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領主の過去

1800PVアクセス及び750ユニークアクセス突破致しました。

今後も宜しくお願いします。


サジタリオ女子爵邸・浴室


黒い霧に巻き込まれて共に異世界へと迷い込んだ愛機、屠龍の御披露目が翌日に行う事が決定された異世界転移初日の夜、渚はサジタリオ女子爵邸の浴室の浴槽に身を沈めて激動の一日の疲れを癒していた。

「……うーん、異世界のお風呂も気持ち良いわね」

渚は温かなお湯に浸かりながら満足気に呟き、その後に浴室内を照らす魔力灯の淡い光を眩しげに見上げながら呟く。

「……明るいわね、灯火統制なんて必要無いんでしょうね」

灯火統制によって暗かった日本の室内に比べると段違いに明るい浴室を感慨深げに眺めながら呟く渚、その脳裏に自分を保護してくれたヴェストラントの領主ディアナの姿が浮かぶ。

(……小さな島の領主をしている優しくて綺麗で謎めいたディアナ様、もっと知りたい、あのひとの事を……)

「……渚、あたしも入るわね」

「……ッ!?でぃ、ディアナ様!?」

ディアナに関する思慕を募らせていた渚に対して浴室の外からディアナ当人より声がかけられ、渚が唐突並びに衝撃的な言葉に素っ頓狂な声をあげていると浴室の扉が開かれて生まれたままの姿のディアナが入って来た。

滑らかな白磁のごとき白い肌に豊かな双丘に引き締まった括れに瑞々しい果実の様に張りのある臀部、ディアナは高名な彫刻家が全霊を捧げて彫り上げた様に美しく艶かしい肢体を惜し気も無く晒しながら渚が浸かる浴槽に向けて歩み寄り、暫く呆気に取られてディアナを見詰めていた渚が近付いてくる魅惑的な肢体に頬を火照らせながら慌てて顔を逸らせるとディアナは悪戯っぽく微笑みながら口を開く。

「……あら、もっとじっくり見てても良かったのよ」

「……か、からかわないで下さいディアナ様」

ディアナに声をかけられた渚は頬が熱い位に火照っているのを自覚しながら弱々しく抗議の声をあげ、ディアナは悪戯っぽく笑いながら湯椅子に腰を降ろして身体にシャボンを塗し始めた。

顔を逸らしていた渚が窺う様にディアナに視線を向けるとディアナの瑞々しく魅惑的な肢体はシャボンの泡に包まれており、その幻想的で扇情的な姿を目にした渚が慌てて視線を逸らすとディアナは身体を洗いながら口を開いた。

「……渚、屠龍は2人乗りなのよね、御披露目の時はあたしも同乗させて貰うわよ」

「そ、そうなんですか……って、はいぃぃぃっ!?」

事も無げな口調で告げられたディアナの衝撃発言を受けた渚は驚愕の声をあげながら泡塗れのディアナに視線を向け、ディアナはそんな渚を穏やかな表情で見詰めながら言葉を重ねる。

「楽しみにしてるわよ渚」

「……ま、待って下さいディアナ様、今回の飛行は屠龍がこの世界に来てから初めての飛行になりますっ!万一の事があってはいけませんから、最初の飛行では私だけが搭乗して飛行しますっ!!」

「……大丈夫よ、あたしが同乗してたら万一の事が起こったとしても貴女を助けられるわ」

ディアナから重ねて屠龍の飛行に同乗する事を告げられた渚は慌てて反対意見を述べたがディアナは飄々とした口調でそれをいなしながらかけ湯をして身体の泡を流した後に真摯な表情で言葉を続けた。

「……お願い、渚、あたしも同乗させて頂戴、あたしももう一度、飛びたいの」

「……もう一度?」

何時になく真剣なディアナの言葉を受けた渚は戸惑いの表情を浮かべながらその中にあった意味深な一句を反芻し、ディアナはゆっくりと頷いた後に銀髪をかき上げつつ渚に対して背中を向けた。

「……ッ!?」

剥き出しになったディアナの背中の一角、肩甲骨の周囲にはケロイド状になった一対の傷痕が刻み込まれており、それを目にした渚が思わず声にならない声をあげてしまっているとディアナが再び渚と相対し、翳りのある笑みを浮かべつつ言葉を続ける。

