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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-59 出発

 プリンセス歓迎パーティーを開いてもらった後、おれ達は1日だけ、ミンナノハウスに滞在した。

 おれは、保安官たちが逮捕しにくるかもしれないから、翌朝には立ち去った方がいいんじゃないかと思ったんだけど。

 ホブミいわく。

「そんなこともあろうかと、ホブミは、気絶している保安官たちに、魔法をかけておいたのですー。とある迷宮の奥でみつけた秘伝書にのっていた『フツカヨイヨイ』という魔法なのですー。1日分の記憶がふっとぶ上に、2日間はひどい頭痛と吐き気で、なにもできなくなるのですー」

「秘伝書とかいらなさそうな、魔法だな。それ、口からお酒を流しこめばいいだけだろ?」


 ホブミのおかげで、二日くらいは、時間かせぎができたんだけど。保安官たちの記憶がなくても、リーヌが大暴れした時に逃げ惑っていた町の人達がたくさんいるわけで。

 やっぱり、ここに長居をすると迷惑をかけそうなので、おれ達は1日だけ、のんびりして、すぐ出発することにしたのだ。

 早く、リーヌを元の姿に戻さないといけないしな。本人は、なんかもう、元に戻る気がすっかりなさそうだけど。このままじゃ、おれが困るから。


 というわけで、ウェスタで大暴れした2日後の今、おれは、出発するために、荷造りをしている。より正確にいうと、自分の荷物をパッキングしおえたおれは、親切にも、リーヌの荷物をつめてあげているのだ。リーヌは、こういうこと、自分じゃやらないからな。

 ちなみに、ウェスタからたくさん持ってきた、カエルマークの黄色いタライは、やっぱり、かさばるから、ここに置いていくことにした。

 1つだけ、プップの頭にのっけて、もっていこうかと思ったんだけど。タライをかぶせるとすぐに、プップは、怒ったように「プーッ」と言って、タライをふりおとしちゃったんで、あきらめた。

 プップは、小さな女の子がつくってくれたリボンは、つけても怒らないのに。プップって、けっこう、ファッションにうるさいのかも。


 荷物整理をしながら、おれは、羊ネックレスの中のひつじくんと、しゃべっていた。

「そういえば、ひつじくん。近頃、青い妖精が全然出てこないんだけど。あいつ、どうしてるのかな? 戦闘のアナウンスもしないし。まー、青い妖精のアナウンスとか、なくても困らないんだけど」

 今までは、毎回、ボスっぽいの倒して気絶しちゃったところで、青い妖精がむりやり出てきて、嫌がるおれを、セーブとか言って、あっちの世界に強制送還しちゃってたんだけど。今回は、ヤッダーワーンを倒しても、青い妖精が出てこなかった。まぁ、おれとしては、出てこないほうがいいんだけど。

 でも、まったく出てこないと、ちょっと心配になるんだよな。なにしろ、あいつ、見た目は、母ちゃんそのものだから。

 ひつじくんは言った。

『とても、いそがしそうだよ。ぜんぶゴブヒコさんのせいだって、いつも文句をいってるよ。今日の朝も、「あー、もう。この忙しさありえないわー。あのヘタレゴブリン、早くいなくなってくれないかしらー」って言ってたよ』

 ……心配の必要は、なかったらしい。

「えー? おれ、何もしてないぞ? それに、いそがしいって。青い妖精、近頃、何もやってないじゃん。まー。元気なら、別にいいんだけど」


 そんなことをしゃべりながら、リーヌのために荷造りをしてやってると、おれは、リーヌの持ち物の中に、ひつじくん初期フォルム、つまり、羊のめざまし時計があることを見つけた。

「あれ? リーヌのやつ、ひつじくんのめざまし時計も持ってきてたんだなー。使ってるのは、見たことないけど」

 だけど、おれは、ここで、奇妙なことに気がついた。

「あれ? だけど、そういえば、たしか、ひつじくんのめざまし時計って、あのコンビニ店長そっくり変態パンダを倒した時に、天国にのぼっていって、なくなっちゃったんじゃなかったっけ?」

 しかも、あのめざまし時計は、たしか、ボロボロに壊れていたはずなのに。ふしぎなことに、今は、このめざまし時計、傷一つない。

「すっかりきれいになってるし。なんでだろ?」

 ひつじくんは、言った。

『ぼくにはわからないよ。だれかが、リーヌちゃんに、思い出させちゃったんじゃないかな。でも、できたら、それは、ここにおいてって』

「え? なんで?」

と、おれが聞き返すと、ひつじくんは、ぽつりと言った。

『リーヌちゃんは、ぼくのことは、忘れたほうがいいんだ』

「ひつじくん? なんで、そんな悲しいことを? そりゃ、ひつじくんめざまし時計は、朝、起きれなくて、遅刻しまくりそうだけど。でも、安眠って大事だと思うよ? たとえ、遅刻したとしても、しあわせな二度寝ができたら、おれは、それで、いいと思うんだ」

