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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-43 ジェラシーコ

 さて、おれ達は、子ども達を探しにこの森に来たわけだけど。子ども達の姿は、ここには、ない。

「このあたりが、いつもの遊び場なんだが」

と、シャバーは言った。

 おれは、リーヌとシャバーに言った。

「あのチョコボルってのは、しゃべれないんすか? けっこう、この世界のモンスターってしゃべるっすよね? ゴブリンもふつうに人間と同じ言葉をしゃべってるし。チョコボルに、子どもたちを見てないか、聞いてみたらどうっすか?」 

 おれがたずねると、シャバーは言った。

「チョコボルとしゃべれるのは、3歳くらいまでの幼児だけだ」

「むだに妖精っぽい設定っすね」

と、おれは思わずコメントした。

 すると、リーヌは言った。

「きっと、チョコボルはチョコの妖精だぜ。よし、ゴブヒコ、まかせたぞ」

「てなんで、おれがまかされたんすか? おれ、3歳じゃないんすけど。……あ、でも、ゴブリンになってからは1年もたってないから、いけるかも? じゃ、行ってくるっす」

「おう。バッチリ、チョコもらってこい。おまえのチョコへの熱意があれば、だいじょうぶだ」

と、リーヌは、力強く言って、おれを送り出した。

「チョコ? おれ、たしかに甘党だけど、バレンタイン・デー以外は、そんなに激しくチョコがほしいと思わないんすけど。てか、目的、チョコなんすか? 子ども達の居場所を聞くんじゃないんすか?」


 おれは、とりあえず、その辺でゴロゴロ転がっている巨大な茶色いツルツルした泥だんごっぽいもののそばに言って、たずねてみた。

「あのー、ギブ・ミー・チョコ……じゃなくて、おれたち、人間の子どもを探してるんすけど、チョコボルさんは見てないっすか?」

「グヘッ、グヘッ、グヘッ」

と、チョコボルはどこからか音をだした。

「うー……。なんか答えてくれてるけど、わからないー。やっぱりおれは、すでに世間の荒波にもまれた大人だから無理なのかー。いくら、家という箱に引きこもりまくった箱入り息子なおれでも、3才から引きこもっていたわけではないからなぁー。やっぱり、もっと早くから引きこもるべきだった。幼稚園なんて、行くんじゃなかったぁー」


 おれが、そんなことをつぶやいていたら、おれの頭の上で音が聞こえた。

「プップー。プッププー」

 説明を省いていたが、孤児院を出てくるときに、プップもおれの頭に乗っかって、いっしょに来ていたのだ。

「グヘッ、グヘグヘッ」

 チョコボルはなにかを言っているようだ。

「プッププー、ププッ」

 プップは、なにかを言っている。この二匹、鳴き声は違うけど、会話できてるっぽい。どっちも、まるくて、鳥っぽくて、やる気ない感じだから、同じ系統のモンスターなのかもな。

「グヘグヘッ、グヘッグヘグヘグヘ」

「プププ」

「グヘグヘ」

 なんだか、会話が終わったらしく、チョコボルさんは、向こうに転がっていった。


 リーヌは、おれにたずねた。

「チョコもらえたか?」

「もらえてないっす。てか、チョコちょうだいとか、頼んでないっす」

 シャバーがおれにたずねた。

「3人がどこにいるか、わかったか?」

「プップはわかってるかもしれないけど、おれ、プップの言葉がわからないから、わからないっす。そういえば、リーヌさん、テイマーなんだから、モンスターと話せるスキルとか、もってないんすか?」

 もってないだろうけど、おれは、いちおう、たずねてみた。

「な、なに? テイマーは、モンスターと話せるもんなのか? アタイは、ゴブヒコ語なら、半分くれぇわかるけど、他はわからねぇぞ」

と、リーヌは動揺した様子で言った。

「ゴブヒコ語なんて、ないっす! おれはみんなと同じ言葉を話してるっす。まー、リーヌさんが、人語を話さないモンスターと話せるなんて、テイマーらしいことができるとは、ちっとも期待してなかったっすけど」


 リーヌは、そこで、がくりと膝をついた。

「なんてこった。テイマーは、モンスターと話せるもんなのか……。モンスターのへんちくりんな鳴き声を一声、聞いただけで、『ゴブヒコがさっきパンティーを頭にかぶってたよ』とか、チクってくれるのを聞き取れるもんなのか……」