「……驚かせてごめんなさい、あたしは以前翼を持っていて空を飛んでいたの、だからこそ、もう一度飛んでみたいの」

「……その傷痕は事故、なのですか?」

ディアナの言葉を受けた渚はくっきりと刻み込まれた傷痕に若干の違和感を感じながら問いかけ、ディアナは苦い笑みを浮かべてかぶりを振った後に言葉を続ける。

「……切断されたの、3年前に犯したとされる罪を贖う為にね」

「……犯したと、される?」

ディアナから告げられた予想外な告白に息を呑んだ渚はその中にあった不自然な一句に戸惑いの声をあげ、ディアナは苦い笑みと共に頷いた後に湯椅子から立ち上がりながら渚に問いかける。

「……隣、構わない?」

「……え?……は、はい、どうぞ」

ディアナの問いかけを受けた渚は頬を赤らめながら返答し、ディアナはそれを確認した後に浴槽の水面に脚を入れて渚の隣に身を沈めた後に言葉を続けた。

「……3年前、あたしはヴァイスローザの王立魔導学院に在籍していたの、その時には勿論翼はあったわ、魔王候補筆頭、王女ディアナ、それが当時のあたしの肩書きで、あたしの背中に生えていた翼は魔王の血筋の者である事を意味する黒い翼だったわ」

(……やっぱりディアナ様は魔王候補だったのね)

ディアナの説明を聞いた渚はディアナの身分に関する自分の考察が的中していた事にある種の感慨を抱きながら真剣な表情でディアナの言葉に耳を傾け、ディアナはそんな渚の表情を穏やかな眼差しで見詰めながら言葉を続ける。

「……3年前のあたしは最終学年で卒業式を控えていたわ、学院を卒業した際には正式な魔王女として就任される予定だったの、マリアはその時の同級生でレーナは2年後輩になるわ、結構楽しかったわよ、魔王候補教育はちょっと煩わしかったけど気が置けない学友や可愛い後輩もいてマリアやレーナはあたしの魔王女就任式を楽しみにしてくれてたわ」

「……何と無くですが、その頃のディアナ様の様子を想像出来ます」

ディアナの説明を聞いていた渚は脳裏に颯爽とした学院生時代のディアナを思い描きながら呟き、ディアナは誇らしげに微笑んだが直ぐにその笑みを苦い物へと変えながら言葉を続けた。

「学院では卒業式の後は卒業生と在校生で夜会をするしきたりになっているの、卒業式を無事に終えたあたしは夜会に出席して、いきなりザイドリッツに糾弾されたのよ」

「……え、そんな公式行事の最中にいきなりそんな事されたんですか?」

ディアナの説明に耳を傾けていた渚は唐突なザイドリッツの行動に首を傾げながら疑問の声をあげ、ディアナは苦い笑みと共に頷いた後に説明を再開した。

「……ザイドリッツの糾弾の内容は卒業生の女性に対して数々の非道な行いを起こしているとの事だったわ、彼女の名前を出す訳にはいかないから仮にAと呼ぶけど彼女はある国からの特待留学生で潜在していた高い魔力が判明した為に魔導学院に入学してた生徒よ、何度か言葉を交わした事はあったけどクラスも立場も違ってたからあたしの彼女に関する印象は単なる同級生の1人に過ぎないんだけど、ザイドリッツ達が言うにはあたしがAに対して陰湿な嫌がらせを行い続けていてそれを正すとの事だったわ」

「……達って、そんな事言い出したのが他にもいたんですか?」

渚は糾弾と言う仰々しい言葉の割には随分とスケールの小さいディアナの罪状とその糾弾に他の者も加わっていると言う内容に軽い頭痛を感じて顔をしかめさせながら問いかけ、ディアナは苦笑して頷きつつ糾弾への参加者について説明を始めた。

「ザイドリッツの他に同級生の宰相、魔導士長、軍務卿の各子息にレーナの兄の外務卿の子息、それにシュワルツブルクと同じ七大国に属するガリア王国、扶桑皇国、ロジーナ帝国の王子達がいたわ」

「……ってそんなにいたんですかっ!?」

ディアナの告げた参加者の面子を聞いた渚は予想外の人数の多さに驚きの声をあげ、ディアナは肩を竦めて頷いた後に更に言葉を続ける。

「あたしにとってAは単なる同級生の1人に過ぎないから当然身に覚えなんか無いだけどその事を告げてもザイドリッツ達はまったく聞く耳を持たず、逆に証拠や証人を次々に出して来たの、やった覚えの無い罪状に関してよくもこれだけのモノを用意出来た物だとある意味感心したわ、まあ、色々ザイドリッツ達は喚きたててたけどあたしは楽観していたわ、連中の用意してた証拠や証人は少し冷静になって確認すると幾らでも粗が出てくる物だったし、夜会には現魔王のジョン陛下も臨席していたしね」

