4-51 プリケロー!
子ども達の声援を受けて、リーヌは、やる気に燃えた。
「いくぜ!」
リーヌは、空高く跳躍した。
「プリティ・プリンセス・ツゥインクル・キラリン・ビッグスター……」
リーヌから、強烈な光が放たれた。
と思ったら。青空だったはずの空が、なぜか、群青色くらいに暗くなり、空を、星型で色んな色のカラフルな星が、たくさん流れていく。
(なんだこれー。どういう魔法?)
流星の攻撃魔法でも発動したのか? と思ったんだけど。
カラフルな星は空を流れていくだけで、なんのダメージも起こしそうにない。
アリスとパスコルは、
「ながれぼし、きれいー」
「いそいでおねがいしようぜ!」
と、ふつうにこの事態を受け入れてしまっているけど。
おれは、ここで、ふと思った。
(そういえば、ほんものの星は星型じゃないよな。じゃ、この、ピンクや黄色の星型のものって、なんなんだろ?)と。
おれは、よーく見てみた。疑いながら、流れていく星型のものを見てみると…………ヒトデ? ヒトデに見えてきたぞ?
うん、たぶん、これ、カラフルなヒトデだな。
さて、リーヌは、いつのまにか作っていたらしい自作のプリケロ・テーマソングを歌いながら、流れてくる巨大ヒトデの上で、かろやかなステップで高速フラダンスをおどっている。……フラダンスって、高速だと、フラダンスに見えないな。
とにかく、空を流れる巨大ヒトデの上でカエルが高速フラダンスを踊っている、かなりシュールな光景だ。
そして、いつのまにか、リーヌの髪型が、変わっている……気がする。
今は、なんか、重力を無視して横にのびる、巨大な金髪ツインテールになっている。
おれは、リーヌの髪型をはっきりおぼえているわけじゃないけど、絶対に、ツインテールだったことは、ない。
だって、もしリーヌがツインテールだったら、おれ、「こんな金髪ツインテールキャラありえねー!」って叫んでたはずだもん。
なにはともあれ、これが何なのか、おれは理解した。
(リーヌが、プリプリ☆プリケロの設定をやけに気に入ってたのは知ってたけど……まさか、変身までするとはな)
そして、当然、リーヌの服装も、変わっていく。
リーヌは、いつのまにか、星型の髪飾りや、リストバンドを、装着している。
そして、赤とピンクと白の、150度くらいの角度でひらく、超短いスカートをはいている。
たぶん、リーヌがスカートをはいているのを見たのは、これが、はじめてだ。
リーヌそっくりの真城さんは、たまに足首までかくれるロングスカートの時もあったけど。でも、真城さんのスカートって、かわいい感じじゃなくて、不良オーラが増強されて、しかも、絶対、中にナイフとか銃とか隠されてそうで、すんごい怖いんだよな……。
なにはともあれ、異常気象と変身の、奇跡の魔法で、リーヌは、すっかり変身した。今のリーヌは、ヤッダーワーンのリボンとフリルに負けないくらい、星型のリボンや飾りがいっぱいついた、キラキラかわいい衣装と巨大ツインテールの姿だ。
……けど、カエルのままだ!
カエル化の呪いが解けてないんだから、当たり前だけど。
残念すぎるー。せっかくの超ミニスカートなのにぃ!
まぁ、人間リーヌが、あの衣装だったら、爆笑すぎるけど。
むしろ、頭身低めでかわいいカエルな方が、プリティな衣装が似合うけど。
「ピュア乙女なキラキラプリンセス、プリケロー!」
という、プリケロの決めセリフの後、空は、もとの青空にもどった。
でも、光が消えた時、おれは気がついた。プリケロの変化は、衣装と髪型だけではなかった。
リーヌは、なぜか、まつ毛がこくなって、顔の彫りが深くなっていた。
プリティ乙女にはあるまじき、濃い顔のカエルだ。
空中でリーヌの体が、ありえない角度にねじ曲がり、妙にかっこいいポーズで静止している。
そして、ヤッダーワンのアゴめがけ、プリプリ☆プリケロは、腕が残像で百本くらいに見える、超高速パンチを撃ちまくった。
「ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロパーンチ!!!!!」
おれは、興奮して叫んだ。
「すごいっす! アタタタタタともオラオラオラオラともパチパチパチパチともやりあえそうっす! プリティな変身しといて、少年マンガ流攻撃っすか! さすが、プリケロさん! 変身の意味、ぜんぜんないし、最終的に乙女度ゼロっす! 奇跡的な魔法を使っておいて、もう、すべてが超絶に無駄っす!」
「プップリン、なに言ってるかわかんねぇぞ。いけー! ケロパンマン!」
と、パスコルが、おれに、つっこみつつ、実はおれと同じく、プリケロの乙女度全否定な声援を送った。
リーヌが何発パンチをぶちこんだのか、わからない。
ヤッダーワーンの顔面には、ヒビが入っている。でも、それでも、粉砕はされていない。
だけど、たくさんの打撃をアゴに受け、ヤッダーワーンの動きが、おかしくなった。たぶん、中のコンピューター的な部分が壊れたんだろう。
≪ヤ、ヤッダー・ヤッダー・ヤッダー……≫
ヤッダーワーンはガタピシおかしな動きをして、「ヤッダー」という音だけを出し続けている。
「やった! 壊れたっぽいっす!」
ヤッダーワーンから、白い煙が上がっている。
その時、保安官が、叫んだ。
「まずい! 機能停止する時には、あの攻撃が発動する! 全員、建物の中に……」
おれは、それを聞いて、叫んだ。
「ひょっとして自爆攻撃!? みんな、逃げろー!」
だけど、おれ達は、屋根の上にいるのだ。逃げ場がない。
そして、地表の人間も、結局、だれも間に合わなかった。
≪ヤッダー・ヤッツー・ハチジダヨー!≫
ヤッダーワーンから、奇妙な叫び声が聞こえた。
そして、ヤッダーワーンの頭部から、なにかが猛烈なスピードで噴出された。
そして、一度空高くあがった、その何かは、重力におしもどされ、噴水のように、あたりに一面に、降ってくる。
空から降ってくるものを見て、おれは、あぜんとした。
タライだ!
大量の金属製タライが降ってくる!
カラフルヒトデが降っただけでも混沌としてるのに、今度はタライか……。
金ダライの直撃を頭に受けて、シャバーが倒れた。
保安官も、ガンマンも、続々と、でっかい音をたててふってくる、金ダライの直撃を頭に受けて、たおれていった。みんな、タライの一撃で、気絶してしまうようだ。
いたるところに降りそそぐ、壮大な金ダライの炸裂音で、耳が痛い。
「ギャーー! なにこの自爆攻撃!? 強制タライ落ち!?」
おれ達がいる屋根の上にも、大量のタライが落ちてきた。そして、アリスが、パスコルが、ロビーが、おれの目の前で気絶していった。
だけど、なぜか、おれは、まだタライの直撃を受けていない。
そして、おれは、その理由に気がついた。プップが、おれの頭から、転げ落ちてきた時に。
「プップー!」
そして、頭上のプップがいなくなったおれは、ついに、タライの直撃を受けて、気を失った。