「例文が、すごーくイヤな感じっすけど。基本的には、テイマーって、そんな感じでモンスターとなぜか以心伝心、会話してるイメージっすね」

 そして、リーヌは、叫んだ。

「ま、まさか、モンスターとしゃべれねぇアタイは、テイマー失格なのか?」

「テイマー失格だとは思うっすけど、理由はそこじゃないっす。それ以前に……」

とか言ってるおれのことは無視して、リーヌは、深刻な表情で語りだした。

「最近、気づいたんだ。『あれ? ひょっとして、アタイより、ゴブヒコのほうがモフモフに好かれてるんじゃねーか?』って」

「……それ、今まで気づいてなかったんすか?」

 いつ見ても、リーヌは、ほとんどあらゆる動物とモンスターに嫌われてるんだけど。例外はメタル牧場のみんなくらいかなぁ。

「つーか、なんで、プップ、ゴブヒコにのってんだよ。なんで、アタイには、のらねーんだよ。アタイも、プップ帽子かぶりてぇーー!」

 リーヌは天にむかって、叫んだ。

「頭にプップが乗ってるのって、そんな、いいもんじゃないっすよ。まー、リーヌさんが、ずっと、モフモフに、むちゃくちゃ、さけられてるのはまちがいないっすけど。てか、リーヌさんって、テイマーのスキルとか全然もってないし、そもそも誰もリーヌさんをテイマーだって認めてな……」

 そこで、ホブミが、かなり怖い顔で、おれをにらみつけてきた。

「姫様を傷つけるゴブリンは、ゆるさないのでぅー。それ以上、ひとことでもしゃべったら、その口にチョコボルつめこむのですぅー」

「やめろー! チョコボルさんに迷惑だから!」


 そこで、ホブミは、ニヤリと笑って、リーヌに提案をした。

「ホブミは、いいことを思いついたのですー。姫様、そこのチョコボルさんをつかまえてみるですー」

「なに? チョコボルを?」

「はいー。チョコボルさんを仲間にして、案内してもらうのですー」

 チョコボルには迷惑な話だけど、たしかに、迷子探しには役立ちそうだ。

 だけど、チョコボルが仲間になったら、おれは、リーヌの唯一の仲間モンスターってポジションを失うのか……。


「よし。じゃ、チョコボルを仲間にしてみっか」

と、元気よく言って、リーヌは起き上った。

 おれは、とりあえず反対してみた。

「いやいや、リーヌさん。前にも言ったけど。野生モンスターは、捕まえずに、眺めて愛でるものなんす。モンスターを捕まえて奴隷化するなんて、モンスター虐待っす。モンスターをいっぱいつれてるテイマーとか○○モン・マスターとかなんて、実はモンスターの敵なんすよ?」

 リーヌは、かんたんに、おれの口車にのった。

「なに? そうだったのか?」

 おれは、自信をもって、断言した。

「そうっす。ほんとうにモンスターを愛するテイマーは、仲間モンスターなんて1匹しかいないのが当然なんす。すでに、リーヌさんには、おれがいるんすから。これ以上、仲間モンスターなんて、いらないっす」

「そ、そうだったのか? じゃ、仲間モンスター1匹のアタイは、最高のテイマーなのか?」

「そうっす。リーヌさんこそ、最高のテイマーっす」

「よっしゃー! アタイは最高のテイマーだ!」

 リーヌはすっかり元気になって、そう叫んだ。


 おれが再び見事に、リーヌにモンスター捕獲をあきらめさせかけた、その時。

 ホブミがぼそっと言った。

「やっぱりなのです。やっぱり先輩のせいなのですー!」

 ホブミは、リーヌのほうを向いて断言した。

「姫様がモンスターを仲間にできないのは、先輩のせいなのです! 先輩がいつも邪魔するからです! シロの時も、プップの時もそうなのです!」

「ぬわに? ゴブヒコがアタイの邪魔を?」


 おれは、あわてて、猛スピードで否定した。邪魔してたなんて、バレたら、大変だ。

「そ、そそそ、そんなことないっす! おれは、断じて、決して、リーヌさんの邪魔なんてしてないっす。プップの時は、ほんとうにプップを守ろうとして、がんばって邪魔しただけだし! 別に、仲間モンスターが増えたら、おれの居場所がなくなるとか思って、いつも暗躍なんてしてないっす! 『かっこいいのや、かわいいのが仲間になったら、おれ、絶対、捨てられる!』とか思って、かっこかわいいワンワンにジェラシー全開で、全身全霊をこめて邪魔してたわけじゃないっす! おれは、ぜんぜん、男のジェラシームンムンなゴブリンなんかじゃないっす!」


