夜夢(よむ)2
落ちる感覚の後硬い何かに当たる衝撃で目を覚ますと、それは見たこともない知らない世界が広がってた。
どうしてこんな場所にいるのかは甚だ疑問なんだけど、それでも思う。これは夢なのだと。だって、衝撃はあっても痛みがなかったから。だからこれは夢なんだとその時に納得した。
それにしても知らない風景だな。と、そう素直に思った。
だって目に写る風景は記憶に無かったから。
こんな場所は見たことがない。
町、なんだろうと思う。でもね、この町には自分以外の人を一向に見ないのよ。
それはまるで無人の廃墟と化した町。
でも違うのは電気も通っていて水も流れているし何より人の気配がする。
見えないだけで。
もしかしたら何かの理由で出てこれないのかも知れない。そう思って大声で叫ぼうとしたんだけど、何度試しても大声だけが出なかった。
普通の声は出せるのに。
首を捻って考えてみてもその理由が分からなかった。
しかたなしに調べてみる。
そうしないと状況が分からないからね。
本当に状況が掴めないんだけど。どうしてこうなったの。
建物の壁に隠れながら少し顔を出して外を見ると、唸る見たこともない生き物が自分を探すように徘徊していた。直ぐに引っ込めて震えているしかなかった。
出ちゃいけない物が出そうだ。
どれだけの時間が経ったのか分からないけど、動かずに息を潜めていると、あの生き物の唸り声と気配が消えている事に気づいて壁から少し顔を覗かせてみると何もいなかった。
安堵してその場で膝に顔を埋めて意識を飛ばす。そうすればこの夢から覚めるだろう。
そう考えていた。
それは体を揺らす何かに起こされるように目を覚ました。
目を開けるとそれは変わらない楠んだ壁だった。
笑うしかなかった。でも、先程から体に伝わるこの振動は大きな何かが歩いているような感覚がして、全身に言い表せない何かが纏わりつくように嫌な汗が流れている。
どうしてかその感覚に従うようにその場から全力で駆け出し目的もなく走り続ける。
追いかけている気配は無い、それでも振動が感じられなくなるまでひたすら走り、気がつくと長い通路を走っていた。
で、あの振動も感じなくなっていた。
だから止まって振り向いてみると人が居た。
でも安堵の感情はない。その代わり、恐怖が体を支配している。
その恐怖を起爆剤に再び全力で走った。振り返らずに、一心不乱に。走り続ける。
息は不思議と上がらず、汗もかくことがない。
走り続けて建物の扉を音を轟かせて開けて、中に滑るように入ると扉を閉めて開けられないようにしようと見回しても使えそうな物がない。
喪失感に包まれる前に出ようとしたけど直ぐ側で声が聴こえた。
身体が震え、手にかけた扉から離せなかった。
違う、少しでも動いたら死に直結すると理解して動けないんだ。
振るえる全身は手に触れる扉を小さく音を鳴らしてしまう。
でもそのまま声は遠ざかっていく。
安堵して軽く息を吐き、扉から手を離す。
意識はハッキリしている。手足もあるし心臓も動いている。目も見えているし、でも目に写るのは煤汚れた天井。考えても何でこうなったのかが分からない。
そうすると右横からあの声が聞こえてくる。
その恐怖に体を起こしてその場を逃げようとすると、正面の壁に大きな穴が空いていた。
それは、一つじゃなく、幾つもある建物の壁に穴が遠くまで空いていた。
それで理解した。
この場所まで殴り飛ばされたのだと。
体に痛みはなく、代わりに服の一部が破れている。
ハッキリと思い出してその場から全力で逃げ出すことに。
必死に逃げて、逃げて逃げて逃げて。そうして逃げた先に高い壁が現れた。
通れなくはないな。この壁に見合う大きな門があるし。
迷う暇はないし直ぐに向かう。
門は押すと簡単に開いて、その向こうへと足を踏み入れた。
振り返るとアイツ等が迫ってきている。
何処かに身を潜めそうな場所を慌てて探すけど見つからない。
仕方ないから奥の方へ逃げる。
ある程度門から距離を取って振り返ると、アイツ等が門の所で声を荒げていた。
