4-53 子犬
子ども達の回復を終えると、プップは、すぐにおれの頭に戻ってきた。
おれと子ども達は、くずれ落ちた壁面から、地上へ降り、リーヌに近づいた。
「すげー。近くで見ると、すげーでかいぜ。このロボ」
パスコルがよろこんで、ヤッダーワーンの近くで、ぴょんぴょん跳びはねている。たのしそうに軽く跳びはねてるだけだけど、ふつうに、数メートルは跳んでいる。
おれ的には、このジャンプ力のほうがすごいんだけど。
「すげー。ほんとに、とうもろこし、入ってるぜ!」
と、パスコルは、ヤッダーワーンの買い物バッグの中をのぞきこんで言った。
さて、パスコルと対照的に、まだ子どもなのに常識人そうなロビーは、まず、リーヌにお礼を言った。
「ぼくたちを助けてくれて、ありがとうございました」
「気にすんな。アタイはプリンセスとして、当然のことを……」
と、リーヌが言ってると、パスコルも、お礼を言った。
「あんがとな。ケロパンマン」
リーヌは目を三角にした。
「ケロパンマンじゃねぇ! アタイは、プリンセス・ケロケロリーヌだ!」
と、リーヌは、プリンセスさがゼロなしゃべり方で言った。
「パスコル、失礼でしょ。お姫様に」
アリスがパスコルをしかりつけた。
「ごめんな。姫様。ケロパンチが必殺技だから、ケロパンマンだとおもっちゃったんだ」
と、パスコルは謝り、リーヌは、言った。
「しかたねぇ。ゆるそう」
そこで、おれは、パスコルのために、言っておいた。
「そうっすよ。おれから見ても、あの戦いっぷりは、プリンセスというよりは、ケロパンマンだったっすから」
リーヌは、さっきよりも、さらに目を三角にした。
リーヌは、おれにむかって、まくしてた。
「どっからみても、プリティピュアなプリンセスだったろ!? おもわず、ほれちまうくれーに。織姫にだって勝っちまうプリンセスっぷりだったろ!? 見てなかったんだな。ミルキーウェイが泣いてるぜ。お目目がくもりのヒコヒコめ!」
「いやいや、ほれぼれするほど、漢らしかったっすよ。てか、ヒコヒコ!? ついに、おれの名前はヒコだけに!?」
まぁ、ゴブヒコでもヒコヒコでも、なんでもいいんだけど。
それから、リーヌは子ども達にむかって言った。
「アタイのことは、プリプリ☆プリケロって呼んでもいいぞ」
それから、リーヌは、おれを指さして、子ども達に言った。
「こいつは、プリプリ☆プップリン、っつーんだ」
おれは、びっくりして、リーヌにむかって叫んだ。
「プリプリ!? なに勝手に、おれまでプリプリにしてんすか!? まだ、ヒコヒコのほうがいいっす。プリプリはやめてくれっす。おれは、ただの、プップリンっす」
「おう。今はな。変身したら、プリプリ☆プップリンだぜ」
と、リーヌは当然のことのように言った。
「変身しないっす! だいたい、プリプリ変身していいのは、女の子か、せいぜい、中性的な美少年までっすよ? おれは、変身とかしない、三枚目サブキャラポジションで、大満足っすから」
おれにだって、羞恥心はあるからな。女児向けアニメ風の珍妙な衣装着て、ヒトデの上でおどるなんて、絶対にイヤだ!
