4-44 もいちどケロット団
なぜかうれしそうなリーヌは、元気よく言った。
「よし、早く迷子を探そうぜ。チョコボルの森は小さいからな。手分けして探せば、すぐ見つかるだろ」
そこで、シャバーが首をかしげながら、おれを見て、言った。
「こいつの顔、さっきからずっと、斜め後ろをむいてるが、だいじょうぶなのか?」
「え? おれの顔? おれの顔はちゃんと前をむいてるっすよ?」
と言いながら、おれが、顔の向きをかえると、おれの頭の上で、もそっとプップが動いた。
「そういえばー。さっきから、先輩がどっちをむいても、プップさんが、常に一定の方向を向いているのですー」
と、ホブミが言った。
「プップが?」
おれは、そこで思いついた。
「じゃ、ひょっとして、プップが、子ども達のいる方角を教えてくれてたりして?」
プップは、チョコボルから何か聞いていたからな。
「さすが、プップだぜ。じゃ、プップが向いているほうに、行くぞ」
というわけで、おれとプップがコンパスになって、おれ達は森の中を進んでいった。
ところが。おれたちが、プップの向く方角にむかって歩きだして、すぐ。
突然、草むらから、なにかが飛び出してきた。
「またせたな!」
「みんなおまちかね、あたし達ケロット団の登場だよ!」
カエル人間2人組だ。
おれは、冷たく言った。
「誰も待ってないっす。むしろ、『なんで、このタイミング? じゃまなんだけど?』って感じっす。さぁ、プリケロさんか、シャバーか、どっちでもいいから、あいつら、一瞬でぶっとばしてくれっす」
と、司令塔ゴブリンであるおれが指令をだしたとたん、ホブミが叫んだ。
「先輩のアンポンタンのスカポンタン! 倒す前に、姫様の呪いを解く方法を聞きだすのですー!」
おれは、それを聞いて、思い出した。
「あ、そだった! おれ達、むしろ、こいつらに、会いたかったんだった!」
「先輩は、ほんとに、頭の中がすっからかんにからっぽなのですー」
と、ホブミは毒づいた。
「だって、こんな時に出てくるって思わないだろ? 別イベント進行中みたいな時にさぁー」
と、おれがブツブツ言ってると、ケロット団員たちは、うれしそうに言った。
「やっぱり、あたし達を待ってたんじゃない」
「おれたち、人気者だな」
そして、ケロット団員は、元気よく叫んだ。
「昨日は、よくもプップを横取りしてくれたな!」
「今度こそ、プップをいただくわよ!」
そこで、おれはちゃんと説明してやった。
「横取りなんてしてないって。プップは、勝手におれの頭にのってるだけなんだから。プップは誰にも何にもしばられないフリーダムを満喫してるぞ。むしろどっちかっていうと、おれにとっては迷惑なんだけど。なんか、いつでも頭頂部が生温かいから、はげるんじゃないか心配だし。だから、別に、プップがほしいなら……」
と、おれが言いかけたら、とたんに、ホブミがおれにむかって叫んだ。
「先輩のドアホのアホノスケ! プップさんがいないと困るのですー! プップさんは先輩の1億倍役に立つのです。プップさんが、先輩のせいで、へそ曲げちゃったら、どうしちゃってくれるですかー!」
プンスカ怒っているホブミの話を聞いて、おれは、思い出した。
「あ、そっか。今はプップがいなくなると、迷子を探せなくなるから、困っちゃうんだった。今は、プップ様様だった。よし! プップ様様は、おまえらになんか、ぜったいに渡さないぞ!」
と、おれは、今さらながら、かっこよく宣言した。
だけど、ケロット団員たちは、おれのかっこいいセリフは聞かずに、勝手にしゃべっていた。
「プップを捕まえれば、きっとボーナスをがっぽりいただけるぞ。プップはハコブネ計画に必須だからな!」
「なにを買おうかしらー」
さて、おれ達のやり取りを黙って見ていたシャバーが、ここで、リーヌにたずねた。
「あいつらは何者だ? なんか楽しそうだが。おまえのペットの友だちか?」
そこで、リーヌは、こう言った。
「なに? あいつらは、ゴブヒコのダチなのか? じゃ、あいさつしねーとな。アタイは、プリンセスでテイマーのプリンセス・ケロケロリーヌだ。略してプリプリ☆プリケロって呼んでもいいぞ。よろしくな」
おれは、叫んだ。
「『よろしくな』じゃないっす! なんで、さっそく忘れて、愛想よくあいさつしてるんすか! こんなにわかりやすい見た目の敵を! こいつら、オホシミ山でおれ達をおそってきたケロット団っすよ。プリケロさんが、カエル王国のプリンセスになった原因の」
「なに!? アタイをカエルにかえたやつらか! じゃ、とっつかまえて、元に戻す方法を吐かせねぇと」
と、リーヌが言った瞬間。
おれの背筋にぞっと冷たい感覚が走った。
次の瞬間。
気がついたときには、二匹のカエルの頭を、まるで猛虎のようなシャバーが両手で地面に押さえつけていた。
今のシャバーは、ついさっきまでとは、まったく別人のようだ。
おれと同じ人間とは思えない、恐ろしいオーラを出している。……あ、おれはゴブリンだから、はじめっかたら同じ人間じゃないか。
でも、とにかく、今のシャバーは、超怖い。
おれがこれまで出会った人達の中で、2番目に怖いオーラを出している。1番目は、もちろん、真城さんだ。いやー、真城さんは、人じゃなかった。鬼すら超えていた。
なにはともあれ、シャバーの殺気で、おれの足は、ブルブルと震えている。プップもこわがって、空に飛びたっていってしまった。
シャバーは、怖い声で、カエル達にたずねた。
「俺の妹分にみょうな呪いをかけたのは、おまえらか?」
カエル達は恐怖のあまり悲鳴をあげた。
おれも、あんまり怖かったので、こっそり「ヒィ~~~」って悲鳴、あげていた。
シャバーはカエル人間の首をつかんだまま、立ち上がり、カエル人間達をつるし上げた。
シャバーは言った。
「あいつをもとに戻せ」
「むりだー。むりなんだー」
シャバーが両手に力をこめたらしい。
ケロット団員が苦し気な声をあげ、おれは、目をつぶった。
(ケロット団員……。敵だけど、ゆかいなやつらだった……。ちょっと、しゃべり方とか制服が気にはなるやつらだったけど。でも、カエルだもんな。別に、剣豪の名前とかついてないし)
ケロット団員が、いそいでしゃべりだした。
「ケロリンビームの効果を解くには、『オトメのキッスイ』が必要だけど、忘れてきちゃったんだー!」
(やっぱり、それっぽいアイテムがあった……)
シャバーは、ケロット団員を問いつめた。
「『オトメのキッスイ』? それはどこにある?」
「ケロット団本部か、天空の魔女様のお城にあります!」
「そうか」
と、言ったシャバーの声は、冷たい。
シャバーに、カエル人間たちを許しそうな気配はない。
このまま、殺しそうだ。
その気配を察して、
「助けてくれぇー!」
「お願い、助けてぇ!」
カエル人間たちは必死で命乞いをした。
だけど、シャバーの怖いオーラは消えていない。
(これは、冗談じゃなく、本気で殺す気だ……)
おれは、ぎゅっと目をつぶり、両耳を手でふさいだ。
その時、おれのふさいだ耳に、かすかに、リーヌの声が聞こえた。
「おい、シャバー。ゆるしてやれ」
おれは、そっと、目をあけ、耳から手をはなした。