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「ただいま」
逞と一緒に帰宅した睦は、いつもより小さな声で帰宅の挨拶をした。
「おじゃまします」
専業主婦である祭が家に居るはずなのだが、彼女からの返事がない。キッチンからトントンと料理をする音が聞こえるので、おそらく、料理に集中して、睦達の帰宅に気づいていないのだろう。睦はとくに気にすることなく2階へ向かう。少しだけ緊張しながら、逞は睦の後についていった。
不安からか、無言で階段を昇る睦。
帰宅の挨拶から一言も話さない睦に、逞は何も声を掛けることが出来なかった。
どうすれば、大切な友人を笑顔に出来るのだろう、逞は、自分の無力さに拳を握りしめることしか出来なかった。
2階には睦の自室があるが、睦は部屋に入ることなく、奥へと進んでいく。目的地は、祖父、彰の部屋である。早く、祖父の姿を見たい気持ちが、睦の足を速くさせる。
「じいちゃんっ」
いつもなら、ノックをして彰の部屋に入るのだが、今はそんなことを言ってはいられない。
早く祖父の姿を見たい。
自分がいない間に、祖父に何かあったら…。
早く祖父の息を確かめたい。早く、早く、早く…!
勢いよく扉を開ける。
「……じい、ちゃん?」
睦は目を広げた。
ベッドに寝ているはずの祖父がいない。
起き上がることが出来たのかと思ったが、それはほんの一瞬だけだった。
祖父はベッドどころか、部屋にいないのである。
起き上がって、部屋の外に行ったのだろうか。
素早く後ろを向き、部屋を出ようとする睦と、逞の目が合う。
「睦?どうかした?」
真っ青な顔の睦に、逞は眉を潜める。
「じいちゃんがいないっ」
「えっ!?」
睦が部屋を飛び出そうとした時、
「ここに居る」
部屋の中から少年の声が聞こえた。
自分達以外の声に、二人は驚き、声が聞こえた方を見る。
大きな黒いソファーから、細身の少年が立ち上がり、振り向く。
「なんだ、慌ただしい」
大きめな白いワイシャツを着ている少年は、それはそれは美少年である。少しだけ怪訝そうな表情ではあるが、それもまた美しい。
「ノックくらいしたらどうだ」
部屋には、祖父ではなく、睦と同じくらいの美少年がいたのだった。
突然の知らない人物に、困惑している睦に、美少年は優しく微笑む。
「おかえり、睦」
睦は、ニコリと笑う美少年に、どこか見覚えを感じた。