なぜか門より此方には入って来れないらしく暫くすると地面を壊して何処かへと姿を消していった。
安堵してその場にへたり込む。気が抜けて足に力が入らない。
仕方なくこの場で休息を取ることにする。
それにしてもあれは異様すぎた。
姿形は人だけど、彼奴等の一部が異常に発達しているというのか肥大しているというのか、どちらが正しいのかは判断出来ないけれど、それでもどこかが異様に大きすぎた。
始め見たときはこの世界に来て始めての人に会えたと安心したけど、近づくにつれてその影の異常さに気がついた。
だから逃げた。
危機感からと恐怖から体は勝手に動いていた。
確実に逃げて正解だとあの姿を認識して思った。
それも今は過ぎたこと。だから先にこの場所を把握するために高い所を探したけど見当たらない。
焦る気持ちを無理に抑えて探していくと端まで来てしまった。
壁が行く手を阻む。
諦めるのは早く。壁沿いに進めば何かあると思い歩いてみる。
やっぱりあった。壁の上へ昇るための階段。
近づくと異様な空気が漂い意識の何処かで急げと警鐘がなる。
抗わず自然と走り階段の手摺に手を掛けると地面が文字通り落ちていく。
手摺を掴んでいたから堕ちることはなかったけど、後戻りは出来ない。生唾を飲み込んで、何とか階段に足を着け、昇る。
踊り場に足をかけて前を見ると壁を伝って長い通路が敷かれている。
所々に建物のような突起物が見える。
迷っている間はない。
取り敢えず近い場所から行ってみようか。
何かの施設か、でも入り口のようなものは、ない。壁を叩いても思った成果は得られなかった。
あ、当初の目的を忘れていた。
視線を壁の向こう側に向ける。
あはは。
端っこが見えない。
はあ、どうしよ。まあ、これは後で考えて今はこの壁から出る方法を探らないと。
で、撃沈して項垂れているしかなく。ため息も出る始末。
壁の上から仰ぎ見るのは赤く染まる空。
こんなことで諦めての垂れ死ぬのも一つの選択肢だろうな。
あ、そうだ忘れてたけど、この町の全容をちゃんと把握してなかった。
それじゃ始めようかな。と言ってすることは壁の上を歩いて、現在位置を見定めるだけなんだけど。
兎に角、行動を起こして、それでだめなら一回休憩しよう。
気合いを入れて奮い立たせる。
さっきまでは突起物を調べるために見てなかったけど、良く良く見ていると不自然に壁の縁に溝が掘られている。
とてもじゃないけど自然には出来ない綺麗な溝だ。
さて、これが意味をなすのか成さないのかは、もっと詳しく調べてみるしかないかな。
結果は見つかったけれど、動かし方が分からなかったということに。
腰を下ろして唸り軽い衝撃に目眩を覚えて、項垂れて膝に顔を埋める。
はあ、関連する装置は見つかったけど初動操作方法が分からなくて無駄な時間が過ぎていった。
声が空に消えていく。
気力が無くなり、体力も、尽きた感覚は無いけど横になって眠る。
で、途中経過を見ていたけど中々に進まないものだねぇ。
まあ、何の障害もなく進むのはつまらないからこれも又、良いこととしようか。
さて、この休息はどちらに転ぶかな。見ものだ。
目を覚まして軽い伸びをしてから落胆する。
あれは夢なのかと。
まあ、落ち込んでも始まらないからスッキリした思考でこれからを考える。
取っ掛かりを見つけないといけないけど、どうしようか。
そうだ、もう一回あの突起物を調べてみよう。あの時はそんなに丹念に調べてなかったから、もしかしたら何かが見つかるかもしれない。
それと何かないかな。
下には降りられそうもないから壁上に使えそうな物はあれば良いけど。無かったら無かったで痛いけど肉体で。
気合いを入れて、行こうか。
でも探してみる場所はそんなにないからなぁ。見落としてないかの再確認も含めて細かく視ていくか。
良かった。と素直に喜べばいいのか、見つけたは良いけど使い方によっては使えないし、場面が限られているし。
まあ既成概念を無視すれば使い道は無限にあるけど。
