4-48 プリプリ☆プリケロ
保安官やガンマンを引き連れて、おれは、適当に町の中を進んでいった。
ちなみに、おれこと、プップリンは、手錠をされた上に、首に縄をつけられている。……でも、プップを頭として、首=おれの頭、に縄をつけている状態だから。これ、いつでも、とれる。プップをどかせばいいだけだ。
あと、おれの大切な武器、こん棒も取り上げられて、捨てられてしまった。
だいぶ前から、「どうせ、おれは攻撃することないし、重くて邪魔だから、捨てようかな。だけど、せっかくゴブリン先輩にもらったんだもんな。おれが、誰かに物をもらうこととか、あまりないんだから。料理や掃除に使えるかもしれないし、とっとくか」と思っていたけど、結局なににも使えなくて、いつも邪魔で仕方がなかった、こん棒を!
幸い、おれの持ち物で唯一、取られたら本当に困るレアアイテム、〈にじょうのうでわ〉は、取り上げられなかった。「なんだこの、吐き気がするほど悪趣味な腕輪は」と言われて、そのままになった。
見る目のない奴らだな。防具屋の店員君が聞いたら、卒倒するぞ。
さて、おれは、リーヌのところに、こいつらを案内していることになっているんだけど。
おれが、適当に、「あっちです」「こっちです」「はいはい。そーなんす」とか、言いながら進んで行っても、困ったことに、リーヌはいっこうに、見つからない。
保安官は、いらついた様子でおれを詰問した。
「おい、大魔王リーヌは、どこにいるんだ?」
おれは、もういちど、心の中で、かっこよく言った。
(どこにいるかだって? ふっ。おれが、聞きたいくらいだぜ。むしろ、おれが今、どこにいるのかをな!)
この町に、はじめてきたおれには、さっぱりわからない。
リーヌの居場所はもちろん、ここがどこかなのかも。
でも、そんなことを言ったら大変なことになるから、おれは、適当な方向をゆびさして、愛想よく言った。
「リーヌさんは、あのへんで暴れているはずっす」
その時、おれが指さしたのとは、反対の方向で、ドカーンと、何かが爆発したような音が聞こえ、煙があがった。
「あ、まちがった。あっちだった」
「どっちなんだ?」
「あっちっす、あっちっす」
おれは、爆発した方を指さした。
リーヌがいるとこなんて、ドカーンと爆発しているところに、決まってるからな。
おれ達が、歩いていると、
「ほんとに、リーヌお姉ちゃんがきてるの?」
捕まっている少女が、そうつぶやいた。たぶん、この子がアリスだ。
この子、かなり、かわいい。
すごい色白、ていうか、ちょっと青みがかかった肌の色で、耳とかとんがっているけど、ほんと、かわいい。
さすがに、まだ、子どもすぎるけど。
あと、数年したら、すんごい美少女になるだろうなぁ……。
「リーヌさんは、ほんとうに大魔王なんですか?」
と、しゃれた帽子をかぶった少年が言った。
ごくふつうの、まじめそうな少年だ。
でも、よく見ると、この少年、足が地面についていない。ちょっと浮いている。一瞬、幽霊かと思って、びびってしまった。……この子が、ロビーだな。
「本人は、大魔王じゃないって、言ってるけど……」
おれは続けて、言おうとした。「でも、まちがいなく元・大魔王だし、みんなに大魔王リーヌって呼ばれてるぞ」と。
だけど、その前に、別の少年が発言した。
「じゃ、やっぱ、リーヌ姉ちゃんは大魔王じゃねーじゃん。リーヌ姉ちゃんは、いいやつだもんな。魔王じゃなくて、正義の味方だぞ」
ちょっと腕白そうな、うさ耳バニーボーイが、そう断言した。
ふっさふさで、やわらかそうな耳だ。たぶん、こいつが、パスコルだ。
(せっかくのうさ耳なのに、男かぁ……。しかも、なんか将来、ムッキムキにごつくなりそうなタイプだな。あーあ。お姉ちゃんとかいないかなー)
と、おれは、つい思ってしまった。
にしても、リーヌが正義の味方か……。
たしかに、本人は、わりと、良いことしようとしてるんだけどな。今回も、リーヌは、わざわざ人助けにここまでやってきたわけだし。
結局、なぜか、町を恐怖のどん底に突き落として、破壊してるっぽいけど。
「でも、リーヌお姉ちゃんが、ほんとに来てるなら、この人たちを連れて行っちゃダメでしょ? 大魔王だって、誤解されて、大変なことになっちゃうよ?」
と、かわいい女の子、アリスが言った。
「そうだぜ。何考えてんだよ、プップリン!」
と、うさ耳少年パスコルに責められた。
「だいじょうぶだって。リーヌさんに会えれば、みんなハッピー、万事解決だって」
と、おれは自信をもって言った。
だけど、ロビーに指摘された。
「ぼくたち、人質ですが?」
アリスが、心配そうな声で言った。
「そうだよ、プップリン。リーヌお姉ちゃんは、わたしたちがつかまってたら、きっと、なにもできないよ?」
たしかに、そうなんだけど。
「どうにかなるって」
と、おれが言ったら、アリスちゃんに叫ばれた。
「プップリンのバカ!」
「バ、バカじゃないって。おれは、楽観的なだけだから」
「プップリン、どう見てもバカそうだぞ。なにも考えてねーだろ」
と、おれは、パスコルに言われ、
「パスコルに言われたら、おわりなのに」
と、今度は、アリスちゃんにあわれまれた。
さて、そこで、冒険者が、おれにどなった。
