4-50 うっかりやさい
ヤッダーワーンの「忘却の叫び」という攻撃で、魔法やアイテムは封じられてしまった。
はじめっから一切、技とか魔法とかがない上に、アイテムすら何ももっていないおれには、まったく関係ないけど。
それに、おれだけじゃなくて、リーヌにも、たぶん関係ない。シャバーも、たぶん、だいじょうぶだ。
おれは、地上で、ぼーっとしているリーヌに呼びかけた。
「ホブミは無力化されちゃったけど、物理主体のプリケロさんとシャバーには関係ないっす。というわけで、あんな悪趣味なロボ、ふたりの物理攻撃で、バンバンぶっこわしてくれっす!」
リーヌは言った。
「あんなスーパーかっこいいロボをこわしちまうなんて、もったいねーけどな。ほっとくと、スーパーでいっぱい買い占められちゃうからな」
「そうそう、あんな巨大な買い物バッグっすから……って、そんな理由!?」
でも、よく考えると、あのロボを倒さないといけない理由とか、他に思いつかないな。
実は、おれ達、あんなロボは、ほっといて、子ども達をつれて逃げちゃえばいいんだもんな。
もしくは、あのコントローラーを持ってる保安官を倒しちゃうか。……なんか、それは、やっちゃいけないお約束っぽいけど。
リーヌは、ファイティングポーズをとった。
「しかたねぇ。行くぞ、シャバー!」
「まかせろ」
シャバーは、屋根から跳び下りながら、大剣でヤッダーワーンに切りかかった。
だけど、シャバーは、ヤッダーワーンに、はねかえされて、地面に落下した。
大剣の攻撃を受けたはずのヤッダーワーンには、傷一つ、ついていない。
ヤッダーワーンは、おそろしく硬い装甲でできているようだ。
≪もうヤッダーワーン!≫
ヤッダーワーンが、買い物バッグを、シャバーめがけてふりおろした。
シャバーは、横に跳躍し、ヤッダーワーンの攻撃をよけた。
買い物バッグ攻撃は、おれ達がのっている建物近くの地面に炸裂した。そして、その衝撃で、建物の一角が、崩れ落ちた。
「このロボ、通常攻撃も普通に強いの!?」
と、おれが叫ぶと、
「今まで気づいていなかったのですか? 最初から、かなりの戦闘力ですよ?」
と、ホブミに冷たく言われた。
「だって、あの見た目だぞー? でもー。見た目にだまされたおれが、バカでしたー。プップリンがおバカでしたー」
と、言ってると、
「ププゥ」
と、プップが不満そうに鳴き、
「プップさんまで、まきこまないでください。おバカなのは、胴体部分のゴブヒコさんだけです」
と、ホブミに言われた。
「えー? 胴体部分だけ、おバカって……。ふつうだな。ふつう、胴体は頭ないもんな。じゃ、言いなおしとこう。プップリン、胴体部分だけおバカでしたー。でも、プップリン全体は頭いいんですー。OK?」
「プップッ」
と、プップはOKそうに鳴いた。
さて、地表では、戦闘が続いている。ヤッダーワーンの注意をシャバーからそらすように、リーヌが、とびあがって、ヤッダーワーンのまるい腹にパンチをぶちこんだ。
「プリケロパーンチ!」
ヤッダーワーンが、前後にぐらぐら揺れた。でも、まるでパンチングマシーンを殴ってるようで、ロボ自体は、あまりダメージを受けてなさそうだ。
「こいつ、強ぇぜ。ワクワクしてきたぞ」
と、リーヌは言った。
「さすが、最新テクノロジーと古代文明の遺産を集結した巨大ロボっす。プリケロさんが、一撃で倒せないなんて。これでデザインがまともだったら、普通にかっこいい巨大ロボだったのになぁー」
いったい誰が、こんな残念なロボ作っちゃったんだか。
相当、悪趣味な奴だな。
ヤッダーワーンのスピーカーから、また、おばちゃんの声がひびきわたった。
≪ヤッダー。ヤッダー。ヤッダーワーン。雨が降りそうだから、折り畳み傘をいれてきたはずなのに。バッグに入ってたのはトウモロコシだったわー。うっかり~。ヤッダーワーン≫
「まちがえるかよ! うっかりにもほどがあるぞ!」
と、おれは思わずつっこんだ。
「な、なんてことでしょう……」
と、ホブミの声が聞こえた。
「え? まさか、今ので、また何か状態異常が!?」
おれが、ふりかえると、ホブミは、ぼうぜんとした様子で、ゴボウをにぎっていた。
「武器が野菜になってしまいました……」
ホブミの杖が、ゴボウになってしまったらしい。
まぁ、今のホブミって、メイド姿だから、むしろ、賢者の杖よりゴボウの方が、似合ってるかもしれないけど。「姫様。今日のお夕飯は、きんぴらごぼうです」って、言いそうな感じだ。
「ふっ。時間制限はあるものの、ヤッダーワーンの『ウッカリヤサイ』は、すべての武器を無効化することができるのだ。学園長先生によると、とある迷宮の奥底で見つけた秘伝書に書かれていた、超高等古代魔術だそうだ」
そう、決め顔で言う保安官は、拳銃のかわりに曲がったキュウリを手にもっている。……かっこ悪い。これ、どんなに決まった服や顔で、どんなにかっこいいセリフを言っても、かっこ悪い。
「なんで、このロボの攻撃、ことごとく、こんなに、かっこ悪いんだよ」
と、おれが文句を言ってると、シャバーの声が聞こえた。
「まいったな」
シャバーが両手に持っていたのは、超巨大な大根だ。
イケメン戦士が持っていたら、大根だって、かっこよく……なるはずがない。
「トレーニングにはよさそうだが」
シャバーは困惑した顔で、大根で素振りをした。
「大根おろしがたくさんつくれそーだな。後で、魚、釣ろうぜ」
と、リーヌは、うれしそうに言った。今夜は、きんぴらごぼうと、焼き魚の大根おろし添え、か。
おれは、首をふりながら言った。
「武器が関係ないのは、プリケロさんだけっすね。てか、幸い、なにが起こってもプリケロさんには関係なさそうっす」
でも、リーヌは、暗い顔で首を左右にふった。
「んなことねぇぞ。さっきから、アタイは記憶力が減ってる気がするぜ。『ボーギャグの叫び』ってのに、やられちまったのかもしれねぇ。スキルとかいうのも魔法とかいうのも、なんにも思い出せねーんだ。つーか、『なにそれ?』って感じだぜ」
「安心してくれっす。プリケロさんって、実は『仲間にする』以外、名前がついてるようなスキルや魔法は、何もおぼえてないっすから。むしろ、それを忘れてることが、やばいけど。でも、それも、いつも通りっす」
と、おれが言うと、リーヌは安心した様子で言った。
「なんだ、こんなもんか」
「さぁ、プリケロさん! もう、あんただけが頼りっす。なんでもいいから、あのロボをぶっ倒してくれっす」
子ども達も、声援を送った。
「がんばって、ケロちゃん!」
「がんばってください! ケロさん!」
「がんばれ、ケロパンマン!」
みんな、好き勝手な名前で呼んでるけど。