見つけた道具の一つを持って突起物の壁に手を添えて地味に地道に、叩いていくことにする。
地味すぎて気が狂う感覚に陥っていく手前で一部の音が内部に響いている。
確信して別の道具で使えそうな物を片っ端から使っていくと、最後に残った物で小さな穴が空いた。
予想通り壁の向こう側は空洞になっていて壁を壊せば入れるだろう。
でも、壁を壊す道具がない。
手持ちは全部使いきったし、目ぼしい物は集めたから残ってないだろうし。どうしよう。あ、そうだ。
壁を壊して中に入ると光源が無く、それでも奥から少しだけ風を感じることができる。
怖いけど意を決して進んでみる。
当たり前だけど後ろの光は進むと遠くなっていく。かと言って光を灯せる物はない。
仕方なく腕を出して足元も慎重に注意して奥へと歩いていこう。
喉を鳴らして緊張が空気を伝わっていく。
進んでいても進展はない。
あ、何かに当たった。これは、壁、かな。
それにしてもいやに生暖かいような。あと、動いて、いる。
ぐむ。
後ろから鼻を衝く臭いが漂ってきた。
胸騒ぎを覚えながら振り返ると大きな一つ目と視線が。
逃げるだろう誰でも。
だから逃げているわけだけど、背後から震動と咆哮が全身に響く。
必死に逃げている。
前方には先の見えない、終わりがないと思うくらいに長い階段。
昇降を繰り返し後ろで破壊されていく音を聞きながら走り逃げる。
疲れを知らない肉体だけど、心が疲れていく感覚に陥っている。
息は切れない、汗もかかない、肉体的な痛覚から至る関連行為なんかはないけど、それでも嫌になってくる。
何が嫌って、決まっているでしょ。
この全てに、現状に、後ろの追いかけてくる存在に。
あ、ムカついてきた。あ、何これ、頭に血が昇る感じなのかな、お腹の底の底から煮え繰り返りそうに、気分最悪なモノが煮えたぎる溶岩の様に沸き立ってきた。
何時までも終わりの見えない階段を素直に降りないといけないとは限らない。なので急に止り、屈んで履いていた靴を履き直す。
すると頭上から咆哮とも驚愕とも取れる声が前へと堕ちていく。
あり得ないと思う。ずっと前を見ていて昇ったり降りたりしていた階段が、今は何処までも続く下り階段に変わっていた。
これは魔が差した、と言えば良いのかな。堕ちていく存在を見続けていると階段の向こう側、主に最後まで階段を使う気はもう無くて足を止めていた。
その時にふと考えた。
道なりを外れてしまうとどうなるのかな。と。
それで思いきって飛び降りてみた。
その結果、ずっと落ち続けている。
失敗したかも、ても後の祭りだし待つしかないのか。
全身の穴から嫌な汗が止めどなく流れ出ている。その量は体積に対して異常なくらい多くて尽きない。
で、何でこんな状態なのかと言うと、答えは頭上にあった。
響く風が全身の内部まで浸透すると吐き気と共に汗も一層出てしまう。
見たくはないけど顔を上げると、あの存在が一定の距離を保ちながら大きな口を開けて落ちてきていた。
悪寒が全身を駆け巡ると死ぬ光景が頭に過る。
どうにかして避けるかしないとあれの腹に収まってしまう。それは嫌だ。
だけれども、堕ちていて背後にある階段の側面は掴める箇所も無いし、と言ってもずっとこの状態も疲れてきそうだし、だからって解決策は思い付かないし。
どうしよう。
息が、出来ない。
出来ないけど何とかしないと本当に終わる。人生が。
今はあの階段から地面に着地して、同時に全力で逃げている。
正確には、逃げ隠れている。が妥当だろうと思う。
あの存在は現在、消滅した、と言った方が良いのか。それとも滅びたと言った方が良いのか分からないけど、取り敢えずあれは今は居ない。
その代わり、あれよりもっと最悪な存在が追ってきている。
振り向いたら最後、命を吸われて死体が一つ出来上がる。
ううぅ。考えただけで震えがする。
とにかく、逃げて打開策を講じないと本当に死んでしまう。
それだけ切羽詰まっている。
今は建物の中にあった地下室に息を殺して身を潜めている。
上から放たれている存在の気配だけで意識というか何かがごっそりと持っていかれてしまう。
