歓待
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ヴェストブルク
ヴェストラント唯一の町ヴェストブルクに到着した渚とディアナ達を載せた馬車は長閑な雰囲気を宿した町を進み、渚が馬車の窓から町を行き交う手から翼を生やした女性達、ハーピー族の姿を興味深そうに見詰めているとそれに気付いたディアナが微笑みながら声をかけてきた。
「……ハーピー族が珍しいみたいね」
「珍しいも何も私のいた世界ではそう言う存在は全て空想の世界のお話でした、ですから正直言うとディアナ様の角も珍しかったりします」
ディアナに声をかけられた渚は苦笑しながら答え、それを聞いたディアナは得心した様に頷きながら言葉を続けた。
「成る程ねえ、一種のカルチャーショックって訳ね」
「……そうなりますね、所でディアナ様、先程から妙に女性の姿ばかり見かけているのですが何か理由がありますか?」
渚はディアナの言葉に相槌を打った後に感じていた疑問を問いかけ、それを聞いたディアナは笑いながらそれに答えた。
「……これもあたし達の世界では常識になるんだけどハーピー族等の一部の種族は女性しか存在してないのよ、だからこの島の住民の大半は女性って事になるわね、そう言った種族は秘薬を使って女性同士で子を生してるわ」
「……じ、女性同士で子を生す事が出来るんですかっ!?」
ディアナの答えを聞いた渚は予想の斜め上を行く真相に思わず驚きの声をあげてしまい、それを聞いていたマリアが微笑みながら会話に参加して来た。
「……異世界から来たのでしたら驚かれるのも無理はありませんですわね、秘薬を使えば種族が異なっていても同性間でも子を生す事が出来ますのよ、ですから同性同士の婚姻は珍しい物では無く、ヴェルシーナ女子爵様もマーメイド族の女性をを伴侶としておりますわ、もっとも人族には禁忌や冒涜だと考えておられる者も少なくありませんけど」
「……そう、ですか」
マリアの補足説明を聞いた渚はヴェストブルクの町並みを見ながらゆっくりとした口調で呟き、その様子を目にしたディアナは真摯な表情で渚を見ながら口を開く。
「……驚かせちゃったわね、大丈夫?」
「……ええ、少し衝撃でしたが大丈夫です」
ディアナの言葉を受けた渚は視線をディアナへと向けながら返答し、それから暫く言い澱んだ後に真摯な表情で言葉を続けた。
「……それに、この島をより一層好ましく感じる様になりました」
「……元の世界じゃ苦労してたみたいね」
渚の吐露した言葉を聞いたディアナは真摯な表情で呟きながら席に戻ると、自分の隣に座る様渚を促し、それに促された渚はディアナの隣に腰を降ろすと静かな口調で語り始めた。
「……秘薬等存在しない私達の世界では同性同士の恋愛や婚約等は禁忌として白眼視される事が殆どで、戦時中の我が国では生産性の無いその手の話は特に異端視されていました、女子校に通う女生徒の間に憧憬を抱き、抱かれ合う関係等があるにはあり書物になったりもしましたがその関係は思春期特有の気の迷いとして片付けられる事が殆どで、書かれた書物も大抵は悲恋になっています」
「……反対する方が良く仰る意見ですわね、同性に焦がれる者同士の婚約を禁止した所でその方が異性に靡くとは限りませんのに」
渚の言葉を聞いていたマリアは眉を潜めながら感想をもらし、渚は頷いた後にほろ苦い笑みと共に言葉を続けた。
「……かく言う私も好意を抱いた女には既に許嫁がいました、彼女は戦友でもあるので結局何も言えないまま、この島に来る事になりました」
「……だったら立候補しちゃおうかしら」
「……へ?」
渚のほろ苦い笑みと言葉を聞いていたディアナは穏やかな口調で宣い、唐突な宣言を受けた渚が思わず間の抜けた声をあげてしまうと悪戯っぽく微笑みながら言葉を続けた。
「……今の貴女はフリーって事でしょ?だったらあたしが立候補しちゃおうかしらって言ったのよ、貴女に初めて逢ったのはあたしだし、少しだけと会話も交わしてるしあたしも現在フリー、それにあたしは小さな島の領主だけど貴女1人位なら余裕を持って養えるわ、お買い得でしょ?」
「……か、からかわないで下さいディアナ様」
ディアナの言葉を聞いた渚は頬が仄かに火照るのを自覚しながら返答し、その反応を目にしたディアナは小さく肩を竦めながら口を開いた。
「残念、振られちゃったみたいね、まっあたしは気長に待ってるからその気になったら何時でも伝えて頂戴ね」
「……ディ、ディアナ様」
ディアナの言葉を受けた渚は頬を仄かに赤らめさせたまま困った様にディアナの名を呼び、ディアナが悪戯っぽくウインクする事で応じていると微かな振動と共に馬車が停止し、微笑みながらディアナと渚のやり取りを見ていたマリアはディアナに視線を向けて口を開いた。
「……ディアナ様」
「……到着したみたいね降りましょうマリア、渚」
マリアの声を受けたディアナは典雅な口調で告げながら立ち上がり、慌てて立ち上がろうとした渚を笑顔で制するとマリアを先に馬車から降ろした後に恭しく渚の前に手を差し出しながら口を開いた。
「……お手をどうぞ異世界の女軍人さん」
「……ありがとうございます、異世界の領主様」
