プロローグ
第5回ネット小説大賞応募作になります、宜しくお願いします。
消えた女性空中勤務者
昭和十八年、激増する搭乗員及び空中勤務者の損耗を補填する為に策定された特別国家総動員法により生まれた女性空中勤務者及び女性搭乗員、急速錬成された彼女達は昭和十九年頃より実戦に投入される様になりその中の1人に日本初の女性撃墜王となる風魔渚の名が存在していた。
陸軍航空隊明野飛行学校を優秀な成績で卒業した彼女は特に夜間飛行能力においてその才能を発揮し、その才能により西日本防空の中枢戦力である陸軍飛行第四戦隊(小月)に配属された。
そして初陣となる北九州防空戦に於いて初めて襲来した米軍の重爆撃機B―29を1機撃墜し、それは女性空中勤務者初の戦果として大きく喧伝される事となった。
その後も出撃を重ね更に2機のB―29を撃墜した彼女はマリアナ諸島陥落と同地を拠点としたB―29の活動活発化に対する備えとして帝都防空部隊である飛行第五十三戦隊(松戸)に転属し夜間侵攻してくるB―29と死闘を繰り広げた。
彼女は二式複座戦闘機屠龍を操り闇の夜空でB―29と渡り合い、終戦の前日までの戦果は撃墜12機、撃破8機(全てB―29)に達していた。
そして終戦当日の八月十五日、彼女は来襲した米軍機迎撃の為に単身単機出撃した末に未帰還となり戦死したと言われている。
終戦の日に命を散らした夜空の撃墜王、風魔渚、しかしながらその顛末に関しては大きな疑問点が存在している。
その疑問点は夜間戦闘機や地上襲撃機として運用される事が多い屠龍を昼間迎撃に使用して出撃したとされている点である、同機はB―29に護衛戦闘機がつかない間は昼間迎撃にも使用されていたが硫黄島を基地としたP―51が護衛戦闘機として同行する様になると昼間迎撃にはほぼ使用される事が無くなっている。しかしながら彼女は同機にて無謀とも言える単身単機出撃を実施しており、その行動は当時本土決戦に備える為に極度に出撃が制限(と言うより厳禁)されていたと言う当時の状況からは多いに疑念を感じる物となっている。
更に彼女は特攻攻撃に対して人員を供出させられた部隊の士気を下げるだけで効果に乏しい戦法であり、そんな戦法に使える資材や人員があるなら防空戦に廻した方が余程有効活用出来ると常日頃から公言しており、それまでの言動と大きく乖離する終戦当日の行動に関して疑問を呈する研究者も数多い。
また、彼女が所属する第五十三戦隊が使用していた松戸周辺の住人の証言には玉音放送を聞いた後に基地にいた彼女の姿を目撃したと言う物も複数存在しており、この件の真相については未だに多くの謎が残されているがその真相が完全に解明される事は難しいと思われている。
尚、彼女は女性空中勤務者の美浜雪とペアを組んでおり、彼女が天寿を全うした際に発見された遺品の中に存在していた日記の文中にこの様な一文が記されていたので遺族の了解の下、最後にその一部を抜粋して掲載しておく。
昭和二十年八月十七日
格納庫周辺ニテ突如黒キ霧ガ周囲ヲ覆ウ、霧ハ凡ソ十分程ニテ消失セシムモ、屠龍及ビ御姉様ガ消失シタトノ報アリ、驚愕セシ戦隊一同協議ノ末、御姉様ガ終戦当日二戦死シタトスル事トナル、然レド私ハ悲観シテオリマセン、何方モ信ジテ下サラナイト思フ故二何方ニモ申シマセンガ私ニハ分カリマス、御姉様ハ遠イ世界二征カレタノダト、御姉様ト屠龍ガ必要トサレル遠イ遠イ世界ヘト征カレタノダト……
陸軍航空隊女性空中勤務者変遷史より抜粋
聖十字歴300年深緑の月十七日・クリストローゼ大陸北部・シュワルツブルク魔王国・ヴェストラント
聖十字歴297年桃の月三十日、クリストローゼ大陸北部に勢力を築いていた魔族の国シュワルツブルク魔王国、その首都ヴァイスローザの王立魔導学院において1つの事件が生起した。
卒業記念のパーティーで賑わう学園に於て歴代最強の呼び声高い次期魔王候補筆頭の第一王女ディアナに対して第一王子ザイドリッツが突如として学園に通う他国から訪れている特待留学生への非道な振る舞いに関する弾劾を始め、それに和す形で重要閣僚子息並びに各国の王子クラスで形成される最優待留学生が参加してディアナの弾劾を始めた。
この事態に関して髪の毛一本程も心当たりがなかったディアナは当然疑惑を否定するが第一王子側は様々な状況証拠と証人を列挙してディアナの罪状を声高に訴え、再優待留学生達からは外交問題への発展を示唆する声まで溢れ始めた。
この事態に対して出席していた現魔王ジョンはディアナの有罪を断じてディアナの王女位剥奪とザイドリッツを次期魔王候補とする事を宣言し、ディアナは魔王の一族の証である黒い翼を切断された後に西方に浮かぶ孤島ヴェストラントの領主と言う捨て扶持を与えられ、彼女に従う事を望んだ少数の部下や弾劾に際して最後までディアナを擁護した数名の令嬢と共に同島に赴任(配流とも言う)する事になった。
同島に赴任したディアナは部下や令嬢達と共に島の開拓と開始、幸いな事に元から同島を管理していたハーピー族のヴェルシーナ女子爵はディアナの熱烈な信奉者(隠れファン)であった為同島に住まうハーピー族の協力を得られた開拓は順調に進み、多少なりとも傷心していたディアナも何時しか煩雑な魔王候補としての生活からの脱却と開拓の進み具合を満喫する様になっていた。
そうしてディアナがヴェストラントの領主となってから約3年が経過した聖十字歴300年深緑の月十七日、ヴェストラントにて特異現象である黒い霧が発生した。
黒い霧、それはこの世界とは異なる世界の人や物がこの世界へと迷い込んでしまった際に発生する現象である。
その原理等は不明であるが平均して150〜200年に一度発生しており、それによって迷い込んだ人や物は元の世界に戻される事無くこの世界にて過ごす事を余儀無くされる事となっている。
その霧の事を聞き知っていたディアナはその現象に巻き込まれてしまった者の姿に島流しにされた自分の現状を重ね合わせて憐憫の情を抱き、島に同行してくれた令嬢と部下各1名と共に黒い霧の発生した場所へと向かった。
これから始まるのは翼を喪った元魔王候補と異世界より紛れ込んだ亡国の女性空中勤務者が綴る物語、鋼の翼をあやつり闇を飛び交う龍達を屠る闇の滅龍姫達の物語……