気を引き締めていないとそんな事になりかねない。
天井がカタカタと震えるあれが、吠えているのだろうか、それとも地面を踏みしめて走っているのだろうか。
どうして追いかけられないといけないのか、疑問に思う、でも答えは見つからない。あ、なんか腹が段々立ってきた。
あと少し、あと少ししてから外を見てみよう。うん。
もういいかな。
こううううううううううう、か、あああああああああああああああ、いいいいいいいいいいい。
今現在瓦礫の陰に身を潜めている。そうしないと本当にヤバい状況に陥っていた。
視線の遥か先、あの大きな存在が自分を探しているのが見てとれた。
あの後、気持ち的に気配を圧し殺して地下室から出ると背後から重い吐息が全身を駆け巡った。
だから目の前の扉を強引に開けてそのまま全力疾走。激痛が伴う足を無理に動かして適当に走り、全てが瓦礫に埋め尽くされた場所に出たから身を潜めてそのまま気を失っていた。
で、大きな揺れで目を覚ますと大きな獣の足が真横にあった。
出そうになった声を押さえて全身に冷や汗をかきながら動かずにいると気づかずに通過していった。
それでも暫く動けなかったけど。
視界から姿が見えなくなって、さらに気配も遠ざかっていき、安全と判断して身体を瓦礫の更に奥へと隠してじっとしている。
それで気がつくと遠吠えと地鳴りが此方まで響いてきて、否応なしに体が振るえてしまう。
何なのかあの存在は。
どうして追いかけられているのか身に覚えがない。
思いだそう。あの時を。
少し前、階段の側を落ちている。それは追いかけて後ろで一緒に落ちている怪物という存在。生物とも機械とも云えないその肉体から伸びる四対の手足。それをこちらに向けているけどギリギリで届かない。そのもどかしさに怒りが積もっていきこちらに向けて大きく口を開くと口内の奥から銃口が顔を覗かせる。
死を覚悟した。
でも何処からともなく金属同士を打ったような高音が耳に響く。
因果とか摂理とかを無視して、それ程離れていない場所にそれは現れ追い堕ちていた怪物を捕食した。
その食いっぷりに感嘆しながらあることに気づいた。
怪物が終わったら次の標的は。
そして案の定と言うべきか、標的は自分になった。
でも距離は離れているので安心していた。それが油断を産んだ。
視線を合わせると存在の両側から影が此方に向かって伸びてきて脇腹と足を掠める。
幸い、痛みは無かったけど、それでも落下する速度は上がった。
歯を軋ませながら落ちていく先を見ていると地面の様なものが視界に入った。
自然とその体勢に入った。腕を組み、足を交差させ、できる限り体と頭を水平にするよう意識して落下速度を上げた。
結果、予想より速く地面に到達して防御姿勢を取る間もなく頭から突っ込んでしまった。
このまま気を失っていたら後はあの存在に食べられていただろう。
不思議なことに服は破れ汚れてしまったけど意識が飛ばず、息苦しさを我慢して頭を地面から抜いた。
考えるより速く体が動いていた。
詰まるところ、走って逃げていた。
で、現状に至る。
考えても思い浮かばない事に苛立ちが募り、お腹の深い部分にモヤモヤした痼が大きくなっていく。
放っていたら大変な事態に成るだろうな、はあ。でも思い浮かぶことは全部楽には出来ないし。どうしよう。
あ、動いた。離れていく。よし。今度こそ。
ふあう。と口から漏れる声に安堵の感情が乗っている。
当たり前。
もうあの存在は見えないくらいに遠いところに行ったのだから。
まあ、だからってこの知らない世界から出る方法は一向に見つからないけど。
諦めずに探すとしますか。
と、少し前の自分を殴り飛ばしたい。
今は坂を駆け降りている。その理由は後ろに迫る道から競り出してくる無数の鋭い棘と時々あの奇っ怪な一部が異常に膨れた人形の存在。
地面が盛り上がってから乱雑に刺の代わりに飛び出してくる。
あの時には気づくはずはなかったけどこれだけ近ければ否応なしにその細部が見えてしまう。
