プロローグ
プチファンタジーです。
苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
閲覧は自己責任となります。
瀬波 睦は、おじいちゃん子である。
彼の祖父、瀬波 彰は完璧な男だった。
以前は有名大学の教授であり、頭はとても良い。
毎朝のジョギングのおかげか、70歳を越えた現在でも腰は曲がっておらず。髪もフサフサだ。40~50代と言っても、誰も疑わないだろう。
顔も整っていて、いわゆる美形。身長もある。若い頃の彼は、女性にそれはそれはモテたという。
極めつけ、彼の実家はお金持ちであった。
頭良し、運動もでき、見た目も良い。そしてお金持ち。瀬波彰という男は、とにかく完璧に出来た男だった。
睦にとって、祖父は憧れの存在だった。
完璧な祖父の血が入っているはずなのだが、睦は完璧とは真逆な男だった。
勉強も運動も出来ない。中学一年の男子にすれば、小さ過ぎる身体。少女のような中性的な顔で、整っている方ではあるが、長い前髪で見えやしない。
だからこそ、睦は、完璧な祖父が憧れで、大好きだった。
「じいちゃん、友達がさ、じいちゃんのこと、アレお父さん?だって」
「そうか」
「違うよ、おじいちゃんだよ、って言ったら、驚いてたよ」
「そうか」
彰の部屋の大きなソファーに座り、睦は学校であったことをポツリポツリと話す。彰はその隣に座り、難しそうな本を読む。
「美術で、でっかい、ポスター、描いた」
「そうか」
「逞とね、一緒に、描いた」
「そうか」
「その、逞と、頑張って、一緒に、描いたんだよ」
「そうか」
ペラリ、彰は本のページを捲る。
とても人の話を聞く態度には見えないが、彰はしっかり睦の話を聞いている。睦はそれを知っているので、彰の素っ気ない返事もページを捲る音も気にせず、話を続けていく。
「でも、破られ、た、よ」
ポロポロと睦の瞳から涙が流れていく。
睦は、学校でいじめにあっていた。
彼をいじめるのは、上級生で、複数だった。頑張って対抗しようとしても、勝ち目はなかった。
「そうか」
彰は無表情で返事をした。
「くやし、い」
「そうか」
彰は、視線を本から外さず、左手で、優しく睦の頭を撫でた。
祖父の優しい大きな手の温もりに、涙がドンドン溢れていった。
祖父は、いじめっこから助けてくれるわけでもない。同情するわけでもない。情けないと呆れるわけでもない。
だけど、隣にいてくれる。
ただ、ただ、傍にいてくれる。ただ、ただ、話を聞いてくれる。
たったそれだけだが、睦はそれが嬉かった。
「くやしい」
「そうか」
「でも、次は、勝つ、よ」
「そうか
頑張れ」