表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
117/170

4-56 天然

 さわやかな風がふきぬける夕方の林の中で、永遠に続きそうな静寂の中、しずかに森林浴をしていると、リーヌが、ぼそりと、おれにたずねた。

「なぁ、おまえさ、頭悪いやつのこと、どう思う? ちっとも勉強できねーやつとか、さ」

「え? どうって。おれも中卒だから、ひとのこと言えないっす」

 おれはついつい、あっちの世界での話をしていた。

 こっちの世界だと、たぶん、おれ、小学校も出てないだろうな。……ゴブリンの集落って学校あるのかな? 

「おまえ、バカだけど勉強できそうなのにな」

と、リーヌは、ちょっとおどろいたような声で言った。

「そうっすか? でも、そういえば、おれ、テストの点数は、けっこう、よかったんすよ。よくテスト問題の意味まちがえてたわりに。先生には、『まじめに勉強したら、トップレベルの高校にだって受かるかもしれないが、山田だからな』って言われたくらいだったんすよ。中3の時は、後半ほとんど学校行かないで、家でもあんまり勉強しなかったのに、わりと、いい高校にも受かったんす。行かなかったけど。おれ、きっと地頭はいいんすよ」

 おれは、ついつい、あっちの世界でのことを自慢した。

「だよな。おまえ、すげぇバカだけど勉強はできるタイプだよな」

 リーヌは、特に違和感を感じていないようだ。……やっぱ、ゴブリンにも学校あるんだな、きっと。


 そこで、リーヌは言った。

「だって、おまえ、本読めるもんな」

「そりゃ、本くらい読めるっすよ。読めない人なんていないっす」

と、おれが何気なく言うと、草むらの中から、苦し気な音が聞こえた。

「ぐっ……うぅ……」

「え? ……ひょっとして、リーヌさん、本を読めないんすか?」

「わるかったな! 本くらいも読めねぇで!」

と、リーヌはむこうを向いたまま、叫んだ。

「いや、べつに、バカにするつもりじゃなかったんすけど。てか、リーヌさんだから、おどろかない……というか、むしろリーヌさんが本を読んでたら、すんごい、おどろくっすけど」

 言われてみれば、本どころか、リーヌがまともに文字を読んでるところを、見たことがないな。

 まぁ、ここ、中世ヨーロッパ風異世界だからな。きっと、学校とか、ちゃんとないんだろう。

 ひょっとして、この世界では、人間よりゴブリンの方が学歴エリートなのかも?


 リーヌは早口に言った。

「うっせー。あたしは文字をみると、めまいがすんだよ。別に、外人だから読めねーわけじゃねぇぞ。あたしは、生まれも育ちも、に……」

「別に、だれも、リーヌさんが外人だなんておもわないっすよ?」

 そもそも、この世界の国境が、どうなってるのか、おれには、わからないけど。

 リーヌは、見た目だけなら、中世ヨーロッパ風の人間の町、サイゴノ町に、自然にとけこんでいた。やることが、ひどすぎて、悪目立ちしまくってたけど。

 数秒の沈黙の後、リーヌは言った。

「それに、あたしだって、誰かが声に出して読んでくれれば、本くらい読めっぞ」

「じゃあ、こんど読みたい本があったら、おれが読んであげるっす」

と、おれが言うと、

「……おう」

 リーヌは、らしくない、くぐもった小さな、ちょっとかわいい声で、返事をした。



 しばらくして、リーヌは、ごろんと、こっち側に回転して、おれにたずねた。

「なぁ、おまえって、何歳だ?」

「え? おれ、21っすけど?」

 突然のことだったので、おれは思わず、人間年齢を答えてしまった。

 リーヌは、予想以上に、おどろいていた。

「ぬわにぃ!? ありえねー。シャバーニと同じ年かよ。ぜってー、年下だと思ってたぜ。15か16だと……」

 それを聞いて、おれも、驚いた。

「シャバーって21なの!? ……てか、リーヌさんって、何才なんすか?」

 たしか、ひつじくんが、シャバーはリーヌより年上って言ってたよな。

 なんとなく、シャバーもリーヌも、おれよりは年上だろうって思ってたんだけど。なんとなく、オーラが年上、っていうか、格上だから。

 でも、ひょっとして、リーヌって、おれより年下なのか? ……そういえば、真城さんも、実はおれより年下らしいけど。


 そこで、リーヌは、きっぱりと言った。

「アタイは、1000歳を超えている」

 おれは、それを聞いて納得した。

「元・魔王っすもんね。やっぱ魔王の寿命は数千歳とか数万歳なんすか? あ、でも、そういえば、おれのゴブリン年齢って、何歳だろ……」

 気づいた時には、大人ゴブリンだったんだけど。おれって、何才のゴブリンなんだ? 

 ゴブリン的にも21なのか? 実は、ゴブリン年齢は、ほんとに15才だったり? それとも、実は、ナイスミドルなおっさんゴブリンだったりするのか?