人形の存在は確かに人の形はしていた。一部が異常な事を除いては、でもそれだけじゃ無かった。
あるはずのモノが有ったり無かったり、個別判断には持ってこいだろうけどそれは恐怖を抱くのに十分な効果がある。
なぜなら、その頭部には大きな目が二つある。とか、一つだけとか、複数有るとか。
全身の色も多彩に富んでいた。
単色か、多色、鮮やかとは云えない色よりが大多数を占めていた。
そんなのは今はどうでも良いけどね。
逃げないと有れ等の腹を満たすための餌に成ってしまう。
だから必死に逃げるように坂を走っている。
後ろから気持ちが落ち込む声が響いてきて足が思うように進まないけど、どうにかして無理にでも足を前に出す。
でもその動きは緩慢で全然進めない。
あ、おいぐふっ。
そこで意識が途切れた。
イタッ。
手放した意識が痛みで戻り、瞼を開けると足下にあの異形の人形が徘徊していた。声が出る前に喉で止めてお腹に納める。
どんなに考えてもあの人形だ。
気づいていないのか、それとも気づかないふりをしているのか考える時間もなく目の前から人形が一掃されてしまう。
思ったより低い位置に吊り下げられていたようで括り付けていた天井の崩壊と共に地面に尻から着地して痛みを忘れて見上げれば、恐怖が全身を覆い尽くし、自然と歯が鳴ってしまう。
足に力を入れようとしても入らない。
何とかしようとしている間に近づいてくる。
それに従って恐怖心が増えて生まれたての動物のように足が震えてしまう。
動け動けと震える足を殴って立ち上がっても直ぐに崩れてその場に座ってしまい、頬を伝う涙が際限なく流れる。
ダメだ、と諦めてはいけないと理解していても、もう目、の前に、迫っている。
ふと、どうしてか、いえ、諦めたからなのか。思考では無くてもっと根源てきな部分かもしれない。
振り上げられた足を視界に納めると、体の機能が一斉に停止したように仰向けに倒れ、そして意識は迫る大きな爪が鼻先に触れると。
発狂した声を聞いた。腕が何かに当たり、破壊音が耳に届くと別の悲鳴が耳に届き羽交い締めにされて、腕に細い物を差し込まれて意識が遠退いた。
強烈な吐き気で目を覚ましてその場で吐いてしまう。
何かをしてたと思うけど思い出せない。
あれ、どうしてこんな所に居るのだろうか。
其処は只々広いだけの部屋。
自分が寝ていたであろう場所には他と同じで何もなかった。
ただ其処に寝ていただけだった。
寒さは感じないからあの世界なのかと検討を着けて、さてどうしてこんな場所に居るのかを考えてみる。
あの大きな足で潰されたはずなのに。どうやってこの場所まで移動したのかどんなに考えても理由が分からないから後で考えて先にこの空間から出ることにした。
だめだー。足下の床や壁を丹念に調べても脱出に繋がる手がかりが見つからない。
項垂れて、天井を見ても何も変わらない。
考えても見渡しても何も見えない。ため息と同時に横たわって目を閉じる。
少しだけ眠るつもりでいたけど、何の気なしに横を見ると壁と床の間に少しだけ、そう本当に少しの隙間が有った。
それを最初は理解できなかった。
認識していて理解出来ないのもどうかと思うけど。
それでも理解できなかった。
どうして、何時から。そんな考えが頭を巡る。
その場から起き上がってできるだけ離れる。
あ、あれは何なのだろう位置的にも可笑しすぎる。
そんな言葉が口から出る。
そう。あれは位置的にもあり得ない。何故なら小さな隙間から二つの目が此方を見ているのだから。
その事と別に何時から見ていたのかとか、何で居るのかとかが全て頭から飛んで、もっと奥に行くと声が響いてそして、床が抜けて暗闇に落ちていく。
絶叫しながら暗闇に落ちている。
その時間が長すぎた。
今は静かに落下している状態を維持して、底に着くまで体を動かさないようにしている。
それでも何も見えず、終わりも分からないから発狂しそうになる思考をどうにか止めて、さらに幸いな事なのかお腹は空かないのでまだ自我を保てているけれどそれは永遠じゃないと理解している。
