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それは突然だった。
いつものように、いじめっこには勝てずボロボロになって帰ってきた睦は、いつものように、祖父である彰の部屋に向かった。
「睦、おかえりなさい」
彰の部屋の前に、睦の母である祭が立っていた。彼女の手にはお茶と彰が好きなモナカのアイスが二人分が乗ったトレイ。おそらく、彰と睦の分だろう。
「ただいま」
「アイス買ってきたの。おじいちゃんと食べてね」
「ありがとう」
「その前に」
アイスが乗ったトレイを受け取ろうとすると、祭はスッと上に持ち上げた。
「な、何?」
トレイが届かない位置まで上げられてしまい、睦は混乱しながら祭を見る。
「着替えて、手を洗ってきなさい。ついでに顔も!」
今の睦の姿は砂だらけだった。
下校中、いつもいじめてくる上級生達に突き飛ばされ、蹴られ、制服も顔も汚れてしまったのだ。
「全く、男の子って、何でこんなに汚すのかしら」
「う、うん。ごめんなさい」
祭は睦がいじめられていることを知らない。この家で知っているのは、彰だけだ。
彰は誰にも睦のことを言わない。誰にも言わないことを知っているからこそ、睦は彰に話すのだ。
「これ、持ってとくから、着替えてきなさい」
「わかった」
自分の部屋へと向かう為、睦はクルリと方向転換し、歩き出す。
後ろから、彰の部屋のドアをノックする音とが聞こえる。
「彰さん?お茶を持ってきたんですが。彰さん?」
数歩進むと、後ろから祭の少し困った声が聞こえた。どうやら、彰からの返事が無いようだ。寝ているのだろうか。
「入りますよ?」
ガチャリ、彰の部屋の頑丈なドアが開く音がする。
「彰さんっ」
そして、祭の焦った声が聞こえた。
「母さん、どうし-」
睦が慌てて祖父の部屋に入ると、倒れている祖父と、泣きそうな顔の母親がいた。
「じいちゃん!」
二人に駆けより、祖父の顔を覗き込む。彰の顔はひどく真っ青だ。
「今、救急車を-」
祭が、立ち上がろうとした瞬間、彰が彼女の腕を掴んだ。
「いらん」
「じいちゃん!」
苦しそうな顔をした彰は、ゆっくりと起き上がる。
「ただの、立ちくらみだ。騒ぐな」
「じいちゃん」
「しばらく横になれば治る」
彰はすぐ、ベッドに向かい横になった。
「少し寝る。睦、悪いが、今日は…」
「大丈夫だよ、ゆっくり休んで」
「すまない」




