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学校についても涙を止めることが出来なかった睦は、一日保健室にいた。本来、保健室は怪我人や病人のみが利用出来る場所であるが、保険医は泣き止まない睦を見て察し、部屋の一番端にあるベッドを貸してくれた。
なかなか止まることのなかった涙は、休み時間の度に、逞が様子を見に来てくれたからか、徐々に涙が止まっていった。
「睦、大丈夫か?帰れる?」
放課後、逞が保健室へと迎えに来る頃には、睦の涙は完全に止まっていた。
「泰先生、ありがとうございました」
睦は、何も聞かずベッドを貸してくれた保険医にお礼をする。逞も軽くお辞儀をした。
「瀬波」
保険医は、睦の頭をわしゃやしゃと撫でた。
「わっ、な、何っ」
「また、来い。ベッド空けといてやる」
大きな保険医の手が、大好きな祖父の手に少しだけ似ていて、睦はまた涙が出そうになった。
保険医である、菖蒲泰という男は、生徒に絶大な人気があった。
気さくで、とても話しやすいく、昼休みにはサッカーやバスケを一緒にやってくれたり、勉強を教えてくれたりもする。教員の中では一番若いからか、お兄さんのような存在だ。しかも、いわゆるイケメンという部類の外見で、女子生徒からの人気がとくに凄い。
しかし、少し長めのウルフカットやユルい性格が、子供たちに示しがつかないと、お偉い教師陣には不評ではある。
「気をつけて帰れよ」
保健室を出て、外靴に履き替えていると、逞は睦をじっと見つめる。
「睦、」
「何?」
「俺、睦の家に行きたい」
一日泣いていた睦の目元は真っ赤に腫れていて、とても痛々しい。また、家に帰って一人で泣くのだろうか、逞は心配だった。
「出来れば、泊まりたい」
逞は、睦がどれだけ祖父、彰のことが大好きか知っている。
家族が倒れ、寝込んでいる状況のお宅に、泊まりに行くのは、本来なら非常識かもしれない。けれど、睦の傍にいてあげたかった。
彼の大好きな祖父の代わりにはなれないが、傍にいてあげたかった。
「良いよ」
「迷惑なら言ってくれ」
「ううん、そんなことないよ。ありがとう、逞」
睦は、家に帰るのが怖かった。寝たままの祖父を見るのが怖かった。だが、逞が泊まってくれるとわかり、幾分か、怖さは和らいだ気がした。
一番大好きなのはもちろん祖父だが、逞も大好きな人間の一人である。
「よう、瀬波ぃ」
昇降口から出ようとする二人に、上級生達が声をかける。
「ちょっとおしゃべりしようぜ」
「お友達は帰って良いよ~」
いつも睦をいじめる上級生達である。
何も言えず、睦は唇を噛んだ。早く帰りたい、けれど、今彼らに逆らえば、逞も巻き込んでしまう。
「ほら、行こうぜ、睦君」
「じゃあね、お友達君」
上級生の一人が睦の肩に腕を掛け、校門とは反対の方へと連れて行こうとする。
今我慢すれば、逞は無事だ。我慢だ、我慢。睦はギュッと目を瞑った。




