4-45 ビビリン
シャバーは、リーヌの方へふりかえり、たずねた。
「いいのか?」
「ああ。別に、アタイは、カエルになったこと、たいして気にしてねーんだ。それより、おまえのせいで、プップがおびえて逃げちまったよ。……あと、ゴブヒコもな」
そう言って、リーヌは、はるか遠くにいる、おれを見た。
……実はおれは、シャバーが暴れだした直後から、華麗なるムーンウォークで、ずっと後ろ向きに歩きつづけていたのだ。
だから、もう、今は、けっこうな距離をはなれている。……だって、怖かったんだもん!
「先輩、情けないですー。こっそり逃げてるなんてー」
と、リーヌ達の近く、つまり、おれから遠く離れた場所で、ホブミが毒づいた。
「だって、おれはホブミみたいにバリアをかけたりできないんだから。激弱なんだから。シャバーやリーヌの攻撃のまきぞえくったら、すぐ死んじゃうだろ? だから、これは、賢い判断、つまりファインプレーなんだって」
と、おれは主張したんだけど。
「ビビりまくりのビビリンですー」
と、ホブミにバカにされた。
そこで、おれは、思いついた。
「そうだ、ホブミ。シャハルンの盾をくれよ。あの盾をもったら、きっと、おれは、もっと勇敢なゴブリンになれる気がする。だから、ちょうだい♡」
おれは、全力でかわいくお願いした。かわいすぎてNoとは言えないかわいさをめざして。
すると、ホブミは、全力で叫んだ。
「気色悪いのですー! この距離でも攻撃のように飛んでくる壮絶なキモさなのですー!」
「やべぇキモさだったぜ! さすがゴブヒコ!」
と、リーヌも楽しそうに、おれをほめた。まるで、おれが、わざとキモキモ一発芸をやったみたいに。
おれ、本気だったんだけど、これはもう、ボケたことにしとこう。
「どんなキモさでホブミを脅したって、この盾は絶対にあげないのですー」
と、言ったあとで、ホブミは、意外なことを言った。
「でも、かすだけならいいですー」
そう言って、ホブミは盾をとりだし、さしだした。
「え? いいの?」
おれは、いそいそと、ホブミのところに近寄って、シャハルンの盾を受け取ろうとした。おれがもてば、一発逆転、最強のゴブリンになれるかもしれない、あの伝説の盾を。
だけど、盾に手をのばす寸前、おれは思い出した。
「あ、即死トラップがかかってたんだった。このまま受け取ったら、おれ、死んじゃうじゃん。ホブミ、即死魔法を解除してくれよ?」
ホブミは舌打ちした。
「ひっかからなかったですー。なんにも気がつかないスカポンゴブヒコ先輩のくせにぃー」
「おれを即死トラップにかける気だったのか!」
ホブミは盾をしまいながら、言った。
「もちろんですー。この大切な宝物を、先輩に、1秒たりとも、かしてあげるわけないのです。でも、引っかからなかったごほうびに、特別ヒントをあげるのですー。即死トラップは解除パスワードを言えば解除できるです。しかも、やさしいホブミは、ちょっと言い方が変わってもOKなようにしてるですー。こんなことまで教えてあげちゃうなんて、ホブミは、とっても、やさしいのですー♡」
ホブミは、メイド服のすそをひるがえし、くるりんと回って、かわいいポーズをとった。両手をほっぺたのところにもってきて。……なんでだろう。同じゴブリンなのに、ホブミがやると、ちゃんとかわいい。
なにはともあれ、おれはたずねてみた。
「やさしいやさしいホブミさん、解除パスワードのヒントは?」
「教えるわけないですー。もう十二分に教えてあげたのですー」
と言って、ホブミは教えてくれなかった。
さて、おれとホブミがしゃべっている間に、シャバーはカエル人間二人を解放していた。
ケロット団員二人は、森の中へと一目散に逃げて行った。
おれは、とりあえず、ケロット団員からゲットした情報をまとめた。
「えーっと。プリケロさんを人間にもどすには、ケロット団本部っていうところか、天空の魔女の城に行って、『オトメのキッスイ』ていうアイテムをゲットすればいいんすね」
ホブミは言った。
「ケロット団本部がどこにあるかわからないので、けっきょく、天空の魔女のとこに行かなきゃなのです」
つまり、おれ達の目的地は、今まで通りってことのようだ。
「おう。でも、今は、迷子をさがすぞ。アタイをもとにもどすのは、いつでもいいからな」
と、リーヌは、あっさり言った。
なんだか、リーヌは、最初はショックを受けていたけど、いつのまにか、カエルでも、どうでもよくなってきたらしい。
一方、ホブミの方は、苦渋の表情だ。
「一刻も早く、『オトメのキッスイ』を手に入れたいのですー。でも、今は、しかたがないのですー」
それはそうと。すっかり、いつもの雰囲気に戻ったシャバーは、おれの前に立ち、おれの頭上の空間を見て、謝った。
「悪かったな。おまえの頭、なくなっちまって。おどろくと頭がなくなるモンスターだとは、知らなかったんだ」
「いやいや、おれ、そんな設定のモンスターじゃないっすから。おれの頭は、まだここにあるっす。あまりにブサイクすぎて顔と認識してもらえないおれの顔が、ほら、ここに」
とか、言ってたら。
プップー……プップー……
という音とともに、プップがおれの頭の上に降下してきて、また、もっふりとおれの頭にすわった。
シャバーは言った。
「よかったな。頭がもどって」
それにしても、このシャバーとあの超恐ろしいシャバーが同じ人物とは、思えない。
なにはともあれ、プップも無事に戻ってきたので、おれたちは、再び、プップの案内で、迷子たちをさがし、森の中を進んでいった。