迷い人
ヒロインが異世界転移してきた主人公と出逢います。後書きにて主人公と共に異世界に転移した装備類のリストを掲載しておきます。
聖十字歴300年深緑の月十七日・ヴェストラント・カイロネイア平地
シュワルツブルク魔王国辺境西部に浮かぶ孤島ヴェストラント、同島中央部に広がるカイロネイア平地を騎乗した3人の美女が馬車と共に進んでいた。
先頭を進む黒鹿毛の駿馬には銀髪のストレートロングとその合間から覗く羊の様な形状の角とサファイヤブルーの瞳の美貌に黒のライトアーマーに包まれた豊かな双丘とすっきりとした腰回りに緩やかな弧を描く臀部と言う引き締まりつつ魅惑的な肢体が魅力的な美女、元魔王候補の現ヴェストラント領主ディアナが跨がっており、その後方を葦毛の駿馬に股がったセミロングの金髪と琥珀色の瞳に額から伸びる1本の角の凛々しい雰囲気の美貌と肌の露出箇所が多めのライトアーマーに包まれた引き締まった褐色の肢体が印象的な美女、ディアナと共にヴェストラントに赴いたオーガ族の女戦士リリナ・フォン・ティフォーネと栗毛の駿馬に股がった緩やかなポニーテールに纏められた赤毛とミントグリーンの瞳の穏やかな雰囲気の美貌と乗馬服に包まれたスラリとしつつ女性らしい凹凸もしっかりと存在している肢体が印象的な美女、ディアナの親友でオリオーネ伯爵家の令嬢のマリア・フォン・オリオーネの2人と空荷の馬車が続いている。
「……ディアナ様、間も無く黒い霧の発生した辺りになります、自分が先攻致します」
「……そうね、お願いするわリリナ、大丈夫だとは思うけど用心しなさい」
「承知しております、では、失礼しますっ」
リリナから声をかけられたディアナがそれに応じながら駒を脇によけるとリリナは短い答えと共にその脇を通り過ぎて先頭に立ち、ディアナは後続してきたマリアと並ぶ形で再び駒を進め始めた。
「……黒い霧、か、まさかあたしの領地で発生するとはね」
「……私も驚きましたわ、その様な事象がある事自体は存じておりましたが、それがこの地にて起こる等、夢にも思っておりませんでしたわ」
ディアナが駒を進めながら発した呟きを聞いたマリアは頷きながら相槌を打ち、マリアの答えを聞いたディアナは翳りのある笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「……異世界の人も物も、とんでもない物に巻き込まれてしまったわね、まるで島流しだもの」
「……ディアナ様」
ディアナの言葉を耳にしたマリアは表情を曇らせながらディアナに呼びかけ、呼びかけられたディアナはマリアに視線を向けると穏やかに微笑みながら言葉を続けた。
「……でもあたしには貴女やリリナ達がいてくれた、だから異世界の人や物に対してはあたしが貴女やリリナ達みたいな存在になれたら良いと思ってるのよ」
「……ディアナ様、素晴らしいお考えですわ」
ディアナの言葉を受けたマリアが感極まった表情で賛同し、ディアナがはにかみながら頷いていると前を進むリリナが前方を差し示しながら口を開いた。
「ディアナ様!あれを御覧下さいっ!!」
リリナの声を聞いたディアナとマリアがリリナの示した方向に視線を向けるとそこにはかなりの大きさの物体が鎮座しており、それを目にしたディアナは形の良い眉を寄せながら口を開いた。
「あれが異世界から来た物か、かなり大きいわね、10メルスはあるわ」
「ええ、今まで黒い霧によって異世界から運ばれて来た物の中では最大級の大きさですわね」
ディアナの言葉を聞いたマリアはディアナと同じ様に秀麗な眉を寄せながら相槌を打ち、一同は見慣れぬ巨大な物体に些かの警戒を抱きながら駒を進めた。