「さっきから、うるせぇぞ、この、ボケーッとした、バカみてぇな顔のモンスター!」
冒険者がおれを蹴ろうとしてくるので、おれは、子どもたちのかげにかくれた。
「ボケーッとした、いやされる顔のモンスターと言え! プップ様様に失礼だぞ。てか、けるな! おれが死んじゃうぞ! おれは、すんごい弱いんだから。プップリンは希少な、絶滅寸前レアモンスターなんだから、もっと丁寧にあつかえ!」
と、おれは言ったんだけど。
「知るか! モンスターなんて絶滅しちまえ。死にたくなかったら、ちゃんと案内しろ」
と、冒険者っぽい男は言うし、保安官やガンマンもおれをにらんでくる。しかたがないので、おれは、素直にしたがうことにした。
「……はいはーい。プップリンにおまかせあれー」
おれが、しずかに歩いてると、アリスが小声で言った。
「プップリン、さっき、こっそり、わたしたちを盾にしようとしてなかった?」
「たまたま、こっちに逃げこんだだけー」
と、おれが小さな声で言ってると、
「しかも、言い訳してるぜ」
と、パスコルに言われ、
「こう言ってはなんですが。プップリンさんには、どこにも尊敬できるところがなさそうですね」
と、まじめそうな少年、ロビーにまで言われた。
なんか、子ども達にディスられまくりなんだけど。
やがて、おれ達は、何かが爆発して煙があがったらしい場所についた。
建物が何軒か、完全に崩壊している。
まるで、大怪獣が踏みつけていったようだ。
あたりに、人は誰もいない。たぶん、みんな、逃げ去ったんだろう。
(まちがいなく、リーヌがここにいたっぽいんだけど……)
すでに、リーヌの姿は、見当たらない。
(しかたがない。この手しかないな)
おれは、全力で叫んだ。
「リーヌさーん! 子ども達、見つかったーっす! ここにいるーっす!」
とたんに、子ども達に責められた。
「姉ちゃんを呼び出してどうするんだよ!」
「罠なのに!」
「プップリンの、バカ!」
その時。
どこからか、妙な声がひびいた。
「ケロッケロッケロッ」
このあたりで一番高い場所、屋根の煙突の上に、へんなカエルがいた。金髪をなびかせて、煙突の上から、おれたちを見下ろしている。
「な、なんだあれは?」
冒険者たちとガンマンたちが、どよめいた。
(プリケロさんだー……)
おれは、ここで、思い出した。
今のリーヌはプリンセス・ケロケロリーヌだった! 大魔王じゃなくて、金髪カエルなのだ!
(すっかりわすれてたー。どうしよう。だれも、あのカエルが大魔王だなんて、信じないぞ?)
ま、いっか。無事合流できたし。
保安官がどなった。
「なんだあのカエル人間は!?」
ケロケロなリーヌは、不敵に笑った。
「アタイは、正義のプリンセス、プリプリ☆プリケロだ! まんまと、おびきだされやがったな。誘拐犯どもめ。ケロッケロッケロッ」
「正義のプリンセスってなに? いや、そんなこと言ってる場合じゃなかった。プリケロさん! おれと子どもたちもいるんす。巻き込まないでくれっす!」
おれが叫ぶやいなや、横の建物の陰から、ホブミの声が聞こえた。
「ご心配なく。子ども達は私が蘇生しますから。ゴブヒコさん以外は、すみやかに蘇生します」
建物の陰にメイド姿の賢者が立っている。
「おれもすぐに蘇生してくれよ! モンスター差別はんたーい!」
と、おれがホブミにつっこんだ時、突然、おれの身体が浮かんだ。
子ども達も宙に浮いている。
ホブミが、おれたちに浮遊魔法をかけたみたいだけど……
(なんで?)
と、おれが思った時。
シャバーの猛々しい声が響いた。
≪漸弧血羅死!!≫
おれ達の足の下を大剣が通り過ぎていった。
そして、次の瞬間には、足を斬られた冒険者たちが、のたうちまわっていた。
間髪いれず、シャバーは次の技をはなった。
≪拿輪鬼離!≫
子ども達をぐるぐるに縛っていたロープが、一瞬で、器用に、切断された。おれの首の縄も、切ってくれた。……切らなくても、はずせるんだけど。
「屋根にあがれ!」
と、シャバーがどなった。
パスコルは、自力で近くの建物の屋根の上まで跳ね上がり、ロビーは上昇していき、そして、アリスとおれは、シャバーにかかえられ、気がついたら、屋根の上におろされていた。
屋根の上までジャンプできるって、パスコルもシャバーも、すごいな。
おれなんて、階段を一段ジャンプするのもやっとだぞ。たまに、玄関の段差でつまずくし。
さて、その時。煙突の上のカエルは、不敵な笑みをうかべ、うでをぐるぐる回していた。
「プリティ・プリンセス、スター・ツゥインクル、プ・リ・ケ・ロ・パーンチ!!!」
叫び声とともに、リーヌは、地表の保安官たちめがけて、一直線に飛び降りていった。
ちなみに、セリフは、プリティな感じだったけど、見た目は、むしろ、戦闘オーラ燃えまくりの少年マンガっぽい雰囲気だった。
プリプリ☆プリケロは、地面にパンチを一発、撃ちこんだ。
爆風がまきおこり、土砂が噴射された。
その爆風で、おれの頭上のプップが吹き飛ばされそうになった。プップはおれの髪の毛にしがみついてるもんだから、髪の毛がごっそり抜けそうに。
「ハゲるぅー!」
おれは必死にプップを両手でつかんだ。
地表には、クレーターのような大穴があき、冒険者と保安官たちが、四方八方に吹っ飛んでいった。