 おれがそんなことを考えてると。

 リーヌは、ちょっと沈黙した後、ぼそっと言った。

「まぁ、年とか、どうでもいいけどよ。つーか、……」

 

 リーヌがそれきり黙っていたので、今度はおれが質問してみた。

「そういえば、リーヌさんって、いつシャバーと会ったんすか? けっこう昔からの知り合いみたいっすけど」

「シャバーか……。けっこう前だけど。何年とか、この世界、よくわかんねーんだよな。シャバーニと会ったのは、中学入ってすぐ、学校やめたころだけど」

 リーヌは、なぜかシャバーのことを、シャバー兄と言っていた気がしたけど、おれは、そこは、気にしなかった。パスコルもシャバー兄ってよんでるし。

「へぇ。中学……」 

 この世界の中学校って、どんな感じなのかな。やっぱ、魔法とか教えてもらうのかな。


 リーヌはボソリと言った。

「……あたしは、学校とか、あわねーんだよ。教科書とか黒板とか、文字だらけだろ。制服がどうとか、髪染めろとか、うるせーしな」

「髪? そういえば、リーヌさんって、見事な金髪っすね」

と、おれが言ったら、リーヌは言った。

「ああ。でも、これは染めてんだぜ? 地毛は明るい茶色だ」

「え? そうなんすか?」

「ほら、根本の方は、ちょっと茶色いだろ?」

 と言われても。

「もう暗いから、色なんてわからないっす。でも、そんなこと、おれ、気づいたことなかったっす」


 すると、リーヌは、おれをバカにしたように、言った。

「おまえは、いっつも、人の胸しか見てねーからな」

「なんすか、そんな。おれを、いっつもムフフなことしか考えてない、すんごいスケベみたいに。おれはもっと文明的な生き物っすよ。ムフフなことを考えてるのは、一日の半分くらいだけっす」

と、おれが文句を言うと、リーヌは、叫んだ。

「1日の半分もエロいこと考えてんのかよ! 時間を、ムダにしすぎだろ」

 うーん。ひかえめに言っといたのにな。

「いやいや。ムフフなこと以外に、考える意味のあることなんてないじゃないっすか。だから、おれは有意義に時間を使ってるんす」


 リーヌは言った。

「つまり、ふだんは、なにも考えてねーんだな。まぁ、おまえ、いつもそんな感じだけどよ。じゃ、テストだ。胸以外も見てたっつーんなら、アタイの目は、何色だ?」

「え? えーっと……」

 言われてみると、さっぱりわからない。

 リーヌの目って、何色だっけ? 

「赤? ってことは、なかったような。く、黒? 金色? 青かったかも……」

 リーヌは、おれに背中をむけたまま、舌打ちした。

「ほんっとに、見てねーな。おまえ、胸のサイズなら、答えられんだろ?」

「サイズっすか? おれ、実はサイズより形と質感を重視する派なんすよね。あ、でも、そういえば、おれ、リーヌさんのブラのサイズを知ってるから、答えを知ってるはずっす。えっと、答えは……」

と、おれがまじめに答えようとしていたら。

「マジで答えようとすんな! 質問してるわけじゃねぇんだよ!」

と、リーヌにどなられた。

「え? 当てっこクイズじゃないんすか?」

「おまえは……。マジでありえねーな。なんで、こいつに……。ま、ひょっとしたら、そういう、ぼーっとしたところが、ほっとするのかもしれねーけど」

「え? おれは、そんな、ぼーっとなんて、してないっすよ。おれは、いつでもボケーッとしたプップじゃないんすから」

 だけど、リーヌは言った。

「プップより、おまえのほうが、ボケーッとしてるぜ? つーか、プップは頭いいだろ。おまえは、まぬけコンテストがあったら、優勝しそうだぜ?」

「えー? でも、優勝できるんなら、いいかもしれないっす。何でもいいから一番になるのが、大事らしいっすから」

「おう。優勝してこい」


 リーヌは話をもとにもどした。

「とにかく、髪の色はな、中学入ってすぐ、教師に『校則違反だ。茶髪は禁止だ。髪を染めろ』って言われたんだよ。だから、金髪に染めてやったんだ。それ以来、ずっと金髪にしてんだ」

「へぇ。校則で金髪に染めさせるんすか」

「……」

 日本だと、髪を染めるなっていう校則はよく聞くけどな。髪の毛を金色に染めろ、とは、さすが異世界だ。

「じゃ、こっちの学校に入ったら、おれも金髪にしなきゃいけないんすね。おれ、似合うかなぁー」

と、おれが言ってると、リーヌは言った。

「似合うわけねーだろ。金髪にしてぇなら、とめはしねぇけど。……てか、おまえって、すげぇ天然だよな」

「天然? 天然ボケ? それ、リーヌさんには、言われたくないんすけど。リーヌさんなんて、天然王国の女王みたいなレベルじゃないっすか」

と、おれが言うと、リーヌは言った。

「なに言ってやがる。アタイが女王なら、おまえなんて神じゃねーか」 

「えー? でも、なんか、神レベルって言われると、ちょっとうれしいかも」

 なんてったって神だからな。

 とか、思ってたら、リーヌが言った。

「とか言ってるやつが、天然なんだろ?」

 そう言われて、おれは気がついた。……おれって、天然だったのかも。

「たしかにー。でも、ホブミとかならともかく、リーヌさんに言われるって。おれ、相当っすね……」

「総統? 天然軍団の総統か? バッチリなれるぜ。がんばれよ」

 とか言ってるリーヌ以上って、やばくないか……?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