駒を進めて行くと見慣れぬ物体は白銀の下地に暗緑色の斑模様の塗装が施されており、見慣れぬ塗装を目にしたリリナは怪訝そうな面持ちを浮かべて物体を見ながら後方のディアナ達に向けて口を開いた。
「……変わった塗装をしていますね、木々の合間に置いたりしたら見つけ難そうです」
「……それが狙いなのかもしれないわね」
「……そうですわね、ですが一部の塗装はかなりはっきり視認出来ますわね」
ディアナのリリナに対する返答を聞いたマリアは納得しつつ物体の後部に施された白帯と赤い丸に更にその後方の一部に施されている奇妙な形状の黄色のマークらしき物を指差しながら声をあげ、それを聞いたディアナは暫し思案した後に自分の考えを述べた。
「白帯に赤い丸は国等を現しているのじゃないかしら、その後ろの黄色いマークみたいな模様は騎士団の識別マークっぽくも見えるから所属部隊を意味してるのかも」
「確かにあの黄色の模様はそうも見えますね、だとしたらこの物体は攻城器の様な兵器かもしれませんね、馬車はこの場に留めた方が良いかもしれませんね」
ディアナの言葉を聞いたリリナは警戒の色を強めながら意見具申を行い、それを受け入れたディアナは馬車をその場に留めさせた後にリリナを先頭に物体への接近を再開させた。
前後に硝子が嵌められ中央から細長い筒の様な物が斜めに伸びる細長い瘤が上部に存在する10メルスを越える細長い胴体の様な部分とその前部から伸びる15メルスを優に超える細長い楕円形の板と左右に1つづつ存在する細長い風車の羽根の様な物が先端に付いた大きな瘤、そしてその巨体を支える瘤から伸びる一対の車輪と最後尾から伸びる小さな車輪、近付く事で明瞭となった異世界から迷い込んだ物体の外見はディアナ達にとっては異世界の物であると言う事を差し引いたとしても特異な物であり、ディアナはその物珍しい外見を繁々と見詰めながら口を開いた。
「……見れば見るほど変わった物体ね、攻城器とは思えないし馬車なんかとも明らかに違う、それに初めて見る形状だけど何だか洗練されている様に感じるわ」
「……確かにそうですわね、一体何に使うのかは皆目見当がつきませんがしっかりと纏められている様には感じますわ、それにしても何で出来ているのでしょうか、木とは思えませんし金属の様にも思えますが青銅や鉄とは違いますし」
ディアナの呟きを聞いたマリアはディアナと同じ様に繁々と物体を見ながら呟き、リリナも2人と同じ感想を抱きながら物体とその周囲を眺めていたが物体の傍らの地面にカーキ色の服を来た人らしき物が横たわっているのに気付くとそれを指差しながら口を開いた。
「ディアナ様!!あの物体の傍らに人らしき物が横たわっております」
「……っ!?物体の正体に関する詮索は後回しにしましょ、リリナは急いで倒れている人のに向かいなさいっ!!」
「承知しましたっ!!」
リリナの報告を受けたディアナは即座にリリナに指示を送り、リリナが即座に返答した後に横たわっている人影の所へと駒を進めると其処ではカーキ色の上着と膝丈のスカートを纏った女性が横たわっていた。
艶やかなショートヘアの黒髪とカーキ色の上着を柔らかく押し上げる膨らみとしなやかな柳腰に膝丈のスカートから伸びるスラリとした美脚、横たわる女性はかなりの美貌の持ち主である事が見てとれ、リリナがその美貌に感嘆しつつ馬から降りて横たわる美女の傍らに駆け寄りかがみ込んでいるとディアナとマリアがリリナの愛馬の傍らへと駒を進めて来た。
「リリナ様子はどう?」
「……暫くお待ち下さい」