「……国家元首が臨席している場でその様な騒ぎをやらかしたのならあちら側に責任がある筈です、百歩、いえ、百万歩譲っても喧嘩両成敗になる筈ですね」

ディアナが苦い笑みと共に行う説明を聞いた渚は胸中に腹立たしさが芽生えるのを自覚しながら呟き、ディアナは頷く事でそれに同意した後に苦い笑みのまま事の顛末を告げた。

「……でも陛下がその場で下した裁定はあたしの有罪及び魔王候補筆頭及び王女の資格剥奪だったわ、その名を受けたあたしはその場で魔王の血縁の証である翼を切断され、翼はザイドリッツ達の手で燃やされたわ、そしてあたしはその場でこの島の領主となる事が命じられたわ、そして糾弾に際してあたしを擁護してくれたマリア達学友の令嬢数名も実家から絶縁されてヴァイスローザから追放されたわ、あたしは追放されたマリア達や付き従う事を選択してくれた僅かな供をつれてこの島に赴き、今に至るわ、幸いヴェルシーナ達にも歓迎して貰えておかげで今ではこの立場を満喫出来ているのが救いと言えば救いね」

「……腸が煮え繰り返る話ですね、取りあえずディアナ様をそんな目に遭わせた連中が闊歩してるヴァイスローザに迷い込まなくて心の底から安堵してます」

事の顛末を聞き終えた渚はディアナを貶めたザイドリッツ達に対する侮蔑と怒りを隠そうともせずに吐き捨てる様な口調で呟き、ディアナは怒りを露にさせている渚を宥める為に微笑みながら声をかける。

「……ありがとう渚、怒ってくれて、でも、もう済んだ事よ」

「……ディアナ様」

ディアナの言葉を受けた渚が怒りを鎮めながらディアナに声をかけるとディアナは優しく微笑みつつ頷き、その後に真剣な表情で言葉を続けた。

「自分で言うのも何だけどあたしは誰よりも高く、誰よりも速く飛んでいたの、この島での生活に満足はしているけど心の何処かではもう一度飛びたいと思い続けているの、だからお願い、あたしを一緒に乗せて飛んで頂戴、渚」

ディアナの真剣な眼差しと真っ直ぐな言葉は渚の胸の奥をしっかりと捉え、ディアナの思いを確認した渚はディアナに対して愛おしさを抱きながら頷くとディアナを真っ直ぐに見詰め返しながら口を開いた。

「……分かりましたディアナ様、一緒に飛びましょう、いえ、一緒に飛ばせて下さい、ディアナ様、詳しい説明は明日行いますがこの世界では屠龍は長くは飛べません、ですからその短い飛行可能期間の間は私と屠龍がディアナ様の翼になります」

「……うん、ありがとう、渚」

渚の決意の言葉を受けたディアナは嬉しそうに微笑みながら応じ、渚はあどけないディアナの笑みに頬が火照るのを自覚しつつ笑顔で頷きを返した。


ブリガンティス王国・首都ロンディニウム


ディアナと渚が明日の屠龍の飛行について約束を交わしていた頃、七大国の一角を占め魔法王国の異名をもつ島国ブリガンティス王国の首都ロンディニウムは朝を迎えていた。

ロンディニウムの王宮前の広場には三角帽に黒装束と言う典型的な装いに身を包んだ女性、魔女約20名が緊張と晴れがましさが相半ばした面持ちで整列しており、その前では彼女達と同じ装いに身を包んだ美女が佇んでいた。

プラチナブロンドのロングヘアに翡翠の瞳の勝ち気な雰囲気の美貌と黒装束を纏う均整の取れた肢体が人目を引き付ける美女、ブリガンティス王国魔法軍少佐、アリス・サー・ダウティングは誇らしさを胸に整列する魔女達を一瞥し、その後に流れる様な動作で回れ右をして王宮と相対した。

王宮の前には正装に身を包んだプラチナのロングヘアと紫の瞳の穏和な雰囲気の美貌と魅惑的な弧を備えた肢体が印象的な美女、ブリガンティス王国女王エリザベート2世が随員達と共にアリス達を見詰めており、アリスは緊張に上擦りかける声を押さえながら号令を発した。