でも、リーヌは、楽しそうに、言った。
「えんりょはいらねー。みんなプリプリになれるんだぜ? 衣装デザイン考えてやっから、ふたりでプリプリになろうぜ!」
おれは、あわてて、変な計画をすすめようとしているリーヌを、とめた。ほっとくと、リーヌのむっちゃくちゃな魔法力で、実現しちゃいそうだから。
「えんりょとかじゃないっす。ほんとに、やめてくれっす。プリプリになんて、なりたくないっす。てか、なるなら、ライダーか、戦隊ヒーローがいいっす」
「あー? かわいくねーだろ」
「いや、だから、かわいいのじゃなくて、かっこいいのがいいんす」
幸い、そこで、この話題にアリスとパスコルが食いついてくれた。
「みんなプリプリに変身できるの? わたしもなれるかな?」
「おれも、ヒトデみたいな流れ星にのってみてーぜ」
「おう。だれでも、プリプリになれるんだぜ」
と、リーヌが答えたところで、おれは、すかさず言っといた。
「じゃ、プリケロさん。今度機会があったら、おれの前にアリスとパスコルを変身させてやってくれっす。てか、おれは、全世界の人々がプリプリ化した後、最後に残ったひとりでいいっすから」
そこで、とめておけばよかったんだけど。おれは、そのまま、無意識の自虐ネタをしゃべり続けた。
「なんてったって、おれは、いつでも孤高の一匹オオカミ。クラスでチーム分けしたときには、必ず最後にひとり残り、班長たちがじゃんけんして、負けたチームにおしつけられる、そういう男っすから……」
おれの言葉をさえぎるように、アリスが、心底、同情したようすで、もはや、涙ぐみながら言った。
「プップリン、かわいそう……」
パスコルが、もう、涙をぬぐいながら、言った。
「やっぱ、おれたち、プップリンの後で、いいぜ。おれ、友だち、いっぱい、いるから」
リーヌは、深くうなずき、おれに言った。
「おう。今度、機会があったら、おまえを、一番に、プリプリにしてやるからな。プリプリ☆プップリン」
なんで、こうなった……。
「それじゃ、なにはともあれ、みんなを無事、救出できたし、帰るっす」
と、おれが言うと、リーヌは子ども達にたずねた。
「おまえら、用事はすんだのか?」
(そういえば、子ども達は、何か用があって、ここまで来たのかもな)
と、おれが思ったところで、リーヌは、真剣な表情でたずねた。
「チョコボルの森から奪われた、伝説の黄金チョコを取り返しにきたんだろ?」
「そんな秘宝っぽいものの話、まったく聞いてないんすけど!?」
まーた、リーヌが適当なことを。と、おれが思っていたら。
ロビーがまじめな顔で答えた。
「黄金チョコは、まだ、みつかってないんです」
そういう伝説は、ほんとうにあるらしい。
「じゃ、なんで、こんなとこにいるんだ?」
と、リーヌは、ふしぎそうに、子ども達にたずねた。
アリスは言った。
「わたしとロビーは、パスコルを追いかけてただけなの。そしたら、パスコルが、この町で保安官たちに、つかまってて」
その先は、ロビーが説明した。
「パスコルを助けようとしたんですが、ぼくらも、保安官たちにつかまってしまいました。保安官たちは、ぼくらから、大魔王リーヌの居場所を聞き出したかったみたいです。ぼくらが、大魔王リーヌのことなんて、知るはずないのに」
我らが大魔王リーヌは、なんどもうなずいた。
「ほうほうほう。知るわけねーよな。ダイマオリーヌなんて、アタイも会ったことねーぜ」
「そりゃ、プリケロさんが、大魔王リーヌに会うことは、絶対ないっす。会えたら、ホラーっす」
と、言いつつ、おれは思った。
リーヌのことだから、二つに分裂して、「おう、アタイじゃねーか」「よっ。アタイ」とか、会話しだしても、ふしぎじゃないよな。こいつに、絶対不可能とか、なさそうだから。
「じゃ、パスコルはなんでこの町に?」
と、おれがたずねると、パスコルは、まったく反省していない様子で言った。
「おれは、犬を追いかけてただけだぜ」
「犬って、このロボ?」
と、おれがたずねると、パスコルはヤッダーワーンを、コツコツたたきながら言った。
「ちげーよ。こんなガチガチなのじゃなくて、ふわふわの子犬だよ。アリスが、子犬がほしいって言ってたからさ。ふわふわの子犬がいたから、つかまえようと思って、追いかけてたら、いつのまにか、この町の近くにきてて。保安官のやつらに見つかっちゃったんだ」
「わたし、『ふわふわの子犬をだっこしたいな』とは言ったけど。『子犬をつかまえて』なんて言ってないのに」
と、アリスは言った。
「すみません。いつも、ひとさわがせなんです。パスコルは」
と、誰よりも申し訳なさそうに、ロビーが言った。
その時。
「町の人」
と、突然、おれ達に声をかけてきた者がいた。
「ここがどこだか、おたずねしたいのだが」
おれが、声のした方に、ふりかえると、町のはずれの方から、こっちにむかって歩いてくる者がいる。
その姿を見て、アリスが悲鳴をあげた。
「キャーーーーーー! かーわーいーいーーーー!」
リーヌも叫んだ。
「モフモフどぅわ――――!」
そして、パスコルは叫んだ。
「あいつだよ! おれが追いかけてた、ふわふわ子犬!」
そこに立っていたのは、白いモフモフのワンワン……というか、賞金稼ぎのシロだった。