駒を止めたディアナは軽やかな身のこなしで地面に降り立ちながらリリナに声をかけ、リリナはそれに応じながら横たわる美女の口許へと手を翳す。
リリナの翳した手には横たわる美女の鼻からもれた空気の流れが感じられ、リリナは安堵の溜め息をついた後にディアナに対して報告を行った。
「……ディアナ様大丈夫です、気を失っているだけの様です」
「……そう」
リリナの説明を受けたディアナは安堵の表情で呟きながらリリナの傍らに移動し、横たわる美女を目にしてその美貌に軽く目を見開きながら口を開く。
「……女性なのね、それもかなりの美人、軍服みたいなのを着てるしこの物体に関係した人物なのでしょうね」
「……だとしたら、あの品々についても説明出来そうですわね」
ディアナが呟いていると歩みよってきたマリアが物体の後方を示しながら口を開き、その言葉を聞いたディアナとリリナが視線を向けると物体の後方にかなりの量の品々が鎮座しているのが確認された。
布に覆われた3つの大きな塊に地面に並ぶ幾つもの金属製の筒状の物体に数本の鉄製の大きな鉄製の筒、それらの品々は夏の陽射しを浴びて鈍い輝きを放っており、その量を目にしたディアナは驚きの表情を浮かべながら呟きを漏らす。
「……驚いたわね、歴代の黒い霧の中でも最大規模の物体転移よ」
「……如何なさいますかディアナ様?あの物体だけでも運搬困難ですし、この品々等はとても運べませんが」
ディアナが呟いているとリリナが困惑の表情を浮かべながら呟き、それを受けたディアナは暫し思案にくれた後に鎮座する品々を見ながら小さく指をパチンッと鳴らした。
ディアナが指を鳴らすと鎮座している品々を一瞬柔らかな光が包み、ディアナはそれを確認した後にリリナの方に向き直って口を開いた。
「取りあえず劣化防止魔法をかけたわ、この地に風雨を凌げる建物を建築して保存する様にしましょう、リリナは現地に留まりこれ等の物品類を警護しておいて頂戴、直ぐに作業員と増援を寄越すわ」
「承知しました、お任せ下さいディアナ様」
ディアナの指示を受けたリリナはそう言うと腰に差した長剣の柄を軽く叩き、ディアナは頷いた後に後方に留まっていた馬車を呼び寄せた後に視線を横たわる美女へと向けた。
横たわる美女はディアナが見詰める中目を閉ざしたままであり、ディアナは暫く沈黙した後にその傍らに跪いて小声で話しかけた。
「……ごめんなさい、触らせて貰うわよ」
ディアナはそう言うと横たわる美女の身体を両手で抱えあげ、その光景を目にしたマリアは一瞬羨ましそうな表情をした後に仄かに顔を赤らめながらディアナに語りかけた。
「……大丈夫でしょうか、ディアナ様?」
「……ええ、気を失っているだけよ、やっぱりこの女軍人みたいね結構身体が鍛えられてるわ」
マリアに声をかけられたディアナは抱えている美女の一見華奢に見えながらもしっかりと鍛えられた身体の感触に関する感想を述べ、その後に腕の中で未だに目を開かない美女に向けて柔らかな口調で語りかけた。
「……我が世界へようこそ異世界の女軍人さん、あたしは辺境の孤島の領主に過ぎないけど精一杯尽力するつもりよ、貴女がこの島を気に入ってくれる事を祈ってるわ」
「ディアナ様、馬車が着きましたわ」
ディアナが美女に話しかけているとマリアから馬車が到着した事を報せ、それを受けたディアナは腕の中の美女を一瞥した後に到着した馬車の所に美女を運び、彼女を抱えたまま馬車に乗り込み幅広の座席に美女を横たえた後にその頭を引き締まりつつ適度な柔らかさも持った太股に彼女の頭を横たえさせた。
ディアナが美女を横たえさせているとマリアが馬車に乗り込み向かい合わせの座席に座り、ディアナはリリナに残された馬の面倒を託した後にマリアに出立を命じた。