ディアナの恭しい言葉と茶目っ気ある笑顔を目にした渚は小さく微笑んだ後に大仰な口調で応じながら差し出されたディアナの手を取り、ディアナは楽しげに笑いながら渚を立ち上がらせると渚をエスコートして馬車から降りた。
馬車から降りた渚の目の前には色とりどりの鮮やかな花が植えられた庭園と三階建ての瀟洒な白い石造りの館が存在しており、渚がその秀麗な佇まいに目を見張っているとディアナが微笑みと共に口を開いた。
「……ここがあたしの館よ、正確に言えばあたしが間借りさせて貰ってるサジタリオ女子爵家の館だけどね」
ディアナがそう言っていると館の扉が開かれて2人の美女が姿を現してディアナ達の所へと歩み寄り、ディアナが微笑みを浮かべているとショートヘアの黒髪に紫水晶の瞳の凛々しい雰囲気の美貌と袖無しの白の上着と膝丈の白のスボンを纏った引き締まりつつ女性らしい緩やかな弧を備えた美女が丁寧に一礼しながら口を開いた。
「お帰りなさいませ、ディアナ様」
「ええ、ただいま、ヴェルシーナ、渚、彼女があたしの協力者である女子爵、ヴェルシーナ・フォン・サジタリオよ」
美女、ヴェルシーナの言葉を受けたディアナは鷹揚に応じた後に渚にヴェルシーナの事を紹介し、渚は威儀を正してヴェルシーナに対して敬礼した後に口を開いた。
「お初に御目にかかりますヴェルシーナ様、自分は風魔渚、旧大日本帝国陸軍中尉であります、この世界に迷い込んでしまった所をディアナ様に救って頂きました」
「御丁寧な挨拶痛み入る渚殿、先程ディアナ様に御紹介頂いているが、私はヴェルシーナ・フォン・サジタリオ、サジタリオ女子爵として微力な身ではあるがディアナ様に協力させて頂いている」
渚の挨拶を受けたヴェルシーナはハキハキとした口調で改めて自己紹介を行い、その後に頬を仄かに染めながら傍らに立つ緩やかなウェーブを描くクリーム色のロングヘアとアクアマリンの瞳の穏やかな雰囲気の美貌と淡い青のワンピースを纏ったスラリとした肢体が魅力の柔らかな雰囲気を纏った美女を示しながら言葉を続けた。
「……彼女はエレノア・フォン・サジタリオ、マーメイド族の女性で、私が生涯を誓った女だ」
「御初に御目にかかります渚様、私はエレノア・フォン・サジタリオ、マーメイド族ですが現在は魔法薬によって地上で生活しております、幸運な事にヴェルシーナ様と生涯を誓い合う事が出来た幸せ者でございます」
ヴェルシーナの紹介を受けた美女、エレノアはそう言うと優雅な動作で一礼し、その様子を見ていたディアナは満足気に微笑みながら口を開いた。
「取りあえず挨拶は済んだわね、刻限も昼食の時間帯だし細かな話は食事を摂りながらにしましょう」
「承知しましたディアナ様、既に準備は整っております」
ディアナの言葉を受けたヴェルシーナはそう答えた後に皆を館の内部へと案内し、館の中に入った渚は館の落ち着いたシックな内装に好感を抱きながらヴェルシーナ達に案内されて食堂へと向かった。
ヴェストブルク港
渚がサジタリオ女子爵家の館でディアナ達と共に昼食の食卓を囲んでいた頃、ヴェストラントとシュワルツブルクを繋ぐ唯一の玄関口であるヴェストブルク港に定期航路船である中型ガレオン船「エムデン」が入港して船着き場に向けて微速で前進を続けていた。
接岸及び荷下ろし作業に備えて船員達が慌ただしく動き回る中20名程の乗客は接岸に備えて荷物を手にデッキの一角に待機し、その中に2人の美女の姿があった。
「漸く到着しますね御嬢様」
ポニーテールに纏められた赤毛と鮮やかなルビーアイの勝ち気な雰囲気の美貌と淡い青のライトアーマを纏うメリハリの効いた肢体とその背中から伸びる蝙蝠の羽根が印象的な蝙蝠の獣人の美女、元ビスマルク侯爵家侍女サニア・ティルピッツは傍らに立つツインテールに纏められたプラチナブロンドと澄んだ琥珀色の蛇眼の凛々しい美貌と白のライトアーマーに包まれた引き締まった肢体とが臀部より伸びるしなやかな尾が印象的な龍人族の美女、元ビスマルク侯爵家次女、レーナ・フォン・ビスマルクに声をかけ、レーナは頷いた後に船縁からヴェストブルクの秀麗な町並みを眺めながら口を開いた。
「綺麗な町ね」
「ヴェストラント唯一の町ヴェストブルク、口さがない連中は面白味も何もない退屈な町だって言っておりますが豊かで穏やかな良い町ですよ」
レーナの呟きを聞いたサニアは穏やかな表情で告げながらレーナの傍らに移動し、レーナは頷いた後に近付いてくるヴェストブルクの町並みを身ながら言葉を続ける。
「……ディアナ御姉様には迷惑をかけてしまうわね」
「……致し方ありません、あの様な仕打ちを受けた上に侯爵家からも絶縁されてしまったのですから、今の私達にはディアナ様との縁におすがりする他ありません」
レーナの言葉を受けたサニアは表情を歪めながら応じ、レーナは暗い表情で頷いた後にヴェストブルクの町並みを見詰めた。
ディアナが間借りしているかってのヴェストラント領主サジタリオ家の館に到着した渚は館の主ヴェルシーナと彼女の伴侶エレノアに迎えられ歓待を受ける。
一方、その頃、ヴェストラント唯一の港ヴェストブルク港に定期船が入港し、その船上にはディアナとの縁を頼りに訪れた一組の主従の姿があった……