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crown taker  作者: 九JACK
慌てない慌てない、一休み一休み
96/125

第96話「ピアノ弾けます」

 というか、疑問なのだが、佐竹に見せてもらった[HITOKATAeyes]というアーティストはどうも女性のようだ。

「合唱曲としてどうなんだ? 黒輝山(ウチ)は共学だから、混声になるんだろ?」

「そこが今回選ばれた理由さ。[HITOKATAeyes]のay(アイ)さんが、混声合唱用に譜面書いてくれたことで話題になってんの」

「まじか」

 興奮気味な佐竹。この熱量は相当なファンであることが窺える。

 そりゃ、好きなアーティストの歌を学校で正式に歌っていいってなったらうきうきするだろうな。俺はそういうのないからわかんないけど。

「咲原が来たから今日辺り音源聴けると思うぞ」

「音楽あったっけ」

「ホームルームの時間に、だよ。学校行事だからな」

 どうやら俺が休みということで、まだ音源を聴いていないらしい。コンクール当日歌えない佐竹としては一番の楽しみだろう。

 セルフカバーっていうのか? なかなかあるもんじゃないだろうからな。

 俺も音楽聴く心の余裕とか持ちたい……

 現状を整理すると頭を抱えたくなる。

 俺は視力は回復したものの、まだ能力制御が不安定で本調子じゃない。それはまだいい。問題は五十嵐と倉伊だ。

 倉伊が最強の超能力暗殺者[殺刃鬼(ジエッジオブクロウ)]であるということが発覚。ターゲットは俺ではなかったが、よりにもよって五十嵐と健一朗さんだった。理由は彼の父親にある。

 五十嵐李王。健一朗さんの異母兄弟で、家から出禁食らったろくでなしである。それが五十嵐の母親とくっついて生まれたのが五十嵐と弟の隼人くん。倉伊は李王の血を引く者の抹殺の依頼を受けていたのだ。倉伊の母の親族から。

 世界を股にかけて浮気して子ども作って女捨てるっていう、どこからどう見てもくそ野郎な李王なわけだけど、くそなのは李王本人なわけで、子どもを巻き込むなよ、と俺は思うのだが、その李王は既に他界。復讐の機会を失ったため置き去りにされた憎悪が矛先を求めるのは無理もないことだ。

 李王が法によって裁かれたり、惨たらしい最期、惨めな最期だったなら、多少溜飲が下がっただろうが、五十嵐曰く李王は病死らしい。本当かはわからないが、それを語る五十嵐が滅茶苦茶忌々しそうにしていたから本当なんだろう。

 DV男だったらしいし、それで五十嵐や隼人くんまで陰口叩かれたり、いじめられたりしていたらしいから、よく背中刺されなかったよな、とは思う。ただ、当事者たちの怒りは筆舌しがたいものなんだろうな。

 五十嵐と倉伊がぎくしゃくしているのは、殺し屋とその標的というのもあるが、突然異母兄妹の存在が明らかになったからだ。その心情はどのようなものなのか、想像もつかない。五十嵐は心のどこかでわかっていた気がするって言っていたけど……もし、倉伊のことを友達としてでなく、恋愛的な意味で好きだったとしたら、かなりショックだろうな。いや、倉伊が五十嵐の恋愛対象かどうかは俺の想像でしかないんだけど。

 ただ、五十嵐李王が五十嵐の父となると、五十嵐にはもう一人確実に異母姉妹がいるんだよな。[憑依霊(ゴーストハッカー)]事件のときのローザ・クレイア。俺がリオウという名前を聞いたのはそのときが初めてだった。まあ、ローザちゃんはもう死んでいるんだけど……

 ローザちゃんのことは五十嵐には伝えていないけど、倉伊の口から聞いていたりするのかな。何はともあれ、情報過多だ。心の整理も必要だろうし。というか俺がああだこうだ言う感じの話ではないんだよな。完全に部外者だし。

 逆に俺狙われてなかったんだってびっくりした。いや、狙われたくないけどさ。

 五十嵐は声をかけてこない。ちょっと心ここにあらずな感じだな。静かでいいけど、なんか静かなのが寂しい気がする。

 倉伊は何事もなかったかのように過ごしているが、あからさまに俺と五十嵐と距離を置いている。あいつも話しかけてこない。

 なんか俺までぎくしゃくしてしまいそうな雰囲気で昼休みを迎える。半田が教室にやってきた。

「咲原くん、今日から登校と聞いていたので」

「勧誘ならお断りだぞ」

「しませんよ。今は[WHAT]内部も大変なんです」

 聞くと、こないだの一件で健一朗さんがとんでもなく忙しくなっているらしい。[天使フォーリンエンジェルス]時代の話や知実さんと知り合いであること、[空の街]の能力者との交渉があったこと……過去について話していなかったのは自業自得だろうが、それにしたっててんてこ舞いらしい。半田は学校の合間合間にそのサポートをしているのだとか。これではどちらがお目付け役かわからないな。

「それで、合唱コンクールあるじゃないですか。それに伴ってわかったことがあるんですけど」

「合唱コンクールに伴って?」

 それはなんとも奇妙な文言だった。話の流れ的に超能力が関係ありそうだが、合唱コンクールと超能力ってミスマッチじゃないか?

 頭に疑問符を浮かべる俺に、半田は胸を張って告げた。

「私、ピアノ弾けます」

「へえ、そう」

「ちゃんと聞いてくださいよ!!」

 いやいや、ふーん、それはよかったねくらいしか言い様なくない!? と思ったが、そんな単純な話ではないらしい。

「私、お兄ちゃんの[刻印者(メモライザー)]の能力を受け継いでいたじゃないですか。それによって、特能以外の能力も受け継がれたみたいで、急にピアノ弾けるようになったんです」

「お前の兄さん、ピアノ弾けたんだ」

「はい。時々こっそり施設の音楽室に入って、私やお姉ちゃんにピアノを聴かせてくれたんですよ。……お兄ちゃんが、お兄ちゃんの全てを私に刻印し(おぼえさせ)てくれたんだなあって……」

 ちょっとしんみりしてしまった。半田にとっては大切な思い出なんだよな。どんなにつらかったとしても。

「それで、今度の合唱コンクールで伴奏することになったんです!」

「へえ、そりゃすごい」

 楽しみにしといてやるか。

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