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巨編の一話


 20XX年7月。


「ハァーー」


 俺は深くため息を吐く。放課後の教室。俺の手にはいましがた返却された期末テストの答案があった。点数は言うまでもない。


「ハルチカ~! お前どうだったのよ? このテストで赤点あったらスマホ没収とかじゃなかったっけ?」


 同級生の森川が能天気に話しかけてくる。だが、今の俺には彼に構う精神的余裕などという洒落たものの持ち合わせは一切ない。不愛想に、


「ああ。そうだな」


「おおっ! なんと虚ろな目! お前さては没収一直線だな!?」


「黙れ」


 答案用紙を乱暴にカバンに突っ込むと、俺は教室を出た。親に見つかるより前にこれらを上手く始末しなくてはならない。とりあえず焼き払うか。


 すぐに校舎の外に出る。曇天の空。家では母親が待っている。帰宅するまでにテストを処分できなければ俺は終わりだ。俺にとってスマホを失うということは、文字通り死活問題なのだ。生きるか死ぬかに直結するのだ。


「さて……どうする……」


 俺は学ランのポケットに手を突っ込み、下を向きながら考える。ただ答案をこの世から消し去るには、ゴミ箱に捨ててしまえば済むのだが、残念な事に母は今日がテストの返却日である事を知っている。テストを捨てたうえで今日返されなかったとするための屁理屈を考えるべきか、テストの成績とスマホの使用にはなんら関係がない事を示すための屁理屈を考えるべきか。それ以外の方法もある。


「落ち着け……より実現可能で簡単な屁理屈を考えろ……」


 少々の精神的余裕を取り戻すした俺は、やはり少しだけ前向きになる。顔を上げる。正面にいたスーツ姿の男と目が合う。


「えっ」


 俺の目の前に立ちはだかった男はナイフを片手に持っていた。その目は血走っていて、明らかに正気ではない。今にもその手のナイフで突き刺しそうだ。怖い。逃げよう。しかし、男の方が早い。俺の姿を認めると、即座に俺に向かって駆け出してきた。何やら叫んでいる。


「救ってやる!」


 余計に怖いよ。


「やめてえええ!」


 悲鳴を上げながらスーツ姿の男と反対向きに逃げる。当然のように男も俺を追跡する。かなり早い。このままでは間違いなく死ぬ。本当に死ぬ!


「お前よォ! 俺が救ってやるんだから黙って感謝して救われろよォ!」


 なおも男はなにか叫んでいる。狂気!


「あああうるせえ黙れ!」


 息も絶え絶えに走る。日ごろの運動不足を呪いたくなった。帰宅部としての活動に精を出し過ぎたあまり、高校生活で得るべきだった大切なものをいくつも取りこぼして生きていた気がした。


「救われろ!」


 ひときわ大きな叫び声が聞こえた瞬間、胸に鋭い痛みが走る。追いつかれたか……


 体が動かない。肉体から血が流出しているのがわかる。このまま俺が死ぬことも。


 そして俺の意識はどこか遠くへ……

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