゃべっていると、色々と知りたくないことを知りそうだから、おれは、ふたたびシャバーに話しかけた。
「にしても、シャバーは、なんで賞金首になったんすか? そんなに悪いこと、しそうにないのに」
「こいつの起こす騒動につきあっているうちに、いつの間にか、な」
と、シャバーはリーヌを見ながら言った。
「すべての元凶は、やっぱ、プリケロさんだったんすね」
と、おれが言うと、リーヌは、ふしぎそうに言った。
「アタイは何もやってねーぞ?」
「たしかに、おれが知る限り、プリケロさんは、いつも、むしろ、いいことをしてるつもりなんすけど。ウェスタでは、子ども達を誘拐犯から助けただけだったし」
でも、その誘拐犯が、保安官だったせいで、すっかり悪者になっちゃったみたいだけど。……まぁ、あと、なんやかんやと、町を、かなり破壊したけど。
「プリケロさんは、もはや悪役になるのが運命づけられてる気がするっす」
と、おれが言うと、リーヌは、キャンディーを動かしながら、言った。
「あに言ってんだ。プリケロは、正義のプリンセスだぜ?」
そういえば、リーヌ的には、そういう設定だったなー。
「ますます、自称と世間の評価のギャップがひろがってるっすねー。それに、シャバーも指名手配だったってことは、このパーティーって、なんやかんや言って、堂々たる魔王様ご一行って感じっす」
世間的には、大魔王リーヌ、暗黒賢者ホナミ、狂戦士ジョー、だもんな。自称・正義のプリンセス・ケロケロリーヌご一行だけど。
ところで。
「あれ? この記事……」
おれは、もうひとつ、気になる記事を見つけてしまった。「謎の新種モンスターを探せ!」というタイトルの記事だ。
「『頭部はまるで、幻のレアモンスター、プップのようで、首から下は緑色の人型モンスターが、ウェスタの町周辺で目撃されている。地元の人々は、このモンスターをプップリンと呼んでいるという。デュラハン系モンスターというウワサもあるが、モンスター研究者のオークド博士によると、このモンスターは、プップとゴブリンの特徴をもった新種モンスターの可能性が高いそうだ。なお、究極の癒し系モンスターといわれるプップは、世界に数匹しかいないと言われる、超レアなフェアリー属のモンスターだ。その新種となれば、世紀の大発見といえるだろう。我々はこの新種モンスターの目撃情報をさらに集めていく予定だ』……え? これって……」
「すごいな。おまえは、世紀の大発見だったのか」
と、シャバーがおれに言い、リーヌはおどろいた様子で、うれしそうに言った。
「なに? プップリンが世紀の大発見だと? アタイは世紀の大発見をしていたのか!?」
「さすが、姫様ですー」
と、ホブミがさっそく、もちあげた。
「おう。テイマーだからな」
と、リーヌは得意げに言ったけど。
「んなわけないっす! おれは、ただのプップを頭にのせたゴブリンだって、プリケロさんは、よーく知ってるでしょ!?」
と、言ったんだけど、リーヌは、もうおれの話なんて聞いてないし、
「ププッ」
と、プップは笑うし。