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「離せ」
逞は、睦の肩に回された上級生の腕を掴む。
「いってぇな」
「悪いが急いでいる」
「はぁ?」
逞に腕を掴まれた少年は、逞の手を払い睨み付ける。
「何?お前も遊びたいの?相手してやるよ」
上級生達は逞を囲む。しかし、逞は全く表情を変えずに、もう一度、上級生の腕を掴んだ。
「断る」
掴んだ腕を引っ張り、腰を回し、いわゆる柔道の背負い投げのように、上級生を投げ飛ばした。
「てめぇ!」
他の上級生の一人が、逞の胸ぐらを掴んだ。しかし、逞の表情は変わらなかった。
「やりたければやれはいい。だが、俺が大声を出せば、すぐそこの保健室から保険医が来るぞ。いいのか?」
先程、睦達がいた保健室は、昇降口から数メートルしか離れていない。保険医の菖蒲が駆けつけるだろう。
「くそっ」
上級生達は舌打ちをして、帰っていた。
「帰ろう、睦」
「逞、お前、強いんだな」
何も出来なくて、ただ見ているだけだった睦は、逞の背負い投げを見て、目を丸くした。
「強いよ。だから、睦を守れるよ。だから、睦、隠さないで。俺を頼って」
逞は、睦がいじめられていることを知っていた。睦はずっと黙っていて、逞は、それは自分が弱いから、頼りないからだと思っていた。だから強くなる努力をした。睦に頼ってほしいから。
「知ってたのか、俺が、あいつらにいじめられてるの」
「ああ、でも、睦はずっと隠してた。俺が、頼りないから?」
「違う!」
睦は逞の手を掴んだ。
「恥ずかしかったんだ」
自分がいじめの標的になりやすい人間だと睦はわかっていた。
身長も無く、細くて、白い、小柄な女子のような体。幼い顔つき、低くない声。勉強も運動も平均以下。
彼にとって、いじめられていると伝えるのことは、自分のコンプレックスをさらけ出すようなものだった。
「かっこわるい、だろ」
「かっこわるくなんかない!」
逞は、掴まれた手を握り返した。
「努力してるの知ってる。いじめてる奴らに負けないって、頑張ってるの、知ってるから!だから、かっこわるくなんかないよ、だから、頼ってくれ」
「頼ってるよ、たくさん頼ってるっ」
「もっとだよ。もっとだ」
酷いいじめにあっても強く生きていけるのは、逞が、優しくしてくれ、傍にいてくれるから。
逞は、睦にとって祖父の次に大切な人間だった。いじめられてるのを隠してたいたのは、恥ずかしかった、心配をかけたくなかった、そして、逞に何かあったら嫌だから。
「俺は、逞に何も出来ない」
「何もしなくて良いんだ。ただ、一緒に学校行って、時々遊んで、それだけで良いんだ」
「そんなん、得しないじゃん」
「睦、彰さんと、得したいから一緒にいるの?」
「そんなわけないだろ!」
「俺もそれと一緒だよ」
ニコリと笑う逞に、睦は何も言えなかった。