ディアナの命を受けたマリアは馬車のドアを閉じた後に馭者に対して出立を命じ、ディアナとマリアに異世界からの迷い人を載せた馬車はヴェストラント唯一の町ヴェストブルクに向けてゆっくりと前進を始めた。
大陸歴300年深緑の月十七日かって魔王候補筆頭と呼ばれていた孤島ヴェストラントの領主ディアナは異世界からの迷い人と異世界よりもたらされた特異な品々を収容した。
そして、この日より1つの物語が始まった。元魔王候補筆頭、ディアナと異世界より迷い込んだ女軍人、風魔渚が共に歩み暗く夜空を征く物語が……
異世界転移装備目録
転移航空機
二式複座戦闘機丁型(キ―45改丁)屠龍
全長、11メートル
全幅、15・07メートル
全備重量、5500キログラム
発動機、ハ−102空冷発動機(1080馬力)×2(単排気菅方式)
最大速度/高度、555キロ/6000メートル
上昇限度、10000メートル
上昇速度、5000メートル/7分
航続距離、2000キロメートル
武装
ホ―203三十七ミリ機関砲×1
マ式二十ミリ機関砲(マウザーMG―151/20)×2(上向き砲)
MG―81Z七・九二ミリ機銃(後方武装)
解説
主人公と共に異世界に転移して来た主人公の愛機、夜間戦闘において高い戦果をあげ飛行第五十三戦隊トップエースとなっていた彼女の能力を活かす為二十ミリ上向き砲をより威力の高いマ式二十ミリ機関砲に換装し、日本の上向き砲と同盟国のドイツ空軍が採用した上向き砲シュレーム・ムジークとの両者の比較対照試験を兼ねて傾斜角をシュレーム・ムジーク仕様の70度に変更し、後方武装を発射弾数の多いMG―81Z(ドイツ製・航空審査部より融通)に換装(ペアを組むのが女性空中勤務者だったので重量と威力の両面を考慮)している。
また、連合軍のノルマンディ上陸作戦直前にドイツより派遣された輸送用UボートUIT―21(旧イタリア海軍潜水艦ジョセッペ・フィンチを改修)が運んできた電探や逆探等の夜間戦闘用装備の実戦テストが行われる予定だった為重量増加による速度低下を少しでも補う為にハ−102の排気菅方式が速度上昇効果の高い単排気菅方式に変更されており、それらの装備が搭載されていない場合は一般の屠龍より約20キロ程優速になっており異世界へはこの状態で転移している。
転移装備目録
機上電探、FuG―218ネプチューンV1×1(モルゲンシュテイルン2使用)
機上逆探、FuG―350ナクソスZc
前出された輸送用UボートUIT―21により運ばれた夜間戦闘機用レーダー及びパッシブレーダー、共にドイツの双発夜間戦闘機Bf―110Gシリーズにて使用されており、双発機の屠龍及び日本海軍の双発夜間戦闘機月光での使用を目的として各2基づつ運ばれ、陸軍は第五十三戦隊トップエースの主人公の機体で実戦試験を行う予定だったが制海権及び制空権の著しい悪化による輸送不如意により態勢が整ったのが終戦当日となってしまいそのまま異世界に転移させられる事となる。
燃料、ドラム缶×4(航空揮発油八十七)
発動機、ハ―102×2
機銃及び機関砲
ホ―102十二・七ミリ機関砲(単装)×1
ホ―102十二・七ミリ機関砲(連装)×1
ホ―5二十ミリ機関砲(単装)×1
MG―131十三ミリ機関砲×1(航空審査部より融通)
MG―81Z七・九二ミリ機銃(連装)×2(同上)
各種弾薬(平均150発)
解説
これらの機関銃・砲は屠龍の後方武装強化の為に主人公の機体でテストされる予定であったがテスト前に終戦となった為にこれ等も異世界転移に巻き込まれる事となった。