と、おれは言った。


 ところが、そこで、ひつじくんの返事を聞く前に、リーヌの声が聞こえた。

「おい、なにやってんだ? エロヒコ」

 おれは、ひつじくんとの会話に夢中で、リーヌがやってきたことに気づいていなかったのだ。

 なにはともあれ、おれはリーヌに返事をした。おれ、今は、なにも、やましいことはしてないからな。

「おれは、まじめに荷造り中っす。プリケロさんは自分で準備しないから、かわりにパッキングしてあげてるんす」

 リーヌは、言った。

「おう。アタイは、散らかすの専門だからな。荷造りなんてしねーぞ。けど、なんで、おまえは、アタイのブラをベッドに整列させてんだ?」

 たしかに、ベッドの上には、ブラジャーが並んでいる。たしかに、これは、おれが並べた。

 でも、これには、ちゃんと理由があるのだ。

「あ、これはっすね。カエル体形のプリケロさんには必要なさそうだから、パンティーと別にパッキングしとこうと思って取り出したんす」

 おれって、気がきくな。

「あと、こないだのクイズの答え合わせをするために、サイズをもう一度確認しようとしてただけ……」

と言ってると、なぜか、リーヌが、怒ってどなりそうな気配を感じたので、おれは、大あわてで、カエルマークのタライをつかんだ。

 このタライを盾にしながら身をひねり、闘牛士のように華麗に、リーヌの怒鳴り声を、受け流す予定だった。

 ところが。

「こ、の、エロヒコ……」

 と言ったところで、リーヌは、黙ってしまった。

「あれ?」

 タライを前につきだした回避ポーズのまま、おれは、リーヌの様子をうかがった。


 リーヌは、床の上にあった、ひつじくんめざまし時計をじっと見ている。

 なんか、リーヌは、妙にまじめな顔というか、悲しそうな顔をしている。

 そして、リーヌは、さっと、ひつじくんめざまし時計を手に取ると、

「これは、あたしがもらったんだからな。やっぱりほしいとか言っても、おまえには、やらねーぞ」

と言い残して、部屋から去って行った。


「あれ? なんか、ひょうしぬけだな。おれ、どなり声を華麗によけたと思いきや、風圧でふっとばされて、あっちの世界に送り返されるってオチかと思ったんけど。リーヌのやつ、そもそも、どならなかったぞ? まっ、いっか。おれ、いいことしかしてないもんな。リーヌは思い直して、おれに感謝したんだろう」

と、おれが言ってると。

 ひつじくんは、とても悲しそうな声で言った。

『ほんとうは、あっちの世界にもどったほうが、いいんだよ。もどれるっていうのは、とても、しあわせなことなんだ』

「え? おれ、この世界に永住するつもりなんだけど。こっちの世界にいる方が、おれ、しあわせだから」

と、おれは言った。

『いつまでもここにいちゃ、だめなんだよ。リーヌちゃんは、ずっとここにいるわけにはいかないんだ』

 ひつじくんは、なぜだか、とても心配しているみたいだった。

 だから、おれは言っといた。

「うん。やっぱ、ここにいると、保安官たちが今にも逮捕しに来そうだもんな。でも、もうすぐパッキングも終わるし、昼までには出発できるよ。だから、ひつじくん、そんなに心配いらないって」

『……。じゃあね、ゴブヒコさん。はやく帰れるように、がんばって』

と、ひつじくんは、言い残して、いなくなってしまった。



 さて、その数時間後。荷造りを終えたおれは、荷物をもって、ミンナノハウスの玄関にむかった。

 ホブミとシャバーはすでに外にでていて、おれ達を待っている。

 そうそう、気絶したままだったシャバーは、昨日、自然に目覚めた。で、なんか、ごく自然に、いっしょに出発することになっている。

 だけど、リーヌは、まだ、出てこない。なんか、子ども達とプリケロ・テーマソングを歌っている声がきこえる。


 おれが、玄関で、プップを装着してると。

 見送りにきてくれたアリスが、

「プップリン、しっかりしてね。プリンセスのために」

と、おれに言った。

 すると、アリスの横で、パスコルが言った。

「プップリンが、しっかりするわけねーだろ。それに、プップリンなんて、いらねーよ。プリンセスは最強だぜ? ケロパンチがあるからな。リーヌ姉ちゃんと、どっちが強いかわかんないぞ」

「たしかにー。プリケロさんは、最強だから、おれの出番は、ないな」

と、おれが言ってると。

「だめなの。プップリンは、しっかりしなくちゃ。男の子がしっかりしないといけない時も、あるんだから」

と、アリスは言った。

 即座に、パスコルが、自信満々に言った。

「んなことねーよ。世の中、ダンジョビョードー、なんだから」

「そうだけど。でも、男の子にしっかりしてほしい時があるの! だって……。男の子から、言ってほしいこととかも、あるんだから……」

 アリスは、なぜか、ちょっと、もじもじしながら、そう言った。

 パスコルは、断言した。

「ねーよ。ダンジョビョードーなんだから、男はしっかりしなくていーんだよ。女は、都合のいいときだけ、『男の子なんだから』とか『男の子らしく』とか言いだすんだからな。ひきょーだぜ」

 アリスは叫んだ。

「パスコルのバカ!」

 それから、アリスは、おれにむかって言った。

「とにかく、プップリンは、しゃきっとしてね。パスコルみたいになっちゃダメだから!」

 ちなみに、この間、ロビーは無言で、じーっと、アリスとパスコルを見ていた。

 そんでもって、その様子を外から見ていたホブミは、出発した後で、「心配ですー。あの子たちが、心配ですー」と、言い続けていた。……なにが心配なんだろ。

 

 こうして、おれ達は、ミンナノハウスを後にした。

 おれ達プリンセス・ケロケロリーヌ一行と、シャバーが見えなくなるまで、ミンナノハウスの子ども達は、プリケロのテーマソングを歌いながら、カエルマークの黄色いタライを振って、見送ってくれた。


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