 みんなが、おれを、じーっと、見ている。

 どうやら、おれは、また、余計なことを言ってしまったらしい。


 数秒の沈黙の後、リーヌが叫んだ。

「なんてこった。ゴブヒコは、ジェラシームンムン、さみしがり屋のジェラシーコだったのか!」

 そこで、シャバーが言った。

「聞いたことがある。新しいペットを飼うと、前からいたペットが、元気をなくしたり、悪いことをすることがあるってな」

 それを聞いたリーヌは、眉間にしわをよせて言った。

「新しいモンスターが仲間になると、前からいたゴブヒコが、かわいそうなジェラシーコになっちまうのか……」

「ああ。飼い主の愛情を独り占めできなくなるからな」

と、シャバーは言い、リーヌはもごもごつぶやいた。

「あ、愛情を、ひとりじめ……」

「だから、もっと飼い主に愛されたいペットは、悪いことをしたりするらしい」

「あ、愛されたい……」


 さて、シャバーとリーヌの会話を聞いていたおれは、心の中で、のたうち回っていた。

(うわぁ。なんか、いたたまれなーい! おれが、いけないんだけど。自業自得なんだけど。なに、この、かわいそうな子あつかいー! 同情しないでくれー! まだ、ののしられる方が、ましだぁー!)

と、おれが思ってたら、ホブミは大きな舌打ちをして低い声で言った。

「先輩は最低の仲間モンスターですぅー。ありえないですぅー。束縛男は死ねですぅー」

 うん、これこれ。いつもの、ののしり。落ち着くなー。……あれ? ののしられて落ち着くって、おれ、なんかやばくない……?


 リーヌは、きっぱり言った。

「しかたがねぇ。ジェラシーコのために、チョコボルはあきらめよう」

 でも、おれ、なんとなく妨害してたけど、実は、チョコボルとか、仲間になってもよかったんだよな。チョコボルって、ただの動く巨大な泥だんごだからな。

 だから、おれは、いまさらながら言っといた。

「あいやー。おれ、チョコボルには、全然ジェラシー感じないっすから。仲間にしてくれていいっすよ? チョコボルさんは、やっぱりチョコボルの森でのんびり暮らすのが一番かなーって、モンスター愛護の精神で思って言っただけでー」


 だけど、おれが邪魔していたことを知ったわりに、意外と上機嫌なリーヌは、やさしげに言った。

「むりすんな。チョコボルみてーに、ゴブヒコよりすげぇかわいいのを仲間にしたら、スーパージェラシーコになっちまうからな」

「えぇ!? さすがに、おれ、チョコボルよりは、ましだとおもうんすけど!? チョコボルって、ほぼ、泥だんごっすよ? あれ、おれよりかわいいの?」

 そくざにホブミが言った。

「もちろんですー。先輩よりかわいくないモンスターなんて、いないのですー」


 そして、リーヌは、高らかに宣言した。

「よし。アタイはこれから、世界中のテイマーの見本として、むちゃくちゃ弱くて野生じゃ生きていけない仲間モンスター1匹をバッチリ育てる、最高のテイマーになるぜ!」

「姫様。なんて、心優しいテイマーなのでしょう」

と、ホブミはほめたたえている。

「うわぁ、なんか、そのモンスター、ひとりじゃ生きていけない、かわいそうな子に聞こえるぅー。いやー。おれ、さっきの、適当に言っただけっす。別に、仲間モンスターが少ない方がいいテイマーだなんてことないっすよ? やっぱ、ふつうは図鑑をコンプリートするのが夢って感じの世界っすからー」

と、おれは、ブツブツ言ったんだけど、リーヌは、もう、聞いていなかった。

 こうして、おれ達は、チョコボルは仲間にしないことになった。

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