深く息を吸い、肺の空気を全て吐き出すように吐く。
何度も繰り返して決意して、腕を前に足を交差させて出来るだけ抵抗しないような姿勢を維持する。
速度が段違いに上がり風音が耳を突き刺す。
歯を噛みしめ視線を先に合わせる。
目を細めて全身の力を抜くと直後に、先に風の流れが乱れている箇所が存在していて、気がついたときには底の感触と崩壊する音と強い光に照らされて水の中に突っ込んだ。
目を見開いてそれを視界に捉えても直ぐに息が続かず、息苦しさに藻掻きながら水上を目指し、水面に出るとそこは広く大きな洞窟。
風が流れているから出口は有るのだろう。
湖を出て岩肌に横たえて息を整えてから体を起こすと鋭い刺を並べた何かの入り口のようなものがあった。
寒気が駆け巡るとその場から急いで離れて近くの岩陰に身を隠す。
獣の咆哮が洞窟内に響くと天井からパラパラと石が降り注ぐ。
岩影から除くとそれは居た。
簡潔に簡単に言うとそれはワニと犬を足し、鉄の鎧を全身に纏った水性の怪物が湖から這い出て来るところだった。
震えるしかない。もう終わりだと諦めた。諦めて俯いてそれで水中に捉えたあれを思い出した、でもそう簡単にはいけないかも知れないし、間違っているのかも。
ええい。今は迷ってる時間はない。もう実行するしかない。
幸いあの怪物は此方に気づいていない。何か。何か無いのか。ううう。もう覚悟を決めてしまおう。腹を括ろう。よし。
とか言いつつ怪物に見つからないように岩影を移動している現状は、端からみたら臆病者と言う人がいるかもしれない。まあ、そんなものはバカか世間知らずか歴戦の武士だろうけど。
そんなの自分にはないからこうやって少しずつ湖に近づいているわけだけど、時間が掛かりすぎなのもなぁ。
あと少しだし、でもここで痺れを切らして飛び出しても怪物の餌食になるのは目に見えているしあとちょっと頑張ろう。
そうして湖の縁に着いたあの怪物は検討違いの所を今だに探している。ええい。迷うな。
大きく息を吸って静かに湖に入り底を、正確には見えたあれを目指す。
で、有ったり。不自然な鉄の扉が。
嬉しくて、そして息が続かないこともあって扉に手を着けるとあり得ない音を響かせながら開く。そしてこの事で失念していた出口の無い所に突然出来たら全てその一点に集中するだろうだから湖の水は全て自分を含めて飲み込んでいく。
考えが甘かったと後悔しても遅くその扉に水と共に飲まれていった。
後ろから怪物の咆哮が聞こえていたけど。
目を開けて叫ぶと手足がベッドに括り付けられていた。
訳も分からず目に入った人に説明を求めると。
驚いたように何処かに行ってしまった。
理解できず考えていると白衣を着た医者が入ってきて全身を調べて、質問をされて全部に答えて安心する笑顔を見せてから部屋を出ていった。
次に入ってきたのは最初に見た人とその他数人。
心配したとか、良かったとか、何か言っていたけど。
どうしてこんな事に成っていたのかを聞くと大きな事故に巻き込まれてずっと眠っていたらしく、それでも一回だけ起きたら暴れて鎮静剤を打って落ち着いたらそのまま更に眠り続けていたらしい。
そのあとは更に詳しく検査をして先生のお墨付きを貰って翌日には退院することがきまった。
あれなんか長い夢を見ていたような。内容は思い出せないけど。
まあ、いっか。過ぎた事だし。
さて、退院したら何しようかな。
~終~
あらゆる機材に囲まれた一室に一人の影。
結局は上手くいったと云うべきかねまだ。まさか潰されるとは思わなかったが。
ああ。お陰で急遽代わりを用意するのは苦労したぞ。まあ、結果的には満足のいく迄は至らないがそこそこの成果は出せただろうな。
そうだこの報告は纏めて挙げておく。そうだな。2日は要するか。何。心配するな。寝ずに作業に掛かれば良いだけの事だ。
あ。次はもっとましな物を送ってくれよ。あれはどうにか直ぐに戻せたが時間が経ちすぎると同調させるのに時間が要るからな。
では次の機会まで。
~完~