「総員、敬礼!!」

アリスがそう言いながら素早く揃えた右手の指先をこめかみ付近に当てると後方の魔女達も同じ様に敬礼を送り、エリザベート2世が穏和な笑みを浮かべながらカーテンシーを行う事で答礼したのを確認したアリスは号令を送って皆に気をつけをさせた後に口を開いた。

「報告致します、聖十字歴300年深緑の月十七日、ブリガンティス王国魔法軍少佐アリス・サー・ダウティング以下24名は第1魔女戦闘飛行集団スピットファイヤーの編成を完結致しました、敬礼」

アリスは指揮する部隊の編成が完了した事を報告した後に部下の魔女達と共にもう一度エリザベート2世に敬礼を送り、エリザベート2世は先程同様カーテンシーで答礼した後に穏和な笑みを湛えたままアリスに向けて語りかけた。

「休ませなさい」

「休めっ!」

エリザベート2世の言葉を受けたアリスは号令を発して部下達と共に休めの姿勢を取り、エリザベート2世は穏やかな眼差しで整列する新設されたばかりの第1魔女戦闘飛行集団スピットファイヤーに所属するアリス達を見ながら口を開いた。

「……王国防空任務の重責を担うべきそなた達の晴れがましく凛々しい姿をこうして見る事が出来、妾は大いに感動しております。現在第2魔女戦闘飛行集団デファイアントも編成完結に向けて錬成に励んでおり、第3魔女戦闘飛行集団タイフーンも要員選抜を開始しております、栄えある王国防空魔女戦隊の第一陣としてのそなた達の活躍と武運、そして健勝を妾は願っております」

エリザベート2世は整列するアリス達を慈愛に満ちた眼差しで見詰めながら激励の言葉を送り、アリス達を晴れがましい表情で女王を見詰めていた。

「ただいまより、観閲飛行を実施する総員、かかれっ!!」

「「はいっ!!」」

エリザベート2世が激励を終えるとアリスは自隊の錬度を示す為の観閲飛行を実施する為号令を発し、魔女達は力強い言葉で応じた後にアリスを先頭に後方に列線を作って置かれている箒に向けてキビキビと動作で駆け出した。

「……王国の安全がこれ程少数の者達に委ねられた事等無かったでしょうね」

エリザベート2世は駆け出したアリス達スピットファイヤー所属の魔女達の背中を見守りながら憂いの表情で呟き、傍らに控えていたトーマス・サー・パウンド参謀総長は頷きながら口を開いた。

龍群ドラゴン・パックの襲撃による損害を軽減させるには空中でこれを迎撃するしかありません、龍群の本格襲来の刻が訪れるまでに3個魔女戦闘集団だけでも編成を完結しておきたい所ですが……」

「……予知夢では来るべき未来の精細までは判断出来ません、スピットファイヤーが間に合っただけでも良しとせねばならないかもしれません、外務卿、他国の反応はどうなっています?」

エリザベート2世はパウンドの言葉に応じた後に随伴している外務卿に問いかけ、外務卿は憮然とした表情を浮かべながら口を開いた。

「はかばかしくはございません、残念ながら龍群等単なる伝説に過ぎないと一笑にふす国が多いのが現状です、それでも一部の国、エルジスト王国等は対策を検討し始めましたが」

「そうですか、既に警告は発しましたそれをどう受け取り、その結果どの様な事態になろうともそれはその国の決断、妾達が気にする必要等ありませんわ、ただし、対策を講じ始めた国々との連絡は絶やさぬ様にしなさい、それと、発生報告のあった黒い霧の正確な発生箇所についても調べておきなさい」

「御意」

エリザベート2世の返答を受けた外務卿が恭しく一礼しながら応じていると箒に跨がったスピットファイヤー所属の魔女達がアリスを先頭に次々に飛び立ち、エリザベート2世は真剣な眼差しで上空を舞う魔女達を見守った。



異世界での屠龍の初飛行を明日に控えた渚はディアナより飛行への同乗を要請される。

ディアナは突然の要請に戸惑う渚に対して自分の過去と空への未練を告げ、それを聞いた渚は同乗の許可と屠龍が飛行可能な間は自分と屠龍がディアナの翼となる事を告げる。

一方その頃、七大国の一角ブリガンティス王国が迫り来る災厄の前触れを感知し動き始めていたが、多くの国はその警告を一笑にふし動こうとはしなかった……


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