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彰が倒れた次の日のことである。睦、祭、睦の父親である樹の三人は、彰の部屋の前で、ひどく心配そうな顔をして立っていた。
「樹さん、」
「とりあえず、今日一日様子を見て、明日にでも病院に行こう」
睦はジッと部屋のドアを見つめた。
瀬波家で一番の早起きは、彰だった。毎朝、軽いジョギングを行い、シャワーを浴び、庭にある花に水やりをする。とにかく、彼の朝は早かった。
しかし、今日は、起きてこない。
なかなか起きない彼に、誰もが不安になって、彰の部屋へと起こしに行くが、彼は揺すっても、大きな声を出しても、全く起きない。
彼は起きてこないのではなく、起きないのだ。
「昨日の夕方からなんだろう?」
「はい、倒れてから、ベッドに自力で入っていったんですが、それから一度も」
しかも、昨日からずっとなのだ。昨日の夕方、倒れてベッドに横になってからずっと彼は眠っている。
呼吸はある。心臓は動いている。しかし、起きない。
「いってきます」
本当は、祖父の傍にいたい。しかし、父、樹は、学業を疎かにしてはいけないと、睦を送り出す。
祖父に何かあったらどうしよう、学校へと歩く睦の頭の中は、寝込んでいる彰ことでいっぱいだった。大好きな祖父がいない日常を一瞬想像してしまい、ジワリと視界がぼやけた。
「おはよう」
今にも泣き出しそうな睦の背中を、彼のクラスメイトである纐纈逞が軽く叩く。
「逞」
「睦?」
涙ぐむ睦を見て、逞はギョッとする。
「どうした?何かあったのか?」
身長がある彼は、睦の顔を覗き込んだ。
少し長い茶色の前髪から覗く逞のキレイな顔が、心配そうに睦を見つめる。
「じいちゃんが、じいちゃんがっ」
逞の優しい声を聞いた瞬間、今まで我慢していたものが一気に溢れ出す。睦は、逞の腕を掴んで泣きじゃくった。
「彰さんがどうしたんだよ」
泣きながら話す睦を、小さな子どもに聞かせるよう、優しく問いかける。
「じいちゃんが、倒れて、それから、起きないんだ」
「入院でもしたのか?」
「違う。昨日倒れて、それから、ずっと寝てる。全然起きない」
「起きないって」
「息してんのに!でも起きてくれない!」
「睦」
小学生の頃から仲の良い彼らは、よく互いの家に行き来していた。だから逞は、彰との面識があり、睦がどれだけ祖父のことが大好きなのかも知っている。
「じいちゃんが、いなくなったらどうしよう!逞!俺どうしよう!」
いつか、別れの時は絶対に来る。でも、まだまだ先のことだと思っていた。心の準備が出来ていない睦は、泣くことしか出来なかった。




